校長室
建国の絆 最終回
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鏖殺寺院最強の将を探して アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)によく似た少女アゼラの話に、生徒達は驚く。 さらにヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が言い添え、驚きが広がる。 「そのくらい所にいたちっちゃい子、砕音せんせーだと思います! ボク、前にちっちゃくなったせんせーと会ったことあります」 七尾 蒼也(ななお・そうや)がツバを飲み、アゼラに頼む。 「もう一度そこに行けないか? その子が砕音なら、今のこの事態を変えられるんじゃないか?」 緋桜 ケイ(ひおう・けい)も頷く。 「ああ、その子は砕音先生の本当の心や魂といったものじゃないかと思う。先生の変貌にも関わりがありそうだ」 赤羽 美央(あかばね・みお)がアゼラに頭を下げる。 「前は疑ってごめんなさい。 その子が誰であれ、傷付いた人は放っておけません。その子がいた場所に案内してもらえないでしょうか?」 「むーん」 アゼラは腕組みして、考え顔だ。 そんな仕草はまさにアーデルハイトそのものだ。 彼女にジェレイン・アンヴィル(じぇれいん・あんう゛ぃる)も頼みこむ。 「アゼラちゃん、お願い。暗い所にもう一回行けないかなぁ?」 幼い女の子であるジェレインの頼みに、アゼラはにっこりと笑った。 「じゃあ、行って、みる。たぶん、こっち」 アゼラは街の奥に向けて、とことこと歩き出す。 「入れる場所や人は決まってるのか?」 蒼也が尋ねる。 「たぶん、公衆、魔導、端末、から、入れる」 「こうしゅうまどうたんまつ?」 アゼラの話を元にイルミンスール生が話し合い、どうやら古王国時代の公衆無線LANスポットのようなものではないかと結論づけた。 しかし、古王国当事でも異空間の中に入り込むような機能はなかったはずだ。 「原理は分からないけど、その端末の近くまで行けばいいんだな?」 蒼也の問いに、アゼラはこっくりとうなずく。 「こっち」 アゼラは、ふたたび街の奥にとことこ歩み出した。 先に進めば、鏖殺寺院の部隊と出会うのは必至だ。戦況もけして良くはない。 決意は出来ているが、皆、生物学的な危険は強く感じずにいられない。 と、美央が忘却の槍を天に掲げた。 「私がイルミンナイトとして、皆様をお護りします。 戦いが終わって皆が平和に楽しく暮らせるようになるのなら……もう恐れることはありません」 美央の断固とした口調が、一行の緊張を打ち破る。 ジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)も場違いな程の笑顔を浮かべる。 「周りは敵だらけデス。ディテクトエビルでの外敵察知は任せておいて下サイ! ミーもやる時はやりマスヨ! 怪我した人を治す人がいないナラ、ミーがヒールしてナーシングしてあげマス ハハハ、ミーたちが来たからにはもう安心デース!」 蒼也は、軽く噴き出した。 「ああ、とにかく今は道を切り開くしかない。行こう」 蒼也は、復活した街へと踏み出した。 とある後輩の事を思い浮かべれば、怖い物はない。 不思議そうに前方で彼らを待っているアゼラを追い、一行は街の奥へと踏み行っていった。 「生徒が来たけど……どうするの?」 クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)が声を潜めて、機晶姫アナンセ・クワク(あなんせ・くわく)に聞いた。 街には銃声や砲撃音が木霊していたが、それでも声を潜めずにはいられない。 アナンセが守るのは、いまや鏖殺寺院最強の将としてシャンバラ建国を阻む砕音・アントゥルース(さいおん・あんとぅるーす)だ。 緊張を隠せないクリスティーに、アナンセはロボットらしい無機質な声で返す。 「彼らは偵察部隊のようです。やりすごしましょう」 物陰に隠れた二人の前を、武器を構えた生徒達が通りすぎていく。 未来的で前衛芸術的とも言える建物の間で、彼らの姿だけが妙に現実めいて見えた。 生徒の姿が遠ざかり、クリスティーはそぉっと息を吐く。 アナンセの想いを聞き、彼女を支援してはいたが、やはり他の生徒と戦うのは気が引ける。 (クリストファーはどうなんだろう……?) ふとパートナーの事を思い出し、クリスティーはあわててそれを頭から追い出した。 想いに耽っていられるほど、目の前の戦況は甘くはない。 「もしもし、こちらですよ」 旧シャンバラ宮殿に突き進んでいきそうなラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)に、エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)が声をかける。 ラルクは居きって、 「止めるない。