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リアクション
☆ ☆ ☆
「ほらほら、こちらでござる」
椿 薫(つばき・かおる)は、手を叩いてスケルトンを挑発した。脳のないスケルトンに、躊躇という言葉はない。すぐさま突っ込んでくる。
「素直でござるな。感心感心」
スケルトンが剣を振り下ろしたとたん、椿薫の姿が消えた。隠れ身だ。
あわてて敵の姿を探そうとしたスケルトンが、足をもつれさせて倒れる。椿薫が地面に仕掛けていた罠に足をとられたのだ。
「楽しかったでござるよ」
姿を現した椿薫は、ダガーで的確にスケルトンの間接を次々に突いていった。解体されたスケルトンの頭が恨めしそうにケタケタ笑うところへ、ダガーを振り下ろして叩き割って黙らせる。
「さてと、イリス殿はどこでござるかな」
椿薫は、パートナーを探して走った。迫りくる篝火の炎の前で、誰かが踊っているのが目に入った。炎のせいで逆光となったその人影は、しなやかな身体の動きとともに巧みに剣を振り回して、次々に敵を倒していった。
「ほれぼれとする動きでござるな」
「そこの君、そこに倒れている人がいる。早く救助を」
まだ敵と戦いながら、リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)が言った。
「あいや、分かった」
すぐさま、言われたところへとむかう。そこには一人の女性が倒れていた。先ほどのセイバーのパートナーだろうか、ドラゴニュートの男性が守っている。
「これは、イリス殿ではござらぬか。やっと見つけたでござる」
「よかった。あなたのパートナーでしたか。余分な解呪符がなくて困っていたところです。さあ、早く回復を」
パルマローザ・ローレンスにうながされて、椿薫は自分の持っていた解呪符をイリス・カンターに使った。
「大丈夫でござるか」
「ありがとう。一人でも動けますわ」
イリス・カンターは自力で立ちあがると、その場で礼を言った。
「もういいね。なら脱出だ」
最後までしぶとく残っていた炎の魔獣をドラゴンアーツの一撃で篝火の中に叩き込むと、リアトリス・ウィリアムズが一同の方にやってきた。青い炎の中に入った赤い炎の魔獣は、苦しみながら消滅していった。
「同じ属性の魔獣の炎まで焼き尽くしてしまうとは。危険ですね。早くここを離れましょう」
パルマローザ・ローレンスが一同をうながした。
☆ ☆ ☆
「よし、こっちだ」
本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)は、ダイスの指し示した方向にむかって走りだした。
「本当に、そんな物で分かるのか」
懐疑的な目で、シルバ・フォード(しるば・ふぉーど)が本郷涼介とその手に握られているダイスの方を見た。
「大丈夫。私は何度もこいつに救われている。私が裏切らない限り、ダイスが私を裏切ることはない」
本郷涼介はきっぱりと言い切った。
はたして、めざす場所に、二人のパートナーが居た。クレア・ワイズマンは地面に倒れているが、雨宮夏希は光条兵器である和傘を杖にして、意地でも上体を起こしたままでいた。
喜び勇んで駆けよろうとする二人の前に、大型の炎の魔獣が立ちはだかった。
「お呼びじゃないってんだよ!」
シルバ・フォードの持つカルスノウトが、青白い光を帯び始める。
「雷華一閃……、轟雷閃!」
素早い踏み込みとともに、激しい放電が炎の魔獣の動きを止めた。激しい電荷に、輪郭がおぼろにさえなっている。
「下がれ!」
ワンドを掲げる本郷涼介の言葉に、シルバ・フォードが本能的に飛び退いた。
「陸片なる氷の華よ、我が敵に冷たき死の開花を!」
本郷涼介の呪文とともに、炎の魔獣を中心として、魔法陣のような巨大な雪の結晶の文様が宙に浮かびあがった。次の瞬間、文様が小さく凝縮し、結晶の六つの断片が鋭い刃として炎の魔獣に突き刺さった。咆哮とともに白い蒸気をあげて魔獣が消滅する。
「大丈夫か、夏希」
解呪符を使いながら、シルバ・フォードがパートナーに訊ねた。
「申し訳ありません。敵に、少し後れをとりました」
「無事ならそれでいい。歩けるか?」
ほっとした表情を見せながら、本郷涼介が訊ねた。
「はい」
自力で立ちあがりながら、雨宮夏希はしっかりと答えた。
「よし、そちらも無事なら、撤収しよう」
解呪したクレア・ワイズマンをだきかかえた本郷涼介が言った。
「大丈夫、私だって自分で歩けるよ」
「いいから。敵が襲ってこない限りは甘えておけ」
「うん……」
反論を許さない本郷涼介の物言いに、クレア・ワイズマンは素直にうなずいた。
☆ ☆ ☆
「うぬぬ。率先して敵を倒さねばならぬそれがしらがこのていたらく、まったくもって面目ござらぬ」
「動けないんじゃしかたないぜ。なんとかして、身体の自由だけでも取り戻さないと」
くやしがるうんちょうタンの横で、ジュバル・シックルズが言った。
「そうです、諦めてはいけません」
