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空賊よ、風と踊れ−フリューネサイド−(第2回/全3回)

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空賊よ、風と踊れ−フリューネサイド−(第2回/全3回)

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第3章 探検! 発見! 空の街!・前編



 翌日、遺跡の本格的な調査に乗り出した。
 その正午過ぎのことだ、ある高層遺跡の一室に壁画を発見したのは。おそらくキャンプ地にあった壁画に連なるものだろう。描かれているのは、光に包まれた翼を持つ女性。彼女は天に両腕を捧げている。
「なにかを記録したもののようだが……、何を意味しているのだ?」
 エリオット・グライアス(えりおっと・ぐらいあす)は口元に手を当て思案した。
「フロイライン・フリューネ、何かわかるか?」
「うーん、これだけだと、なんとも言えないわね」
 フリューネも考え込んでいた。
 壁画がユーフォリアに関するものなのかすら現段階では不明だ。
「情報が足りんな。ユーフォリアの伝承は残っていないのか? 在処に関するものとか?」
 トレードマークである緑色のマントを返し、彼は眼鏡を押し上げた。
「蜜楽酒家で噂されてるものが全てよ。ただ、タシガン空峡にあるのは間違いないわ」
「まあ、地道に脚で稼ぐしかないだろ。これだけデカイ遺跡なんだ、手がかりはあるって」
 ウィルネスト・アーカイヴス(うぃるねすと・あーかいう゛す)が、ポンと彼女の背中を叩いた。
「……ところで、フリューネたん。噂によると彼氏いないんだって?」
「も、もう広まってるの?」
「実は俺年上が好きでさぁ。試すだけならタダだろ、俺なんかどうかなぁ? 尽くすぜぇ?」
 自信まんまんに己の胸を親指で指す彼に、フリューネは苦笑いを浮かべた。
「気持ち嬉しいけど、ユーフォリアを見つけるまでは……」
「と言うことは、逆に……」と、ウィルネストは考えた「ユーフォリアを見つけたら付き合えんの?」
 エリオットは見かねて咳払いをした。
「ウィルネスト、女性の探求もいいが、まずはこの遺跡に探究心を注いだらどうだ?」
「別に遊んでるわけじゃねーって、ラブのために頑張ってるっつーの」
 ウィルネストは壁画の前に立ち、その博識を持って調べ始めた。
「随分、古い年代のものだな……、2000年、いや、5000年前か……?」

「……他の部屋も回ってきたけど、メボしいお宝はないみたいだよ」
 ベランダ伝いに調査していた水上光(みなかみ・ひかる)が戻ってきた。
 石造りの手すりに腰を下ろし、地上10階からの景色を見渡した。遺跡の上に広がる青空は美しい眺めだ。
 フリューネもベランダに出て、同じ空を見ている。
「義賊かぁ……、いいなぁ、ボクも憧れるよ」
「信念さえあれば誰にでも出来ることよ、キミにだってね」
 そう言われると、光は目をぱちくりさせた。
「そっか、頑張ってみようかな……。そうだ、色々話を聞かせてよ、武勇伝とか」
「武勇伝か……、でも、自分でそれを語るのって様にならないわよ」
「……それはまぁ、確かにかっこわるいかもね」
 光は目を泳がせつつ、自分の質問を撤回した。
 武勇伝とは自ら語るものではなく、誰かが語り継いでくれるものだ。一人前の男を目指す彼にとっては、ちょっとした教訓となった。ただ、フリューネから男らしさを教えてもらったとは、誰にも言わないほうがいい。
「光さんは楽しそうですわね……」
 隣室から、光の相棒、モニカ・レントン(もにか・れんとん)が恨めしそうに言った。
 この恨めしさは、自分だけ仕事をしてる事が半分、光と談笑するフリューネへの嫉妬が半分である。
「ああ、ごめん。何か見つかった?」
 モニカは首を振り、部屋の奥を指差した。
「それより、ビビさんを何もしないうちに、なんとかしたほうが……」
「これなんだ! なんだ、光!」
 もう一人の相棒、 ビビ・タムル(びび・たむる)の声と共に、何かが崩れる音が響いた。
 どうやら忠告は遅かったようだ。光が慌てて部屋に入っていくと、フリューネの耳にどこからか声が聞こえてきた。きょろきょろと周囲を見回すと、手すりに小さな女忍者が立っているではないか。
 身長20cmの機晶姫、霧雪六花(きりゆき・りっか)である。
「取り込み中すまない。向かいの遺跡で発見があった。来てくれないか?」


