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空賊よ、風と踊れ−フリューネサイド−(第2回/全3回)

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空賊よ、風と踊れ−フリューネサイド−(第2回/全3回)

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第2章 真夜中戦線異状なし・後編



 時刻が午前一時を回った頃だろうか。
 弥涼総司(いすず・そうじ)は警護で巡回する生徒の隙を突き、バリケードを乗り越えた。
 身につけたブラックコートの下は生まれたままの姿。これはあくまで気配を最小限に抑え込む手段であり、マイバナナを見せつけて女子にキャーキャー言われたいわけではないのである。たぶん。
 フリューネのテントの前で、パートナーの飛良坂夜猫(ひらさか・よるねこ)と合流した。
「風呂はこの裏じゃ。ちょうど今、フリューネが入っておるぞ……」
 背に『雷神』の入れ墨を施したエキゾチックな女性だ。
 総司が師と仰ぐ彼女は、修行の一貫として彼に今回の任務を与えたのだった。
「見ていてくれ、師匠。必ずフリューネさんのバストサイズを計測してみせる」
「ククク……、安心せい、骨は拾ってやるぞ」
 修行でなくとも、のぞき部部長として、巨乳ハンターとして、やり遂げねばならぬことだった。

 小さなランタンが、ぽつんと置かれたドラム缶風呂を照らしている。
 湯に漬かり披露を癒すフリューネの前に、コートをこれでもかと翻して総司が登場した。
「オレがやらねば誰がやる! フリューネさん、おっぱい測らせてくれ!」
 メジャースケールを振り回し、ついでに股間のバナナも大回転させ、フリューネの巨峰や桃に迫る。
「な、な、な、な……、なんの騒ぎ!?」
「た、大変です! だ、誰か! 男の人を呼んで下さい!」
 護衛のサクラコ・カーディは悲鳴を上げると、人を呼びに飛び出していった。
 その一瞬の隙に、総司は超感覚で野獣の鋭敏さをその身に宿す。
 フリューネの視線が動くのを捉えた。傍らのハルバードに手を伸ばそうとしている。先の先を取り、ばばっと瞬時に気を練り上る。彼は掌を突き出し「破ッ!」と遠当てを繰り出した。
 ドゥンと言う音と共にハルバードは弾き飛ぶ。
「もらったぁ!」
 その隙に肉薄した彼は、フリューネと組み合う。互いの掌を合わせるグラップル状態だ。
「……あんまり調子に乗らないでよっ!」
 組み合った状態のまま、フリューネは指をバキバキと粉砕していく。
「そうくると思ってたぜ。けどな……こんな痛みで引き下がるオレじゃねぇーんだ!」
 カッと目を見開き、湯の中のフリューネの裸体を視る。残念ながら照明の暗さのため、湯の中に如何なる楽園が広がっているかは不明だ。だが、それがいい。見えない部分を妄想し、指の痛みを緩和させる。
 ガチンガチンとなった彼のバナナは、釘が打てそうだった。

「大丈夫ですか、フリューネさん! 恐るべき変態が出たと……!」
 夜警を務めていた風祭優斗は、風呂場に駆け込んだ。
 ほとんど全裸の侵入者の出で立ちに、優斗はゴクリと息を飲んだ。
「どうやら真性のようですね……!」
 ちなみに真性の変態の意味であって、彼は股間を見て言ったわけではない。
「……ったく、明日も早いってのに、元気が有り余ってるみてぇだな」
 優斗と一緒に駆けつけた武神牙竜(たけがみ・がりゅう)は、吐き捨てるように言った。
「のぞき部部長、弥涼総司! そこまでだ! こいつはもう、のぞきどころの騒ぎじゃねぇぞ!」
 特撮ヒーロー・ケンリュウガーの衣装を纏う彼は、少なからずのぞき部とは因縁がある。
 牙竜は八卦の紋章が描かれたカードを天に向けた。
「ここで会ったが、ゴーライセーンッ!!」
 牙竜の放った轟雷閃は、ドラム缶風呂をかすめて、総司だけを吹き飛ばした。
 総司は避けようと試みたものの、フリューネにガッチリと手を押さえられ、如何とも出来なかった。バナナを地に擦り付けながら転がった彼は、すかさず牙竜と優斗に取り押さえられた。
「く、くそ……、不覚を取ったぜ……」
「生身で轟雷閃は効いたハズだ。さあ、立て。話は向こうのテントで聞かせてもらうからな!」
「そのまま押さえといて!」
 牙竜が顔を上げると、バスタオルを巻いたフリューネが走ってきた。
 総司の首筋にハルバードの刃を当て、位置を定めると、そのまま勢い良く振り上げた。
「ま……、待て、フリューネ! しょ、処刑はマズイだろ!?」
「問答無用! ロスヴァイセの名にかけて、この屈辱は死を持って償わせるわ!」
 二人が押し問答をする中、当の元凶は薄れゆく意識で、どこかにいる同志に呟いた。
「みんな……、おっぱい、好きか?」

