イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

魂の欠片の行方2~選択~

リアクション公開中!

魂の欠片の行方2~選択~

リアクション

ラストへのプロローグ 絶望と希望

「あああああああああああああああ………………!」
「落ち着け! 頼むから落ち着いてくれ! ファーシー!」
 ファーシーは叫び続ける。銅板である彼女には声帯も無く呼吸も必要無い。だから、その声が止まることも、無い。
「このっ……!」
 ラスは透乃から銅板を奪い、短剣の切っ先を突きつけた。やはり殺すしかない。殺すことでしか救えない。最初から、その道しかなかったのだと。
 だが、ふとその手が止まる。
 ファーシーの声が、いつのまにか消えていた。先程のように自己防衛のための悲鳴を上げることもなく、それこそ死んでしまったように。短剣に貫かれることを待っているかのように。
「…………」
「……死ぬのか?」
 皐月が静かに言う。
「これだけの人達が、あんたの為に集まっている。あんたに生きてほしいと思っている。皆の話は聞いてたろ。その想いを無視するのか? それでも……死ぬのか?」
「聞いてた……みんな言ってたわ……わたしは全てを知るべき……その上で、わたしが未来を決めるべきだって……わたしが決めて良いんでしょ……? それなら……わたしは死を選ぶわ。二度と直らない世界へ行く。ルヴィさまと同じ場所へ」
「ファーシー!」
 シルヴェスターが駆け寄ってくる。ルイとリア、プレナとソーニョ、ティエリーティア。皆、悲しみが弾けそうなのを堪え、ファーシーを見つめている。
「あんたの中には、ルヴィしか居ねーのか? 彼だけが全てで、他はどうでも良いのか? あんたを大切に想っているのは、ルヴィだけじゃない」
ファーシーは沈黙し――やがて、言った。
「ごめんね……」
「……オレは、鏖殺寺院だ」
「え……!?」
 言うや否や、皐月はルーシュチャに意思を伝えて封印解凍を使用させた。抑制されていた力が開放されたその腕で、ソルダを殴り飛ばす。
「…………!?」
 訳の分からないままにソルダは吹っ飛んで民家の壁に激突し、動かなくなった。皐月は生徒達をざっと見回して、冷笑する。
「……顔は覚えた。今日は多勢に無勢だから止めといてやる。けど……あんたに関わる全ての人を殺してやるよ。絶対に」
「あなたが……鏖殺寺院……?」
「憎いだろ? オレ達が襲わなければ、あんたが銅板になることも、ルヴィが死ぬこともなかったんだ」
 離れた位置にあった軍用バイクを目指す。七日は、既にサイドカーに乗っていた。バイクに飛び乗り、一目散に出口に向かった。
「……この愚図。また随分と愚かな行いをしたものです」
「うるせー……」
 ハンドルに体重を預けてだらりとしつつ、皐月は呟く。
「悲しみを全部、引き受けたって大丈夫。手加減なんて要らない」
『死を恐れる道化は、他者の死をも恐れるか。下らんな。生も死も所詮は視座の違いに過ぎん。その為に罪業を背負うとは……無様だな、道化。それでこそ私が観るに相応しい。力なら貸してやる。精々愉快に踊るが良い』
 ルーシュチャは皐月にヒールをかける。その高笑いを聞きながら、思う。
 ――誰かに死なれるより、恨まれた方が億倍マシだ。
 そして彼女には、自分の意志で生きて欲しい。
 それがどんな物でも、生きている限り間違いは正せるのだから。
 だから今は、オレを恨んで……生きてくれ。