 ◇◇◇


 メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は、手帳に地図を書き記していた。
 遺跡の窓から周辺を見渡し、建物の形状や場所も丁寧に書き込む。助手を務める契約者のエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)はカメラを片手に、遺跡の内部の写真を記録していった。
 どうやらエースよりもメシエのほうが、遺跡に興味を持っているようだ。
「……ユーフォリアは特別性の飛空艇みたいな物かもしれないね」
 注意深く観察しながら、思いつきをエースは口にした。
「飛空艇も古代の遺産だって話だしさ。……まあ、そういう物って所有者を選んだりするらしいけど」
「実際見てみないと何とも言えないね、こうだと決めてかかるのもどうかな」
 パンと手帳を閉じると、二人は階下に降りていった。
 この遺跡は『ロの字型』になっている。中央に庭園があり、その周囲に8階ほどの居住空間があるのだ。
「やあ、フリューネさん。早かったね」
 発見の報を聞いて来たフリューネに、エースは手を挙げた。
「何か見つかったんだって?」
「ああ、こっちだよ。フリューネさんが来てから始めるってさ」
 雑草の生い茂る庭園で、ファタ・オルガナ(ふぁた・おるがな)シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)が待っていた。フリューネを呼びに来た六花はシャーロットの相棒だ。
「来たか、では始めるとしよう」
「ファタ、だったわね。発見したのって、キミだったんだ?」
 面識があったので名を呼ぶと、ファタはにやりと笑った。
「うむ。庭に転がった瓦礫の下に何かあるようなのじゃ」
 彼女のトレジャーセンスに響くものがったらしい。瓦礫の前に手をかざし、奈落の鉄鎖を使って、それを中空に持ち上げた。床下はタイルばりになっており、そこに二人の女性が描かれていた。
 また、意味する所は不明だったが、ここでファタが博識を披露した。
「このおなご……、高貴な身分のようじゃな。大分色褪せてはおるが、衣装を描くのに多くの塗料を使った痕跡がある。それに、この女性の頭にあるのは冠には見えぬか?」
「……言われてみればそう見えるわね」
「冠が示すものは女王だと思うけど。でも、二人いるのが、気にかかるね……」
 メシエは閃きを書き留め、エースに壁画の撮影を促した。

「おおい、何か見つかったのか?」
 奥から高村朗(たかむら・あきら)とその相方ルーナ・ウォレス(るーな・うぉれす)がやって来た。
 二人のほうは大した収穫はナシだ。わかったのはこの遺跡が、古王国時代のものであると言う事。考古学を学んでいた朗であるが、さすがに年代測定以上のことは、古代シャンバラ史に精通しなくてはわからない。
「へぇ……、こりゃ見事な絵だ。上手くやれば色彩の修復も出来るかもな」
「よくわかりませんけど……、これは重要なものなんですか……?」
 目を輝かせる朗とは対照的に、ルーナはあまり興味はないようだ。
 おそらく朗に引っ張られて、戦艦島まで来てしまったのだろう。
「……気になりますね」
 ふと、シャーロットが口を開いた。
 マロンブラウンのインパネスコートを着た彼女は、ハッカパイプをくわえて絵の周りを回った。その風貌はさながら、19世紀ロンドンの名探偵。幼さも残る顔つきの少女であるが、所作は落ち着き払っている。
「絵も興味深いですが、こちらの瓦礫が気になります。目算が正しければ、一枚の石版だったようです。絵の横に添えられていたのでしょう。ファタ、すみませんが、これとそれ、こっちを組み合わせてもらえませんか?」
「これでよいのか?」
 奈落の鉄鎖で破片を正しい位置に持ってくると、髑髏の紋章が浮かび上がった。
「……やはり思った通りでした」
「……お、鏖殺寺院の紋章じゃないか!」
 声を上げたエースを余所に、シャーロットは庭園から遺跡を見上げた。
「つまり、この戦艦島は鏖殺寺院の遺したものだということですね」
 一同が不吉なものを感じる中、フリューネだけは興奮した様子で紋章と絵を見比べていた。
「そ、そうか……、じゃあ、ユーフォリアはやっぱりここに……」
「あー、フリューネさぁん! 見つけたですー!」
 沈黙を破り、上から空飛ぶ箒に股がった土方伊織(ひじかた・いおり)が滑空してきた。
 伊織は上空からの調査を行っていた。現在、島の中央付近だが、高層遺跡が密集しているため、中央部がどうなっているのか不明である。高高度から調査した伊織は、妨害もなく無事に幾つかの情報を得て帰還した。
「この先に高台があるですが、そこにおかしな遺跡を見つけたのですよ」
「……どんな遺跡だったの?」
「ええと、屋根の所に紋章があったのですが……、あ、そうそう、これがあったのです」
 そう言って、復元された鏖殺寺院の紋章を指差した。
「その遺跡に何人かの人影がありましたです。遠目だったので何者かはわかりませんけど……」
 報告を受けると、フリューネの顔に焦りが見られた。中央遺跡になにかがある事を確信している様子だ。
「ユーフォリアを……、誰かに渡すわけにはいかない……っ!」
「はわわ。一人じゃ危ないです。親衛隊に招集をかけてから皆でって……、あー」
 フリューネは大きく翼を広げると、中央遺跡に向かって飛んでいった。