「総司め……、しくじったか」
 物陰から様子を伺っていた夜猫は、相棒の救出方法について考えを巡らせた。
 すると、そこに自分と同じように様子を伺っている女子の姿を見つけた。桐生ひな(きりゅう・ひな)と、その相棒であるナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)だ。
「部長……、ご立派なのです。ただの暴漢と呼ばれようと、その勇姿を忘れませんっ」
 のぞき部新入部員のひなは、物陰から野球少年を見守る姉のごとく、感動に打ち震えていた。
「ひな、ひな、そこで良いものを拾ったのじゃ」
 楽しそうに相棒を呼ぶナリュキの手には、どこかで見覚えのある衣装があった。
「……それ、フリューネさんの服じゃないですか?」
「うむ、そこのカゴに落ちておったのじゃ」
 ナリュキの故郷では、カゴの中に服を入れておくのを、落ちてると言うそうだ。しかも、着替えに同じ服が置いてあったのに、彼女は脱いだほうを持ってきた。我々の業界で言う『通』である。
「一度、あの衣装を着てみたいと思っておったのじゃー」
「で、でも、大丈夫ですか? バレたら部長の二の舞に……」
「おぬしら、そこで一体何を……?」
 ふと、夜猫に声をかけられ、二人は脊髄反射で逃げ出した。
「み、見つかってしまったのです……っ!」


 ◇◇◇


 どりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)は、消灯したフリューネのテントに忍び寄った。
 物音を立てずに侵入すた彼女は、小高く膨らんだ布団を見て、満面の笑みを浮かべる。
「美人とは色んな意味でお近付きになっておかないとね……」
 そっと布団をめくり潜り込む。
 どりーむが体温を求めてもぞもぞしていると、マシマロのような胸が頬に触れた。ふわふわの感触に気を良くした彼女は、マシマロの出所を辿り、柔らかな身体を優しく抱きしめる。
「……うふふ、良い夢が見れそう」
 どりーむが目を閉じてしばらく時が流れると、不意に周囲が明るくなった。
「……あれ、もう朝ですか? フリューネさん、昨夜は良かったですよ……」
 寝ぼけ眼でどりーむがむにゃむにゃ言うと、唐突に布団があばかれた。
「ね……、寝苦しいっ!」
 フリューネは起き上がった。
 しかし、どりーむは今もなお誰かに抱きついてる。すると、これは誰なのだろうか。
「どりーむちゃん……、フリューネさんより、私を選んでくれたの? 嬉しい……」
 どりーむのパートナー、ふぇいと・てすたろっさ(ふぇいと・てすたろっさ)が頬を赤く染めていた。
「なんで、ふぇいとちゃんがここにいるの?」
 どりーむは目をぱちくりさせた。
 彼女にはテントの侵入の手引きと見張りを頼んでいたのだ。だが、寂しさに耐えきれなかったのだろう。どりーむがうとうとしてる間に、布団に忍び込んでいたようだ。
 しかしまあ、フリューネ的にはそんな理由は知ったことではない。ジロリと二人を睨む。
「あ……、あの、ごめんなさい。この子怖がりで、甘えんぼで、怒るなら私を怒ってください……」
 ふぇいとが目に涙を溜めながら謝ると、フリューネは背後を指差した。

「この子もキミ達の仲間?」
 二人は顔を見合わせた。仲間と言われても、心当たりはない。
「あぁん……、夜はまだ冷えますわ。お布団を取らないでくださいな」
 そこには佐倉留美がいた。シースルーのネグリジェに身を包み、艶かしく肢体を披露している。
「……で、キミはなんなの?」
「あら、連れないお言葉。この前、わたくしの太ももで鼻血を流しておられましたのに……」
「ち、違うわよ。あれは……」
「一匹狼を貫いてますと、夜の性活はお寂しいんじゃありません? あなたさえ良ければ、わたくしが寂しさから開放して差し上げますわ。夜はまだ長いですからね、ゆっくり楽しみましょう……」
 息を吹きかけるように耳元で囁いた彼女は、他に二人の少女がいるのに気が付いた。
「あら……フリューネさんったら。こんなに可愛らしい子をはべらせて……」
「英雄、色を好むって言うもんね……」
 留美とどりーむにうっとりと見つめられ、フリューネは深く深くため息を吐いた。
「……あのさぁ、眠れないから出てってもらえないかなぁ」
 眠たげな目こすりながら言うと、ぺろりとテントの入り口がめくれた。
「フリューネさん、眠れないですかー? ボクにお任せですよー」
 とことこテントに入ってきたのは、出雲たま(いずも・たま)である。
 ドラゴニュートのお子様である彼だが、真っ白なふわふわの毛で覆われているため、なんだか別の生物のようも見える。彼はよちよちと一所懸命布団をよじ上ると、ちょこんとフリューネの膝に飛び乗った。
「フリューネさんフリューネさん、もふもふしてくださいませー」
 彼は邪念なくフリューネに抱きつき、そのふかふかの身体で眠りを誘おうと頑張った。
「……ちょっと気持ちいいかも」
「うにゅ、良かったら、子守唄もプレゼントしますよー」
「かわいい子ですね……、ねぇ、あなた、契約者は? 一人で夜中に出歩いたらいけませんよ?」
 ふぇいとが訊くと、彼は意味を理解してるのかいないのか、ふにゅっと首を傾げた。


