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リアクション
[三場・桜の下で大宴会]
東エリアから駆けてきたさくらは、西エリアの入り口で足を止めた。
そこは既に、イルミンスールの生徒がぎっしりとシートを並べて占拠している。
「うー……ここが一番心配だわ……」
一勢力が占拠しているので、今更場所取り合戦による被害は出ないだろうが、占拠している勢力が勢力だ。無礼講、と称して何をされるか判らない。
「大丈夫、私がしっかり見回るわ。違反者はガーゴイルでカチコチの刑よ」
西の見回りを担当しているオルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)がにっこりと笑う。
見回した限り、今のところ生徒達は大人しくシートの上で場所取りに専念している。どうやら、まだことの発端であるエリザベート・ワルプルギスが到着していないようだ。
その中で、本郷涼介は場所取り係の人々にお茶を点てて振る舞っていた。
お手製の長明寺餅が付いて、回りの生徒達にとっても、退屈な場所取りの間の、良い時間つぶしになっているようだ。
「あの、さくらちゃんですよね」
そんな様子を眺めていると、生徒達のひとり、東雲 いちる(しののめ・いちる)が、涼介お手製の長明寺餅を持ってぱたぱたと駆けてきた。
「今日は、ちょっと騒いじゃいますけど、許してくださいねー。これ、差し入れです」
ぺこり、と頭を下げながら差し出された桜餅を受け取って、桜は思わず顔を綻ばせる。
「さ、桜を傷つけなければいいのよ……ありがとう」
「いいえ、こちらこそありがとうございます」
にっこり笑ういちるに、さくらは後をオルベールに任せて引き下がる。
さくらと入れ違うように、いちるのパートナー石田 三成(いしだ・みつなり)が、団子とさくらもち、それから甘酒を持って西エリアへと到着した。
「持ってきたぞ」
三成が差し出した物資に満足そうに頷き、いちるは三成を伴ってシートへと戻っていく。
そこへ、マナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)が、空飛ぶトナカイに荷物満載のソリを引かせて現れた。
こらぁ、とその姿を見咎めたさくらが慌ててとって返してきたが、マナが既に確保されているシートの上に降りたので引き下がる。
「クロセル、飲食物を忘れていては花見にならぬぞ!」
言いながら、マナはソリに乗せた花見団子や弁当などを下ろす。引きつれてきた事務員ふうの男達にそれを配らせついでに場所取りに疲れた者達と交代させたので、自由になったイルミン生達は届き始めた物資を分配したり、宴の準備を進めはじめる。
「母、御重を持ってきたぞ!」
こちらでは、多比良幽那のパートナー、アッシュ・フラクシナス(あっしゅ・ふらくしなす)が両手いっぱいの御重を持って到着した。
「わー、ありがとうアッシュ!」
「だ、抱きつかれるのは少々恥ずかしいぞ、母……」
ほっぺたすりすりしてくる幽那に、文句を付けながらも満更でもなさそうなアッシュだ。
「兄ぃ、お待たせ!」
野点をしていた涼介のパートナー、ヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)もまた、大きな弁当箱を持って合流する。
「ああ、ありがとう。間に合って良かった」
「えへへ、いっぱい作って来たからね!」
アリアクルスイドは、作ってきた弁当の蓋をぱかりと開ける。
中には五目稲荷、鶏の唐揚げ、筑前煮、菜の花のおひたし、出汁巻き玉子が詰まっていた。全て涼介の直伝だ。
「これは上出来だね。美味しそうだ」
にっこり笑う涼介に、アリアクルスイドもつられて笑った。
と。
「さーぁ、宴会ですぅ!」
高らかな宣言と共に、ついにエリザベートが姿を現した。
隣にはアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)の姿があり、さらに二人の後には、ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)が一升瓶を抱えて従っている。
主催者の登場に、イルミン生のテンションは一気に上がる。
持ち込まれた弁当や飲食物が次々に配分され、飲める人間には酒が、未成年にはジュースが行き渡る。
「かんぱーい!」
盛大なかけ声と共に、場は途端に無礼講と化す。
秋月葵が「幸せの歌」を歌い出し、一同はさらに盛り上がる。
「アーデルハイト様、はい、あーん」
風森望が、アーデルハイトの右隣に座って花見団子を差し出せば、左隣に座ったザカコ・グーメルが
「これ、自分が作ったんです。お口にあいますかどうか……」
と徹夜で作った林檎の砂糖煮を差し出す。
「これこれ、一度には食えぬぞ」
アーデルハイトが満更でも無い様子で笑うと、望とザカコがばちばち、と火花を散らす。
「エリザベートちゃん、はいこれどうぞ」
一方エリザベートの隣では、神代明日香がぴたりと寄り添って料理や団子などを取り分けてやっている。
「美味しいですぅー! こっちはどうでしょう……」
次から次へと出てくる食べ物に舌鼓を打つエリザベート。
「やっぱりお花見はサイコーですぅ!」
完全に花より団子だ。
一方、明日香とエリザベートがいちゃいちゃしている横では、明日香のパートナーであるノルニルが一升瓶を開けていた。
「うーん、アーデルハイト様は大丈夫そうですねぇ」
明日香がエリザベートの事しか考えていないことを危惧していたノルニルだったが、杞憂に終わった。二人に囲まれているアーデルハイトを見ながら、ノルニルはコップに注いだ酒をクイと飲み干す。
それを横で見ていたエイム・ブラッドベリーは、ノルニルの目を盗んで一升瓶の中身を自分のコップへと注ぐと、ぐっと一気に飲み干す。
「ひ……っく」
一升瓶の中身は度の強い日本酒だ。
ノルニルがあ、と思ったときには遅い。
「あれぇ……ノルン様がいっぱいですの。一人ほしいですのー」
エイムはすっかり顔を上気させて、何も居ないノルニルの隣の空間へと手を伸ばした。
そして、そのままシートの上に倒れ込んですやすやと眠り始めてしまった。
賑やかな宴会は、まだ終わりそうにない。
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