 ◇◇◇


 ある遺跡の一室に、ナリュキ・オジョカンはいた。
 昨晩、風呂場にて窃盗……ではなく、拾ったフリューネの衣装に袖を通すと、どことなく甘い香りがした。我ながら良く似合うと思ったが、胸だけは有り得ないぐらいきつかった。
「……フリューネの奴、意外と小さいのじゃのぅ」
 そうナリュキは言うが、これは大きなミステイク。
 彼女の胸は決して小さいわけではない、どちらかと言えば大きい。
 ただ、ナリュキはもっと大きい。大きめの胸を経て、巨乳を経て、魔乳の領域に達した彼女のそれと比べるのはいささか酷と言うものである。ドージェ・カイラスと山葉涼司ぐらいの開きがあるのだ。
「やっと会えたね、フリューネさ……ん?」
 ふと、背後から声が聞こえた。
 振り返ると、赤毛の女の子が呆然と立っている。
「え、え……これ、どういうこと?」
 彼女の目はナリュキの胸に釘付けになっており、わなわなと震えているようだった。
「はあ、はあ……やっと見つけたのですっ」
 赤毛の女の子の後ろから、息を切らせながら、桐生ひながやってきた。
「そろそろそれを返しに行かないと、まずいと思うんです……」
「落ちておった服を着ただけじゃ、何も問題ないと思うがのぅ。アレじゃ、タンスに眠ってた服を出してあげたようなものじゃ」
「違いますっ、それは断じて違います……っ」
 二人がの話し合いが泥沼の様相を呈する中、赤毛の女の子は怒りの声を上げた。
「フリューネさんの服を泥棒するなんて……あたし、許せないっ! それはあたしのよ!」
 彼女はどうやら二人の会話から、全てを悟ったようである。恐るべき洞察力だ。
「おおっ、何をするのじゃ」
 おもむろに彼女は服を引っ張り、ナリュキからフリューネの服を無理矢理脱がせようとする。
 脱ぐことはやぶさかではないし、可愛らしいこの赤毛の女の子に脱がされるなら嫌ではない、ただ、ナリュキはもうちょっとこの服を着ていたかった。二人はくんずほぐれつの取っ組み合いとなり、ひなに止められた。
「いい加減にしてくださいっ、それはどちらのものでもなくて、フリューネさんのですっ」
 その一言が戦争を終結に導いた。
 どうやらこの赤毛の女の子は、ヨサーク側の依頼を受けてきた生徒らしいのだが、何かフリューネへの気持ちが昂ってしまって、彼女に会うため戦艦島をさまよっていたらしい。彼女の溢れる愛の重さに若干、ひき気味のひなであったが、ヨサークの元に戻るよう説得すると、泣く泣く遺跡をあとにしたのだった。


 ◇◇◇


 遺跡調査班が調べている間、ペガサスと世話係の琳鳳明は外にいた。
 もちろん、ペガサス好きなかの生徒たちも同行している。から目を放すわけのない生徒たちもいる。リリ・スノーウォーカー、ユリ・アンジートレイニー、ララ サーズデイ、鬼院尋人の四人だ。
「冷静に判断して、フリューネは我々をズッコケ3人組としか見ていないのだよ」
 ペガサスを愛でながら、リリはパートナー達に言う。
「ひどいですぅ」
 ユリが同意すると、ララは提案する。
「ここはひとつ、我等の実力をフリューネに見せ付けてやらねば」
 ユーフォリアの獲得、空賊狩りの撃退……、彼女を認めさせる手段を模索する三人。
 と、その時である。
「油断大敵だぜ!!」
 軍服風の改造ツナギを着た少年が、物陰から奇襲を仕掛けてきた。
 こちらが身構える隙を与えず、少年は手をかざしサンダーブラストを放つ。
「くっ……、この美しい生き物を傷付けさせはしない」
「え、エネフ! あんたは俺が絶対に守る!」
 咄嗟に、ララと尋人はペガサスを庇った。
 防御態勢を整える間もなく、二人はただペガサスの前に出た。右腕をほとばしる稲妻が、ララのガントレットを吹き飛ばし、尋人も金属製の防具を貫く電光に、その身を容赦なく引き裂かれていた。
 そのダメージは思いのほか大きく、二人はその場にうずくまった。
「この人、ペガサスを狙ってきてます……!」
 鳳明は、光条兵器の穂先のない長槍を構えた。
 ツナギ少年が合図を送ると、学ラン姿の三毛猫ゆる族が、少年の頭上を飛び越えてきた。
 その手には大量の爆薬が抱えられている。
「ララを傷つけた事を後悔させてやるのだよ……」
 リリは無表情の奥に怒りの炎を燃やし、瞬時に生成した拳大ほどの炎を、爆薬目がけて発射した。
 空中にいた彼が避けられるハズもない。大地を揺るがす衝撃と共に、二人の敵対者は爆発に飲まれた。煙が晴れるまで、しばし待つと、黒こげになった彼らが地面に転がる様が目撃出来た。
「フリューネさんにペガサスを任されてるんです! 酷い事したら承知しませんから!」
 鳳明はここぞとばかりに長槍で、二人を滅多打ちにしたのだった。