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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(後編)

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【ニルヴァーナへの道】浮遊要塞アルカンシェル(後編)

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第1章 迫りくる終局

 浮遊要塞アルカンシェルに突入し先行しているメンバーは、業務用と思われるリフトや階段を下りている最中に、緊急連絡を受けた。
「え? ええ? 状況が良く解らないよ!」
 工務機晶ロボットと交戦中だったカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)には事態が把握できなかった。
「隊長……捕まっちゃったの? どうすれば……いや、弱音を吐いても始まらないっ。ボクが出来る最前の道を突き進むだけだよ!」
 カレンは天のいかづちで、機晶ロボットに止めを刺した。
「各自の判断で臨機応変に動けという命令だが、ただ闇雲に動くだけでは、機晶ロボットを引き寄せるだけだな。となれば……」
 パートナーのジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)は、倒れた機晶ロボットがキーなどを持っていないかどうか調べていく。
「ここから一番近い、重要箇所は……操縦室だ!」
「そうだな。操縦室を確保するのが良策だろう」
 カレンそしてジュレールは倒した機晶ロボットが何も持っていないことを確認すると、操縦室に向かって駆けだす。
 通路には、警備機晶ロボットの姿があった。
「後から来る人達の為にも、出来る限り無力化するんだ!」
 カレンは即、魔法を放つ。警備機晶ロボットも光条兵器タイプの銃を撃ってくる。手強い相手ではあるが、だからこそ放ってはおけない。

「このまま機関室に向かいますぅ」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)は振り返りもせずそれだけ言うと、吹き抜けを最下層に向かって下りていく。
 下りるというより、飛び下りた状態、急降下だった。
 召喚したサンダーバードに機晶ロボットを攻撃させて隙を作り、空飛ぶ魔法↑↑でコントロールし、一気に最下層までたどり着く。
 最下層から機関室までの通路にも、機晶ロボットが配備されていた。
 それらは召喚したフェニックスを盾として躱し、わき目もふらずに突き進んでいく。
「ドアは、カードキーか何かでロックされてるようですね」
 言葉を発すると同時に、明日香は魔法の準備に入っていた。
 考えている時間さえ勿体ない。サンダーバード、フェニックス、そして自分自身のブリザードのパワーで、破壊を試みる。

「捕らえられたのは、剣の花嫁と、そのパートナー数名か」
「そのまま下の階に連れて行かれたのであれば……エネルギー室でしょうか」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)とパートナーのアウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)は階段の途中で立ち止まる。
「確か、最上階辺りって、弾薬とか砲撃関連のエネルギーが貯蔵されてるのよね? あからさまに剣の花嫁に関連する人だけ攫われたってことは……殲滅塔みたいなもんが砲台としてつけられてるとか」
 伏見 明子(ふしみ・めいこ)も、機晶ロボットを1体殴り落とした後、立ち止まる。
「やっぱり、放っておけないわ」
 そう言うと、明子はエネルギー室の方へと駆けだす。
 アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)の話では、突入した辺りの砲弾付近。地図上では弾薬庫の下あたり一帯がエネルギー室のはずだ。
「マスター、道中で消耗しないようにしてくださいー」
 鬼一法眼著 六韜(きいちほうげんちょ・りくとう)が、明子及び、仲間達に空飛ぶ魔法↑↑をかける。
「わかってる。すぐに場所を突き止められるとは限らないし、どんなヤツにつかまってるのかも分からない。ここで消耗するわけにはいかないわよね」
 明子は機晶ロボットの攻撃を躱しながら、最上階の下。エネルギー室に向かって飛んでいく。
「俺も行こう。剣の花嫁は連れていないしな」
「主も行かれるのですね。共に向かいます」
 グラキエスとアウレウスも急ぎ明子の後に続く。
「はあーっ!」
 エネルギー室の階に到着した途端、明子は梟雄剣ヴァルザドーンを扉に叩きつけて破壊。
 機関室や操縦室など、要塞の飛行に関わる精密機器はないことは解っている為、気合を入れて躊躇せず進行の障害となるものは全て破壊していく。
(先に行くよ)
 ベルフラマントと迷彩塗装で発見されにくくした、九條 静佳(くじょう・しずか)がまず、薄暗い部屋へと飛び込んでいく。
(動いている装置が多い。機晶ロボットはこの辺りにいないみたいだね)
 静佳がテレパシーでそう報告。部屋は仕切り板やガラス板でいくつかに仕切られているようだ。ドアノブを回してみると、開くドアと開かないドアがあった。
 ピッキングを試してみるよりも、壊した方が早そうだ。
「うおりゃっ!」
 明子に頼むよりも早く、彼女は動きドアノブを斬り落し、こじ開けて進む。
「もうちょっと静かにできねぇのか。……いや、しょーがねぇんだけどよ」
 明子に纏われている魔鎧のレヴィ・アガリアレプト(れう゛ぃ・あがりあれぷと)は、明子の強引さに、たまにぼやき声を上げるが、隠密行動より、素早さが求められていることは解っている。
「エネルギーを調整や、砲撃に関する機器はあるだろうな」
 エネルギー室に踏み入れた途端、グラキエスは、悪魔のエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)を呼び寄せた。
「ふふ……緊迫した状況のようですね。いいでしょう、協力いたします。勿論有償で」
「……機器類を頼む。俺は攫われた仲間達を探す」
 グラキエスはエルデネストにそう指示を出すと、アウレウスと共に探索を始める。
 エネルギー室はいくつかに仕切られている。
 そのどこかに、捕らえられた者達がいるはずだ……恐らく。
 そう信じて、トレジャーセンスの能力を用い、鋭く辺りを見回していく。
 圧迫感を感じる、嫌な、雰囲気だった――。

