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魂の欠片の行方2~選択~

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魂の欠片の行方2~選択~

リアクション

「跡形もなく吹っ飛んだのだ。てへ」
「てへじゃないでしょう。やりすぎですよリア」
「いくらなんでも、ガラクタの塊みたいな村長が欠片も残ってないってことはないでしょー。テレポートでもしたんじゃん?」
「テレポートなんか出来るか? あのじーさん、魔力よりも武力の方が圧倒的に強かったぜ」
「普通に逃げたんじゃないかな」
「…………」
「それより、マナカの銅板はー?」
 爆音に驚いた村民達が、何人か家から出てくる。未だ火薬の匂いが漂う中、村長側にいたラスは爆発の余波を受けて転がっていた。
「ファーシーは……生きてるか?」
 地面に座って銅板を見下ろすと、ファーシーは面白そうに返答した。
「おかげさまで。何? やっぱりラスってツンデレ? わたしの事が好きで仕方ないのに恥ずかしくて鍋にするとかって言ってるの? 本当はそんなつもり無いんでしょう」
「だからその言葉どこで覚えた……嫌いじゃねーけど好きでもねーし、おまえは容赦なく鍋にする」
 口ではそう言ったものの、ラスは迷っていることを自覚していた。彼等に説得されたのは村長ではなく自分らしい。随分と脆弱な意思だな、と自嘲する。
「銅版を鍋にするなんてとんでもない。鍋なら銀製品ですよ〜」
 そこで彼の前に立ち塞がったのは、小さな女の子を連れた神代 明日香(かみしろ・あすか)だった。一緒にいる子、ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)は、明日香が5歳くらいの時はこんな感じだったのかなと素直に思ってしまう容姿をしていて、魔法瓶のフタに飲み物を入れてちびちびと美味しそうに飲んでいる。何やら酒臭いのは気のせいだろうか。
「銀なら、焦げ付いても水とお酢をいれて煮立てると綺麗になるんですぅ〜。熱伝導率もばっちり」
「は……?」
 突然闖入してきた能天気で少しずれた話題に、皆がぽかんとする。
「あのな、銀とか銅とか材質の話をしてるんじゃなくてだな……」
「と言う事で、そのしゃべる銅板は返してください〜」
「何が『と言う事で』だ。そんなアホな理由で誰が渡すか」
 手の平を出す明日香を無視して、ラスは立ち上がった。どこへ行こうかと考える。とりあえず村長の家に行くしかないだろう。小型飛空艇が置きっぱなしになっている。面倒臭いが仕方ない。
(あー、なんで、真菜華を追いかける時に乗ってこなかったんだろ……)
「無料ではダメなら『環菜の生写真』つけますよぉ〜」
 数歩歩いたところで、明日香が言う。環菜の生写真……?
「どうしてそこで、あいつの生写真が出てくるんだ? 俺はあいつを恋愛対象として見たことは一度も無いぞ?」
 どうしてそれが交換条件になるのか理解出来ず、つい振り返ってしまう。
「知らないんですかぁ〜? 『環菜の生写真』は、相場師達のお守りなんですよぉ〜」
「お守り……?」
 そういえば、そんな話を聞いたような聞かなかったような。
「それじゃあ弱いな。俺は現実主義者だ」
「…………」
 何かを考えるようにした明日香は、流し目になって勝利を確信したような笑顔で言った。
「返してくれないと酷い目に遭いますよ?」
「どういう目に遭うんだ?」
「指差して痴漢です〜って罪を捏造しちゃいますぅ〜!」
「!?」
 思わず周囲を見回すと、ケイラ達はナイス! という顔でこちらを見ていた。どうやら味方はいないようだ。そりゃそうだ。
「大声で言えば、その辺の家から村人さんたちが出てきますよ〜? みんなにも言いふらしますぅ〜、けちょんけちょんになった上に、誰からも痴漢って呼ばれるんですぅ〜」
 明日香は、改めて手の平を出す。
「だから、デコ写真と交換で返してください〜」
 銅板を持って、ラスはたじたじと後退った。その彼に、ノルニルがとてとてと近付いてくる。
「何か悔しがって暴走してるので付き合うと疲れますよ。別件での私怨がかなり入ってるみたいです」
「それ、水筒の中、何が入ってるんだ……?」
「純米大吟醸です。飲みます?」
「やっぱり酒か。あのな、子供の頃からそういうのを飲んでると大きくなれないぞ?」
「私は魔道書だからいいんです」
 その時、ゴン・ドーの声が村中に鳴り響いた。
『た、助けてくれ! 鍋にされる!』

