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リアクション
クレーメックの信号弾に気付いた見張りの生徒の報告で、拠点の防衛を担当していた生徒たちは、どうにか蛮族が拠点に押し寄せる前に体制を整えることが出来た。
「最初に訓練中の生徒が見かけた『人影』は、こいつらか……? いずれにしろ、蛮族が相手なら容赦は無用だ! 思い切りやれ!」
林教官の指示を待つまでもなく、後背を遺跡で遮断されている地形で後退することは難しいので、正面の敵と向き合うしかない。ただ、戦部 小次郎とユウ・ルクセンベールがバリケードの構築を教官に進言したおかげで、樹海で乱戦が展開されるのは避けられた。
「てっきり他所の学校の生徒を相手に戦うと思っていたら、蛮族が相手なのかッ!」
前田 風次郎(まえだ・ふうじろう)とパートナーのドラゴニュート仙國 伐折羅(せんごく・ばざら)は、ドラゴンアーツを駆使して、バリケードに向かって押し寄せて来る蛮族を吹き飛ばしていた。敵は銃やナイフを持っているが、使い方を良く理解しておらずにただ振り回したり、こちらに向かって投げつけたりする者も居て、遠距離攻撃の能力はあまりないようだ。
「思い切り戦えるのは良いが、出来るなら一対一の漢の戦いをしたかったでござるよ」
自称忍術使いらしく、バリケードの木の隙間からドラゴンアーツで敵を吹き飛ばしつつ、伐折羅がぼやく。
「それにしても多いな……いったい何匹くらい居るんだ? どこから出てきたんだよ!」
クライス・ファニング(くらいす・ふぁにんぐ)が横薙ぎにアサルトカービンを発砲しながら呟いた。統制は取れていないが、数は明らかに守備側の生徒たちより蛮族の方が多い。しかも、いくら攻撃しても、味方が倒されても怯むことなく、何かに取り付かれたように遺跡を目指して前進して来る。そしてとうとう、先鋒がバリケードをよじ登り始めた。
(そして、これだけの武器をどこから……?)
兵站担当ながら防衛戦に加わっていた沙 鈴(しゃ・りん)は、バリケードの上に立ち、ランスを繰り出して登って来る蛮族を叩き落しながら、ふと疑問を感じた。これだけの蛮族を集め、武器を持たせ、遺跡を襲うように指示した『誰か』が居るのではないか……? だとしたら、それはおそらく個人ではなく……
「銃弾、持って来ましたッ!」
鈴のパートナーでやはり兵站担当の綺羅 瑠璃(きら・るー)が、弾の入ったパッケージを抱えて来た。
「ありがたい、丁度切れたところだ」
星野 勇(ほしの・ゆう)がバリケードの内側にひらりと飛び降りた。銃弾を装填して、またひらりとバリケードの上に飛び上がり、再び引き金を引き始める。弾が当たったゴブリンが転がり落ちるが、倒れたゴブリンを踏み台にして、次のゴブリンがバリケードに取り付く。
「くそ、こいつら、仲間が倒れてもひるみやしねえ」
苦々しげに吐き捨てて、勇は引き金を引き続ける。
「ここはもう危険ですわ、下がって救護に回ってください!」
鈴はパートナーに向かって叫んだが、瑠璃は首を横に振った。
「ここが突破されたら、どこに居たって同じよ。だったら、兵站担当としてやるべきことをするわ!」
「今、遺跡の中の連中を呼び戻している。もう少し耐えてくれ!」
林教官もバリケードの上に立ち、登って来たオーガを蹴り落としながら怒鳴る。
その頃、遺跡の入り口正面からやや離れた場所に設置されている救護所には、怪我をした生徒たちが運ばれて来始めていたた。
比島 真紀(ひしま・まき)は、パートナーのサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)と共に衛生班の護衛に当たっていた。敵は遺跡の正面に集中しており、今のところ救護所のあるあたりに回りこんで来る様子はないが、油断は出来ない。
「ここは必ず守りますから、安心して治療に専念して欲しいであります!」
アサルトカービンを手に周囲を警戒しながら、真紀は衛生科の生徒たちに声をかけた。サイモンも、守護神の銅像のように樹海の方を向いて仁王立ちしている。
「ああ、任せたぞ!」
衛生科のクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は、パートナーの守護天使ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)がヒールをかけた生徒に包帯を巻いてやりながらうなずいた。そこへ、救出されたクレーメックたちが運び込まれて来た。不意をつかれたため、全員が体のそこここに怪我を負っている。クレーメックのパートナー、クリストバル ヴァルナは治癒の能力を持っているが、多数の敵を相手にして乱戦状態に陥ってしまったため、戦いながら治療が出来る状態ではなかったのだろう。ヴァルナ自身が怪我をしてしまっている。
