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第五章 神殿内の戦い
 
「なんなんじゃアイツらは」
 シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)はパートナーのガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)と共に、神殿内廊下を駆け抜けていた。背後からは、破裂音や金属を打ち合うような音と共に狂気じみた女たちの笑い声が聞こえている。
「楽しそうですね……」
ガートルードが呟いた。
「冗談やないわ。わしら、ミリアちんを助けに来たんじゃけぇ。付き合いきれん」
 魅世瑠たちから情報を得た桐生 円(きりゅう・まどか)オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)と、ガートルード、シルヴェスターはジャタの森でドンパチ始めた人々に紛れ、敵アジトである石造りの神殿に侵入していた。
 憧れのミリアを救うため燃えているシルヴェスターとでは、まるで目的が違う二人であるとはわかっていたけれど……。
「おや」
 見張りを軽くあしらいながら進む中で、突然円が足を止めた。その視線の先にいる人物たちも、どうやらこちらに気づく。
「あーらぁ……」
 そこには、蛮賊に組して生贄殺戮ライフを満喫している藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)メニエス・レイン(めにえす・れいん)が佇んでいた。
「お知り合いですか?」
尋ねるガートルードに、円が微笑む。
「うん、ちょっとした悪友……っていうのかな?」
「あなた方はそっちにつくと思ってたわぁ〜」
優梨子が大げさに驚いてみせる。
「まぁ、それではオリヴィアさんたちは今回そちら側におられるんですね?」
「困ったわ。……それじゃあ今は敵同士なのねぇ」
 双方なごやかに会話を続けながら、武器を構える。困ったと言いつつもその表情はどこか嬉しそうだ。
「実を言うと、前から一度戦ってみたかったのよ……?」
「あーらぁ、実はあたしもよ……ふふ」
状況がうまく飲み込めず、目を白黒させるシルヴェスターが声をかける前に
「……嬉しいわぁ」
メニエスのその呟きで戦闘が始まった。
「ちょ、ちょっ待っ……」
 ……きっかけがわからん!
 クスクス笑いながら友情と称してブリザードや鉄鎖が飛び交う中、シルヴェスターはガートルードを抱えてその場を後にした。
「先に行ってますね〜」
「はいは〜い」
ガートルードの挨拶に、爆音に似合わない呑気な声が返って来た。
 そのまま廊下を突き当たり、曲がり角に到達したところで腕をつかまれる。身構える二人の前に、ジャタ族の衣装に身を包んだ10歳くらいの少年がいた。
「大丈夫、俺は味方だ」
 見た目の割に落ち着いた口ぶりに、シルヴェスターは気勢をそがれて力を抜いた。見た目が大人びた若者なら、よく知っている人物なのだが。
「こっちだ」
 少年の指さす先で、同じように侵入してきたらしい数人がこちらに気づいてうなずいてみせた。その先に、目立たない下り階段があるらしい。
「生贄にされる人たちが、地下に閉じ込められているらしい。……一緒に来るか?」
 一瞬のためらいのあとで、シルヴェスターはガートルードに目で確認するとこくりとうなずいた。
 少年は、七尾 蒼也(ななお・そうや)だと名乗った。


「うりゃ!!おい、コノヤロ!俺のヨメをどこに隠しやがった!」
 逃げる蛮賊を追って神殿内をさまよっていたテディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)は、本日何度目かの問いを投げかけた。
「俺が知るか!」
 大人数ならやりすごし、戦えそうなときは隙をついて捕まえるか、一対一に持ち込んで聞き込みを行ってはいるのだが……。
 うまく神殿内にもぐりこめたまではよかったが、肝心のさらわれたヨメ……もとい、パートナーである皆川 陽(みなかわ・よう)の居場所がわからない。
 当のヨメ……陽は檻の中で女神の実態を把握するなりガタブルしつつ、いつもの口癖をこぼしているところだったが……。
 ようやくめぐり合えた家族のような存在を見失って、テディは焦っていた。
 蛮賊の男をが沈黙すると、テディは頭を抱えて座り込んだ。
「くっそ……どこにいるんだよ」
 どうか僕のヨメをお護りください……切実な祈りは、古女神に届いただろうか。
 ふいに風をきって、数本の矢がテディを襲った。咄嗟に身体をひねって回避したものの、うち一本は腕をかすめた。
 いつの間にか囲まれていた。先程の蛮賊が紛れているところを見ると、とどめをさし損ねたらしい。
「へっ、それくらいいた方がやりがいがあるよ」
 軽口を叩きつつも、背筋には冷や汗が伝っていく。にやつく蛮賊に向き直ると、テディは覚悟を決めてカタールを構えた。
 と、蛮賊の表情が変わった。
 テディの背後から火が走り、蛮賊たちの足元を焼く。あっけにとられるテディに、落ち着いた声がかけられた。
「どうぞ、こちらに」
 執事服の沢渡 真言(さわたり・まこと)に促され、案内するようにユーリエンテ・レヴィ(ゆーりえんて・れう゛ぃ)が手を引いて走る。
「おにいちゃんも大事な人を助けにきたんだよね?」
 少女じみた外見とは裏腹に、その表情は男の子のそれだった。
「ユーリもだよ。ティーちゃんのこと助けたい。だから一緒にいこ!」
 ティーちゃんことティティナ・アリセ(てぃてぃな・ありせ)に懐いているという紙ドラゴン、メリュジーヌに導かれて、三人は地下牢への道を発見した。
「行きましょう」
 そう言って再び走り出す真言に力強くうなずき返して、テディは古女神に感謝した。