 時は少し遡る。
 木箱を持った鳥羽 寛太(とば・かんた)カーラ・シルバ(かーら・しるば)譲葉 大和(ゆずりは・やまと)と村長が工房から出ると、そこには鍋風呂が設置されていた。キャンプとかで作る、ブロックを2つ立てた間に火を起こして上からドラム缶を乗せるアレの鍋版だ。人が入れるくらい大きな鍋の中では、湯がぐつぐつと煮立っていた。
「おや? 奇遇ですね、この村であなた達に会えるとは。さてはあれですね? 闇鍋の阻止に来たんですね?」
「や、闇鍋ですか?」
 意味がわからない4人を代表して、大和が言った。火加減を見ていたクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は立ち上って村長に近付く。
「聞きましたよ、銅板を鍋にするそうですね。そりゃあ、どんな闇鍋ですか!? 食べれない物を闇鍋に、そして嫌がる者に無理強い……こんなの俺の美学に反します!」
「な、何を言っとるんじゃ?」
 驚く村長。それもその筈。クロセルは『銅板を鍋にする』という情報を『銅板を鍋の具にする』と解釈していた。
「闇鍋奉行たる俺に言わせれば、食べれない具を入れるなんて言語道断。闇鍋の美学に反します。しかも、嫌がる者に無理強いしようとは……。お茶の間のヒーローとして見過ごすわけには参りません!」
「いやあの、クロセルさん?」
 もしもーし、と寛太が声を掛けるが、演説は続く。
「村長のジャイアニズムを正すためには少々痛い目を見て貰うのが一番です。言って分から無いヤツにはぶって教える。最近の若い親御さんに多い教育方針と聞きました! 人は痛みを知ってこそ、他人に優しくなれるのデス!」
「それはただの○待です。社会問題です」
 カーラが突っ込む。
「今回の件を反省してもらうためには、村長をお湯に放り込んで鍋にするのが一番ですね。さあ、鍋にされる者の気持ちを思い知ると良いのです!」
「……面白そうですね、参加しましょう」
「ええっ?」
 カーラが言うと、寛太はびっくりして手元の木箱に目を落とした。自分達は一応、村長側なわけだが。
「何をやろうがもう後の祭りです。全て終わりました。先程の戦闘では村長は何気に高機能だと分かりました。気に入らないです。鍋の具にしてやりましょう」
「ど、どういう理屈じゃ!」
 そこに、ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)がやってきた。短い付き合いではあったが、シルヴェスターは小生意気なファーシーの事を気に入っていた。
 銅板に意識が移る、奇跡の様な出来事。
 体を取り戻す2度目の奇跡も起こらないとは言えないのに、鍋にするわけにはいかない。シルヴェスターは、自分に出来る事は全力でしようと思っていた。
「ファーシーはどこじゃ! 助けに来たぞ!」
 2人を見て、クロセルは満足そうに頷いた。
「何やらファーシーさんを奪還しようとする人も他にいるようですし、彼らと協力するとしましょう。闇鍋の美学を共有する人がこんなにいるなんて、感激です!」
「ん? 何じゃ? この大きな鍋は」
 クロセルが説明すると、シルヴェスターは一も二も無く賛同した。
「ええ考えじゃ。村長も熱さを体感すりゃぁファーシーを返してくれるじゃろう!」
「…………」
 ガートルードも無言で肯定の意を示す。
「何ですかこのノリ。分かりました。私も協力しましょう」
 静かに眼鏡を外す大和。最早、『ファーシーが鍋の具になる』という勘違いを正す者は誰もいない。大和の投げた大きなリボンが、村長の身体に巻きついた。
「な、なんじゃこんなもの! わしのガラクタ武器で……な、無い!?」
 先程の戦闘で使ってしまって、村長にくっついているのはスプーンとか空き缶とかおたまとか、まあ役に立たないものばかりだった。
「もう逃げられませんよ! 鍋の具になるのです!」
 6人に担ぎ上げられ、村長は慌てて家の側面についたラッパのような物に向かって叫んだ。
「た、助けてくれ! 鍋にされる!」
 今にも、鍋にぶちこまれようという正にその時――
 氷術が煮えたぎる鍋に放たれた。鍋から立ち上っていた湯気が、冷たい煙に様変わりする。続いて、焚かれていた火も氷術で消される。
「……誰?」
 ガートルードが呟いて上空を仰ぐ。空飛ぶ箒に乗った五月葉 終夏(さつきば・おりが)ニコラ・フラメル(にこら・ふらめる)が彼らの前に着地した。
「あっははは……だから、機晶姫を壊すのは胸糞悪いっての」
 終夏は言って、ぐるぐる巻きになった村長を振り向く。村長は放心したような、でも少し残念そうな顔をしていた。
「全部を知って、それで、ファーシーが鍋でもフライパンでもそういうのになりたければなればいいよ。だけど……」
「選ぶ時間くらいはやっても良かろう? ファーシーがそれを選んだのなら誰も止めんからしっかり鍋にしてやるといい。それまでは、中立な意見の奴が銅板を持っていればいいだろう。どうなるのか決めるのは本人だからな。私とて、他人に私の人生について口出しはされたくはない」
 後を継ぐようにニコラが言う。彼女達の言葉を聞いて、クロセルは仮面の奥の目を瞬かせた。
「鍋は分かりますが……フライパン? 何のことです?」

 村長宅に向かうラスの携帯電話から着信音が鳴る。こんな辺鄙なところでも携帯が繋がるのかと若干驚きながら通話ボタンを押す。
(イルミンスールの近くだから、電波が届くのか……?)
 表示された番号はルミーナのものだったが、流れてきた声は聞き覚えのないものだった。
「誰だ? おまえ」
 掛けてきた相手――ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、名乗った後にこう付け足した。
『教導団衛生課のお嬢様の友達……って言えば分かるよね』
「ああ、あいつか。尻から入ったチームの連絡役……」
『そういう言い方しないの! それより、跡地の方は大体調査は終わったよ。地下に行った組以外は集まったし、伝えておこうと思って。結構いろいろ見つかったわ』
「……今?」
『……今だから! 少しでも情報があった方が良いでしょ?』
 そう言うとルカルカは、跡地で見つかったものの列挙を始めた。使えそうなパーツがあったこと、戦地の名前があったこと、怪しげな機晶姫組み立てに関する本があったこと。住民記録から戦地の名前がわかったこと、召集令状によるその場所、墓場から銅板が見つかり、それは2枚揃っていたこと。
 ルヴィの日記が見つかり、更に他の人の手による日記によって判明した、跡地が襲撃された日付。
「日付までわかったのか……それに関しては、ファーシーに絶対に言うなよ」
『え? なんで?』
「なんでもだ。じゃあな」
 そしてラスは、電話を切った。