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リアクション
さて、洋介たちがパフォーマンスを見せているその横で、ハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)が、パートナーの若松 未散(わかまつ・みちる)に舞台衣装を差し出していた。
「未散くん!あなた折角かわいいんだからこれを利用する手はないでしょう!」
「そうだよ、僕、みっちゃんの為に衣装も用意したんだよ?」
未散のもう一人のパートナー、会津 サトミ(あいづ・さとみ)が、ハルが手にしている衣装に手を添え、一緒になって未散へ差し出す。
「わ、私そんなん聞いてないし! 私は普通にやりたいの!」
「いいじゃないですか。今可愛すぎるナントカ、とか話題でしょう、可愛すぎる落語家ってのもアリだと思うんですよ!」
「なし、なしだってばー!」
未散は代々続く落語家の一家に生まれ、本人も落語の道を歩んでいる。が、パラミタでの落語家としての知名度はまだまだ、ここは人が集まっているところで一席設けて知名度アップを、と画策していたのだが。
「あはは、未散がアイドル? 可愛くていいじゃん。歌とか歌っちゃえば?」
さらにもう一人のパートナーである神楽 統(かぐら・おさむ)が追い打ちを掛ける。未散、涙目。
「うう……私は普通に落語がしたいのー!」
「みっちゃん……僕が作った衣装、着てくれないの……?」
上目遣いで瞳をうるうるさせるサトミの姿に、もう何も言えなくなった未散は、涙ながらにサトミ作の和服テイストアイドル衣装を受け取った。
「うわぁ……僕、こんな可愛いみっちゃんが見れて嬉しいよ。みっちゃんの為にこれからもいっぱい可愛い衣装作ってあげるからね……」
フリフリの衣装を纏う未散の姿にうっとりと呟くサトミに、未散の目からほろりと涙。
「ほらほら、始まるぜ?」
統がニヤニヤ笑いで未散を観客の前に押し出す。
あうあう、とスカートの裾を押さえながらも、未散は観客に向かって一礼してから話し出す。
「えー、本日はお集まり頂きありがとうございます、桜が綺麗でございますが、エー、本日は桜にちなんだお話をですね、差し上げようかと……」
一度話し出してしまえば噺家の性だろうか、未散は朗々と口上を続ける。
その容姿と相まってか観客の反応は上々だ。
落語家・若松未散は、こうしてパラミタデビューを果たしたのであった。
はてさて、そんな喧噪の中、東エリアになんとかかんとか場所を確保した竜螺ハイコド、ソラン・ジーバルス、ミゼ・モセダロァ、竹野夜真珠の四人は、四枚のシートを広げて仲間を待っていた。
目印にとミゼが桜の枝に吊した風鈴が、ちりりんと些か季節外れの音を奏でる。
と、その音に気が付いたか藍華 信(あいか・しん)が、材料と用具の入ったリヤカーを引いて到着した。
「おー、待ってたぞー」
パートナーのハイコドが信を手招きする。どっさりと肉や野菜の詰まったリヤカーから、コンロや鍋を下ろす。
「よし、じゃあ下ごしらえは任せて!」
腕まくりをするのは真珠だ。まな板や包丁を取りだして、肉や野菜を一口大に切り分けていく。
「おーい、お待たせー!」
そこへやってきたのは真珠とミゼのパートナー、十田島 つぐむ(とだじま・つぐむ)と、もう一人のパートナーガラン・ドゥロスト(がらん・どぅろすと)だ。
つぐむの手にはすぐに食べられる菓子やおつまみの類。ガランは肩に、ワインの入った米櫃を担いでいる。
「お待ちしてましたわ、つぐむ様」
ミゼがすっと立ち上がってつぐむの持ってきた荷物を受け取り、シートの上に広げる。
つぐむもミゼの隣によっこらせと腰を下ろすと、懐から鏖殺寺院イコンの解析資料集を取りだしてぱらぱらとめくり始めた。
その隣では、酒を下ろしたガランがポータブルの囲碁セットを広げてなにやら一人で石を並べている。
「つぐむ様、はいどうぞ?」
ミゼはつぐむにしなだれかかりながら、ガランの持ってきた酒を開けている。
「ほら、そろそろできますよー」
そうこうしている間に、ハイコドと真珠が掛かっていた鍋から美味しそうな匂いが立ち上り始めた。
真珠の方は肉や魚、野菜などがあれこれ入った何でもあり鍋、ハイコドの方は本格派ジンギスカンだ。
「おお、美味そうだな」
「よし、早速……」
一同、上機嫌で鍋を取り囲む。いただきまーす、と元気な声が唱和した。
「こらぁ!そこ!野菜は焼くな、肉汁で煮るんだ!そうすればもやしがとろとろになってうまいし油がはねないから!!シャキシャキが好きならそのままでいいけど!」
ハイコドがジンギスカン奉行と化す横で、お酒が入ってテンションが上がってきたのか、どこか据わった目をして、
「ミゼ、なんか芸してみせろ」
と唐突に命じる。
ミゼの方もうっとりとした目で、かしこまりました、と悦んで答える。
どこからともなく取りだしたスチールポールをどがっ、と地面に突き刺すと、携帯音楽プレイヤーから音楽を流す。ついでに光術でライトアップすれば、にわかショーステージの完成だ。
くるり、と艶めかしい肢体をポールに絡みつかせ、セクシーなダンスを披露する。その姿に、なんだなんだ、と道行く人も足を止めて思わず見入ってしまう。
「つぐむちゃん、お鍋美味しいー?」
そんなミゼを横目に、真珠はつぐむの隣に腰を下ろすとぎゅぅ、と抱きつく。
「ねぇねぇー、お料理頑張ったご褒美に膝枕して? ねっ?」
そう言うと半ば強引につぐむの膝に頭を預け、幸せそうな顔で目を閉じる。
「ちょっとー! 地面に穴開けるんじゃないわよっ!」
と、そこへ地祇のさくらが現れてぴきぃ、と文句を付ける。
あら、折角楽しんでましたのに、と文句を付けながらも、さくらに逆らっては園外に放り出される危険があるため、ミゼは渋々従う。
「気をつけてよねっ!」
ぷんすか、と肩を怒らせて歩き出そうとするさくらだったが、つぐむの荷物にふと目を留める。そこには、買い出しのビニール袋からはみ出ている、ショコラティエのチョコ。
「……要るか?」
その様子に気付いたガランが、徐にそれを取りだしてさくらへと差し出す。
「……おわびの印としてもらっておくわっ!」
せがんだようで気恥ずかしいのか、ちょっと悪態を吐きながら、さくらはガランの手からチョコレートをひったくるようにして駆けだして行った。
「なーんか、様子が変だなぁ……」
酒の所為だろうか、と思いながらもちょっと度が過ぎている、と思いながら信は首を傾げる。と、真珠が使った調味料の中に紛れ込んだ、「それ」に目が留まった。
「……なんだ、これ」
小麦粉か何か、だ。
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