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リアクション
星座たちの小フーガ ト短調
菫と意気投合して聖衣を買った伊織とそのパートナーのベディヴィエールは左腕のパーツを持って逃走していた。
そこに立ちふさがるのは、セフィー・グローリィアの一行であった。
「外れか……」
セフィーがつぶやくと
「フリューネに神罰を下したかったですのに」
とエリザベータが嘆く。
「まあ、こいつら倒して落ちあうポイントとやらに行けば、かってにフリューネに逢えるさ」
とはオルフィナの言。
「勝手なこと言ってんじゃないよ。あんたらこそここで倒れて、無様に負けを晒すのさ」
美少女の口からそんな乱暴な言葉が出ると何やら倒錯的なものがあるが、菫はセフィーたちの侮蔑に真っ向から対抗していた。
「先手必勝!」
必殺技の名前を叫ぶのが恥ずかしい菫は、無言で技を繰り出す。その技の名は嵐の夜という。戦場を嵐に変え敵の飛行を封じる技だ。
そして、即座に繰り出される次の手。導きの光。味方の命中補正をあげる補助的な技だった。
「さあ、これでお前らの攻撃は当たりやすくなったぜ。いけ!」
「おーけー! 騎馬突撃(ランスチャージ)」
「わかりました。 幻肢結界(ナインファントムリブ)」
捉え切れないほどの素早い突撃と、現像により九つに増えたベディヴィエールの姿と槍が、セフィーたちを襲う。
「くっ、そんなもの……」
セフィーは強がりをいうが、見えない一撃と無数の攻撃は、確実に彼女たちの体を捉えていた。
オルフィナとエリザベータが悲鳴を上げる。
一方セフィーはなんとか呻き声を少々あげるだけで耐え切った。
「許さないよあんた達! あたしたちの力を見な! ツインクロス・ホワイトファング」
セフィーの電撃を帯びた蹴りと嵐を帯びた拳が交互に、無数に繰り出される。
「ブラックヴォルフ・マッドネス」
オルフィナの暗黒のオーラが周囲に広がり、暗闇で包む。が……
「させません!」
菫の導きの光で、あたりは光りに包まれる。
「厄介な……」
オルフィナは菫を面倒な相手だと判断し、忍び寄った姿勢そのままに拳や蹴りを連打する。
「闇が晴れたところで!」
オルフィナが叫ぶと菫は地面に倒れ伏していた。
「このまま無様に地に倒れなさい! セイント・ジャベリン」
エリザベータは叫びながら技を繰り出す。凄まじい光輝を宿した拳を圧縮して高速で打ち出す奥義!
セフィーの攻撃が伊織に、エリザベータの攻撃がベディヴィエールを襲う。
大きなダメージを受け、地面に倒れる三人。闘衣もぼろぼろに砕けていた。
「はっ! ざまあないね」
セフィーが勝利宣言をするが
「それはどうかな?」
と、どこからともなく声がする。
「何者!」
セフィーが周囲を見渡すが誰も居ない。
「くはははは! 天が呼ぶ! 地が呼ぶ! 人が呼ぶ! 涙を止めよと太陽が俺を呼ぶ! 世界は悲しい結末を望んでいない! ハッピーエンドを返してもらいに来たぞ! それが世界の選択だ! とう!」
その者は、断崖絶壁の上から飛び降り、体を捻って華麗に着地する。
それは、ロボ座のエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)であった。
「パラミティール・ネクサー!!」
エリザベータが驚愕する。
「ち、違うぞ。あくまでよく似た誰かだ」
「あー、似て非なる人物ってやつですね。わかりました」
「わかってくれて嬉しいぞ」
エリザベータとエヴァルトの間で奇妙な友情が成立する。
「それはともかく、力づくで人様の持ち物を奪うというのは格好良いことではない。よって、このロボ座のエヴァルトが加勢させてもらう!」
「ふざけないでください。 絶対的な正義はこちらにあるのです」
