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リアクション
「おお、やってるやってる!」
徐々に混戦模様を呈してきた中央エリアに続いて飛び込んできたのは、朝霧垂だ。そのすぐ後に、天海護・北斗、ノア・ノーク・アダムズの姿も見えるが、垂は特に焦る様子も無く、荷物の中からシート……ではなく、筒状の布を取り出した。
――こいのぼり。
勿論飾るためのそれではなく、乗り物としてのそれである。
「早く早く!」
垂のすぐ後から到着した護と北斗、それからノアが、威嚇しあいつつもシートを広げ始めるのを横目に、垂はこいのぼりに身を投じる。
「頑張れよー」
呑気な声を周囲に掛けると、こいのぼりにくるまった垂はそのままふわりと飛び上がる。
そして、そのままふよふよと上昇すると、桜の大木のてっぺんで止まる。こいのぼりの一端を桜の枝に括り付ければ、そのまま流れていくこともなくこいのぼりは空を泳ぐ。
「うーん、絶景かなー」
眼下に一面の桜を見下ろし、垂は満足そうに寝転がると、荷物から酒を取りだしてすっかり一人で花見酒の体勢だ。
そんな、こいのぼり泳ぐ桜の下は半分以上がシートで埋まっている。
後シートを広げられそうなスペースは三、四枚分といったところだ。
ノアが大急ぎで一枚
シートを広げて一も二もなく座りこむ。一方護と北斗は教導団の仲間の所まで駆けていく。ここで漸く追いついたレオンと、三人並んでシートを広げた、その瞬間。
「隙ありぃっ!」
甲高い女子の声が響き、一瞬レオンと北斗の意識がそちらへ逸れた。
と、同時に二人のシートへ、小さな影が二つ、ちょこん、ちょこん、と飛び込んでくる。
茅野茉莉と、ダミアン・バスカヴィルの二人だ。レオンと北斗が敷いたシートの上にちゃっかり座りこんでいる。
「あっ……! お、おい、オレが敷いたシートだぞ!」
「そうだぞ、どけよ!」
すかさずレオンと北斗が抗議の声を上げる。
「何もルール違反はしてないわよ?」
「そうだぞ。ルールは『規定のシートを使うこと』と、『シートに座った者を攻撃してはいけない』だけであろう?」
そらっとぼけた顔で主張する二人に、レオンと北斗はぎり、と歯噛みする。
確かにルール上、シートの横取りは禁止されていない。ついでに、教官……ここは言い出しっぺ、と呼びたいところだ……の李 梅琳(り・めいりん)から教導団生へは、一般人への攻撃禁止令が出されている。横取りされたのは自分たちの油断からだ。だけどだけどそれにしたって。
あーもうこいつら! と地団駄を踏むしかない二人の横で、しっかりちゃっかり一枚分の場所を確保した護が、
「あの、キミたちって他に誰か来るのかな?」
とやんわり茉莉に問いかける。
「……どうなの、ダミアン?」
「……来る、とは思うのだが。連絡がつかぬのだ」
「それなら北斗、シート譲ってあげなよ。その代わり、レオンのシートは返して貰って、二人で使えば? そうすれば、此処に居る四人全員座れるだろ?」
「しかし、我の僕(しもべ)たちが来たらどうする」
「その時はまあ……適当に譲り合おう」
護の提案に、茉莉とダミアンは暫く顔を見合わせていたが、やがて渋々、ダミアンが茉莉のシートへと移動した。
「いいか! 我の僕が来るまでだからな!」
「……まあ、仕方ねえか。ありがとな」
「護もありがとな!」
なんとかかんとか落ち着いて、レオンと北斗も一枚のシートに腰を下ろす。
これで、丁度中央エリアはシートで埋め尽くされた格好だ。
そこへ。
「やっ……やっと着いた……!」
ようやく、健闘勇刃を抱えた冠誼美がよたよたと飛びながら到着した。
誼美一人であればもっと早く到着出来たのだろうが、大の男一人抱えての飛行は、思ったより体力を消耗してしまった。
「お……おお……いっぱい、だな……」
「だ……だね……」
辺りを見渡して落胆の声を上げる勇刃に、誼美は肩で息をしながら答える。
眼下の他のエリアを振り向いても、既にシートで埋め尽くされている。どうやら、残っているのは北エリアだけのようだ。
「……残念会、か……」
「はうぅうう……」
呆然と呟く勇刃。誼美はその場にへたり込んだ。
そんな二人の後で。
「ふふふ……見えます、見えますよ……!」
気味の悪い、というか気持ちの悪い呟きを放つ人影がひとつ。
場所取りに加わるでもなくフラフラしているのは、クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)だ。
「お兄さんにも、見えるッ!」
そう言いながら、ズザー、と突然地面に倒れ込む。
その視線の先には……誼美のスカート。しゃがみ込んでいる誼美のスカートを、さらに下から覗き込もうという魂胆な訳で――まあ、当然、バレバレな訳で……
「…………」
気付いた誼美と、パートナーの勇刃は一瞬沈黙して。
それから誼美は大きく息を吸って、叫んだ。
「へーんーたぁああああいッ!」
誼美のローキックが見事にクドの腹に入る。
が、何故か恍惚とした表情を浮かべたクドは、「ありがとうございますぅぅっ!」という断末魔を残して吹き飛んでいく。
そして、柚子の足元に落下した。
「……はい、ゴミはお掃除しまひょ」
柚子の操る竹箒が、ごろごろとクドをゴミ捨て場の方向へと転がして行った。
そこへ、マーゼン・クロッシュナーのもう一人のパートナー、早見 涼子(はやみ・りょうこ)が物資を持って到着したのだが……
「……マーゼンはどうしましたの?」
涼子は辺りを見渡して、シートとシートの隙間で困惑して立ちつくしている飛鳥に問いかける。
「わかんない……来ないの」
「……取り敢えず、みなさんに物資を配りましょうか」
「……そだね……」
涼子は担いできた荷物を下ろし、弁当やら飲み物、ついでに簡易トイレなどのお役達物資を教導団の仲間へ配り歩き始めた。
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