(風紀委員にくみする連中か……だが、けが人には違いあるまい)
クレアは家同士のしがらみから『白騎士』に所属しているが、生徒のグループ同士の対立をこころよくは思っていない。捕虜に対してすら治療をするのに、対立するグループに所属しているから治療しないと言うのは衛生科の生徒としては間違っているだろうとクレアは考え、その場を立ち、新しいけが人の元に駆けつけようとした。
「あ、ハンスさん、ちょっと待ってください」
クレアと共に行こうとするハンスをネージュが呼び止め、手を伸ばしてハンスの額に手のひらをかざした。手のひらがかすかに発光を始めると、そこからハンスに生気が流れ込んで来る。
「楽になりました。ありがとうございます」
ハンスが礼を言うと、ネージュはどういたしまして、と首を振る。
「ありがとう、ネージュ」
クレアもネージュに礼を言ってから、クレーメックたちの治療に向かった。その脇を、
「敵は遺跡正面か!?」
遺跡から戻ったヴォルフガング・シュミットと『白騎士』たち、そして李鵬悠と風紀委員たちが駆け抜けて行く。
(元気な奴だな。権力志向なところはどうにも鬱陶しいが、シュミットの家名にはああいう奴の方が相応しいのかもな……)
クレアとヴォルフガングは、ごく遠いが一応血縁関係にある。そのため、クレアは『白騎士』に所属することになったのだが……
「同じ生徒同士で反目しあうとは、馬鹿馬鹿しいとは思わないか? 私には理解できない」
「と言うか、わたくしは興味自体がありません」
パートナーのなかば独り言めいた呟きに、ハンスは肩を竦めた。
「と言っても、『白騎士』に所属していながら興味がない、では済まないのでしょうが……」
「あ、戻って来た!」
その時、ネージュが白い垂れ耳ウサギのような耳をぴくぴくと震わせて声を上げた。楓が小走りにこちらに向かって来る。
「楓!」
ネージュが呼ぶと、楓はこわばっていた顔に、ほんの少しだけ笑みを浮かべた。
「大丈夫、みんなが守ってくれたから、ケガはしてないよ。何か手伝えることはある?」
「……じゃあ、傷を洗うのに使うお水をもらって来て?」
「うん」
楓はうなずくと、物資を積んであるテントに向かって、少しよろめく足取りで走り出した。
「パートナーが無事に帰ってきて、良かったですな」
「はい」
真紀の言葉に、ネージュはにっこりと笑ってうなずいた。
遺跡から戻った生徒が戦闘に加わったことで、形勢は一気に逆転した。銃を持っている蛮族たちは、予備の弾を携行はしていないようで、弾が切れれば銃そのものを振り回して戦うしかないという状況になっており、バリケードの外へ出た生徒たちに、一匹、また一匹と倒されて行く。
やがてピィーッ!と指笛が響き、生き残った蛮族たちがいっせいに引き上げ始めた。生徒たちは追いかける気力もなく、ある者は地面に座り込み、ある者はバリケードにぐったりと寄りかかった。時間にすればそれほどの長さではなかったが、蛮族の攻撃は苛烈で、皆疲れ切っていた。
「……林教官」
なかば転がり落ちるようにバリケードから降りた後、しばらくうずくまっていた鈴は、のろのろと起き上がって、ただ一人だけまだバリケードの上に立って、退いて行く蛮族たちを睨み据えている林教官に話しかけた。
「今の蛮族ですが、『誰か』に指揮されていたように思えたのですが」
「指揮って言うか、操られてたんじゃないか? 俺はそんな風に感じた」
と、勇が、こちらはへたり込んだまま言う。
「どちらにしろ、あまり賢くはなかったな。武器の使い方も良く理解していないようであった」
伐折羅とお互いに背中を預けあうように背中あわせになり、地面に足を投げ出している風次郎は、目を閉じて戦いの様子を思い出しているようだ。
「ああいう蛮族を使うのは、鏖殺寺院が良く使うやり口だ。これから本校に連絡をして情報収集と検討を依頼するが……十中八九、間違いないだろう」
林教官は苦虫を噛み潰したような顔で答えた。
「鏖殺寺院……」
生徒たちは息を飲んだ。『シャンバラ王国の復活を阻止する』などと言って、各地でテロ行為を行っている集団だ。
「おそらく、奴らが手に入れたいと思うものが遺跡の中にあるんだろう。今日の襲撃は、捨て駒を使ってこちらの戦力を測ろうとしたものかも知れんな」
林教官は無精ひげが浮いた顎を撫でた。
「では、教官は、再度襲撃があるとお考えですか?」
ゴクリとのどを鳴らして、鈴は訊ねた。
「俺は、あると思うね。しかも、今日みたいに蛮族を使ったいい加減な攻撃じゃなく、もっと本格的な攻撃が」
林教官の答えに、生徒たちは言葉を失った。
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