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リアクション
第2章 待ち受けていたもの
ベースキャンプから出発した教導団の生徒たちは、道なき道を徒歩で遺跡に向かって進んで行く。食料も飲料水も、すべて人力で運ぶのだ。機械類もパーツに分解して手分けして担ぎ、現地で生徒が組み立てることになっている。補給部隊の護衛についている鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)とパートナーのヴァルキリー松本 可奈(まつもと・かな)も、そういった荷物の一部を担いで隊列の最後尾を歩いていた。
「さすがに、ちょっとしんどいわね」
流れる汗をぬぐいながら、可奈が顔をしかめる。
「少し持ちましょうか?」
パートナーを気遣って真一郎は声をかけたが、可奈はかぶりを振った。
「私の方が無理やり鷹村さんを引っ張ってきたんだもの、助けてもらうわけには行かないわ」
「……まあ、あまり無理はしないで下さい」
真一郎はぽんぽんと可奈の頭を叩いた。その時、二人の目の前に、どこからか発炎筒がばらばらと投げ込まれた。
「敵襲!!」
真一郎は鋭く叫ぶと、背負っていた荷物を肩から落としつつ、発煙筒を踏みつけ、蹴り飛ばした。可奈も荷物を落とし、身構える。あたりにぼんやりと白い煙が立ち込める中、茂みから飛び出して来た蒼空学園のウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)が、可奈の首筋に手刀を叩き込んで来た。
「下がってください!」
とっさに可奈の手を引いて立ち位置を入れ替え、真一郎はランスでウィングの手を払った。騒ぎを聞きつけて、他の護衛たちが駆けつけて来る。
「制服を頂いて、遺跡に潜入しようと思いましたが……さすがに一人では無理がありましたか」
ウィングは舌打ちすると、さらに発煙筒を数本投げて、その煙に紛れて姿を消した。
「ベースキャンプでも、教導団の生徒のふりをして遺跡に忍び込もうとする他校の生徒がいたようだ。無線で連絡があった。まだ他にも居るかも知れないし、警戒を強化しよう」
補給部隊のリーダーを任されている、高等課程の男子生徒が言う。真一郎も可奈も、厳しい表情でうなずいた。そこへ、
「はいはーい、皆さん、お茶が入りましたですぅ。先輩、ひと休みしましょうですぅ」
経理科高等課程の皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)が、大荷物を担いだパートナーのゆる族うんちょう タン(うんちょう・たん)を連れ、緊張をぶち破るようなきゃらきゃらとした声で言いながらやって来た。
「……ようし、交代で休息! ただし、警戒は怠るな。さっきの奴がまた戻って来るかも知れないし、別の奴が襲って来るかも知れん」
先輩があっさりと休憩を認めたので、咎められると思っていた伽羅は、ちょっと拍子抜けしながらタンに背負わせていた荷物をほどいた。
「本日のお茶菓子は、教導団の見学みやげとして人気の『激せん!!教導団』ですぅ」
教導団本校の売店には、見学のみやげ物としてオリジナルのお菓子が売られている。伽羅は茶菓子としてそれらを何種類か、タンに担がせて来たらしい。
「士気の維持には、休息も必要ですぅ。先輩は良く判ってるです」
にっこりと笑う伽羅の隣で、タンがうんうんとうなずく。
その頃、先に出発した隊は、既に遺跡付近に到達していた。生徒たちの休息や物資の集積など、目的別にテントやタープが張られ、銃を携えた教導団の生徒たちが周囲を警戒している。
歩兵科の戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)とパートナーの守護天使リース・バーロット(りーす・ばーろっと)、そして騎兵科のユウ・ルクセンベール(ゆう・るくせんべーる)は、拠点の前面にせっせとバリケードを築いていた。材料は周囲に豊富にある、樹海の樹木だ。
「光学迷彩を使われると、哨戒だけじゃ抜けられる危険があります」
「それに、敵が少人数で攻めて来るとは限りません。『一人を見れば三十人』『備えあれば憂いなし』と言う諺もあります」
小次郎とユウは拠点で前線指揮官を務めている林偉(りん い)教官に進言し、バリケード構築のために人数を割いてもらうことに成功した。先遣隊の生徒たちが交代で、木を切り出したり、杭を打ったりするのを手伝ってくれている。
「後でバリケードの外に枯れ枝を敷いておきましょう。光学迷彩は足音までは隠せませんから」
そのための枯れ枝を集めてくれるように頼んでいる小次郎を見て、林教官が苦笑する。
「戦部、歩兵より工兵の方が向いてるんじゃないか? 転科するなら口きいてやるぞ?」
「……器用貧乏っていうのも何なんで、考えさせてください」
小次郎は苦笑を返す。
「教官、説得に応じて引き返す者は追わなくて良いですか?」
ユウは林教官に尋ねた。林教官は難しい顔でかぶりを振った。
「ここまで来てしまった者は、敵意の有無に関わらず全員拘束するようにと団長から指示が出ている。荒事を避けたい気持ちは判るが、遺跡の場所が漏れるのはまずいんでな」
「そうですか……」
ユウは残念そうにうつむいたが、金鋭峰の命令とあれば、逆らうわけには行かない。黙ってうなずき、作業に戻る。
「リース、無理しなくていいですからね? 疲れたら休んでください」
