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仁義なき場所取り

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二幕【エキサイト・ティータイム】

[一場・桜の下でお茶会を]


「オルベールか? ああ、こちらは今のところ問題ない……」
 携帯電話で仲間と連絡を取りながら見回りを続けているのは、師王アスカのパートナー・ルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)だ。
 朝一番の場所取り合戦はおおむね決着を見、公園内は落ち着きを取り戻しつつある。
 そんな中、ルーツが担当している東エリアには、場所取りの人波が落ち着いたところを見計らって露店を出そうという人々が集まり始めてきた。根の上に出店を出したりすることのないよう、ルーツは改めて見回りを始める。
 その足元を葦原島 華町(あしはらとう・はなまち)がぱたぱたと駆け抜けていく。
「焼きそば、お好み焼き、チョコバナナ……勿論、花見団子にさくらもちも忘れずに買うでござる!」
 開き始めた露店を回りながら、宴会に必要なものを片っ端から買い集めている。これから西エリアへ向かうのだろう。
「美味しいカレーはいかがですかー?」
 カレーの店を出しているのはネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)だ。その声に華町も足を止める。
「ライスとナンがえらべまーす。チリドッグにキーマカレードッグもどうぞー。」
 いかにもお祭りの露店! という体の屋台で、ネージュは得意料理を並べている。
 特製スパイスの豊かな香りが食欲をそそる。
「じゃあ、一緒にジュースはどう? カレーにはりんごジュースなんかどうかな?」
 ネージュの隣では、ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)がジュースの店を開いていた。
 「りんご」「グレープフルーツ」「オレンジ」と書かれたプラスチックの看板が何となく郷愁を感じさせる。
 ネージュの店でカレーを、ミーナの店でジュースを買い込み、華町は満足そうに西のエリアへと向かって走っていく。

「りゅーき!」
 開門直前に買い出しを命じられたマティエ・エニュールが、もこもこの両腕いっぱいに菓子と飲み物を抱えて戻ってきた。
 余計なことをしなかったのが幸いしたか、マティエのパートナー、曖浜瑠樹は無事に東エリアの一角にシートを敷いて座っていた。
「買出しの必要あるなら前日にいいなさい、もう!」
 買い込んできた諸々をシートの上に下ろしながら取り敢えず瑠樹に文句を付ける。
「悪い悪い、ありがとなー」
 ほら、弁当にしよう、と瑠樹は前日に作った弁当を広げ、マティエに差し出す。
 もう、と言いながらも、マティエは差し出された弁当を受け取り、替わりに、買ってきた飲み物を瑠樹に渡す。
 ペットボトルだけど、ボトルをぶつけて乾杯した。
「桜が綺麗だし、ごはんおいしいし……幸せだなぁ」
「綺麗ですねー……来て良かったかも、です。……でも、今度から事前準備はしっかりしましょうね?」
 マティエの言葉にうんうん、と生返事を返しながら、ぼんやりと桜を見上げて幸せ気分に浸る瑠樹だった。

