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リアクション
第一章 突入
キメラ研究所の入り口にて。
遺跡を利用し偽装された入り口から、内部を覗き込む者がいた。
「侵入者を待ち構えているとは……よっぽど自信があるようだな」
夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)が、内部に聞こえないよう小さな声で呟く。
その後ろには彼のパートナー達もいた。
「後ろに子供みたいなのも見えますね……」
扉の反対側ではシャノン・エルクストン(しゃのん・えるくすとん)とゼノビア・バト・ザッバイ(ぜのびあ・ばとざっばい)が注意深く中の様子を伺っている。
数分前、シャノン達が研究所に到着した後、すぐに甚五郎達が到着。彼女達は共に突撃の機会を伺っていた。
研究所内部、通路の先には、三人の研究員の姿が。
彼らは侵入者を待ち構えているかのように、そこから動かなかった。
その後ろには小さな子供らしき人影もある。
「このまま待ってても埒が明かないな。行くぞ」
甚五郎達が研究所内部へ突入する。シャノン達もそれに続く。
「むっ、来たな愚かな侵入者共! さあ行け、そいつらを叩き潰すんだ!」
侵入者に気付いた研究員が声を上げる。その指示を聞いて、背後に控えていたキメラの数匹が甚五郎達へと襲い掛かった。
先頭にいる狼のような姿をしたキメラの鋭く尖った爪が甚五郎へと振り下ろされる。
「くっ!」
甚五郎が飛び退く。標的を捕らえ損なったキメラはバランスを崩した。
「悪いが眠ってもらうぞ!」
「これでおとなしくして下さいっ!」
草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)が『ヒプノシス』を使い、ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)が子守唄を唄う。
狼のキメラの動きが鈍る。だが、その後ろに居た鳥の羽を生やしたキメラがそれを追い越し、鉤爪を振り下ろす。
「させませんっ!」
ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)がマスケット銃から銃弾を放つ。羽に銃弾を受けたキメラは小さく悲鳴を上げると、彼らから距離を取った。
「なにをやっているんだ出来損ない!」
研究員から罵声が飛ぶ。
「勝手にキメラなんかにしておいて、よくそんなことが言えますね……っ!」
シャノンが別のキメラの相手をしつつ、声を上げる。こちらのキメラは熊のような手足をしていた。
キメラが大きく腕を振りかぶる。シャノンが飛び退くと、振り下ろされた熊の腕が地面へ激突し、大きなクレーターを作った。
「これは必要な犠牲なのだよ。人類が進化するためのな」
「でしたら、他人を巻き込まず、自分の身だけを犠牲にしなさい……!」
キメラが再びシャノンへ接近する。
「シャノンを傷つけさせはしませんっ!」
ゼノビアが熊のキメラ向け矢を放つ。しかし分厚い毛皮が邪魔をして、効果的なダメージを与えられない。
だが攻撃にキメラが怯んだ隙に、距離を取ったシャノンが雷術を唱えた。
「効いて下さいねっ!」
バチバチと音を立てて稲妻がキメラ達へ直撃する。
熊のキメラは大してダメージを受けた様子は無かったが、近くに居た鳥のキメラが大きな悲鳴を上げてその場に崩れ落ちた。
「キメラによって弱点が違う訳か。ホリイ、羽純!」
「はい!」
「任せよ!」
ホリィと羽純が熊のキメラ向けて睡眠攻撃を仕掛ける。
キメラは唸り声を上げるとその場に膝をついた。
「これもおまけですよっ!」
ブリジットがダメ押しとばかりにしびれ粉を放つ。毒粉を吸った三体のキメラが床に倒れ、動かなくなった。
無防備になった研究員向けゼノビアが矢を発射する。
気付いたキメラの一体が、痺れる体を無理やり起こし弾いたものの、防ぎきれなかった矢が一人の研究員の脚を射抜いた。
「ぐあぁっ!!」
研究員が床を転がり悶絶する。
「痛みますか? ですが、それは自分で招いた事だと忘れるな」
ゼノビアが低く吐き捨てるように言う。その瞳は怒りに燃えていた。
「何をやってるんだお前達! くそっ、お前も行けっ!」
