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リアクション
[二場・桜の下でちょいと一席]
東エリアには、多数の露店が出ている所為かシートを広げて腰を落ち着けている人は少なく、露店を冷やかしながら散歩気分で花見を楽しむ人たちが多い。
そんなお散歩組の一人、藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)は、桜の木の下をふらふらと歩いていた。
「ははぁ、綺麗に咲きましたねぇ」
はらはらと落ちてくる花びらに気付くと、楽しそうに目を細める。 興が乗ってきたのか、るん、と呟きながら空飛ぶ魔法↑↑を唱え、桜の枝に分け入ってみたりしている。
「うぅん、これは是非、この場でさくらんぼ(注:干し首のこと)やお団子(注:干し首)の材料を採取したいところですわ」
些かアブない優梨子の独り言を、偶々通りかかった公園の地祇・さくらと、見回りをしていたルーツが聞いていた。
「おいおい、物騒なことはやめてくれよ」
「あら、材料を採取した残りの胴体を地面に埋めれば、良い養分になりましてよ?」
ふわりと地面に降りてきた優梨子がそう言って笑う。
「……養分……」
すると、さくらの目の色が変わる。じゅるり、とよだれを啜る音が聞こえてきそうだ。
「おいさくら、平穏な花見にしたいんじゃなかったのか?」
「ハッ……そ、そうよ、公園の平和を乱したら許さないんだからねっ!」
「あら残念」
そう言って肩を竦める優梨子の横を、
伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)と耶麻古 かたり(やまこ・かたり)の二人がすたすたと横切っていく。
「桜の下には死体が埋まってるんだよね!」
擦れ違いざまに聞こえたかたりの物騒な言葉に、さくらはぱっと振り向く。けれど、二人の姿はすぐに人混みに紛れてしまった。
「ねえねえ、掘り起こして食べていい?」
「やめておきなさい、かたり。騒ぎになったら厄介ですから」
「ちぇー。じゃあじゃあ、あっちの店で売ってるお肉食べたい!」
なにやら物騒な会話を繰り広げながら、鏖殺寺院に所属する二人は、そうと気付かれることもなく人混みへ紛れていった。
「はぁ……リンネさん……」
溜息を吐きながら桜を見上げているのは、音井 博季(おとい・ひろき)だ。
恋人であるリンネ・アシュリングとお花見デートを計画していたのだが、リンネの都合がつかずに結局一人で散歩である。
「お弁当、折角作ったんだけどなぁ……」
右手に携えたずしっと重たい御重をちらと見て、また溜息。
「どうしたの?」
そこへ、博季が放つしょぼーん、としたオーラに気付いたさくらがひょっこり現れて声を掛けた。
「ちょっと……はは、何でも無いですよ。あなたはこの公園の精さん、ですか?」
「そうだよー。もしかして、お仲間とはぐれちゃった?」
一人で食べるには明らかに多い御重に目を留めて、さくらはこく、と首を傾げる。
しかし博季はゆっくりとかぶりを振った。
「一人で来たんです。そうだ、よかったら一緒にお弁当、食べませんか?」
「楽しそうですね、俺も一緒に良いかな。」
そこへ、通りがかった長原 淳二(ながはら・じゅんじ)が片手に提げた弁当を掲げて割り込んで来た。
「俺も一人なんです。どうせなら、多い方が楽しいでしょう?」
そう言う淳二にさくらもうん、と頷く。
シートを広げるスペースを今から確保するのは難しそうだったが、花壇を囲う煉瓦が腰を下ろすには良い感じで、さくらを中心に三人並んでそこへ座った。
嵩代 紫苑(たかしろ・しおん)と、そのパートナーの柊 さくら(ひいらぎ・さくら)は、腕を組んで東エリアを散策していた。
「教導団とか イルミンスールの一団とかが来てるみたいだよ?、さくらちゃんも大変そうだよね」