エリザベータ叫ぶ。
「絶対的な正義など、ない! あるのは奪う強者と奪われる弱者! そして俺は弱者の味方だ!」
「では正義とはなんなのです!」
「それは人の数だけある、なんの役にも立たないシロモノだ。そして正義と正義のぶつかり合いが、争いを呼ぶ。そんな正義など、百害あって一利なし!」
「そんなっ!」
エヴァルトとの言い合いに敗れるエリザベータ。
「御託はいい。さったと来いよ!」
割って入るセフィーの言葉に、
「言われなくとも! 超絶!パラミティールキック」
絶叫するエヴァルト。
大量の闘気をまとった、防御困難な蹴りがエヴァルトから放たれる。そして、一度ヒットするとそれはいつまでも逃さない連続攻撃。
エリザベータが、激しく吹き飛ぶ。
「おまえ、よくもエリザベータを! この漆黒の狼が喰らい尽くしてやる!」
「まて、オルフィナ!」
リッターの本能でセフィーは激高したオルフィナを止めるが、間に合わなかった。
エヴァルトの蹴りで、天高く舞い上がるオルフィナ。
「ぐはっ……」
地面に倒れ伏し、血を履く。
「ふっ……」
エヴァルトが小さく笑う。
「お前は誰を攻撃したつもりかな?」
そう言ったのは、先ほどとは違う場所に立っているオルフィナだった。
「馬鹿なっ!」
驚愕するエヴァルト。
「先程のは隠形の術で隠れた俺の偽者さ。まんまと騙されたな。そしてもう、同じ技は通用しない」
「くっ……」
歯噛みをするエヴァルト。そこに背後から声が聞こえてきた。
「大丈夫ですよ、通りすがりの方」
それは、伊織の声。
見るとベディヴィエールと菫も立ち上がっていた。しかもボロボロだったはずの闘衣が修復され、パワーアップしている。
「なっ、一体どういうことだい!?」
セフィーの驚きの声にベディヴィエールが説明する。
「生贄の祭壇(アルターサクリファイス)……己を生贄とし、壊れた闘衣の修復をする祭壇座の奥義ですわ」
「そして、僕がベディヴィエールを治療したんです。こんなところでベディヴィエールを失うわけにはいかないですから」
そう説明を継続したのは伊織だった。
「そして、あたしには、すこしずつ回復するという特殊な能力がある。つまり、何度だって戦い続けられるのさ!」
菫がそう言ってファイティングポーズを取る。
「面白い。だけど、あんたたちの技は一度見た。あたしたちはまだ出してない技がある。どっちが勝つかは明白だろ?」
「それはどうかな?」
セフィーの言葉を遮ったのは、またもエヴァルトだった。
「俺にもまだ見せていない技がある。そしてそれからお前たちが逃れることは不可能。よってこの場は、彼女たちの勝利だ」
意味深なセリフを言うエヴァルト。
「さあ、極限まで燃え上がれ俺の闘気! はあああああああああああああ!」
「な、なんだ! この異常な闘気は!?」
「まさか! こんなのやつにも耐え切れないぞ!」
エヴァルトの毛細血管から、血が噴き出る。
それほどまでに闘気が燃え上がっていた。
「喰らえ! 我が必殺の! ギガブレイカー」
そして高まった闘気は爆発し、エヴァルト自身をも巻き込んでセフィーたちを打ち倒す。
そして爆発が収まったあとに立っているのは菫たち三人だけだった。
「そんな……」
「自爆技なんて……」
「お嬢様、彼に治療を……」
「そ、そうだね」
ベディヴィエールの言葉を受けて、エヴァルトに駆け寄りヒールをかける伊織。
だが、エヴァルトのダメージはかなり激しく、意識を取り戻すには至らなかった。
「一命は取り留めたけど……」
「構いません。生きているのなら。それより先を急ぎましょう……」
「そうだね」
ベディヴィエールの言葉に菫が賛同し、一行はその場を離れた。
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