「彼が……鏖殺寺院……」
 ファーシーの声が一段低くなる。恨みによるものなのは明らかで、誤解を解こうと、ラスはファーシーに声を掛けようとした。皐月が本当に鏖殺寺院であるとは、到底思えなかったからだ。だがそこで、携帯電話が着信を告げる。相手はルカルカ・ルー(るかるか・るー)だった。地下に行っていた環菜達も戻り、全員が製造所の跡地に集まっている。跡地には、集められた遺体と、仕分けされたパーツ類があった。今は、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)和原 樹(なぎはら・いつき)レン・オズワルド(れん・おずわるど)アーキス・ツヴァインゼファー(あーきす・つゔぁいんぜふぁー)達が遺体の埋葬を始めている。弁天屋 菊(べんてんや・きく)ガガ・ギギ(がが・ぎぎ)も、率先こそしないものの手伝っていた。
 ルミーナは、ルヴィの家での遺品を抱えたまま、地下での報告を聞いてショックを受けていた。ルミーナの携帯を耳にあて、報告する。
「製造所が襲われた理由が分かったわ! 地下に、戦闘用と思える大きな機晶姫が……」
『今、その話題は勘弁してくれ……』
「どうして? 大変な発見なのよ! 5000年前に……」
『だから、それどこじゃねーって言ってんだよ!』
「何? 何があったの? まさか、ファーシーが鍋に……!?」
『ちがう』
 ラスの説明を聞き、それを全員に伝えるうちに、ルカルカの顔が強張っていく。
「……ちょっと、電話をファーシーにくっつけて」
『はあ?』
「いいから、ルカルカの声が届くように電話をくっつけてって言ってるの!」
 こんこん、と金属と電話が接触する音がする。それがおさまった時、ルカルカはファーシーに話しかけた。誰何され、聞こえていることを確認すると自己紹介してから言う。
「コギト・エルゴ・スムという言葉があるわ。意味は、我思う故に我あり」
『…………』
「ただ、生き物は心と体で出来てる。色即是空空即是色とも言うけれど、実際、肉なくして命は成り立たない。人工知能は命たりうるかとの命題は、知能なれど生物に非ずが結論よ。貴女を生物にする為必要な物は体。生物として未来へ生きる為必要なのはパートナーの死を受け入れる事。自分を受け入れる事。体は何とかなるわ。こっちで予備パーツも結構見つかったし、専門の技師も協力してくれることになってる。
 ファーシーの生きられる未来はちゃんと在る。最後にもう1回だけ、考えてみて。それでも死を選ぶというのならルカルカは止めない」
『でも、わたしは……わたしのせいで……』
「私にも、話をさせてくださいますか?」
 風森 望(かぜもり・のぞみ)が、ルカルカに手を差し出す。電話に向かって、望は言った。
「ファーシーさん、風森望です。覚えていますか? あの時は、ルミーナさんの護衛をしていたのですけれど」
『……ええ』
「私は、真実を話した上で本人に決めさせるべき、と思っていました。その真実が、予想以上のものであったことには驚いています。あなたが苦しむのも当然です。でも……」
やはり、彼女が自殺や記憶消去するような事は許せなかった。
「――彼の事を、想いを、あなたが覚えていないでどうするのです!」
『…………!』
 ファーシーは、絶句した。そして、脳天を殴られたような気持ちになった。
「わたしは……」
 フリードリヒ・デア・グレーセ(ふりーどりひ・であぐれーせ)が、ファーシーに近付く。
「大事にすべきなのは過去より今だぜ? その今というタイミングに、自分を思ってくれる人を大切にするべきだろ」
「…………」
「今おまえは生きてんだ、それが最重要事項だと俺は思うけどな?」
「生きてる……」
「そーゆーこと」
「わたしは……生きていて良いの……?」
「まだ、やり残したことがあるんじゃねーのか? ファーシー」
 トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)も言う。
「……やり残したこと……? うん、ある……いっぱい……ある……」
「やりたいことがあるなら、あなたの町の便利屋さんロックスター商会に任せておきな!」



 廃墟にある礼拝堂。今でも暖かいその中は驚くほど綺麗で。
 誰かの魂を祝うために。
 誰かの魂を送るために。
 準備を整えているように見えた。
 救いを求めるものが絶えないことを、知っているかのように――