 東エリアの片隅では、喫茶「とまり木」が出張営業をしている。
 マスターの如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)はフライパン片手に、特製のクレープを焼いている。風味付けに、塩漬けにした桜の花びらがクリームに入れられている、出張露店限定メニューだ。
「佑也、私も料理手伝うよ!」
 佑也のパートナー、アルマ・アレフ(あるま・あれふ)がぴょこん、と佑也の前に躍り出る。が、佑也はじーっ、とアルマを見詰め、
「……では、ウエイトレスをお願いしますね」
 とニッコリ、容赦なく、有無を言わせぬ迫力で笑う。
「そ、そんな露骨に嫌がらなくてもいいじゃん……」
 そう言いながらも、アルマは用意されていたエプロンをきゅっ、と腰に結ぶ。
 『立ち上がったら場所放棄と見なす』というルールのため、周囲にはシートの上に一人で座っている人々が目立つ。こちらから注文を取りに行っちゃおうかな、とアルマは駆けだした。
「わー、みんなやってるねぇ!」
 そこへ、青いロングへアーを揺らしてやってきたのはノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)だ。普段は喫茶「とまり木」でアルバイトをしているが、今日はオフ。お客さんとして遊びに来ている。
「いらっしゃいませ、ノーンくん。今日は、陽太くんは?」
 笑顔で迎えた佑也が、ノーンのパートナーである影野 陽太(かげの・ようた)の姿を探す。
「うん……今日はちょっと来られないんだって」
 残念そうに言いながら、ノーンは仮設のテーブルセットにちょこんと腰を下ろした。
「そうか、それは残念だね」
「ノーン、注文は?」
 そんなノーンの元へ、ウエイトレス姿の、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が注文を取りに来る。
「じゃあ、噂の限定メニュー!」
 まいどありがとうございます、とニッコリ笑うと、月夜は手元の伝票に注文を書き留める。
 それから厨房……と呼ぶには些かにわか作り感が否めないが、テントの下の調理台へとそれを届ける。
「刀真、佑也…じゃないマスター、よろしく」
 伝票を佑也と、月夜のパートナーでもある樹月 刀真(きづき・とうま)がはーい、と唱和して答える。
 佑也が桜のクレープを焼く傍らで、刀真は予め用意してあった桜紅茶をガラスのポットからグラスへと注ぐ。
 桜の香りがふわりと漂う春色のクレープと紅茶をトレイに乗せて、月夜はノーンの元へとそれを届ける。
 そこへ、注文を受けてアルマが戻って来ると、にわかに店は忙しさを増す。忙しい一日になりそうだ。

 一方、中央エリアにほど近い所では、イルミンスールの学生達が数人で団子屋の露店を出していた。
「甘くてほっとする甘酒と、美味しいお団子はいかがですか〜?」
 店頭に立って、可愛らしい声と大正浪漫な袴姿で売り子をしているのはミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)だ。隣に立つグロリオーサ・ロスチャイルド(ぐろりおーさ・ろすちゃいるど)と共に、甘酒をコップへ注いだり、団子を紙に包んだりと忙しく動き回る。
「シェイドさん、みたらしが足らへんわぁ」
「あ、いそべも!」
 グロリオーサとミレイユの声に、団子作りを担当しているシェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)は急ぎ追加分の団子を串に刺す。
「いそべが思ったより人気ですねぇ」
「そうだね、沢山作っておくよ」
 串に通した団子に醤油を塗りながらケイラが笑う。
「完売じゃ! みたらし、あんこ、きなこ、いそべ十本ずつ補充を頼むぞ!」
 と、そこへ軽快に駆け込んできたのはローラーブレードを使って売り歩きをしているファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)だ。商品を補充して、再び売り歩きへと出掛けていく。売り歩き、どうやらシートから動けない場所取り係たちに大人気らしい。
「この調子じゃあ、あっという間に売り切れてしまいますね」
 シェイドが残りの材料と睨めっこして苦笑する。まだ時刻は昼前だ。
「でも、ちょっと落ち着いてきたよ。次のピークはおやつの時間かな?」
「ほなら、今のうちにお団子ぎょーさん作っておきましょ」
 店番をしていたグロリオーサが手を洗って、団子作りに加わる。
 それから暫くして、持って行った団子を売り切ったのか、ファタも戻って来た。
「一休みじゃ、一休み」
 ふぅー、と一息吐くと、ファタは露店の片隅に設けられた小さな神棚の前へ行き、そこへ祀られているサングラス?に売り物の甘酒を掛けてやる。
「どうじゃ、花見は……」
 何か切なげに呟くファタの横に、ミレイユが哀しそうな顔で歩み寄ってきて、神棚に向かってなむなむ、と手を合わせる。
「……いや、別にその方、亡くなった訳じゃないんですから……」
 シェイドのツッコミは、多分二人には届いていないのだろう。同じように呆れた目でファタとミレイユを見ているケイラと共に、肩を竦めた。