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リアクション
入口前のホールから伸びている三本の通路は、いずれも乗用車が一台余裕で通れる程度の巾があった。煌々と、というほどではないが照明もついているので、見通しは悪くない。とりあえず、行く手に何もないことを確認し、生徒たちはそれぞれの通路に入って行った。
「すごいですねー、いったい何に使われていた場所なんでしょう?」
中央の通路を行くことになったグループの先頭を歩きながら、一条 アリーセはため息をついた。すっかり「おのぼりさんの物見遊山」状態で、上を向いたり後ろを向いたり、おまけにだんだん歩調が早くなって行く。
「かなり大規模のようだし、何かの重要拠点だった可能性もあるな……と言うか、一人で先に行くな。迂闊に動いて、防衛機能に引っかかったらどうする」
技術科一年のグレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)が、低い声でアリーセをたしなめる。久我 グスタフが、慌ててアリーセの首根っこを捕まえた。
「ごめん。……普段はもっと冷静な奴なんだがなあ」
グレンに謝っておいて、グスタフはアリーセを睨んだ。
「あんたの巻き添えで懲罰部隊送りになるのは、俺、ごめんだからな?」
「すみません、浮かれすぎました……」
アリーセは小さくなって謝った。
「ソニア。ここのことは記憶にないか?」
一方、グレンはパートナーの機晶姫ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)に訊ねた。
「いいえ。ですが、雰囲気が似ている所は知っています」
ソニアは青い瞳でじっと行く手を見て答えた。
「研究施設……と言うより、規模を考慮すると工場と言うのが正しいように思います。何の工場かは、これから調べてみないとわかりませんが」
「私たちが先行するわ。……この通路に入ってから、何か嫌な感じがするの」
本来憲兵科の任務であろう検問や他校生の排除をサボタージュして探索に参加した宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が、パートナーのシャンバラ人セリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)と共に先頭に出る。
「ならば、ジーナにも先に行ってもらおう。何かあった時盾になる」
林田 樹(はやしだ・いつき)が、パートナーの機晶姫ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)に合図をする。
「はい、林田様」
ジーナはたたっと走り出て、祥子とパウエルの後ろについた。樹は楓やプリモの後ろについて、後方を警戒する。他の生徒たちも、それぞれ技術科の生徒を囲んで守る形で隊列を組んだ。
その頃、サミュエル・ハワード(さみゅえる・はわーど)は、鵬悠や風紀委員たちと共に、左側の通路を進んでいた。
「意外ダネ、『白騎士』は誰もこっちへ来ないシ、風紀委員はアッチへ行かないシ」
背後を振り返っても、誰もついて来る様子はない。
「お互いに、誰がどちらに所属しているか良く判っているからな。それに、こんな見通しの良い所で何か仕掛けるのも難しいだろう」
鵬悠は相変わらず冷ややかな声で答える。
「フウン……俺ガ実は『白騎士』に味方していルとは思わナイ?」
サミュエルはニヤリと笑って自分を指差したが、鵬悠は動じなかった。
「お前が団長に心酔していることは、既に調査済みだ。私は、少しでも信用出来ないと思う者は側に置かない。そうでなければ、団長のために働くことは出来ないからな」
その言葉に、サミュエルは「オオ、怖い」と呟いて肩を竦めた。その時、先行していた機晶姫エミリア・イーリッシュ(えみりあ・いーりっしゅ)が足早に戻って来た。
「この先の角を曲がった所に、扉があります」
「トラップや防御システムが存在するかも知れん。慎重に行くぞ」
「アイ、サー!」
首の後ろで束ねた髪を揺らして先に進む鵬悠に敬礼をして、サミュエルはその後に続いた。
「これを投げ込んでみましょう」
風紀委員でも、風紀委員派と言うわけでもないが、パートナーのエミリアと共に鵬悠たちの隊に振り分けられたナイン・カロッサ(ないん・かろっさ)が小石を取り出し、扉の前に転がす。とたんにパチン、と音がして、小石が真っ二つに割れた。
「光線兵器か……? どこから発射しているか、探して潰せ!」
鵬悠の指示のもと、風紀委員たちが周囲の探索を始める。
そして、右側の通路では、セオボルトとパートナーのドラゴニュートイクレス・バイルシュミット(いくれす・ばいるしゅみっと)、フリューリングとパートナーのヴァルキリークローネ・シュテルンビルト(くろーね・しゅてるんびると)、ロブ・ファインズ(ろぶ・ふぁいんず)とパートナーのヴァルキリーアリシア・カーライル(ありしあ・かーらいる)が、ヴォルフガング・シュミットとパートナーのヴァルキリーエルダ、そして『白騎士』の数人と共に進んでいた。
「では、あなたは他校生や、教導団の他の生徒グループからの攻撃はない、と考えているんですね?」
遺跡の中で他の生徒との戦闘になるのではないか、と考えていたフリューリングはヴォルフガングに訊ねた。
「入口であれだけ厳重にチェックしているんだ、今のところ他に入口は見つかっていないし、他校のネズミが遺跡の中に入っているということはまずないだろう」
ロブが脇から口を挟む。ヴォルフガングはうなずいた。
「そして、教導団の他の生徒が表立って我々に銃口を向けることも無いだろうな。いくら李鵬悠が団長と義兄弟の契りを交わしていたとしても、いや、交わしているからこそ、そのような真似はするまい」
