校長室
【2021修学旅行】ギリシャの英雄!?
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一方、石像に対して前記したメンバーとは違う印象を抱く者も、修学旅行生の中にいた。 「ふふ、グース姉様が見たいというからパルテノン神殿にやってきたけど……何やら面白いことになってるじゃない。そう、これは『闇』の手の者による仕業に違いないわ!」 「ほう、石の像が動くとは……。くく、これは面白い、わらわも楽しませてもらうとしようぞ」 刹姫・ナイトリバー(さき・ないとりばー)と黒井 暦(くろい・こよみ)が、動く石像を見てそれぞれの意見を述べる中、刹姫に魔鎧として纏われている夜川 雪(よるかわ・せつ)が声をあげる。 「今日はグー姉がいるんだ。あんまり他人を巻き込むなよ」 雪の言葉は、不気味に微笑む刹姫の耳には届いていないようだ。 「(あーあ、せっかく観光が出来ると思ったのに、サキ姉達のスイッチが入っちまったじゃねーかよ)」 グー姉こと、マザー・グース(まざー・ぐーす)は、やや大人びた態度で状況を見つめていた。 「さて、これは困りましたね。せっかくの観光だというのに……ここは、解決しようとしてる人達と協力して早く何とかしませんと」 「石像が動いているという事は、ふふ、近くに『闇』の者がいるわね。まあ、いいわ。どうせ姿を見せられない臆病者……そんな小物に用はないわね。この石像を止め、この『夜』の化身の力を見せ付けてやるわ!」 「はい、サキちゃん。旅行を楽しみたいですからね」 「ま、グー姉が手伝うってんだ。力は貸すぞ、サキ姉」 「(最近俺、人型になってねーなぁ……)」と思いつつ、恐らく噛み合っていない刹姫とグースの会話を聞いていた雪が呟く。 「(あの二人の妄想はまだしも、やり過ぎると怖いからなあ、あの人は……)」 「サキちゃん、ヨミちゃん、わたくしがサポートします!」 グースはそう言うと、最初に【嫌悪の歌】で仲間の魔力を底上げし、【幸せの歌】で耐性を高める。石像ということから石化の術を使ってきた場合に備えてである。 そうした後、敵の観察に【博識】を使い、分析を開始する。 「グー姉様、ありがとう! ヨミ、行くわよ!」 黒いゴスロリ服を翻した刹姫が暦と石像達の方へ走りだす。 グースのサポートを受けた刹姫と暦は、破壊は出来る限りしないようにしつつ、石像達と戦いだす。 眼帯で片目を覆った刹姫であるが、何やら情報収集に動きまわるミシェルや、三月の姿はキチンと捉えていた。 刹姫は、石像が損傷しないよう、暦と一緒に濃度ゼロのアシッドミストを展開する。 濃霧が神殿内を覆っていく。 「さあ、この漂いし霧の中、この私が見つけられるかしら? 石頭さん」 笑う刹姫の回りには、剥がれ落ちた瓦礫が、螺旋のように回っている。これは雪の【サイコキネシス】で動かしており、簡易バリアにもなっている。 【紅の魔眼】、【ヒロイックアサルト】、【禁じられた言葉】による魔力ブーストを使用した刹姫が、石像に応戦しつつ、アシッドミストが神殿の全域に広がるまでの時間を稼ぐ。また、石像の攻撃に対しては【歴戦の防御術】と、雪のスキル【隠れ身】と【隠行の術】を駆使して回避する。また、これほど濃い霧の中での視界は、雪の【ダークビジョン】で確保しており、刹姫を石像は中々捉える事が出来ず、空振るばかりである。 一方の白ゴスロリ姿の暦も、刹姫との連携を密に行い、戦局を有利に進めている。 【アシッドミスト】を展開した後は、【歴戦の防御術】で石像の動きに対処していたのである。 「くく、今宵はわらわにとって実に楽しきものじゃ。(サキは姉上に弱い。今がチャンスじゃ)」 ただ、当初暦が予想していた、石像からの状態異常攻撃は無かった。 更に、霧が十分に広がったのを見た刹姫と暦は、魔力ブーストによる氷術による大気凍結で、石像の動きを止めようとする。 「いくわよ、ヨミ」 「ふ、そうこなくてはのう」 刹姫と暦が並び、静かに、そして禍々しく詠唱を始める。 「夜の化身、刹姫・ナイトリバーと……」 「漆黒たる者、黒井暦が命じる」 「漂いし冷気の精よ、古の盟約に従いかの憐れな意志なき石の化身を凍結させたまえ……」 「永久なる凍気の調べ!(ブリザードリィ・フォース・オブ・エターナル)」 十分に石像達がいる場所一帯に広がった霧が、二人の発動させた氷術の温度操作により、霧ごと石像を凍結させ、動きを封じていく。 だが、やはりここは広いパルテノン神殿。足りないと思った暦が【ブリザード】を使い、同じスキルを持つ柚もこれに加勢する。 見事に氷の世界と化したパルテノン神殿。 すれ違いざま、雪が、最終手段として【野生の蹂躙】を使用しなくて済んだ事には、安堵の表情を見せるグースに尋ねた。 「なあグー姉、元々石像だったのに『石を肉に』をやるとどーなるんだ?」 「……セツくん、どうしてもう少し早くそれを言ってくれないんですか?」 目の前に広がる一面の氷の世界と、その中心で笑う刹姫と暦を見てグースが頭を抱えていると、ギリシャの観光協会と名乗る男が、パルテノン神殿を見つめ、笑顔で「却下」と氷よりも冷たい判断を刹姫と暦に下す。 「暴れるのを止めてくれ、とはお願いしましたが、これはやり過ぎです」 「男……だが、これを解くと石像はまた暴れだすわよ?」 「……我が国の経済に観光が与える収益分をご存知ですか?」 暦は、溶かす必要があれば【凍てつく炎】で徐々にと考えていた。『徐々に』とは、ゆっくり溶かさないと温度差で石像が崩れかねないからである。 ここから、暦が指定された石像を、夜を徹して徐々に溶かす作業が始まる……と覚悟した、その時。 「刹姫さん、暦さん。僕が何とかしますよ?」 佑一が二人に歩み寄る。 「おぬし、どうするのじゃ?」 「要は、石のままの姿で、尚且つ、暴れださなきゃいいんでしょう?」 佑一はそう言うと、トラッパーのスキルも使用し、凍りついた石像の節々に戦乱の絆(不思議な紐)やワイヤークローを引っ掛けて、近くにある柱(文化財なもの等は避け、できるだけ大きなもの)に次々と括りつけていく。 「とりあえず……氷漬けとこの拘束で今日は大丈夫でしょう。……明日はどうなるかわかりませんけどね」 「へぇ……考えたわね。氷漬けとワイヤーで拘束で暴れなくさせるなんて」 パルテノン神殿にやってきたルカルカが感嘆の声をあげる。 「明日まではこれで大丈夫そうだな……と、電波刑事は何処に行ったんだ?」 ダリルが見回すが、一足早くパルテノン神殿に向かったなななの姿が見当たらない。 「お腹が減ったら戻ってくるよ」 「アコ……そんな犬みたいに」 ルカアコは、一面氷の世界になったパルテノン神殿で、「寒ッ!」と身を震わせる。