○     ○     ○


「私はここに残り退路の確保と、情報の送受信に務めます」
 第二突入班突入口で、揃った仲間達にロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)はそう言った。
「うーし、退路確保というか、格納庫にある皆の乗り物は守っておくから」
 テレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)は、そう言いながら皆の乗り物を預かり、適切な場所へと並べていく。
「そうですね、私もここに残ります。皆さんお気をつけて……かならず隊長達を助け出して要塞を止めてください」
 イリス・クェイン(いりす・くぇいん)は、突入口に散らばっている瓦礫を持ち上げて運び始める。
「皆さんが帰ってきたときのためにここで待っています。もし、危険になったらここに戻ってきてくださいね」
 そして、努めて柔らかい表情を見せる。
「気を付けてね」
 クラウン・フェイス(くらうん・ふぇいす)も、皆が安心して作戦を頑張れるように、ここで待っていようと思いながら、イリスと共に整備を担っていく。
「ありがとう。ここは任せる。皆は何処に向う?」
 共に突入した仲間達にそう問いかけたのは鬼院 尋人(きいん・ひろと)だ。
「第一突入班の方が制御室に向かう方針でした。成功を信じていますが……最悪の事態の際はブライドオブドラグーンだけは確保しなければ」
 度会 鈴鹿(わたらい・すずか)は、機関室を目指そうとする。
「ボ、ボクも動力炉に向うよ……」
 皆川 陽(みなかわ・よう)の声は少し震えていた。
「焦る気持ちはあるけれど、落ち着かなきゃ……。とにかく進路を変えないとマズいのよね。私は操縦室への道を切り開くわ」
 切り開く方法と操縦室までのルートを志方 綾乃(しかた・あやの)は、考えていく。
「オレは優子のところにいくぜェ。優子はイケメンのオレが助けに来るのを待ちわびているはずだ」
 吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)は、捕らえられたという神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)、そして共に突入の決意をした仲間達を案じた。
「てめぇらも、捕まった奴らも、オレと優子が選んだ精鋭だ。作戦は成功するに決まってる。全員生きて帰るぞ」
 そう言い切る。
 それぞれが出来ることを行えば、必ず成功するはずだ。
 従者の種モミマン、キノコマンを連れて、彼が向かう先はエネルギー室だ。
「迷う暇はない」
 そう声を発したヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)は、既に機関室に向かい走り始めていた。
 既に事が起きた時点で、首謀者の目的は達せられ、こちらの行動はどう足掻いても想定範囲内だろう。
 想定されていようと、それ以上の速度で罠を食い破る。
「正しい選択なんて無い。選んだ後で、それを最善のものにするだけだ」
 走りながら、ヴァルは声を上げる。
「強化光翼で突っ切ります」
 キリカ・キリルク(きりか・きりるく)は、リフトの前でヴァルを抱え、急降下。
「誰一人失敗は許されない奇跡のような連携だが、俺たちならば出来る!」
「ああ、俺も成功の為に自分が出来る最善の行動をさせてもらう」
 パワードスーツを纏った三船 敬一(みふね・けいいち)もパートナーの白河 淋(しらかわ・りん)と共に、リフトの方へと急ぐ。
「わかった。オレは制御室に向かう。足止めされている皆も、すぐに来るはずだ。……行ってくる」
 彼らも通ると思われるリフトから通路までの道を、作っておくこと。
 それが自分の役目だと、尋人は判断した。残るメンバーと頷き合った後、走り始める。
「みんな行ってらしゃーい!」
 メリッサ・マルシアーノ(めりっさ・まるしあーの)は、手をぶんぶん振って皆を見送った。
 無事に帰ってくることを願いながら。

