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リアクション
「ああ……ついにこの日が!」
塀際の周回道路に『光龍』を出したアクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)は、感無量、という声を上げた。
「良かったですねぇ」
パートナーのシャンバラ人クリスティーナ・カンパニーレ(くりすてぃーな・かんぱにーれ)が、ぱちぱちと手を叩く。
「まあ、長いことかけてようやっと、って感じだものね」
砲手を務めるもう一人のパートナー、アリスのアカリ・ゴッテスキュステ(あかり・ごってすきゅすて)も、機甲科としてずっとこういう戦闘用車両に乗りたがっていたアクィラの気持ちは知っているので、ここは素直に祝っておく。
「さて、早速実戦開始だ! クリス、頼むよ」
「了解ですぅ」
クリスティーナが《冠》を装着する。アクィラは発射スイッチを手にした。
「きょうは初陣だから、性能をチェックしながら行こう」
「照準、あわせるわよ……撃(て)っ!」
アカリの声にあわせて、アクィラはスイッチを押す。発射された光の弾丸は、高速飛空艇が通り過ぎた後の空間を、上空へと飛んで行った。
「うーん、アカリの指示があってからボタンを押すから、高速で動くものをピンポイントで狙うのは難しいのか」
アクィラは残念そうに、それを見送る。
「適当に弾幕……と言いたいところだけど、回数制限あるしね。結構、使いどころが難しいわね、これ」
アカリが厳しい表情で、上空を旋回する高速飛空艇を見上げる。
「はー、どきどきしますね」
一方、レジーヌ・ベルナディス(れじーぬ・べるなでぃす)は、緊張した表情で、技術科の建物に偽装した秘術科研究棟の前で『光龍』のシートに座っていた。
「そう? 私は楽しみだけど」
対照的に、隣に座るパートナーの機晶姫エリーズ・バスティード(えりーず・ばすてぃーど)は、にこにこと笑っていた。砲手と運転手は、機甲科の生徒が務めている。
「《冠》を使ってる最中は、私たちは無防備になっちゃうんですよね……今日はまわりに歩兵科の皆さんがいますけど、敵が《冠》を狙って来るなら気をつけなくちゃ」
今日はレジーヌたちの『光龍』は移動しながら攻撃はせず、車を止めて砲台的な運用をするので、周囲に護衛の生徒がついていて心おきなく戦うことが出来るが、移動しながら使うとなると、護衛をつけるのが難しくなる可能性もある。
「そうね……でも、今日は護衛のみんなを信じましょ」
エリーズはそう言って、《冠》を頭に載せた。
「ええ……」
レジーヌはうなずいて、エリーズの手をぎゅっと握った。
そして、クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)とパートナーの守護天使、ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)も、『光龍』で出撃していた。
「本来、ああいう高速で動く小さいものに対しては分が悪いのだろうがな」
隣に座るハンスの肩に手をかけて、クレアは言う。
「だからこその『狸寝入り作戦』なのでしょう?」
ハンスの言葉に、クレアは一瞬申し訳なさそうな表情になった。
「もしも作戦が成功したなら、危険な目に遭わせると思うが……」
「同意したのですから、そのようなことは言いっこなしですよ」
ハンスは微笑した。
「うむ……ありがとう。……よし、このあたりでよいだろう」
クレアは運転手に言い、『光龍』を止めさせた。空を見上げると、高速飛空艇は地上からの砲撃・射撃をひらひらとかわしながら、降りて来る機会を狙っているように見える。
「うーむ、あそこからでは、こちらが《冠》を使っているかどうかは見えないかもしれぬな……」
《冠》を餌に敵を引き付け、可能なら捕虜にしようという作戦なので、まずこちらが《冠》を持っていることを敵が知らないと意味はないのだ。
「とにかく、やってみるとするか」
クレアは上空へ砲を向けさせた。出力を抑えて回数が撃てるように調整するが、弾幕は張らず、一回撃つたびに照準を調整してわざと隙を作る。隙を作ることで敵を誘って近付かせようと言う作戦なのだが、他からの攻撃が激しいためか、クレアたちが《冠》を使っていることに気がつかないのか、クレアたちだけを狙って接近するような様子はない。
やがて、高速飛空艇の攻撃が一か所に集中し始めた。屋根にでかでかと『技術科研究棟』と書いた看板を掲げた秘術科研究棟がターゲットになっている。
「やっぱり、《冠》を狙っているんですね!」
こうなっては、レジーヌも恥ずかしがったり緊張したりしている余裕すらない。
「照準は、任せます。発射の指示だけください!」
レジーヌの言葉に、砲手の男子生徒は片手の親指を立てて答える。
「エリーズ、回復が必要だったらすぐに言ってくださいね!」
「うんっ!」
エリーズはうなずき、自分の中に意識を集中する。レジーヌは砲手の指示にあわせて発射ボタンを押す。
「ふふふふふ、狙い通り……!」
秘術科研究棟の中では、囮の建物を作る案を出したフリッツ・ヴァンジヤード(ふりっつ・ばんじやーど)が、ダミーに混ぜて置いた本物の機関銃を乱射しながら高笑いをしていた。
「……それはいいんだけど、後が大変じゃないのかな、これ……」
建物に攻撃が当たる音と振動に、パートナーのアーディー・ウェルンジア(あーでぃー・うぇるんじあ)は少し心配そうだ。だが、
「楊教官が話を通して下さったのだ、心配あるまい!」
フリッツはまったく気にしない様子で引鉄を引き続けている。
(いや、でも、最初に発案したのが貴様だと知ったら、秘術科の生徒からは相当反感買うと思うよ……)
アーディーは心の中でため息をつく。
アクィラたちの『光龍』は、エネルギー切れにならないよう、じっくりと狙いをつけて高速飛空艇を狙っていた。と、
「……ん?」
照準器から目を離したアカリが、ぱちぱちと目をしばたたかせて肉眼で上空を見上げた。
「……敵の数が、減ってるような……」
「何だって!」
アクィラが叫んだ。常時高速で動き回っているので、全機を一度に視界に入れることは困難なのだが、言われて見ると一機減っているような気がする。
「撃墜したんだったらいいけど、そうじゃなかったとしたら厄介だぞ」
深刻な表情で呟いたその時、アクィラの隣で、こちらも深刻な声が上がった」
「はわわわわ……ちょっと、コントロールが不安定でつらいです……うー、気持ち悪くなってきた……」
「わあ、ごめんっ!!」
アクィラは慌ててクリスティーナに謝り、意識を『光龍』のコントロールに戻した。
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