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ワルプルギスの夜に……

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ワルプルギスの夜に……

リアクション

 
    ☆    ☆    ☆
 
「ベルフェンティータ! どこにいる! くそ。ミストがあれば苦労はないものを……。上等だ! 足りねえ分は、努力で補う!!」
 駿河 北斗(するが・ほくと)は、エンシャントワンド一本で敵を殴り倒しながらパートナーを探していた。
「あの直行……馬鹿……。あんな大声じゃ……、どこにいてもすぐに……分かるわよ。自分が見つけてもらって……どうするのよ、逆じゃない……」
 べたんとしゃがみ込んだまま、ベルフェンティータ・フォン・ミストリカは悪態をついた。助けてもらうにしても、駿河北斗が自分を見つけてくれなくては話にならない。
「ここ……」
 叫んではみるが、力が入らないために大声にならない。これでは、聞こえるはずが……。
「聞こえたぞ!」
 戦いの喧噪の中で消え入りそうなベルフェンティータ・フォン・ミストリカの声を、駿河北斗ははっきりと聞き分けて叫んだ。
「えっ」
 駆けつけてくる姿に驚くベルフェンティータ・フォン・ミストリカの額に、駿河北斗はぺたりと解呪符を貼りつけた。解呪符が燃えるようにして消え去り、彼女を縛っていた毒の効果が消え去る。
「ミストだ、ベルフェンティータ」
 駿河北斗が手を出して要求した。
「……ちょっと、あなた。……私と……光条兵器と、いったいどちらを……助けにきたのよ」
「決まってるだろ。両方だ」
 むくれるベルフェンティータ・フォン・ミストリカに、駿河北斗がきっぱりと言う。
「……馬鹿」
 言いながらも、ベルフェンティータ・フォン・ミストリカは両手を揃えて前に突き出した。その手の間に、大剣の柄が現れる。それをつかむと、駿河北斗はブンと振り下ろして構えた。
「よし。やっぱり、ベルフェンティータがいてこそ、俺は完璧だ。あんたの受けた礼を一〇倍にして返すぞ。ついてこい!」
 言うなり、大剣で手近な敵を一刀のもとに切り伏せ、そのままどんどん進んでいく。すっかり背後のことなど心配してはいない。
「だから……馬鹿だっていうのよ。私のことを……信用しすぎだわ。ほんと、馬鹿……。一人でいるなんて、馬鹿らしくって涙が出ちゃうわ」
 つぶやきつつ、ベルフェンティータ・フォン・ミストリカは彼の後を追いかけていった。
 
「まったく、あの子は何をやっているのですかな」
 魔楔 テッカ(まくさび・てっか)は、ただでさえ目立つマリオン・キッスの姿をすぐに見つけてつぶやいた。ただでさえ人の倍のサイズがあるのだ、嫌でも目立つ。それにしても、なんで「Keep out」の中にいるのだろう。
 のんびりと戦闘のさなかを歩いて近づいていく。これだけの猛者がいるのだ、どこに危険があるというのだろう。すでに、駿河北斗があらかたの道を造ってくれている。
「テッカ……」
 マリオン・キッスが魔楔テッカを見つけて、泣きそうな声を出した。
「はい。おやつ忘れたから持ってきてあげたのですよ」
 そう言って、魔楔テッカはバナナをマリオン・キッスの口に突っ込んだ。同時に、解呪符で彼女の呪縛を解き放つ。
「もぐもぐもぐ……」
「バナナ分の補給ができたら行くですわよ」
 こくりとうなずいて、マリオン・キッスが前部ハッチを開いた。魔楔テッカがいそいそとそこへ乗り込んでハッチを閉じる。それによって戦闘力が倍加する……などということはないのだが、マリオン・キッスの気弱な性格がなくなるというメリットはあるのだ。
「テッカァァ・ンマリオォォォン!!」
 雄叫びをあげると、マリオン・キッスは剣を抜いた。その声に近づいてくるスケルトンを、唐竹割りに両断すると、彼女は次の敵を求めて前に進んだ。
 
