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温室大騒動

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温室大騒動

リアクション


1.何処ですか?

「管理人さん、どこへ行ったのでしょうか……?」

 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)のパートナーである和泉 真奈(いずみ・まな)が呟いた。

「だよね。管理人さん、そんな簡単にやられる訳は無いと思うんだけどなぁ……」

 百合園女学院の一番大きな温室を任されている管理人の行方が分からなくなって、二日が経った。
 温室で飼育している巨大食虫花、タネ子によって食われたんじゃないかと噂されているが──

「管理人さんには色々とお世話になっているから心配だよ」

 二人はとりあえず管理人室に行き、書き置きや管理記録が無いかを確認しようと思った。
 内容を見てどこに行ったのかを確認し、そこを重点的に探す。

「無事だといいですね」

「──…あの!」

 突然。
 後ろから羽入 勇(はにゅう・いさみ)が声をかけてきた。

「もしかしてこれから温室にでも? タネ子さんやケルベロス君を置いて管理人さんがいなくなるなんて謎の匂いがするよね。どうしてだと思う?」

「えっと……」

 いきなりの問いかけに、ミルディア達は戸惑う。

「管理人さんの1日のスケジュールを調べて、いなくなる日の最後の目撃情報を確認しようと思うんだ」

「……あたし達も調べに、管理人室に行こうとしてたんだよ。ねっ」

 ミルディアは真奈に向かって微笑みかけた。

「じゃあそこまで一緒していい? ボクは聞き込み、聞き込み! 捜査の基本は足でしょ、あ、いや捜査じゃなくて取材だ!」

「もちろん構いませんわ」

「ありがとう! 記事はね

『管理人さん失踪事件! タネ子暴走? ケルベロスの涙が真実を語る!』


 ってタイトルにしようと思っているんだよね、って。……止めよう、なんだか方向性が変わってきてる」

「そう…だね」

 三人は苦笑しながら管理人室に向かった。

  ◇

「失礼しました……」

 部屋から出ると、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は小さく溜息をついた。

『──タネ子さんは犯人とは決まっておりません! 何とかならないでしょうか? 排除命令と言いましても、もうちょっと様子見とか……危険でしたら何か他に方法があるのでは? まだ管理人さんが食べられたと決まったわけでもないですし。根と口の数を減らすとか、弱った所で奥まった場所に移して動きを制限するとかで……何とかならないでしょうか!?』

 ロザリンドは自分の思いの丈を一生懸命ぶつけた。ぶつけまくった。
 タネ子の排除命令撤廃希望…という名目で、校長室に直談判に行ったのだが──桜井 静香(さくらい・しずか)校長は留守だった。
 代理で応対してくれた年配の事務局長は、やはり強い。
 危険な噂が出ること自体が問題だとして聞き入れてもらえなかった。
 とりあえず管理人さんを見つけなくては──

「校長も、ここでは色々と気苦労が多そうだよな。事務局長は強いし…」

 一緒に直談判しに行ったエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)がロザリンドの後ろで、ちょっとため息をつきながら言った。
 目立たないように、エルシュ・ラグランツ(えるしゅ・らぐらんつ)が用意してくれた百合園の制服を着込んでいた。
 女顔なので、まるで宝塚の男役のように見える。
 胸がないと似合わない制服は、肉まんを詰めてカバーしていたが……微妙に臭ってくる。
 隣には弟のエルシュがいた。
 百合園は男性がいて良い場所じゃない。
 だから一応の配慮で、百合学園制服着用、パッド無しを着用していた。

(──タネ子を処分しないで済ますために、騒動が収まるまでに管理人を連れて戻りたい)

 そうエルシュは思っていたのだが、結果は惨敗。
 時間稼ぎも出来なかった。

「管理人さえ見つかれば、ケルベロスもタネ子も、どっちの問題も解決すると思うんだ。だから探す。……あ」

「?」

「擦ってしまった、きっと剥げてる……兄さん、ルージュ分けてくれよ」

 エルシュはエースの唇に自分の唇を重ね、しばらくしてから離れると、ぺろりと舌で舐め上げた。

「ったくいきなり」

 その光景を目の当たりにしたロザリンドは、ほぉ…っと息を吐いた。

「……素敵です」

 うっとりと、夢見がちに、二人を見つめていた。