枯れ枝を集めて来たパートナーに、小次郎は声をかけた。
「ありがとうございます、でもまだ大丈夫ですわ」
枯れ枝を地面に置き、汗をぬぐいながら、リースはにっこりと笑った。
一方、デゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)とパートナーの機晶姫ルケト・ツーレ(るけと・つーれ)は、遺跡の入口にカモフラージュ用ネットを張っていた。遺跡の入口は小さな崖のように切り立った場所に扉が露出しているような状態で、扉の上部は上に生えている木々の根が垂れて、なかば埋もれている。その木の根にネットを結びつけて垂らし、扉を覆おうというのだ。部外者が発見するのを防ぐためと言うより、そこを通った者がいればネットが揺れるだろうと言うことで、隠れ身や光学迷彩を使える者が侵入するのを防ぐためである。
「しかし、中にどれだけご大層な物が眠ってるのか知りませんが、教導団の生徒同士で派閥争いなんて馬鹿馬鹿しい……」
ブツブツ言いながら、ルケトがネットをワイヤーで木の根に固定する。
「まあなあ。軍隊の力はもっと他の事に使うもんだろ、とは思うけどな。俺としちゃ、俺を巻き込みさえしなきゃどうでもいい、って感じだな」
作業を終えたデゼルは、ひょいと崖から飛び降りる。5メートルほどの高さがあるが、訓練を受けた者にとってはたいした高さではない。
「さてと、バリケード作ってる連中を手伝ってやるかぁ……」
デゼルが歩き出したのを見て、ルケトも崖から降りようとした。が、その時、デゼルが留めた部分が木の根から外れ、ネットがずるりと垂れ下がってしまった。
「まったくもう、やることが雑なんだから……」
ぶつぶつ言いながら、ルケトはネットを木に留め直した。
衛生科の朝霧 垂(あさぎり・しづり)と、パートナーの剣の花嫁ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)は、次々に運び込まれる医薬品や衛生材料の整理で忙しい救護テントを抜け出し、遺跡の入り口まで来ていた。遺跡の扉は何とか人が二人くらい並んで通れる巾にうっすらと開いていたが、その隙間もデゼルとルケトが垂らしたカモフラージュ用ネットに覆われている上に、その前には検問所が設けられ、査問委員たちが詰めていた。
「他に入り口はない……んだよな?」
「ていう話だよ。でも、教導団の生徒なら、入れてーって頼んだら、入れてくれるんじゃないかな?」
きょろきょろと周囲を見回す垂にライゼはお気楽極楽に言うと、すたすたと検問所に近づいて行った。
「すみませーん、中に入れてくださーい」
「そう言われて、はいどうぞと通すと思うのか」
ライゼの前に立ちふさがったのは、この検問所を作ることを提案した秘術科のフリッツ・ヴァンジヤード(ふりっつ・ばんじやーど)とそのパートナーのサーデヴァル・ジレスン(さーでばる・じれすん)だった。当初は遺跡の中にチェックポイントを設けてチェックをしたいと考えていたのだが、何しろ『禁猟区』を使った状態で一歩遺跡に入ったとたんに背筋がぞくぞくして回れ右をしたくなる、という状況なため、急遽遺跡の入り口でのチェックとなったのだ。
「朝霧垂と、そちらはライゼ・エンブか? ……二人とも衛生科ではないか。衛生科は救護所の設営をやっている最中ではないのか?」
フリッツが手にしていたリストをめくって言う。
「本隊が来る前に調べておけば、手間が省けるじゃないか」
「だめだよ」
反論する垂に、サーデヴァルがにっこりと、だがきっぱりと言う。
「君のしようとしていることは、上官命令じゃないんだよね? だったら、教導団の生徒でも立派な不法侵入だ」
「衛生科でも、志願すれば探索部隊に入れてもらえるであろう? 中に入りたいのであれば、きちんと筋を通して来るのだな」
フリッツも検問所の前に立ちはだかり、頑として通そうとしない。仕方なく、垂とライゼは本来の持ち場に戻って行った。
「……もしかして、あやつが持っているのは今回の作戦に参加している生徒のリストか? 面倒なことになったのう」
その様子を隠れて見ていたイルミンスール魔法学校の御厨 縁(みくりや・えにし)は、ここまで一緒に来た蒼空学園の支倉 遥(はせくら・はるか)と、そのパートナーである剣の花嫁ベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)に囁いた。
「まさか、遺跡への出入りを一人ずつ名簿と照らし合わせてチェックするとは、さすがに思いませんでした」
遥は悔しそうに唇を噛む。その隣で、ベアトリクスは内心ほっとしていた。遥の立てた作戦が、教導団の生徒を捕まえて制服と装備を引っぺがすのみならず、裸に剥いた生徒を首だけ出して土に埋めて助けを求めさせ、その騒ぎに乗じて紛れ込もう、というかなり乱暴かつえげつないもので、あまり気が進まなかったからだ。
「リストを取り上げて来ようか?」
縁のパートナーの機晶姫サラス・エクス・マシーナ(さらす・えくす ましーな)が身を乗り出す。
「いえ、やめておきましょう」
遥はサラスを止めた。
「ああやって組織的に検問をやっているんですから、リストがあれ一部だけとは思えないし、今出て行ったら多勢に無勢です。少し様子を見ましょう」
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