First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last
リアクション
順調に歩みを進めるルトラ族と生徒たち。だが、ここで予想外の事件が起こる。
「みんな、気をつけて! 近くに邪念を抱いてるやつがいる」
メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)のパートナー、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が突然叫んだのだ。セシリアは時折ディテクトエビルを使用し、周囲を警戒していた。
直後、物陰から海賊たちが姿を現す。
早々に海に落とされた彼らはルトラ族の村に泳ぎ着き、避難する彼らを見て追いかけてきたのだ。
「ちっ、見つかったか」
「逃げようったってそうはいかねえぞ」
「お前らの仲間に受けた恨み、ここで晴らしてやるよ」
メイベルが海賊たちの前に歩み出る。
「ここは私たちが引き受けます。皆さんは早く逃げてください!」
「一人たりとも通しはしないよ」
セシリアが言う。
「あらあら、大変ですわね。でも、私たちがきっとなんとかしてみせますわ」
メイベルのもう一人のパートナーであるフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)も避難の列を離れる。
他の生徒たちも列を離れようとしたが、メイベルに制止された。
「だめです! 全員でかかればこの海賊たちは倒せるかもしれません。でもそうすれば、ルトラ族のみなさんに被害が出ます。何人かはそのまま避難誘導を続けてください」
生徒たちは瞬時に判断し、ここに残る者と先に行く者が分かれる。
「だから逃がさねえって言ってるだろうがあ!」
海賊の一人が列を追おうとする。
「はあっ!」
メイベルが腕を振りかざすと、辺りが霧に覆われる。氷術を応用して人工的な霧を発生させたのだ。
「うおっ」
「なんだこりゃ」
海賊たちは突然のことに困惑する。その隙を見てメイベルはメイスを振り回した。
霧の中では近くにいる相手以外が見えない、魔法の詠唱には時間がかかる、先の戦闘を見越して魔力を温存しておいたほうがいい。これらの要素を一瞬で判断し、メイベルはあえて魔法を使わなかったのだ。
メイスで殴られた海賊は苦痛の声をあげて後退る。
「メイベルには指一本触れさせませんわよ」
ナイトであるフィリッパが、メイベルの前に出た。
「俺も手伝うぜ!」
この場に残ったケイが、ギャザリングヘクスで魔力を高める。
「ゆる族を襲うとは、ナメた真似をしてくれるじゃねーか」
「私も頑張りますっ」
ベアとソアも残っていた。ソアは残るつもりではなかったのだが、残ると言って聞かないケイとベアを置いては行けなかった。
やがて霧が晴れる。ルトラ族たちの姿は完全になくなっていた。
「みんな無事に逃げたみたいだね。後はあんたたちを倒せば、僕らの勝ちだ」
セシリアの言葉に、海賊たちが一気に攻撃を仕掛けてくる。
「勉強の成果を見せますよ!」
「おらおらおらー!」
ソアが海賊たちにサンダーブラストを放ち、ベアが自慢の銃を撃ちまくる。さらに、魔力を高めたケイが強烈な魔法をお見舞いした。
この攻撃で海賊たちは散り散りになる。
「うりゃあ!」
「あらあら、元気いっぱいですわね。お姉さん困っちゃうわ」
常にメイベルの前に立つように動くフィリッパは、近接戦闘を仕掛けてくる海賊の攻撃を持ち前の防御力で受け流し、メイベルを守る。
メイベルは温存していた魔力を使い、魔法を放っていく。あくまでも敵を倒すことよりルトラ族の後を追わせないこと絵お重視した戦い方だ。
そしてセシリアはメイベルのサポート役に徹し、メイベルが処理しきれなくなったところをフォローする。
ソアとベアの全体攻撃にケイの火力、メイベルたち三人の安定した守り。この効果的な役割分担で、海賊は確実に数を減らしていく。そしてついに最後の一人を仕留め、海賊たちは全員戦闘不能になった。
「はあ、ようやく終わりました。恐かったですぅ」
戦いが終わった途端、メイベルがへたりこむ。
「あ、ようやくいつもののんびりした口調に戻ったね。今日はずっと気を抜けなかったもんねー」
セシリアが笑う。
「メイベルはよくやったと思いますわ」
フィリッパも笑顔でメイベルを称える。
「ありがとう。二人のおかげよぉ」
と、そのとき、メイベルの背後でがさりと音がする。メイベルが振り向くと、そこにはまさに斬りかからんとする海賊の姿があった。
「!」
誰も反応が間に合わない。メイベルたちのやりとりをほほえましく見守っていた他の生徒も、思わず目を覆った。
「ぎゃあああああ」
辺りに悲鳴が響き渡る。