○     ○     ○


「しっかりなさい、アレナ!」
 ユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)は、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)が持つ携帯電話に向かい、叱咤していた。
 電話の先の相手は、呼雪のパートナータリア・シュゼット(たりあ・しゅぜっと)
 タリアはアレナの傍にいる。アレナに呼雪やユニコルノの声を聞かせているはずだ。
「……今だけは私の言葉を信じて下さい。今、貴女に出来る一番の事は、信じる事です」
 切々と、ユニコルノは泣いているアレナの顔を思い浮かべながら、続けていく。
「離れていても、想いは力になるから……貴女は貴女を大切に思う方々にとって、帰る場所。優子様も皆様も無事に戻ると、信じて下さい」
『何もまともに考えられない状態みたいだけれど、大丈夫。想いは伝わるわ』
 タリアから、そんな言葉が返ってくる。
『雲行きが怪しくなってきたけれど……そちらも、気を付けて。彼女達と一緒に、帰りを待っているわ』
「頼んだ」
 そう言って、呼雪は携帯電話をポケットに入れた。
 携帯電話はハンズフリー、通話状態のままにしておく。
 こちらにはその余裕はないが、必要に応じて、タリアが録音をしてくれることになっている。

「なんだこの壁は!」
 高機動型シパーヒーの中で目を覚ました変熊 仮面(へんくま・かめん)は、一人寂しく……いや、にゃんくま 仮面(にゃんくま・かめん)と共に、受信した情報と状況を確認する。
 突入班のメンバーは、厚い壁に阻まれて先には進めないようだった。
「くそ! この怪我じゃ皆の足をひっぱる……」
 変熊もにゃんくまも要塞への突撃の衝撃で、負傷をしていた。
 イコンを下りて、突入班に加わったとしても役に立てなそうだった。
 だが、この場にはイコンを移動させるほどのスペースがないため、イコンに乗ったまま探索を行うことは無理だった。
「そうだ、手柄を立てた人を救出すれば、俺様の手柄になるじゃん!」
 思いついてからの行動は早かった。
「剣の花嫁君達が心配だ。鉄板は俺様が何とかする。みんな早く先に行ってくれ!」
 そう声を上げると、鉄板を貫通すべくビームアイを発射。
「待て! いやそれはまずい。ゼスタ達が蒸し焼きになる」
 ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)が声を上げる。
「え? ならばこれなら……!」
 変熊は落ちているちくわサーベルを拾い上げ、分厚い鉄壁に突き刺して貫通させる。
「さぁ、みんな。輪切にしてホカホカチクワの穴の中を通っていくんだ!」
「穴が小さくて無理だ」
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が首を左右に振りながら、もどかしげに言う。
「むむ、注文の多い奴らめ! ぶつぶつ」
 変熊はぶつぶつ言いながら、ボロボロになったちくわサーベルを抜いた。
 辺りに焼きちくわの匂いが充満する。
「サンキュ! うりゃーっ!」
 ラルクが中に残っていた鉄塊を殴り落し、空いた直径数十センチほどの狭い穴に身体を捻じ込んで、鉄壁の先へと降り立つ。ラルクに続いて、皆も同じように穴を通り抜ける。
 そして閉じ込められていたメンバーと合流すると、壊れた鉄柵の間を通って先へと走り出る。
 スタートは遅れたが、魔法や物資を用いての治療、情報送受信は可能な限り終えての出発だった。
「……みんな俺様の事置いて行きやがって……チクワの匂いをプンプンさせて先に進むがいい!」
 そう見送る変熊が一番長く、ちくわの匂いの中に晒されている……。
「はっ、ここに残ってたら、俺様手柄あげられないじゃん……」
 すぐにその事実に気づいた変熊は無光剣を床にザクザクぶっさす。
「……エネルギー室はこの下よね。マリカ、先に行って」
「わかりました」
 変熊が床に開けた穴に駆け寄ったのは、崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)だった。
 召喚したマリカ・メリュジーヌ(まりか・めりゅじーぬ)を先に行かせる。
「エネルギー室はこっちから行った方が近いか!」
「マスター、灯様、掴まってください」
「ああ」
 魔鎧の龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)を纏った牙竜も、重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)に掴まって、エネルギー室へと下りていく。
「こら、貴様ら……」
 先を越された変熊はちょっと焦りながら、モニターで下の階を映し出す。
「あ、んーでも、今の俺達じゃここ行くの無理だね。イコンで下りたら嵌りそうだし。おとなしく待ってようか……」
 諦めて、変熊はとりあえずこの場で待つことにした。
「わかったにゃ……。誰も回復してくれなかったにゃ……」
 にゃんくまは悲しげな声を上げた。でも、ちくわの匂いに囲まれて幸せな気分だった。