 ◇◇◇


「やっぱ女の子の寝顔って癒されるよなぁ、リョウちゃんほっこり〜ってか」
 たまの契約者、出雲竜牙(いずも・りょうが)はフリューネテントの真上にいた。
 忍び装束を纏った彼は忍者の末裔だ。先祖伝来の秘術を駆使し、テントの天井に小さく穴を空け、こっそりフリューネの寝顔を盗撮していたのだ。ご先祖様はきっと涙が止まらないことだろう。
 ちなみに彼はモニカ・アインハルトの契約者でもある。
「フリューネは天使の寝顔だね。ワルキューレの名を冠するだけはあるなぁ……」
 デジカメで撮った写真を、その場でチェックしている。
 バレるとアレなので、フラッシュは使用出来ない。画質が気になるが、彼はそれでもご満悦だ。
「そこのおぬし! 何をしておるのじゃ!」
 テントの上にあぐらをかいてる彼を、留美の相方、ラムール・エリスティア(らむーる・えりすてぃあ)が発見した。
 彼女は留美に頼まれて夜間警護の任についていた。体よく追い払われたとも言うが。
「こんな時間まで警護とは、お疲れさん。あとはこの俺に任せてくれ。いかな手練と言えども、女性の野宿は危険だからな。女子の清らかな貞操は、この出雲竜牙、夜を徹してお守りするぜ!」
 親指をおっ立てた竜牙であったが、ラムールは掌に炎の粒子を集め始めた。
「女子のテントの上で、デジカメをぶら下げた男を……、信用できるかっ!」
「話のわからん女子だな。睡眠不足はお肌の大敵だぞ!」
 ラムールの放った火術をひらりと避け、竜牙は不気味に瞳を輝かせた。
 彼の後方の闇がどんどん濃くなっていく。耳に障る無数の羽音にラムールが目を凝らせば、彼の背後を羽虫の群れが覆い尽くしているのだった。しかも、一匹一匹が猛毒を持つ、毒虫の群れである。
「む、虫じゃと……」
「さあ、けしかけられる前に大人しく帰って、朝まで天使の寝顔をさらすんだな!」
 高らかに笑っていると、一条の閃光がが彼の胸を貫いた。
「……あ、あれ?」
 急に熱を帯び始めた胸に目をやる、そこにはぽっかり穴が空いていた。
 付近の遺跡の屋上に、狙撃者の姿があった。
 レン・オズワルドのもう一人の相棒、ザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)だ。
 隠れ身のスキルと身に纏ったブラックコートで、彼女は気配を殺す。コートの下にはダークスーツを着用し、トミーガンを構える、その出で立ちはマフィアの女ボスのようだった。
「安心しろ、このパーティーの中にはヒールを使える奴がきっと居る筈だ。きっとな……」
 竜牙を撃ったのは、彼女のヒロイックアサルト『魔弾の射手』だ。これは言ってみれば、誘導弾を繰り出す技である。弾丸に込めた魔力で、目標探知して撃ち抜くのだ。
 夜間の警護を任された彼女は、フリューネに迫る不届き者をここから狙撃する。
「だ、誰じゃ……、本気で撃ったやつは……」
 その頃、テントから転げ落ちた竜牙を前に、ラムールが呆然としていた。
 とめどなく赤黒い血が流れ出しているが、幸い急所を外れてるらしく、命に別状はなさそうだ。
 テントから出てきたフリューネ達も、何事かと竜牙を見つめている。
「きゃー、ふぇいとちゃん。隠し撮りされてるよー!」
 突如、どりーむが声を上げた。落ちていたデジカメを見てしまったようだ。
「……邪魔が入らないよう、バリケードを作りましたのに。……殿方の好奇心は底なしですわね」
 留美は呆れた顔で呟いた。