最短ルートで宮殿につっこむぜ。あそこには砕音が──」 「いません」 エメが笑顔できっぱり言った。 「……あ?」 走りだしかけていたラルクが、ぎぎっときしむように顔だけエメに向ける。 対するエメは、子どもに説明する教師のように丁寧に 「砕音先生は旧宮殿ではなく、旧王都内の通信局で鏖殺寺院軍の指揮をしているそうです」 鏖殺寺院回顧派首魁であるエメは、砕音の部下であるグエン ディエムから、その情報を得ていた。 エメとしては、魔剣スレイヴ・オブ・フォーチュンで砕音を正気に戻せないか、友人のツテを使って魔剣の主高根沢理子(たかねざわ・りこ)側に打診していた。 しかし周囲からは、封印を解いた魔剣をふたたび砕音に封印されてしまうリスクが大きいと止められた。 魔剣は、ダークヴァルキリーへと身を堕とした女王の妹ネフェルティティを正気づける鍵。リスクを負うには、あまりには危険だ。 そこでエメは、まず砕音の情況を確かめる為に彼と会う事にしたのだ。 だが今の砕音は、回顧派首魁の面会要請も後回しにしていた。 「そっ、その砕音がいる通信局はどこだ?!」 ラルクがエメに迫る。 「行き方なら、もう聞いている」 鬼院 尋人(きいん・ひろと)が言う。 彼らの会話を聞きつけて敵がやってこないかと警戒しながらの答えだ。 同時に尋人は、一行のメンバーにも警戒を絶やさない。 今にも爆発しそうなラルクに、ヒダカ・ラクシャーサ、それにスズキと名乗るパラ実生徒……どれも注意が必要だ。 もっともヒダカは、彼を連れてきた黒崎 天音(くろさき・あまね)や今やヒダカの保護者状態の真田 幸村が見ている。 キマクのスフィア書き換えが案外スムーズに行ったので、その後にヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)が天音の頼みに答えて連れてきたのだ。 ラルクも、無闇に暴れるほど脳筋ではないはず。 ただスズキには、天音やラルク、エメとも面識はない。しかし砕音と知り合いで、彼を説得できるかもしれないと、彼らに同行を申し出てきたのだ。 年齢は、更け顔のラルクより年上に見え、また闘犬が牙をむいたようなコワモテである。 もちろん同行に際して、勝手な行動の類はしないと約束している。 建物の間をそろそろと進みながら、天音がスズキに尋ねる。 「道すがらでいいから、君の知っている砕音の事を教えてくれないかな? それが君の身の証にもなるからね」 「……奴も今では、良き教師ヅラをしているが、アフリカにいた頃は貴様らと、たいして変わらん印象だった。 今風の言葉で『つんでれ』とか言うのか、繊細すぎる性格でパートナーをふりまわしていたようだがな」 スズキの言葉にブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)と幸村は(どこも、そんなものか)と思わずにいられない。 スズキの説明は続く。 「しかしアフリカでの事件以降は、任務内容の変化もあって冷酷非常な暗殺者、を演じていたようだ」 「ずいぶんと詳しいんだね?」 「まあ、色々とな」 天音の追求を、スズキはフンと鼻を鳴らしてかわす。 背中でそれを聞いていた尋人は、振り返って高周波ブレードを彼のノドに突きつけてやりたかったが、天音の為にその感情は抑えた。 それに尋人にとっても、その話は興味深い内容だ。 彼の心を知ってか知らずか、スズキが付け加えるように言う。 「奴は、良い子を演じすぎる子供と同様、突然に瓦解する危険をはらんでいる。 そうした精神的弱点が、今回の件にも関係しているのかもしれん……まあ、私の私見だ」 周囲に耳障りなビープ音が響き、左右の建物からガードロボットの群れが飛び出してくる。 割合に軽装の形状から、軍事用というより、重要建物の警備用にもともと配備されているもののようだ。 「またか」 尋人は奈落の鉄鎖で、デッサン用人形のようなガードロボットを縛りつける。そこに西条 霧神(さいじょう・きりがみ)がサンダーブラストを浴びせる。 「どうも妨害が多いな。 やっぱり指揮官の居場所に近づいているからか」 尋人が独りごち、ラルクが前方に吼える。 「邪魔するな。今の俺は機嫌が悪い! 皆、早く助けにいくぞ! 急がねぇと手遅れになりそうだしな」 ラルクは一行を急かし、拳を振りあげてロボットの群れに突っこんだ。 片倉 蒼(かたくら・そう)は冷静にガードラインで、皆の防御を固めて戦う。 尋人は闇の鎖を扱いながら、天音の盾となる。その尋人を、いつもより無口な霧神が、アシッドミストや雷撃で援護する。 霧神の献身的な援護は、自分の命も顧みないレベルだ。 傷を負った彼に、エメが「ご無理はせずに」とヒールを飛ばす。 霧神はそれでも戦い方を変えない。 (私はまあ……吸血鬼は不死ですから、また全てを失ってちょこっと眠って休んで、そしてまた復活するでしょうからね。 ただ、尋人と離れるかもしれないことは少し寂しいですね) 霧神は背中に、奮戦する尋人を感じながら魔法を放った。