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リアクション
第3章 敵また敵
その襲撃を予測できた者は、誰も居なかった。
最初に「それ」と遭遇したのは、蒼空学園のベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)とパートナーの剣の花嫁マナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)、そしてイルミンスール魔法学校の緋桜 ケイ(ひおう・けい)と、パートナーの魔女悠久ノ カナタ(とわの・かなた)だった。
「見つかるのを警戒しすぎちゃったねー」
ずっと先頭を進んでいたベアがごまかし笑いを浮かべた。
「……どーすんだよ、いったい!」
ケイがベアを怒鳴りつける。マナとカナタは、呆れ顔でベアを見ている。……実は四人は、追跡していた教導団の生徒たちを見失い、絶賛道迷い遭難中だった。
「えーと……空飛ぶ箒に乗れば、帰れるよね?」
「二人乗りじゃ、撃墜される可能性も大きいけどな! それに、ここまで来てすごすご引き返せるか!」
航空部隊が飛び回る頭上を指差して、ケイは言った。その時、ガサガサと茂みが鳴り、武器を持ったオークやゴブリンの集団が四人に襲い掛かって来た。
「な、何だよっ!?」
ベアはマナをかばいながら轟雷閃を放ったが、蛮族たちは攻撃されたことで逆に怒り狂い、我を忘れたように攻撃して来る。
「いくら手加減がいらぬと言っても、敵が多すぎるぞ!」
カナタが悲鳴を上げる。
「しょうがねえ、離脱だ! ベア、マナ、乗れ!」
アシッドミストを一発かまして隙を作り、ケイは空飛ぶ箒にベアを乗せた。カナタはマナを箒に乗せる。二人乗りの箒は、よろよろと空中に浮き上がった。
「このっ、離しなさいってば!」
足首を捕まれたマナがゴブリンの頭を蹴り飛ばし、四人は何とか、蛮族の手が届かない高度まで上昇した。
「きーさーまーらーッ!!」
ケイがもう一発アシッドミストをお見舞いしようとしたその時、ピィーッ!と指笛らしき音が響いた。その音を聞いたとたん、蛮族たちはさっきまでの興奮が嘘のように静まり、樹海の奥へと姿を消した。そしてかわりに、
『はーい、そこの空飛ぶ箒、大人しく樹海の外へ出て下さーい』
上空から、拡声器で呼びかける声がした。
「うわー、見つかっちゃったか」
ベアが頭を掻く。
「今日は、これで引くか……」
純白のドレスをボロボロにされたマナを見て、ケイは盛大にため息をついた。
「しかし、今のはいったい、何だったのであろうか……」
カナタが大きく息を吐きながら呟いた。
「風紀委員てのは、どこに居るんだ?」
教導団の生徒たちを追って遺跡付近までたどりついたうちの一人である波羅蜜多実業高等学校 秋岩 典央(しゅうがん・のりお)は、茂みの影から拠点の様子をうかがった。風紀委員を装って潜入し、ひと騒動起こそうというのだ。
「みんな同じ制服で良くわからないな……風紀委員の制服ってのははないのか? いや、あの黒地に金の腕章がそうなのか。一人になるのを待ってはぎ取るかな」
ところどころに居る、「風紀」の腕章をつけた生徒たちを見て、典央は呟いた。が、拠点の様子を良く見ようとして、少々身を乗り出しすぎていたらしい。
突然、どこかで花火を打ち上げるような、バシュ、という音がした。はっとして振り向くと、教導団の生徒たちが数人、こちらに向かって走ってくるのが見えた。
典央を発見したのは、風紀委員会に協力しているクレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)と、パートナーの守護天使クリストバル ヴァルナ(くりすとばる・う゛ぁるな)だった。クレーメックは仲間たちと手分けして、拠点から少し離れた場所を重点的に巡回していて、典央を見つけたのだ。
クレーメックが打ち上げた信号弾に気付き、仲間たちが駆けつけて来た。
「この樹海では、現在、教導団の作戦行動が行われております。速やかに退去して頂きたい……と言いたいところですが、遺跡の場所を知られたからには、あっさり返すわけにはいかなくなってしまいましたな」
マーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)が、口調は丁寧に、だが、いつでも手にしたランスを繰り出せるように身構えつつ警告する。
「ふん、風紀委員の服を手に入れて『白騎士』を襲撃すれば騒ぎになるだろうと思ってたんだが、まずここで手前ぇらを叩きのめして、『白騎士』のせいにするのも面白いかもな!」
典央は吐き捨てると、いきなりアサルトカービンの引き金を引いた。マーゼンは盾を構えてそれを受ける。同時に、パートナーの吸血鬼アム・ブランド(あむ・ぶらんど)の指先から現れた炎の球が、典央を襲った。
「ちいっ!」
典央は地面に転がって火球を避け、さらにアサルトカービンを乱射した。
「ライラプス、戦斗機動。対人格闘、非殺傷モード。状況開始!!」
昴 コウジ(すばる・こうじ)が、パートナーの機晶姫ライラプス・オライオン(らいらぷす・おらいおん)に指示を出す。
