イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

ワルプルギスの夜に……

リアクション公開中!

ワルプルギスの夜に……

リアクション

 
    ☆    ☆    ☆
 
「いたいた。どうして、あんなところで倒れているのかなあ」
「とにかく助けに行きましょ」
 ヤジロ アイリ(やじろ・あいり)カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は、やっとパートナーたちを見つけだした。それにしても、なぜ会場の隅の人目につかない場所で倒れているのだろうか。
「ん、これは!」
 丘の中へと進んだとたん、ヤジロアイリがふいに足を止めた。
「どうかした?」
 怪訝そうに、カレン・クレスティアが訊ねた。
「足許を見てくれ。魔法陣ができあがりつつある」
「何よ、それ。そんな物が最初からあるなら、誰か気づいてもいいはずでしょ」
「たぶん、後から作られた物。それもまだ完成していないから、あの篝火からエネルギーを広げて現在進行形で作っている物なんだろう。この丘自体を閉じた結界に閉じこめる物なんじゃないかな」
「それってかなりやばいわよ。そんな閉鎖空間で帯域魔法とか爆弾を使われたら……」
「力の逃げ道がなくて、その内部は……」
 跡形もないと、ヤジロアイリは握った手を勢いよく開いて、爆発消滅のジェスチャーをした。
「余裕なしか。全開で行くわよ」
「もちろん」
 二人は示し合わせると、パートナーたちを囲んでいるモンスターたちの前に飛び出した。
「天にありては大気を切り裂き、地にありては大いなる流れで魔を滅ぼす。天地を繋ぐ閃光よ、我が求めに応じ、我に仇なす者を、その荒ぶる力にて無へと砕き倒せ。サンダーブラスト!!」
 杖を振り上げるカレン・クレスティアの詠唱に応えて、空の星が消え、星に変わる数百の雷光が正確に敵めがけて降り注いだ。
「サラマンダーの掌(たなごころ)でゆらめく炎よ。我が呼びかけに応じて、仇(あだ)なす者に熱き抱擁を!」
 ヤジロ アイリ(やじろ・あいり)の呪文とともに、大地に光る魔法陣が浮かびあがる。その中から炎の柱が噴きあがり、まるで生き物のようにうねりながら敵へとむかっていった。ぎりぎりサンダーブラストの範囲を逃れたモンスターを、炎の柱が貫いて灰にする。
「今のうちよ。急ぎましょう」
 周囲のモンスターが一掃されたのを確認して、二人はパートナーに駆けよった。強大な力を持つ魔法使いではあるが、肉弾戦を挑まれると案外に脆い。先に敵を殲滅させる。それが一番安全な方法なのであった。
「大丈夫か。力が出ないなら、血を分けてやろうか」
 パートナーの許に駆けよったヤジロアイリは、大柄なセス・テヴァンの上半身を苦労してだきあげながら言った。
「いや、それは今夜の楽しみにとっておきましょう」
 力なくも、嬉しそうにセス・テヴァンが軽口をたたく。
「セス、冗談はほどほどにしとけよ。さもないと、ここにほっぽっとくぞ」
 少し顔を赤らめたヤジロアイリは、セス・テヴァンの額に解呪符をバンと叩き貼って、そのまま手を放した。当然のように、セス・テヴァンは笑いながら後ろに倒れた。
「ふふふ、貴方は本当に可愛いですね。すみませんが、もう一度手を貸してください」
 大の字の格好から片手をのばして、セス・テヴァンが頼んだ。
「やれやれ。世話のかかる奴だ」
 両手で力一杯セス・テヴァンを引き上げながら、ヤジロアイリは言った。
「急ぎましょう。ここは危険だわ」
 おでこに解呪符を貼られたジュレール・リーヴェンディをおんぶしたカレン・クレスティアが二人を急かした。
「カレン、我はもう一人でも歩けるぞ」
 ジュレール・リーヴェンディがカレン・クレスティアの背中で言った。
「いいのよ、この方が早いんだから。それに、ボクは今、ジュレをおぶっていたいんだから、それでいいのよ」
「ん、分かったのだ」
 そう言って、ジュレール・リーヴェンディはカレン・クレスティアの薄い支子色の髪に顔を埋めた。
 