しかしそれはメイベルのものではなく、海賊のものだった。海賊はメイベルの上に倒れ込み、動かなくなる。
「最後まで気を抜くものではないよ」
冷淡な声と共にメイベルたちのもとに歩いてきたのは、アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー) 。アルツールはイルミンスール魔法学園の講師で、儀式魔術学科を教えている。今回はエリザベートの思惑に賛同し、生徒の引率でパラミタ内海まできていたのだ。
生徒を鍛えるため、アルツールはこれまでなるべく手を出さずにいたのだが、さすがに先ほどのケースを見過ごすわけにはいかなかった。
「その海賊はずっと物陰に隠れて戦況を見守っていたのだよ。おそらく君たちが油断するのを待っていたのであろう」
未だに状況がのみこめていないメイベルに、アルツールのパートナー、シグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)が説明を始める。
「僕たちも陰から君らを見ていたのだが、そいつが無防備な君に襲いかかったので、このアルツールが攻撃したというわけだ」
シグルズがアルツールを指さす。
「そうだったんですか。ありがとうございますぅ」
メイベルがアルツールに頭を下げる。
「次からは気をつけることだな」
アルツールはそう言うと、シグルズと共に丘を目指して歩き出した。
「まさか隠れてる海賊がいたとはな。気がつかなかったぜ」
「私も。アルツールさんがいなかったら、私たち危ないところでしたね」
ケイとソアが感心したように話す。
「あのアルツールってやつ、俺はどうも気に入らんがね。まあ、そんなことはどうでもいい。俺らもさっさと行こうぜ。ご主人、疲れてないか?」
ベアがソアに尋ねる。
「思いっきり魔法使ったから、疲れちゃいました」
「俺が運んでやるよ」
「本当ですか。ではお言葉に甘えて、そうさせてもらいますー」
「ベア、俺も運んでくれよ」
ケイがベアに頼む。
「しゃーねーな。ほら、乗れ」
「悪いな」
「じゃあ行くぞ」
ベアはソアとケイを担いで走り出す。
「うわあ、元気ですねぇ。さて、私たちも行きましょう。今度こそ海賊に後をつけられないように気をつけて」
メイベルたちもゆっくりと丘を目指した。
メイベルたちのおかげで、ルトラ族は無事に丘の上へと到着する。ルトラ族は大勢いたが、彼らはあまり大きくないので、全員水に浸かることができた。
竜ヶ崎 みかど(りゅうがさき・みかど)は、自分もまだ幼いにもかかわらず、遊びで気をそらせてルトラ族の子供が怖がらないようにしようと考えていた。
「大丈夫、みかどおねーちゃんのお友達はみんな強い人ばっかりだから、悪い海賊さんには、めっ、て怒ってくれるよ。だからおねーちゃんと遊んで待ってよう」
みかどは不安そうな顔をしている子供たちにそう声をかける。そして、まずは折り紙で狐を折って見せた。
「わー、狐さんだー」
「紙が狐さんになった!」
「みかどすごーい」
「むぅ、みかどじゃなくって、みかどおねーちゃんだよー」
これでつかみはバッチリだった。
みかどは記憶を総動員して、お化けの夢を見たり雷が鳴ったりして怖かったときや、雨が降って外で遊べなかったときに家族が自分にしてくれたことを思い出す。そしてトランプ、お手玉、子守唄やわらべ唄、数え唄に昔話などなどを子供たちに教え、あっという間にその心をつかんだ。今やみかどは間違いなく彼らの「おねえさん」だった。
「なんてことだ!」
「ああっ……!」
丘にたどり着いたメイベルたちをみんなが歓声で出迎える中、一組の夫婦が絶望したような声を出した。
「どうしたのですか?」
近くにいたクレア・シュルツ(くれあ・しゅるつ)が夫婦に尋ねる。
「うちの子供たちがいないのです。丘の上は全て探したのですが……」
「きっと村に残っているんだわ」
夫婦は心配で今にも倒れそうな様子だった。
「落ち着いてください。大丈夫です、私たちが村を見てきますから。お子さんたちは必ずや無事にお届けします」
クレアはそう言って夫婦をなだめる。
「お願いします!」
「メメ、カカ、どうか無事でいて……!」
クレアは立ち上がると、その場にいるみんなに聞こえるように大きな声で言った。
「みなさん、どうやら村に取り残されたルトラ族の子供がいるようです。私は村に戻ります。海賊がいるかもしれませんので、余力のある方は一緒に来てください。空飛ぶ箒をお持ちの方は、私を含めて持っていない人に箒を貸すか、一緒に箒に乗せていただけると助かります」
この言葉に場は騒然とする。そして、多くの生徒たちが村へと引き返した。
「もぬけの殻だな」
「ああ。どっかに逃げたんだろ。ちょうどいい、残りのお宝いただいてこーぜ」