研究員が怒鳴り、後ろに控えていた残りのキメラを前へ押しやった。
数は二。虎とライオンの特徴を持ったキメラ達が、侵入者向け襲い掛かろうとする。
そこに別の人物の声が響いた。
「加勢する!」
現れたのは冴弥 永夜(さえわたり・とおや)とイレギオ・ファードヴァルド(いれぎお・ふぁーどばるど)だ。
その後ろには玖純 飛都(くすみ・ひさと)の姿もある。
誠一は風銃エアリエルを構える。その銃口から突風が巻き起こり、キメラ達を吹き飛ばす。
「はあっ!」
倒れたキメラにイレギオが氷術を放つ。キメラ達の手足が凍らされ、地面に固定された。
「おーおーやってるじゃねえか。私も混ぜやがれってんだ!」
彼らの後からシャロン・クレイン(しゃろん・くれいん)も現れ、凍り付いて動けないキメラを飛び越えると研究員へと迫る。
シャロンの二丁拳銃が火を噴き、発射された念動力が研究員二人に命中、吹き飛ばす。一人は壁に叩きつけられ気を失った。
「ひっ……」
吹き飛んだもう一人は、慌てて起き上がり背中を向けて逃げ出そうとした。
「逃げられるわけないよねぇ?」
「なっ……!?」
隠れ身で潜んでいた八神 誠一(やがみ・せいいち)が研究員の目の前に現れ、大太刀を振るう。脚が切り裂かれ、研究員は悲鳴を上げて床を転げまわった。
「ナイスだ誠一」
「まったく、めんどくさいなぁ……」
シャロンが誠一に歩み寄る。その後ろで、氷を力ずくで砕いたキメラ達が起き上がった。
「くっ、氷だけじゃ無理か……仕方ない、イレギオ!」
永夜が氷術を放ちキメラ達の足を止める。動きの止まったキメラ達向けてイレギオがサンダーブラストを放った。
「あまり手荒な真似はしたくなかったんだが……悪いがそこで眠っててくれな」
イレギオが申し訳なさそうに呟く。キメラ達は降り注ぐ雷に打たれ、倒れ伏していた。手加減したので、命に別状は無いはずだ。
一方シャロンは誠一の前で転がっている研究員を睨みつけると、小さく何事かを呟いた。
研究員が大きな悲鳴を上げる。その視線は自分の右腕に釘付けになっていた。
「自分の腕がバケモノになってくってのはどんな感じだ? 研究員サンよぉ? 弄られる側になってみるのも、良い経験だろ?
ま、あの世でそいつを生かせるかはしらねーがな」
幻を見せられガタガタと震えている研究員の頭に、シャロンは念動銃の銃口を突きつける。
だが飛都がそれを制した。
「殺すのはやめておいてくれませんか?」
「あぁ? 何でだよ。こんな奴ら生かしとく価値なんてねーだろ?」
「この人たちには色々聞きたい事もありますし……それに、今ここで死なせて楽にしてやるよりも、教導団で尋問なり拷問なりしてもらった方が良いと思いませんか?
まぁ役に立たないようなら切り刻んでミミズのエサにでもするのが良いかもしれないが……」
そう言って睨みつけると、研究員はひいっ、と引きつった声を上げて縮こまる。
シャロンはというと、飛都の言葉に納得したのか、大きな声を上げて笑っていた。
「あっはっは! 確かにその通りだな! 分かった、殺しはしねぇよ。行こうぜ誠一」
「やれやれ……」
そういうとひらひらと手を振って歩き出すシャロンと誠一。二人は研究所奥へと進んでいた。おそらく他の研究員も倒すつもりなのだろう。
残った者は倒れている研究員達を縛り上げていった。全員を縛り終えた所で、飛都が口を開く。
「こいつらはオレが教導団に引き渡しておきます。皆さんは先へ行ってください」
「いいのか?」
永夜の言葉に、飛都が頷く。
「そうか、ならば頼む。イレギオ、行くぞ」
「ああ」
永夜とイレギオが先へ進む。他の者達もその後を追い、その場には飛都だけが残った。
それから数分が経った頃、外からばたばたと走る大勢の足音が聞こえてきた。
「これは一体……?」
研究所へ到着したメルヴィア・聆珈(めるう゛ぃあ・れいか)が、怪訝な声を上げる。
その目前には手足を縛られた研究員とキメラ達が地面に転がされていた。
飛都が事情を説明する。
「まさか先に突入した者達がいたとはな……。協力、感謝する!」
メルヴィアが他の者達に指示を出し、研究所内をくまなく調べ始めた。
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