「ヒャッハー。おもしれえ、なんて祭りだ。最高、最高だあぁぁぁ」
 スパイクバイクで爆走していたナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)が、ベルフェンティータ・フォン・ミストリカの張った黄色いテープを引き千切ってバイクごと中に飛び込んできた。スパイクバイクの後ろには、もう一台のスパイクバイクをチェーンで繋いで、あろうことか引きずって走ってきている。
 逃げたくても逃げられない葉月アクアやルナ・シルバーバーグが声にならない悲鳴をあげた。
「どーこだあ、クラウンファストナハト! サイコロヘッド!」
 もう、ほとんどなまはげ状態である。
「あうううう、ナガ……ン」
 サイコロベッドが、スパイクバイクに轢かれる寸前の状態で、パートナーの名を呼んだ。
「おう、サイコロヘッドか、クラウンファストナハトはどこだ」
 ハンドルの上で両手を組んだナガンウェルロッドが、サイコロヘッドに解呪符を貼りつけて聞いた。
「あ、あっちちちちちちちち……」
 サイコロヘッドが指さす方、ベルフェンティータ・フォン・ミストリカの領地の隅っこの方で、クラウンファストナハトは膝をかかえてぶつぶつとつぶやき続けていた。
「捨てられる捨てられる捨てられる……」
「アホか、おめえは!」
 ナガンウェルロッドは、解呪符を持った手で、バシンとクラウンファストナハトの頭をはり倒した。
「あああ、ナガン! 許してジャン、許してジャン、許して……」
「何言ってんだ、おめえはよぉ」
 厚化粧の下で眉根を寄せながら、ナガンウェルロッドがクラウンファストナハトを睨みつけた。
「だって、ザ・フールがまだ……」
「馬鹿か。そんなことはもういいんだよ。それより、見ろ、このすばらしい光景を。祭りだ。祭りなんだぜ。今なら何をやってもオッケーだ。なにせ、祭りなんだからな。二人とも、後ろのバイクに乗りやがれ。ああ、おまえたちは二人で一台な」
「でも、これ、壊れかけてるジャン」
 ずっと引きずられてきたスパイクバイクを見て、クラウンファストナハトがとほほな声を出した。
「構わねえって言ってんだろ。乗ったらついてきやがれ。破壊だよ、破壊。いいか、見える物すべて破壊していいんだぜ。今なら誰も文句は言わねえ、言わせもしねえ。モンスターだろうが、学生だろうが構わねえ。暴れまくれ。祭りだ!」
「祭りジャン!」
「まままま……つっっっっりぃぃぃぃ!!」
 クラウンファストナハトとサイコロヘッドがナガンウェルロッドに唱和する。
「いくぜいくぜいくぜ!!」
 ナガンウェルロッドは、パートナーたちが乗ったバイクをチェーンで繋いだまま自分のスパイクバイクを急発進させた。そのまま、スケルトンの群れの中を走り抜ける。
「ひいぃぃぃぃぃぃ……」
「無理ジャン、無理ジャン、無理……あぼうぁ!」
 無茶苦茶に引きずられたクラウンファストナハトたちのバイクが手当たり次第にスケルトンに激突して粉砕していった。
「ひーっひゃははははは。これこそ祭りよ!!」
 
「大丈夫か、怖かっただろう」
 やっと駆けつけた葉月 ショウ(はづき・しょう)は、葉月アクアの麻痺を解いてやりながら言った。
「うん」
 本心から葉月アクアがうなずく。ただ、どちらかといえば、怖かったのはモンスターの方ではなく、ナガンウェルロッドたちの方ではあったのだが。
「使って、ショウ」
 葉月アクアが、豊かな胸を反らせて葉月ショウにむけた。左胸の上の方、肩胛骨のあたりに柄が現れる。
「ああ。戦うぞ、アクア」
 葉月ショウは光条兵器の柄をつかむと、一気に引き抜いた。銃剣型の大振りのナイフほどの光条兵器が、緋色の刀身を輝かせた。
 
「まったく、俺抜きで面白いことおっぱじめんのなしな!」
 スケルトンを突き壊して進みながら、クライブ・アイザック(くらいぶ・あいざっく)は、ルナ・シルバーバーグの許へむかっていた。
「クー兄、来ちゃだめ!」
 ルナ・シルバーバーグが叫んだ。
 炎の魔獣が、彼女とクライブ・アイザックの間に現れる。他の魔獣よりもひとまわり大きい。
「邪魔だ!」
 クライブ・アイザックは、思いっきりランスを炎の魔獣に突き入れた。だが、身体が炎でできているモンスターにとっては、多少形が崩れる程度のダメージは出るものの、とうてい致命傷にはなり得ない。
「くそ、光条兵器さえあれば」
 魔法生物的なモンスターには、魔法効果を乗せた攻撃が有効だ。
 ランスを身体に突き立てさせたまま炎の魔獣が両腕を広げて、クライブ・アイザックをかかえて焼き殺そうとした。あわててランスを手放して後退するが、間にあわない。
「クー兄!」
 ルナ・シルバーバーグが、悲鳴をあげる。
 そのとき、緋色の輝きが一閃した。顔にあたる部分の炎をかき消されて、炎の魔獣が体勢を崩す。だが、致命傷にはなっていない。
「パートナーのところへ走れ!」
 緋色の銃剣を逆手に持った葉月ショウが、クライブ・アイザックにむかって叫んだ。
「恩にきるぜ!」
 炎の魔獣の敵意が葉月ショウにむかった隙に、クライブ・アイザックはルナ・シルバーバーグの許に辿り着いた。すぐさま、解呪符で麻痺を解く。
「ルナ!」
「はい、クー兄!」
 呼ばれて、ルナ・シルバーバーグが両腕を合わせて前へ突き出す。てのひらを上にむけると、腕を台座とするかのように光り輝くブロードソードが現れた。クライブ・アイザックはそれをつかみ取ると、戦いにとって返した。
「雷鳴よ轟け。千の閃光よ、我が敵をつつみ込め!」
 葉月ショウが轟雷閃を放った。剣の軌跡から細かい放電が炎の魔獣を襲い、干渉を起こして一瞬動きを止めた。
「もらった!!」
 ジャンプ一番、駆けつけたクライブ・アイザックが、縦真一文字に光条兵器の光の刃で炎の魔獣を切り裂いた。着地と同時に、返す剣で横に薙ぎ払う。
 十文字に斬られた炎の魔獣が、散り散りになって消えていった。
「今のうちだ、行くぞアク」
「はい。一緒に行きましょう」
 葉月ショウに呼ばれて、葉月アクアはルナ・シルバーバーグをうながした。