 銅板を彼らに任せ、ラスは村長に声を掛けた。村長は放心したように座り込んでいる。
「わしが間違っていたのじゃろうか……」
「知るか。てめーで考えろ。まあ、あんたは悪い奴じゃねーよ。これだけ慕ってくれる奴がいるんだから」
「村長! 身体にくっつけてたガラクタどこやったんですか!」
「村長! あれ高く売れるのもありましたよ!」
「村長! まだごほうびもらってないよ! はやくちょうだい!」
「おまえたち……」
 慕われてるのか? これ……
(さて、帰るか……)
 置きっぱなしだった小型飛空艇に向かうラスに、スナジゴクが飛び掛ってきた。正面からがっちりと抱きつかれた格好だ。
「な、何だ!?」
「キャリー……そいつは……おまえが好きなそうだ……甘えてやると……喜ぶぞ……」
 アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)が言うと、キャリーという名前らしいスナジゴクは消化液を吐き出してラスの顔まで上ってくる。
「……! ちょっ……来んな来んな! やめろ! バカ! 虫だけはダメだって……おいおまっ……一体俺に何のうらみが……!」
「ポリューシュ……行け……」
 はいよー、という気軽な感じでするするっと、ポリューシュという名前らしい毒蛇が足元から巻きついてくる。
「だから、蛇、ヘビもダメだって……咬むなよ、絶対咬むなよ!」
 はいよー、という気軽な感じでポリューシュはかぷ。と牙を立てた。
「咬むなっつったろーが! ……う……何だか身体がしびれ……ていうか何なんだこいつら……そいつらも……」
 アシャンテの前では狼のゾディスが彼女を守るように立っていて、パラミタ猪のボアが前足を掻いていて、パラミタ虎のグレッグが足元で寝そべっている。
「……どんな理由があるにせよ、お前のやったことで騒ぎが大きくなったのは事実……罰を受けてもらうぞ……途中まで、特に最初は面白がっていただろう……知っているぞ……悪ノリしすぎだ……」
「いやいや……ナンノハナシデスカ……?」
「カンナに許可はもらっている……おまえたちも、行け……」
「ふざけんなあのヤロ……いやいや死ぬから、それ……本気で死ぬ……いてっ、だから、咬むなって……ぎゃーーーーーー!」

 廃墟にある礼拝堂。今でも暖かいその中は驚くほど綺麗で。
 誰かの魂を祝うために。
 誰かの魂を送るために。
 準備を整えているように見えた。
 ナラカへの道を開くために――




(第3回に続く――)


担当マスターより

▼担当マスター

沢樹一海

▼マスターコメント

マスターの沢樹一海です。ご参加&拝読、ありがとうございます!
今回も遅れてしまいまして、本当に申し訳ありませんでした。これが定型文にならないようにがんばります。次回こそは、公開日に……!

今回は心情が重要、とガイドに書きましたが、正直、ここまで意見が揃うとは思っていなかったです。ハーフハーフとまではいかないものの、「鍋にする」側も結構来るかな、と考えていたのですが。

で、えと、ラスト付近の衝撃ネタバレについてですが。
これは、少しヒントが足りなかったかもしれないですね。うーん……。
こちらの設定自体は初期からあったのですが、ファーシーにばらすかどうかというのは、アクションの判定をした上でのことになります。でも、まあ、良かったのかな、とも思っております。

また、今回は結構キャラを動かさせていただきました。特にナベ組、地下組の方々、ありがとうございます(いや勝手に動かしたわけですが)

そして個別コメントですが、すみません。今回は、いつも以上に対応出来ておりません。主にメッセ返信、称号、招待、判定補足が必要な方に送らせていただきました。あとの方は定型文ですが……これだけ重たいテーマの話にご参加いただいて、参加者のみなさまには心より御礼を申し上げます。ありがとうございました。

裏話については、ブログ「とりノベdiary!」に書くかもしれません。

第3回のシナリオガイドですが、26日に公開予定になっております。こちらの方も、よろしくお願いいたします。