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嘆きの邂逅~離宮編~(第1回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第1回/全6回)

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「表面上の地図には問題がないのですが、この線をご覧下さい」
 校長室にて、ラズィーヤに優子が真菜華から受け取った地図を見せる。
 ラズィーヤの隣には、生徒会長の伊藤春佳の姿があり、真菜華は優子の隣でにこにこ笑みを浮かべている。
「地下ですか?」
「はい、騎士マリザの記憶では、鏖殺寺院はこの地下道を制圧し、宮殿に迫っていたようです。ですが、こちらは騎士ソフィアからは何の説明もありませんでした」
「地下道を発見し、踏み込んでいたら危なかった……というわけですね?」
 ラズィーヤの言葉に、優子が頷いた。
「過去の記憶が曖昧だという話ですから、忘れていただけである可能性もあるのですが……ラズィーヤさんと彼女のやり取りを見るに、それだけではない可能性をも考えまして」
 優子は厳しい目でラズィーヤを見据える。
「気付いていましたの? こういったことに優子さんは鈍感ですのに」
 くすくすと笑うラズィーヤに優子は苦笑する。
「最近私はどうもラズィーヤさんの手の上で踊らされているようですので、何かと気になっていました」
 真菜華は不思議そうな目で皆を見回す。
「罠かもなんですよね!?」
 元気にそう言うと春佳が指を1本口に当てて静かにするようにと示す。
 そして小声で微妙な笑みを浮かべながら説明をする。
「ラズィーヤさんはソフィアさんと『腹の探りあい』をしているのです。これまで、百合園の力に、女王についての問い、今日の会議では離宮を調査する理由、それらについて底の見えない微笑浮かべて、真意を出さずやんわり躱しておられます」
「今の時代を生きるわたくし達と、過去の騎士達の目的が必ずしも一致するとは限りません。内心を全て曝け出す必要のある相手ではないと感じましたの。相手方も最初から何かを隠しているように思えましたから。こちらにとって不利益になる可能性のあることは語らずに、有益となるように相手を動かすことが必要ですわ」
 ラズィーヤが微笑みを浮かべる。
「……私は回りくどい方法は苦手ですので。そういったことはラズィーヤさんや生徒会長達にお任せいたします。ご指示をいただけますか?」
 優子の言葉に「わかっています」とラズィーヤは頷いた。
「優子さんは、直接ソフィアさんを問いただしたりしないで下されば、それで結構です。わたくしはソフィアさんの背後関係が気になっています。こちらで引き続き探りを入れて、指示を出しますわ。エレンさんに表の本部運営はお任せできそうですので、ミクルさん方面、軍で捕らえた一連の事件関係者の方面からわたくし達は事件を探っていくつもりです。……そういえば、会議で面白いことをして下さった方がいましたわよね。彼にもご助力願おうかしら」
「面白いこと……って、まさか退出させた男のことではありませんよね?」
 優子が顔を顰める。
「その方ですわ。なかなか良い演技でしたわよ、優子さんも」
 言ってラズィーヤはペンを折る真似をしてみせる。
「いや、演技じゃありませんよ、怒りを抑えるのに必死でした。もちろんご承知で仰ってるのでしょうが。……なるほど、色々と見えてきました。とはいえ、私はそういったことは知らない方がいいのでしょうけれど」
 優子は大きく息をつく。真菜華は話についていけず、きょろきょろ皆を見回している。
「真菜華は、ラズィーヤさん達とこのままヴァイシャリーで動くか、本隊と共に離宮に向かうか決めてくれ。どちらにしろ、この件については、関わっている人物以外には他言無用だ」
「はい、解りました!」
 真菜華は優子に元気に返事をした後、うーんと首をかしげる。
 四天王の位を持つ尊敬している優子と共に行くか、それとも優子達を陰からサポートするためにここに残るか、迷うのだった。
 コンコン
 校長室がノックされ、ラズィーヤが返事をする。
「失礼します。生徒会長がこちらにいると聞きまして……」
 白百合団員に案内されて現れたのは、イルミンスールの志方 綾乃(しかた・あやの)袁紹 本初(えんしょう・ほんしょ)であった。
「私が生徒会長の伊藤春佳です」
 春佳がドアに歩み寄る。
「志方綾乃です。友人の神倶鎚エレンさんからの依頼で調査をしているのですが、分からないことがありまして、教えていただきたくて参りました」
「エレンさんの?」
 春佳がラズィーヤに目を向ける。
「どうぞお入りになって」
 ラズィーヤがそう言い、綾乃と本初は頭を下げた後部屋の中へと入る。
 春佳と共に皆が集まっている場所まで歩き、百合園上層部のメンバーに質問を投げかける。
「簡単な説明は受けていますが、その他に、この一連の事件に携わる上で最低限必要と思われる資料とこれまでの会議の議事録、それからソフィアが封印されていた場所の座標がほしいんです」
 綾乃と本初はラズィーヤに推薦状を見せる。
「資料と議事録はエレンさん経由で見ていただいて構いませんわ。ただ、閲覧は構いませんが、持ち出し、コピーなどはされないで下さい。もちろん部外者には内容をお話にならないようお願いたします。同じ学園のご友人や教師にであってもです。ソフィアさんの封印されていた場所は……何故その情報が必要なのかはわかりませんが、わたくし達も存じません」
「そうですか……。イルミンスールでも聞いてみたのですが、古王国の騎士が眠っていたという情報は得られなくて」
「地球人の冒険者の手で目覚めたという話じゃが、その冒険者についての情報も何もないのじゃ」
 綾乃と本初がこれまでの調査結果をラズィーヤにそう報告する。
「調査はありがたいですが、単独で動かないようお願いいたしますわね。あらゆる意味で危険かもしれませんから」
「解りました。ソフィアさんが封印されていた場所については、ご本人に確認しなければ百合園側もわからないということなのですね?」
「そうですわ。封印されていた人物の復活は各地で起きていることですし、1人1人の場所や復活させた経緯などを確認しないのと同様、ソフィアさんについてもそこまでお聞きしてはいません。これからお聞きするにしても、まるで怪しんでいるようになってしまいますから、上手く情報が得られないようなら、お調べいただかないほうがよろしいのではないかと思います」
「そうですか……わかりました」
 綾乃はぺこりと頭を下げると、本初と共に校長室を後にしエレンに報告するために会議室の方に向かう。