    ☆    ☆    ☆
 
「こちらに敵を引きつけるにしても、そろそろ限界です。それに、ほとんどの人たちは脱出できたようです」
 スナイパーライフルで敵を狙撃をしつつ、フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)が情報を整理した。自分たちのパートナーに近づく敵は、確実に倒していく。ある意味、彼らのパートナーは囮だった。たぶん、それは彼らも分かっているだろう。だからこそ、表だっては誰も泣き言を言ってはいない。
 仲間の救出と、敵の封じ込め、それはほぼ達成されたと言ってもいいだろう。
 それよりも、カレン・クレスティアからもたらされた結界の情報の方がまずい。完成まで、もうあまり時間が残されていないはずだ。それに、篝火の炎も、もう間近に迫っている。すでに、各所にあったテーブルやステージも炎に呑み込まれ、灰すらも残らず焼き尽くされていた。あちこちに残されていた、敵の残骸も含めて、すべてが炎に呑み込まれつつある。
「ここは、俺たちが君たちを援護するから。行ってこいよ、さあ!」
 椎名真が、避難してきた者たちを代表して言った。その言葉に、ナナ・ノルデンたちが視線を交わしてうなずく。
「時間がない、行こう。俺が道を作る。少し離れてついてきてくれ」
 仲間たちに言うと、緋桜ケイは先頭に立った。
「我に触れし者は無く……」
 魔法の詠唱を始めると、緋桜ケイはパートナーたちの方にむかってゆっくりと進んでいった。
 緋桜ケイの周囲で、強酸の水滴を含んだ風が円筒状に渦巻いた。アシッドミストを自らの周りで回転させ、敵に対する強力な防御結界として機能させたのだ。だが、この状態を維持するのは、非常に難しい。さらに移動するとなればなおさらだ。なにしろ、自分が自分の術のまっただ中にいるのである。一歩間違えれば、溶かされてしまうのは術者自身だった。
「我が触れし者は亡く……」
 攻撃しようと突っ込んできたスケルトンたちは、ことごとく術者に達する前に溶かされて姿を失っていった。
 緋桜ケイの通っていった後に、ぽっかりと敵の空白地帯ができる。
 酸に溶かされる身体を持たない魔獣たちは、緋桜ケイの後を追うナナ・ノルデンとソア・ウェンボリスとフィル・アルジェントが火術や氷術で各個撃破していった。それ以前に、彼女たちに近づく敵は、他の仲間たちの援護でほとんどが排除されていく。
「されど、我の触れたし者はそなたなり……」
 パートナーたちの許に辿り着く直前、緋桜ケイがアシッドミストの結界を解いた。死の霧が消え、パートナー同士の間にあった障壁がなくなる。
「お待たせしました、師匠」
 緋桜ケイが、悠久ノカナタの前で軽く片膝をついた。
「挨拶はいいから、早く解呪せよ。身体が痺れてかなわぬ。まったく、遅すぎであろう」
「ただいま」
 思いっきり文句を言う悠久ノカナタに緋桜ケイが笑みをもらした。
 ぺたっと、悠久ノカナタの鼻の上に解呪符を貼りつける。
「こ、これ……」
 珍しく、悠久ノカナタがちょっと狼狽してみせた。
「さあ、急いでここから撤退しましょう」
 解呪符で全員の麻痺が解かれたのを確認すると、ナナ・ノルデンが一同をうながした。
「それじゃ、お先にー」
 ひょいとソア・ウェンボリスを担ぎ上げると、雪国ベアが図体からは信じられない速さで駆けだしていった。
「ああ、わらわの乗り物が……」
 ずっと楽をしていた悠久ノカナタが絶句する。だが、のんびりしている暇はなさそうだ。大地に、それと見て分かるほどはっきり魔法陣が浮かびあがってきていた。
「急がないと!」
 フィル・アルジェントが、走りだした。
「しょうがないわね」
 セラ・スアレスが、ひょいと悠久ノカナタを小脇にかかえると、優秀な体育の成績を生かして走りだした。
「急いで、魔法陣の成長するスピードが速くなってるわよ。外周の輪が閉じたら、もう出られなくなる!」
 丘の外から、カレン・クレスティアが叫んだ。
 彼女の目の前の大地に、左右から青く輝くラインが迫っていく。それとともに、青い光の壁が現れ始めた。そして、後ろからも囂々と燃えさかる篝火の青い炎が迫っていた。
 おかしい、計算が合わない。時間的余裕は、それなりにあったはずだ。それとも、オプシディアンが言い捨てたように、目に見える変化に欺されて、途中で敵の攻めるスピードが速くなるとは思わなかった自分たちが愚かだったのだろうか。
「だめだ、間にあわない……」
 息を切らしながら、緋桜ケイが悲痛な叫びをあげた。
 そのときだ、後方から近づいてくるエンジン音があった。
「へーい、もう祭りは終わりかーい。俺たちともっと遊ぼうぜえーい」
 そう言って、スパイクバイクで緋桜ケイたちの横につけたのは、ナガンウェルロッドたちだ。
「いったい、どうなってんだ。誰かちゃんと説明しやがれ」
 ブォンブォンブォォォォォン!!(そういう状況じゃないって言ってるのに!!)
 まだ状況がよく分かっていない南鮪を乗せて、ハーリー・デビットソンも後ろについている。
「乗らねえか、一緒に飛ばそうぜえい」
「きゃあ」
 ナガンウェルロッドが、ナナ・ノルデンをつかまえてスパイクバイクに引きずりあげた。
「助かった」
 それを見て、緋桜ケイもハーリー・デビットソンに飛び乗った。
「いいか、ガソリンタンクに角砂糖入れられたくなかったら死ぬ気で走れ。ゴールはあそこだ! 馬鹿ピエロよりも先に走り抜けろ!」
 緋桜ケイはハーリー・デビットソンと南鮪を脅迫すると、思いっきりナガンウェルロッドを挑発した。
 ドルンドルンブォンブォンブォン!(言われなくても走る!)
「なあにぃ、上等だあ。勝負してやらあ」
「ああ、ナガン、捨てないでジャン!」
「ナガぁぁぁン……」
「ええい、よく分かんねえが、負けるのは気にくわねえ。この勝負受けてやろうじゃねえか」
 三台のバイクは、猛スピードで結界の外へとむかって走った。
「フィル!」
 セラ・スアレスがフィル・アルジェントをうながすと、悠久ノカナタをかかえたままバーストダッシュで一気に脱出をはかった。意味を理解したフィル・アルジェントが、息せき切って今にも倒れそうなズィーベン・ズューデンをつかまえて、バーストダッシュを使った。
「早く!」
 仲間たちが待つ場所へ、なだれ込むようにして全員が飛び込んでいく。
「!」
『テッカマリオンなら、このくらいできるのですな!』
 そのまま大事故になるかというところを、鉄九頭切丸とマリオン・キッスがなんとかナガンウェルロッドのバイクとハーリー・デビットソンを受けとめてみせた。セラ・スアレスとフィル・アルジェントたちは、アイン・ディスガイスとオウガ・クローディスが無事に受けとめた。
「どこまで行くジャン!」
 クラウンファストナハトとサイコロヘッドのスパイクバイクだけが、そのままの勢いで闇の中へと消えていった。
「ははははは、遅いぜお前たち」
 あまりの速さに目を回したソア・ウェンボリスをおぶったまま、雪国ベアが言った。
 全員が奇蹟の脱出を終えたところで、結界が閉じた。青い光の円筒ができあがる。その光の壁に、魔法の炎が叩きつけるようにして逆巻いた。その中にあった物がすべて炎に焼き尽くされる。そして、結界の中で大爆発が起こった。
 閃光が消え、やっと視力が回復してきたころ、一同の前にあった物は、かつて丘であった巨大な窪地だった。
 やがて昇ってきた朝日が、周囲を照らしだす。
 すべてが、一夜の夢と吹き飛んでしまっていた。
「いいえ、私たちは残っています。大切なパートナーとともに。さあ帰りましょう」
 ナナ・ノルデンは、そう言ってズィーベン・ズューデンに微笑みかけた。
 朝日の中、そこにいるすべての者たちは、互いにパートナーの顔を見交わしたのだった。
 