「非殺傷モード、格闘機動に入ります」
ライプラスは復唱すると、典央の退路を断つように回り込み、低い姿勢で突っ込んだ。典央は引き金を引きながら後ろに飛び退り、間合いを取る。しかし、今度は着地地点を狙ってアムの火術が飛ぶ。
「……おい、あれ」
光学迷彩で身を隠しつつ教導団の生徒たちを追跡してここまで来た、波羅蜜多実業高等学校の切縞 怜史(きりしま・れいし)とパートナーのラヴィン・エイジス(らうぃん・えいじす)、そして、二人に声をかけられて行動を共にすることになった八神 夕(やがみ・ゆう)が、その騒ぎに気付いた。
「やばいんじゃね? 助けようぜ」
夕に提案されて、怜史は担いでいたアサルトカービンを肩から下ろした。
「まあ、助けてやりゃ仲間になるだろうからな……」
口ではそんなことを言いながら、狙撃しやすい場所まで移動しようとしたその時。足元でカランカラン!と音がした。
「やばい!」
ラヴィンが慌てて光学迷彩で作ったシートを広げて怜史と夕を隠そうとしたが、その前に、三人の居る場所に火の球が打ち込まれて来た。
「あち、あち、あちちちちち」
着ぐるみに火がついて、ラヴィンは転げまわる。怜史と夕は、着ぐるみを叩いて何とか火を消そうとした。そこへ、
「侵入者発見!」
鳴子のトラップを仕掛けたハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)とパートナーの魔女クリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)が、ゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)とパートナーの剣の花嫁レナ・ブランド(れな・ぶらんど)と共に駆けつけた。
「さて、大人しくして頂きましょうか」
「抵抗したら、もう一回火をつけてさしあげますわ」
ハインリヒがランスを突きつけ、ヴァリアも指の先に火術でぽっと炎をともして牽制する。
「我々としては、なるべく手荒な事はしたくありません。ですが、ここまで来られるとそのまま帰すわけにも行かないんです。武装解除の指示に従って下さい」
ゴットリープに言われて、怜史と夕は武器を放棄した。ゴットリープはパートナーに言った。
「レナ、ヒールしてあげてください」
「良いんですか? 敵に情けをかけたと咎められるのでは……」
レナは少し心配そうにゴットリープとハインリヒを見比べる。ハインリヒは肩を竦めて横を向いた。
「他校の生徒を傷つけるのは、他校とのもめ事を嫌う団長の……イコール、風紀委員長のよしとするところではないでしょう。最低限の治療くらいなら良いのではないでしょうか」
ヴァリアにも頷かれ、レナはラヴィンに歩み寄り、焦げた着ぐるみに手をかざした。
しかしその一方で、典央と教導団の生徒たちの戦闘はまだ続いていた。
「おらぁッ、ちょろちょろするんじゃねえ! 手元が狂ってドタマ潰しても知らねぇぞ!!」
「兄貴ッ、そっち行ったぜ!
後から駆けつけたケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)とパートナーのドラゴニュートアンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)も攻撃に加わり、ライラプスと共に典央を捕らえようとするのだが、典央もスプレーショットで抵抗する。
「く……この状態では、こちらからはスプレーショットは使いにくいでありますね……」
相沢 洋(あいざわ・ひろし)はアサルトカービンを構えたまま、狙いをつけ切れずに唸った。
「洋さま、いっそのことまとめて火術を撃ち込みましょうか? ケーニッヒ様もアンゲロ様もライラプス様も、その程度では死なないと思いますが」
洋のパートナーの魔女乃木坂 みと(のぎさか・みと)が、大真面目な顔で言う。
「いや、敵が死ぬのもまずい。やめておいてくれ」
クレーメックがみとを止めた。
「さすがに、警戒が厳しいですね……」
教導団の生徒たちの後をこっそりつけてきた蒼空学園のエドワード・ショウ(えどわーど・しょう)は、『隠れ身』を使って木の陰に身を潜めながら、その様子を見ていた。
「しかし、これはチャンスかも知れませんね。罠に気をつけながら行きましょうか」
一歩踏み出したその時、『女王の加護』がエドワードに何かを伝えた。エドワードは罠の存在を感知したのかと足元や頭上を見る。
だが、災厄はまったく予想していなかった方向からやって来た。
いきなり、背後から何かが飛んで来る気配がしたかと思うと、目の前の地面に軍用大型ナイフが突き立った。驚いて振り返ったエドワードの目に映ったのは、怒涛のようにこちらに向かって来る、武装したゴブリンとオークの群れだった。
「うわああああああ!?」
エドワードの叫び声に、クレーメックたちが気付く。
「敵襲!!」
クレーメックはとっさに予備の信号弾を打ち上げた。だがその直後、かれらは蛮族の群れに飲み込まれていた。
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