「こいつらどーする? 食ったらうまいかな?」
ルトラ族の村には、海に放り出された海賊がさらに数人流れ着いていた。その前では二人のルトラ族の子供が抱き合って震えている。
「さーて、それじゃ」
海賊の一人がカトラスを振りかざす。
「やめろ!」
そのとき、真っ先に村に到着した竜花の声が響き渡った。
「ああ? なんだ、お前は」
竜花は一直線に海賊たちに突撃すると、自分が傷つくのも顧みず、体を張ってルトラ族の子供たちを保護する。
竜花のパートナー、斗羽 神山(とば・かみやま)は慌てて竜花のサポートに入った。
「怪我はないかい? 今ヒールをかけるからね」
竜花が子供たちに声をかける。
「お前が怪我してるじゃねぇか、馬鹿かこのヤロウ! さっさとてめぇの手当てしやがれ!」
神山は竜花にそう言うと、海賊たちを睨みつける。
「てめぇら、各務に攻撃するなんていい度胸じゃねぇか。俺の火術で黒こげにしてやるよ!」
「待って神山! お願いだから冷静になって。火術なんて使ったら目立つよ。他の海賊たちが気づいて、ここに来ちゃうかもしれない。ドラゴンアーツも派手だから駄目だよ」
「ちっ。魔法使いに魔法使うなって言うのかよ。めんどくせえなあ」
神山が構える。人数で負けている上に魔法が使えないとなれば圧倒的に不利だ。だが、そこにやや遅れて他の仲間たちが集結した。
「他人の物を奪う以上、何かを奪われる覚悟くらい当然済ませてるよね……命とか」
ただならぬ気配を漂わせる恵を見て、パートナーのエーファ・フトゥヌシエル(えーふぁ・ふとぅぬしえる)は海賊たちに言い放つ。
「ああなったケイは私でも止められません。お覚悟を。もっとも、あなた方が相手である以上、止める気も起きませんけれど」
「生徒たちの引率にもそろそろ飽きてきたところでね」
「ヴォルスングのシグルズ。この名を恐れぬならば、かかってくるがいい」
「我が名はクレア・シュルツ! 行きます!」
クレアのかけ声で、生徒たちと海賊は一斉に戦闘を開始した。
恵とエーファは互いに死角をカバーし合って戦う。エーファは海賊にホーリーメイスで攻撃して隙を作り、恵の光条兵器による射撃が当たりやすくなるようにする。恵は襲ってきた者に対してのみ拳銃型の光条兵器で応戦し、逃げる者は追撃しない。その代わり、逃げようとしない者には一切の容赦もしない。ルトラ族の村を襲うのは割に合わない、と思わせるためだ。
竜花はドラゴンアーツ以外の近接攻撃手段をもっていないため、味方の回復とルトラ族の子供たちを守ることに専念する。
「海賊と戦って暴れた方が楽しいじゃねぇか。お前ってよく分かんねえな」
不満そうな神山に、竜花は「海賊を倒すことも大切だけど、何よりもルトラ族を守ることが大切だから」と言う。
「仕方ねえなあ」
他人はなんとしても守ろうとするのに、自分のことは一向に守ろうとしない竜花を見て、神山は自分が竜花を守り抜くことを心に決めた。
クレアはと言うと、実は火術以外の攻撃手段をもっていなかったのだが、竜花の手前火術を使うわけにはいかない。かといって勇ましいところを見せてしまったので何もしないわけにもいかず、むなしくワンドで海賊を殴りつけていた。
シグルズは前衛を担当し、敵の足止めと、アルツールが魔法を唱えるための時間稼ぎを行う。
「この魔法なら目立たないであろう」
アルツールは、敵が重なるところに的確にアシッドミストを当てていった。
数では海賊たちの方が勝っていたが、生徒たちの海賊に対する怒りとルトラ族を守りたいという強い思いは、そのハンデを補ってあまりあるものだった。海賊は一人逃げ、また一人逃げる。ついにはルトラ族の村から海賊はいなくなった。
生徒たちは抱き合って喜び、互いの健闘を称え合う。
「思ったより骨の折れる引率であったな。だが生徒たちにとってはいい訓練になったであろう。校長にはいい報告ができそうだ」
その光景を見て、アルツールはようやく少し表情を緩めた。
クレアがルトラ族の夫婦のもとに子供たちを返すと、子供たちは夫婦に泣いて抱きつき、夫婦は涙を流してクレアに礼を言う。ルトラ族たちは大喝采を浴びせた。
だがクレアは竜花に手を差し向けて言う。
「お礼ならこの方に言ってください。自分が傷つくのもいとわないで子供たちをひたすら守り続けたんですよ」
「そんな。私はただ当然のことをしただけよ。それよりメメにカカ、どうして村に残ってたの?」
竜花が子供たちに尋ねる。
「あのねー、かくれんぼしてたの。でも誰もいなくなっちゃったから寂しくて。それで、海賊さんが来たから出てきちゃったの」
それを聞いて夫婦は子供たちを叱ったが、丘の上には笑い声が溢れていた。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
Next Last