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嘆きの邂逅~離宮編~(第1回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第1回/全6回)

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第4章 暗闇

 百合園女学院校長の桜井 静香(さくらい・しずか)と白百合団長桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)から、離宮の封印を解くことについて、他の6騎士も賛成であることと、兵器が眠っているなどといった大まかな情報も間違いないと思われるため、不安要素や疑念を持ちつつも、先遣隊の離宮調査は予定通り行われることになった。
 転送は百合園女学院の校庭から行われることになり、用意された荷物をおのおの背負い、ソフィアが指定した場所にメンバー達は並んだ。
 ソフィアは棒で皆を囲む円を描き、線の上の6箇所に透明の球を置いた。
「それでは、どうかお気をつけて」
 ソフィア自身は百合園に残ることになった。
 本隊が向かう時には必要であれば、一緒に向かうとのことだ。
「着いたら即戦闘の可能性もある。宝探し気分の者もいるようだが、皆気を引き締めろ」
 神楽崎優子の言葉に、白百合団員の「はい」という返事が飛ぶ。他校生達もそれぞれ頷きや「了解」という言葉で答える。
「行ってくる」
 強い瞳で軽く微笑んだ優子に頷いて、ソフィアが術を発動した……。

○    ○    ○    ○


 光が途絶えて、空気が変わった。
 海の中を漂うような、感覚を受けた後音が戻る。
 辺りは相変わらず暗い。

 伏見 明子(ふしみ・めいこ)がまず、ライトを付けて周囲に光を向ける。
「……無事、塔の中に着いたみたい、ね」
 先遣隊のメンバー達も次々にライトをつけて、まずはランタンを点していく。
「ここから外が見れるみたいだけど、真っ暗で何もみえないよ」
 笹原 乃羽(ささはら・のわ)が窓に近づいて外を見た。
 光をどの程度漏らしても大丈夫なのか分からないので、ライトは外に向けないでおく。
「太陽も月も星も見えない闇の中だね。本当に地中なんだ〜」
 パートナーのシーラ・フェルバート(しーら・ふぇるばーと)が感心の声を上げた。
「でも、ここからなんの明かりも見えないってことは、人が暮らしてるってことはないんじゃない?」
 乃羽が優子に目を向ける。
 優子は頷いて声を上げる。
「まず、窓や中からの光が漏れる場所を木材、布で塞ごう」
「了解っ!」
 乃羽は言われた通り、窓を毛布で隠していく。
「それじゃ、とりあえず武器類はこちら。食料はこっち、医療品はこの辺りに……」
 琳 鳳明(りん・ほうめい)が、荷物を置く場所を決めていき、自分は最初の申し出どおり、銃器類の管理に務めることにする。
「薬は直ぐに間違いなく使えるようにしておかないとねぇ」
 シーラは医薬品の整理を始める。
「通信機の管理は僕がやってもいいですか?」
 コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)の申し出に、「頼む」と優子が首を縦に振る。
「それじゃ、この辺りに設置しよう。外に出る人は名前を書いてから子機を持って行って」
 コハクは機器とマイクの設置をしていき、子機の数の確認と、貸し出し名簿用の紙を用意する。
「先遣調査隊は荷物を置いた後、早速周辺の調査に出てくれ。最初から遠くには決していかないように。通信機の繋がる範囲だけの調査に止めてくれ。地下などには絶対入らないように」
 優子が準備を整える先遣調査隊のメンバーに声をかける。
「下り階段はここのようです。階下を照らしてみましたが、何も存在していません。何かの際にはいつでも代われますので。どうかお気をつけて」
「私もいつでも出られるし、最悪戦闘になっても迎え撃てるから」
 明子と九條 静佳(くじょう・しずか)が緊張した面持ちの先遣調査隊のメンバーに声をかける。
「では、行ってきます」
 荷物を下ろし、通信機を受け取った後樹月 刀真(きづき・とうま)が優子に言った。
 優子は頷いてメンバー達を見送る。
 先遣調査隊のメンバーのうち5人が階段を下っていく。
「ここを砦とするのは、やはり難しそうですが、塔の裏側は壁のようですから囲まれる心配はなさそうです」
 窓を毛布で塞ぎながら フラムベルク・伏見(ふらむべるく・ふしみ)は周辺を確認していた。
「必要なら、塔の外に罠を仕掛けるけど?」
 サーシャ・ブランカ(さーしゃ・ぶらんか)の言葉に、優子は首を左右に振った。
「ある程度調査が進んでから検討しよう」
「飛空艇で探索する時用に、着地できるような場所があるといいと思うんだけど……周りよりは屋上を見てきた方がいいかな?」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が優子に尋ねる。
 小型飛空艇やバイクなどを持ち込もうとした者もいたが、先遣調査では他の物資が優先され、重量のある乗り物は持ち込むことが出来なかった。空飛ぶ箒は何名かの者が持ち込んでいるようだ。
「そうだな。明かりを押さえて上の様子を見てきてくれ」
「うん」
「俺も一緒に行こう」
「ボクも行くよ。罠があったら大変だから」
 クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)が美羽に続いて上り階段に向かう。
「気をつけて下さいね」
 医療品の整理をしながら、美羽のパートナーベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が声をかける。
「大丈夫。いつでも動けるようにしておかないとね!」
 美羽は明るく行って、クリストファー、クリスティーと共に階段を上っていった。
「患者を運んで階段を下るための担架などを作った方がよさそうですね。教導団の方が作り方を教えて下さいましたし」
 ベアトリーチェは木材と毛布、ロープなどで担架の作成を試みることにする。
「調査隊の人達が怪我をして戻る可能性もあるから、治療は直ぐにできるようにしておかないとね」
 サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)は、比島 真紀(ひしま・まき)と共に、救護のための場所を確保していく。
「外にはロストテクノロジーと言えるような技術が残ってるんだろうな。ここで沢山の方々が亡くなったんだろうけど、ここに人がいないのなら、埋葬もしてもらってないんだよね……」
 鎮魂の意味でも離宮を解放して、せめて犠牲者の霊を慰めることができたらとサイモンは思うのだった。
「瑠奈さんは何故先遣隊に志願したのですか?」
 薄明かりの中作業を進めながら、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は、風見瑠奈に声を掛けた。
「白百合団員として放っては置けませんから。他の任務より優先すべきことだと思いました」
 瑠奈の淡い微笑みにアリアはほっと息をつく。
 ずっと緊張したままで作業をしていたら、皆持たないと思うから。
 アリアは努めて笑みを浮かべることにした。
「瑠奈さんは剣士なんですよね? 離宮から帰還した後、いずれ手合わせ願えませんか?」
「機会がありましたら、是非」
 微笑合った後、瑠奈とアリアは一緒に重い荷物を持ち上げて移動をしていく。