「何もしていない味方に銃を向ければ、それは裏切りと見なされますからな。軍法会議ものの大問題です。風紀委員長自らそのようなことをすれば、団長の顔に泥を塗ることになりましょう」
セオボルトが、ウエストバッグの中から好物の芋ケンピを出して齧りながら言った。
「……いかがですか? 疲れている時には甘いものが良いですぞ」
眉を寄せて芋ケンピを見ていたフリューリングにも、一本差し出す。
「あ、頂きます。フリューリング、半分こにしましょう」
手を出さないフリューリングのかわりに、パートナーのクローネがそれを受け取り、ぱきんと半分に折って片方をフリューリングに渡す。フリューリングはそれを口にくわえた。その時、
「来たぞ!!」
少し先行していた『獅子小隊』のレオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)とパートナーの剣の花嫁シルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)、レーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)とパートナーの機晶姫イライザ・エリスン(いらいざ・えりすん)、ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)とパートナーの機晶姫ソフィア・クロケット(そふぃあ・くろけっと)、佐野 亮司(さの・りょうじ)とパートナーのゆる族ジュバル・シックルズ(じゅばる・しっくるず)が、迎撃をしつつ後退して来た。その向こうから、通路の床だけではなく、壁面や天井にも張り付いた直径30cmほどの円盤状のメカが多数、光の弾丸を打ち出しながら迫ってくる。
「熱烈歓迎か……。なるべくなら消耗は避けたかったが、そうも言ってられないみたいだな」
アサルトカービンを構え、ロブは呟いた。自分が援護している間にアリシアに前面で戦ってもらうつもりでいたが、これだけ多くの敵は予定外だ。
「これだけ守りが固い、ということは、この先にそれだけのものがある、ということでしょうか?」
それでも、いつでも飛び出せるように身構えながら、アリシアが言う。
「銃タイプの光条兵器か、それに類似の兵器を搭載しているのか!?」
エルダが構える盾の向こうから、ヴォルフガングが弓で轟雷閃を放って応戦しながら叫んだ。
「そのようです!」
スウェーで攻撃をかいくぐり、片手剣タイプの光条兵器をメカに突き立てつつ、レオンハルトが答える。ヴォルフガングは頷くと、
「一人であまり突出するな、囲まれて集中砲火を浴びるぞ。総員、壁面や上方から回り込まれないように注意しつつ応戦!」
と、指示を出す。
「なるべくなら遺跡にダメージが行かないようにと思ってたけど、そうも行かないみたいですね……!」
向こうが飛び道具では仕方がない、と、フリューリングは銃を構える。しかし、円盤の装甲や金属の壁で跳弾が起きる可能性もあり、前に味方が残っている状態では撃ちにくい。
「イライザも下がれ! レオンハルトと側面に回れ!」
アサルトカービンで一機ずつメカを撃ち抜きながら、レーゼマンがレオンハルト同様近接戦闘用の武器しか持たないパートナーに声をかける。イライザは光の弾丸を避けながら飛び退りつつ、壁を走って来た円盤をカルスノウトで床に叩き落とした。色々な戦闘パターンを予測していたレオンハルトも、このような小さい敵との戦闘は予想外で、当初考えていたヒットアンドアウェイを諦めて、側面の壁を這って来る円盤を光条兵器とカルスノウトの二刀流で撃退して行く。
前方に味方が居なくなったことで、銃を武器とする生徒たちは攻撃がしやすくなった。
「その円盤、後で一つ持って帰りましょう。楊教官へのいい土産になる」
天井にはりついている敵をスプレーショットで牽制しながら、ちょっと暢気なことを言うのはルースだ。
「はい、マスター」
ソフィアが隙を見て駆け出し、落ちて来た円盤でもう動かないものを拾って背嚢に詰める。
「ちくしょう、数が多すぎるぜ!」
一方、苦戦をしているのが亮司だった。光学迷彩で身を隠しつつ射撃するのが彼の戦闘スタイルなのだが、どうも敵は光学的なカメラ類以外にも侵入者を感知するセンサーを備えているらしく、居所がばれてしまうのだ。
「いた、痛たたたた」
一緒に隠れているジュバルもかなり痛い思いをしているようだが、それでもカモノハシのような小柄な身体を生かして亮司を盾に取らないところが、パートナーのパートナーたる所以であろうか。
「無理をすることはない、また別の場面で活躍できる機会もあるであろう」
セオボルトがイクレスと共に、亮司とジュバルをかばいに出る。セオボルトが攻撃を防ぎ、床を這って来る円盤をイクレスが拳で叩き潰した。
「負傷した方は後方へ! ヒールします!」
隊の後ろへ回り込んだシルヴァが叫ぶ。亮司とジュバルはひーひー言いながら後退した。
「大丈夫ですか?」
シルヴァは二人にヒールを使った。
「た、助かった……」
亮司は肩で息をしながら言った。
「まったく数が減ったように見えませんが、どうしますか!?」
レオンハルトはヴォルフガングに訊ねた。床には破壊された円盤が多数転がっているのに、攻撃して来る円盤の数はまったく減っていないように見える。遺跡の奥に、この円盤を際限なく生み出す装置があるのではないか……レオンハルトはふと、そんな考えにとらわれた。
「……それでも、戦うしかあるまい。それ以外に、先に進む方法はないのだから」
ヴォルフガングは厳しい表情で、通路の先を見た。
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