担当マスターより

▼担当マスター

篠崎砂美

▼マスターコメント

 お疲れ様でした。
 今回、シナリオガイド自体がトラップだったという特殊なシナリオで申し訳ありませんでした。
 今回の目的が、一つはリンクキャラのクローズアップでした。同時に、リンクキャラ視点でのMCのクローズアップ。そして、もう一つが、ギャグ化されることの多いメインキャラたちを、ちょっと本気で主人公級に描いてあげようというものでした。さすがに、全部は無理でギャグ担当の人も出てしまいましたが。
 メインキャラ関係の仕掛けを公にしてしまうとインパクトに欠けてしまうのと、ユーザーがMCのアクションまで書こうとしても書ききれないだろうということと、ユーザーのアクションの文体と私の文体が齟齬をきたす可能性が高いので、シークレットとさせてもらいました。もっとも、べたべたでフールの正体は分かるようにしましたし、ガイドそのものも裏がありそうな書き方にわざとしてヒントは出してあります。お祭りが罠だと見抜けて、パートナーを助けに行くとした人は特別に目立てているはずです。単にパートナーの後をついていくというのは、基本没になっています。「絆」がメインテーマですから、「助ける」がキーです。「心配」やフールを「調べる」はニアピンとしています。ただし祭りへの「潜入」「参加」「合流」は自分も麻痺しますから没です。
 自由設定欄やパラメータから導き出せる戦闘スタイルで、それなりの描写をしていますので、書き手の力量的にどうしても特徴をだせなかった場合は平凡な描写になっています。すいません。
 
 アクション関係で何を重視するかですが、私の場合は5W1Hの要素を非常に重視します。それによって、時空間的な重複はダブルアクション、要素不足は意図不完全であるというスタンスです。ある程度の御都合主義は許容しますが、明らかな矛盾は総没です。
 また、私に限ってではありますが、サンプルアクションと同じかどうかは、私の場合は描写量にはまったく関係ありません。あくまでもサンプルです。0が1にはなるが、1が100にはならないということですね。
 
 また、以前のシナリオでリンクキャラへのコメントが電子の海に消えていました。申し訳ありません。以前のシナリオに参加していて謎の称号が増えていた場合は、たぶんそれです。

P.S.一部、名前の誤変換などの修正。
 他、誤字脱字の修正。気に入らない文章の部分をいろいろと加筆修正。