 階段は途中までしかなく、美羽達はそこから梯子を上って屋上へ出た。
「暗くて何も見えないね……。空を飛ぶのは危険かな」
 見回してみるも、外の景色は見えなかった。静まりかえっており、虫の音さえも聞こえない。
 美羽は足元に気をつけながら、塔の下に目を向ける。明かりが漏れていないかどうかの確認のために。
「全体行動をする際には明かりを点けて回ることになるだろう」
 クリストファーは頭上を見上げてみる。
 何も見えはしないが、天井までさほど距離はなさそうと感じられる。
「そうだね……」
 と、言いながらクリスティーは疑惑の篭る目で背後からクリストファーを見つめていた。

○    ○    ○    ○


 数時間後。
 調査隊のメンバーは最初の調査を終えて西の塔に戻ってきた。
 怪我人もおらず、敵の兵器や罠にかかった者もいなかった。
 調べた箇所は南の南の塔の場所と道中の状態。
 それから、北に向かい、宮殿が見える位置まで周辺を見て回った。
 慎重すぎるほど慎重に、何にも手を出さず、神経を研ぎ澄ませて調査隊は任務に当たり、最初の目的を果たした。
「とりあえず、この辺り一帯は何もないようだな」
 報告を受けた優子が安堵の息をついた。
 塔の中は片付けと、本格的な調査に向けた準備も整いつつあった。とはいえ、物資は明らかに足りないのだが。
 それは近日中に訪れる本隊のメンバーが持ってきてくれるだろう。
「本隊の編成はどのようにするつもりですか? 魔術部隊は設けるんですよね?」
 陣構築に積極的に動いているステラ・宗像(すてら・むなかた)が優子に問いかけた。
「おそらくは――」
 オレグが作った地図を広げて、優子は3箇所に赤ペンで×印を描いた。
「契約者は3隊に分かれてこの3箇所に同時に向うことになるだろう」
「北の使用人居住区だった場所に、宮殿中心部。そして宮殿の西側……?」
「宝物庫がある場所だ。変に欲を出す者がいては困るんで、詳しく説明はしていなかったんだが、ここに女王器が保管されていたらしい。ただ、この女王器は簡単には入手できないとのことだ。この辺りの調査をイルミンスールの魔法考古学者の方と、魔法知識に秀でた者に行ってもらいたい」
「では、こちらに向かう部隊がイルミンスール生中心の魔術部隊になるわけですね?」
 ステラの問いに優子が頷く。
「宮殿に人工生命体か何かが存在している可能性も考え、正面から向う班とは別の方法で宝物庫に向ってもらいたい……つまり、地下道を使う」
「地下道?」
「この離宮の地下には魔法的罠が仕掛けられた地下通路があるそうだ。先ほど見回って確認したんだが、この塔にも地下道への入り口がある」
「なるほど、主戦力は北側。契約者中心に宮殿で派手に立ち回り、魔法班は地下から……というわけですね」
 ステラは自分達はどの隊に所属すべきか、深く考え込む。
「異常は全く無い。何の気配もなければ、光も見えない。不気味な静けさだ」
 イルマ・ヴィンジ(いるま・う゛ぃんじ)が塔の周りの見回りを終えて、皆の元に戻った。
「何事もないのは良い事。しかし襲撃の可能性は常に考え、拠点を守りきれるよう準備しておかねばなりませぬ」
 陳 到(ちん・とう)は物資を整理しながら、皆に警戒を呼びかけていく。
「それにしても、やっぱり狭いな、この人数では」
 塔の中では全員雑魚寝さえ出来ない状態だった。