○    ○    ○    ○


 百合園女学院の生徒である桐生 円(きりゅう・まどか)は、ソフィアとの接触の機会を窺っていたのだが、彼女には常に白百合団副団長の神楽崎優子や、班長クラスの白百合団員が付き添っており、なかなか話しかけるチャンスがつかめずにいた。
 やむなく生徒会室に一番近いトイレに張り込むこと数時間。ようやくその機会が訪れた。
「ボクは百合園の桐生円。ファビオくんの事、一般の生徒よりは知ってるんだ。近くで顔もみたしね」
 個室から出て、手を洗っている彼女の隣で手を洗いながら、質問を浴びせる。
「ソフィアくん、ファビオくんはとても裏切りってものにこだわってた様子だけど、離宮封印のときの経緯を教えてもらえるかな?」
「離宮の封印は……確か、私達が離宮に就任して直ぐに、非常時に発動できるようなシステムを作り上げました。ただ、離宮への寺院の潜入を知ってからも発動すべきかどうか直ぐには判断できず、騎士達の意見も割れてしまっていました。ファビオはとりあえず離宮は封印して先に女王を助けに行くべきだと主張し、一人自分の封印を済ませると飛び出していってしまったのです。その意見が割れたという経緯をファビオは裏切りと感じているのかもしれませんね」
「そんなカンジじゃないんだよね。ファビオくんはもっとすごく内部の裏切りを強調してたよ、それは自分がそういう経験をしちゃったからだと思うんだ。だとすれば意見が割れた程度じゃなくて、6騎士の中に裏切り者がいたかもしれないじゃない?」
 軽く笑みを浮かべて円は続ける。
「それとさ、ソフィアくんの目的がどうもはっきりしないし、百合園を誘導してるように感じるからさ、ソフィアくんがその裏切りものかもしれないってね」
 鏡を見ていたソフィアが直接円に目を向ける。
「私を疑っているのですか……?」
 円は軽く首を傾げる。
「でも6騎士って称号あるほどの、尊敬されたり立場のある人物が裏切りってのも普通は考えにくいんだよねぇ、よっぽどの理由がなければとか考えちゃってさ、まずはソフィアくんがどういう人かってのを知りたいなって思って、疑いが晴れたほうが気持ちいいでしょ?」
「記憶に曖昧なところがあるせいで、疑いを持たれてしまっているのですね。以後十分気をつけたいと思います」
「護衛というわけじゃないけど、ボクもついていくよ。ソフィアくんを知りたいから」
「私にも護衛が付いてくださることになっていますから大丈夫ですよ。皆さんの前で誠心誠意を示して、信頼を勝ち得ます」
 鋭さの含まれる瞳で、ソフィアはそう言ってトイレから出て行く。
 白百合団員ではなく分校も辞める予定の円は、ソフィアと護衛達の後からついていくことくらいは出来るが、生徒会から護衛などを任されることはありえない。今後もソフィアに近づくことは難しそうだった。

 レン・オズワルド(れん・おずわるど)は騎士の橋近くの喫茶店で、調査に出ていたザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)と合流をした。
「今のところ何も事件は起きていない」
 ザミエルはヴァイシャリーで起きた怪盗騒ぎ、ミクル・フレイバディ狙撃事件について、聞き込み調査で解った範囲の情報をまとめたノートをレンに差し出した。
 ただ共に真相は一般人に知らされていないので、詳しい情報は得られていないといっていい。
「会議でも、特に変な反応をした人はいませんでした」
 レンに付き添っていたメティス・ボルト(めてぃす・ぼると)は、会議室に集った者達の反応を注意深く観察していたのだが、特に変わった反応を示した人物はいなかった。
「仲間である人達との会合なのに、無茶なことをしますね」
 メティスの問いかけに何も答えず、レンは考え込むのだった――。