自らと同じ名前の地祇の少女に思いを馳せながら、さくらは紫苑の腕に少し体重を掛けて寄りかかる。
「……お前が言うなよ」
さくらの言葉にあきれ顔で応えながら、紫苑は空いている手に持った焼き鳥を一口囓る。
紫苑の脳裏には、去年花見に訪れたとき、さくらのお手製弁当がひっくり返って桜の木に降りかかり、何がどう作用したものか、木が丸々一本枯れてしまった思い出が甦っている。
「あ、あのことはきちんと許して貰ったしいいでしょ……あ、ねえねえ、あっちでなにかやってるみたいだよ!」
痛いところをつかれ口を尖らせるさくらだったが、すぐに進行方向に出来ている人だかりに気づき、目を輝かせる。
行ってみようよ、と言うさくらに腕をひっぱられ、紫苑はずるずると人だかりの方へと進んでいく。
人だかりの中心では、滝川 洋介(たきがわ・ようすけ)たち四人が、なにやら楽器と小道具とを用意して盛り上がっていた。
「さーあお立ち会い! 美女……? 三人によるアクロバット・ショーだよー!」
「何故そこが疑問形ですの!」
マイク片手に場を盛り上げる洋介に、シェプロン・エレナヴェート(しぇぷろん・えれなべーと)のツッコミが入る。金の縦ロールが美しいなかなかの美女である。
「えー、ツッコミが入ったので訂正、美女三人によるアクロバット・ショー! お代は見てのお帰り!」
修正されたうたい文句に納得したのか、シェプロンはやれやれとベースを担ぐ。
アンプの音を煩くない程度に調整すると、どこかで聞いたことのある軽快なメロディを奏ではじめる。
すると、ナタリーユ・ハーゲンフェルト(なたりーゆ・はーげんふぇると)とミューセル・レニオール(みゅーせる・れにおーる)の二人が、何処からともなくサーベルとレモンを取り出す。
そしてシェプロンの奏でるベースのリズムに合わせてボックス・ステップ。
観客の間から、自然と手拍子がわき起こる。ノってきたところで、ナタリーユが手にしたレモンをミューセルに向かって放り投げる!
すかさずミューセルはサーベルでレモンを串刺しに! しようとサーベルを突き出したものの、サーベルは空しく空を斬る。
しょぼーん、となるミューセルに、ナタリーユが身振りのみで交代を指示する。
涙目のミューセルがナタリーユへ向かってレモンを放り投げると、ナタリーユの突きだしたサーベルは見事にレモンを捉えた。
観客の間から拍手が上がる。
それに一礼して答えてから、ミューセルは続いてバケツを取り出して観客に示す。
その後ろで、演奏に飽きたシェプロンがナタリーユとベースを交代する。
実にアクロバティックな動きでバケツを振り回すミューセルに習い、シェプロンもまた水の入ったバケツをぐるんぐるんと振り回して見せる。
おおお、と客席からどよめきが上がる。が、次の瞬間、シェプロンの手からバケツがすっぽ抜け、たっぷりの水が洋介を直撃した。
見事に頭の上からずぶ濡れになる洋介に、客席からどっと笑いが起こる。
あわわ、となるシェプロンの横で、ミューセルがバケツを逆さまにしてみせる。……そちらは空っぽだったが。
「あー、えー、げほっ、美女さんにん、げほっ、によるお笑い……や、アクロバット・ショーでしたー!」
むせながらの洋介の言葉に、客席からは笑い混じりの拍手が巻き起こった。
「では、最後に一曲聞いて下さいませ!」
洋介からマイクを奪い取るようにして、シェプロンが客席に向かってそう言うと、盛り上がってきた観客からはパチパチと拍手が沸く。
「START!」
シェプロンのかけ声と共に、ナタリーユがベースを、ミューセルがキーボードを奏でる。伴奏に合わせて歌い出すシェプロンの歌唱力はかなりのものだ。
観客席からはやんやの歓声、大盛り上がりのうちに四人のステージは幕を下ろした。
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