リアクション
(アイシャちゃん、聞こえる? アイシャちゃん……) ○ ○ ○ 「ううっ、馬鹿になったら責任とって貰いますの……」 イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)は、涙目でキーボードを叩いていた。 彼女の額にはたんこぶが出来てしまっている。 ちょっと前に、ワイルドペガサスのレガートを封印の魔石に封じこめた時に、頭突きをされてしまったのだ。 「目立ちすぎるから仕方なかったんですの……」 「ごめんなさいね」 「え!? アイシャ様が謝られることなんてありません。こちらこそ頭突きをされてすみませんでしたっ!」 イコナは勢いよく頭を下げて、謝罪をした。だけど勢いをつけすぎて、今度はPCに頭をぶつけて、涙目に。 大丈夫ですか? と優しく声をかけて、アイシャはイコナの額に手を当てて、魔法で癒した。 「アイシャ様、どうぞ。イコナちゃんもちょっと休憩してください」 ティー・ティー(てぃー・てぃー)が、紙コップに入れた紅茶を皆に配る。 宮殿から役人に渡されてアイシャとアイシャの護衛達が持ってきたのは、簡単なティーセットと、応急セットだけだった。 イコナは出発前までに転送してもらったデータを確認し、気になる情報をピックアップしている。 その他、リアルタイムの情報はここには入ってこない。 一般人が受信できる情報のみしか、受信してはダメだと役人に言われていた。 「避難場所が知られてしまう可能性はないと思いますが、油断せずにいましょうね」 会議に加わっており、護衛としてついてきた源 鉄心(みなもと・てっしん)がアイシャと仲間達にそう言う。 アイシャは不安げながらも淡く笑みを浮かべて、頷いた。 だけれど、その笑みはすぐに消えて。PCに映し出されている情報や、国民向けに流れているニュースに真剣な目を向ける。 アイシャは拳を握りしめていた。 何も出来ずにいることが、悔しいのだろう。 「本当は皆と一緒にいたいでしょうけれど……一番優先がアイシャ様の無事で、それは皆も承知していることで、そうしていてくれるから、皆も前のことの集中できるんです」 ティーの言葉に、アイシャはこくりと首を縦に振る。 「それにしても、いじめっ子根性の据わった相手みたいですね……」 出かけ前に聞いた、アレナが受け取ったテレパシーの話を思い出して、ティーは悲しくなっていく。 「ホント……何故このようなことを話したのでしょう。アレナさんが皆さんに伝えないとでも? 伝えたら殺害されてしまう可能性があるのに……本当にアレナさんを欲してる?」 イコナはPCにテレパシーの内容を入力しながら、首を傾げる。 「陛下。じれったいでしょうが……今は見守ることしかできない」 そんな鉄心の言葉にも、アイシャは素直に首を立てに振る。 「もし突入や、その他の事も罠だったとしても、早々思惑通りに行く連中でもないでしょう? 朗報を待ちましょう」 「はい……。良い知らせを待ちます」 鉄心は出発前に、軍にアイシャに同行する旨連絡は入れたが、避難場所については知らせてはいない。むしろ、ここはテレポートを使ったアイシャ自身が誰にも言わずに選んだ場所であり、到着まで同行した自分達も知らなかった。 そして、避難後は政府の言いつけを守り、電波を使った連絡は一切していない。 「敵が札をきり終えたとは思えない。まだ何か起こる可能性もあるでしょうが……。万が一、ここを敵に嗅ぎつけられるようなことがあったのなら、女王陛下の飛矢として、投げていただいても構いません」 テレポートの負担も少なくなるだろうし、と鉄心は言う。 「……その、決断をしなければならない時が、来ないことを祈ります」 アイシャは切なげな笑みを鉄心に見せた。 「高官の指示は、テレパシーの通じない場所だったはずだけど?」 リアが優しい目でアイシャに言った。 空京のことは軍やロイヤルガード、契約者達に任せること。 絶対に安全な場所で、外部との一切の連絡を絶つこと。 相手の言葉に惑わされないように、テレパシーの通じない場所を選ぶこと。 誰に何があっても、取引に応じるようなことがあってはならない。 政府からは、そんな指示が出ていた。 だけれど、アイシャが選んだのは東シャンバラのロイヤルガードの宿舎だった。 「何を考えてる? どんなことでも、俺はアイシャを手伝おう」 例えば、自分の力で空京を護ろうとしたのでも、アルカンシェルに乗り込もうと考えたのでも、そのものを食い止めようとするのであっても。 リアは手伝うつもりだった。 「剣と体で守るし、魔力が要るなら俺の血を吸え。君に譲れない決意があるように、俺にも譲れない誓いがある。ここに留まっているのであっても、俺のすることに変わりはない」 アイシャの行動に同行し、護衛と魔力源の血となる。 その気持ちに変わりはない。 「シャンバラのために、私は力を失うわけにはいかない。だから、身をひそめて何もしないことが、女王としての戦いなの。私は惑わされたりはしないわ。だから、せめてテレパシーの通じる場所にはいさせてほしい。我侭、だけれど、絶対に惑わされたりはしないから」 「敵は心理戦が得意なようだからな。干渉があったとしても、一人で背負うなよ。俺はアイシャの騎士なんだからさ」 「ありがとう、リア」 そう微笑んだ後で、アイシャは女王としてこうも続けた。 「でも、私の身を案じてくださるお気持ちは嬉しいですが、空京市民のことも大切に想ってあげてください」 アイシャは空京の為に、自分を犠牲にすることが出来ない立場だった。 全身全霊で市民を護りたくても。 だから、自分が安全な場所にいる時には、ロイヤルガードには自分の代わりに、人々を護ってほしいと思う。元々、ジャンバラのロイヤルガードは自分が作ったわけでなく、自分個人の護衛隊ではないのだから。 リアはそんな彼女の言葉に、笑みを浮かべて言う。 「仕事はここで継続するのは無理だけど、レムを残してきている。俺の補佐として関係各所との連絡を継続しているだろうし、アレナの為にも動いてくれるはずだ。俺は君の傍に居るよ。心を支え、安全を守り、共にこの事態に立ち向かうために!」 リアがロイヤルガードになったのは、アイシャの騎士として愛する人を護るためだった。 だから、彼女の手を離すことは出来ない。 |
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