向山綾乃が同意した。彼らは、みんな背中合わせの円陣を組むような形で動きがとれなくなっている。たとえわずかに動けたとして、周囲にはスケルトンの見張りが立っていた。
拡大する篝火がもうそこまで迫っている。モンスターたちは、このままうんちょうタンたちが焼け死ぬのを待つ腹のようだ。
「黙ってやられるつもりはないですが、ここはじっと時を待つしかないでしょう」
「そんなあ、もう時間はないんだよ。焼けちゃうよ、熱いよ、死んじゃうよ」
座して待つローレンス・ハワードとは対照的に、アンレフィン・ムーンフィルシアが幼い子供のようにわめいた。
「信じるしかありません」
「何をだよ」
アンレフィン・ムーンフィルシアがローレンス・ハワードに聞き返した。
「俺たちがもっとも信じる者をだろう」
黙するローレンス・ハワードの代わりに、ラフィタ・ルーナ・リューユが答えた。
「そのとおーりですぅ」
パーンという音とともに、スケルトンの頭が吹き飛んだ。その後ろから、光学迷彩を解いた皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)がデリンジャーを構えて現れる。
「義姉者!」
うんちょうタンが、うなだれかけていた巨大な頭を上げて叫んだ。
「遅くなってすまなかったですぅ。しかーし、これもすべては綿密な計画の結果なのですよ。けっして迷っていたわけではないのですぅ」
「おいおい、おぬし一人でこの場をなんとかしようと言うんじゃないだろうな」
えへんと勝ち誇る皇甫伽羅に、ジュバル・シックルズが訊ねた。すでに、何匹ものモンスターが皇甫伽羅を取り囲みかけている。
「だから、呼ぶのですぅ。さあ、みんなの大切なパートナーの名を」
ポーズをつけながら、皇甫伽羅が言った。
「さすがに、そんな恥ずかしいことできるか!」
こちらから泣き言を言って助けを求めるのはさすがに嫌だと、ジュバル・シックルズが言った。だが、他の者たちは、もうヒーローショーの乗りで、それぞれのパートナーの名を叫んでいた。
「ああ、それがしの義姉者の計略に、みんなまんまとはまるとは……」
「そこ、人聞きの悪いことを言わないのですぅ」
いつの間にやら手に持った白い羽根扇でうんちょうタンをさしながら皇甫伽羅が言った。
だが、そんな内輪もめをしている間に、回り込んだ氷の魔獣が皇甫伽羅に襲いかかってきた。ところが、華の樹は微動だにせず、逃げようともしない。
そこへ、救い主が現れた。
「お待たせー」
「ありがとう、僕の名を呼んでくれて!」
加賀見 はるな(かがみ・はるな)をかかえたクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)が、バーストダッシュで猛チャージをかけてきた。言葉の軽さとは真逆に、二本のランスの強烈な一撃は氷の魔獣を粉々にして弾き飛ばし、何体かのスケルトンを巻き添えにさえした。
「さあ、次はどいつだ」
加賀見はるなとクライス・クリンプトが持っているランスを交差させて打ち鳴らし、モンスターどもを挑発する。まんまと乗せられたモンスターたちが、そちらに殺到した。だが、華麗に連携をとるナイト二人では、そうそう簡単にやられるわけがない。防御は鉄壁だ。
「ふふ、作戦どおーり」
いったん姿を消した皇甫伽羅が再び、パートナーたちの間近で姿を現した。今度は、佐野 亮司(さの・りょうじ)と白菊 珂慧(しらぎく・かけい)も一緒だ。
「さあ、活躍してもらうぜ」
佐野亮司が、ジュバル・シックルズと向山綾乃に解呪符を貼った。
「待たせたね。さっきは名前を呼んでくれて嬉しかったよ」
甘い声音で、白菊珂慧がラフィタ・ルーナ・リューユにに言った。
「うるさい、成り行きだ、成り行き。本当は、おまえは俺に従っていればいいんだ。まだまだ子供なのだからな」
「ふーん。じゃあ、これ捨てちゃおうかなあ」
恥ずかしがって暴言を吐くラフィタ・ルーナ・リューユに、白菊珂慧は解呪符をひらひらさせて見せた。
「いや、それは……。すまん、それ、もらえると嬉しい……」
さすがに状況が状況だけに、ラフィタ・ルーナ・リューユが折れた。
「よーし、復活した人は、ナイトさんたちと交代するために敵を足止めするですぅ」
「ソルジャーは、総員銃を構え。魔法使いは火術で援護。標的、左、氷の魔獣。一斉射後、ナイトの射界離脱を確認後援護射撃を行う」
佐野亮司が素早く指示を出した。
「撃てーっ!」
皇甫伽羅の号令一下、標的にされた氷の魔獣が集中砲火を受けて砕け散った。間髪入れず、ナイトの二人が敵を迂回してこちらへむかう。後を追わせないようにと、うんちょうタンとジュバル・シックルズと佐野亮司のスプレーショットが敵の足を止めた。
「よし、全員動けるようになったな。時間がない、一気に敵を突破して脱出する。行くぞ、みんな」
佐野亮司と皇甫伽羅の指示で隊列を組むと、彼らは脱出のために一気に突き進んだ。
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