リアクション
1.フェスティバル! 「パンフレットはこっちだ。どんどん持っていってくれ」 コミュニティ・フェスティバルの会場案内図の載ったパンフレットをかかえて、レン・オズワルド(れん・おずわるど)が客たちに呼びかけていった。 別段、彼が今回の主催者というわけではないので、完全なボランティアではある。だが、こういうイベントは、ボランティアがいないと成り立たないというのもまた事実だ。 いつもはパラミタ大陸のあちこちでバラバラに活動を続けているそれぞれのコミュニティではあるが、その活動は意外と知られていない物が多い。もちろん、秘密結社や犯罪組織などのように、活動内容を知られては困る物も中にはあるだろうが。 そんなコミュニティの中でいったい何が行われているのか。日頃の成果や活動内容などを広く知らしめて、コミュニティの広報活動を行おうというのが今回のフェスティバルの主旨である。 会場に選ばれた空京大学のキャンパスには、あちこちにテントが張られてブースがならんでいた。 「そろそろ、会場を見回りに行こうよ」 これまたパンフレット配りをしていたノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)が、レン・オズワルドに声をかけた。 「まだ少し残っているんだが……、やっぱり気になるのか?」 数部のパンフレットをかかえたまま、レン・オズワルドが聞き返した。 「ち、違います。それに、私はもう配り終わりました」 ちょっとあわてながら、ノア・セイブレムが言い返した。 本来なら冒険屋ギルドの代表である彼女は自分のコミュニティのブースにいなければならないところであるのだが、あえて全体のフェスティバルの成功を思って、ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)に任せているのだ。ギルドメンバーを信頼しているからこそと言えよう。だが、やっぱり、気にはなるらしい。 「じゃ、残りのパンフレットは、会場を歩きながら配ろう」 そう言うと、レン・オズワルドは会場正門の大きなアーチを潜り、数々のブースがならぶメイン通りへと進んで行った。 2.合同花嫁メイド喫茶 「おかえりなさい御主人様……でいいんだよね?」 「でいいんだよねは、よけいなんだもん」 ロリロリなメイド服姿で可愛く接客練習をするマリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)に、朝野 未沙(あさの・みさ)がだめ出しをした。 「お帰りなさいませ」 ブースの入り口では、ロングスカートの前を覆ったエプロンの上で軽く両手を組み、ななめ四十五度きっかりのお辞儀をして、朝霧 垂(あさぎり・しづり)が、合同花嫁メイド喫茶へ入ってきたお客を出迎えていた。 このブースは、アサノファクトリー、【BAR】Arms Dump、花嫁同盟、教導団メイド科が共同で出店したメイド喫茶だ。教導団メイド科以外は普段の活動は直接メイドとは関係ない気もするが、役割分担の形でそれぞれの特技を生かし、メイド喫茶を設営運営してそれぞれのコミュニティをプロモートしている。さすがに四つのブースを集めた物なので、今回のフェスティバルでも最大の規模を誇っていた。 「さすが、未沙様。期待通りに年季が入ってるわ。私も頑張らなくちゃ」 教導団メイド科管理人の月島 未羽(つきしま・みう)としては、今日は普段のメイド修行の集大成を発表できるまたとないチャンスだ。 「でも、あたしより、あっちの方が問題だと思うけど……」 マリーア・プフィルズィヒが、喫茶ブースの入り口前を指さして言った。 「うっ……」 さすがに、朝野未沙がそちらへむかう。その隙に、マリーア・プフィルズィヒは可愛くちょろっと舌を出して笑うと、厨房の方へと走っていった。 「いらっしゃいませー」 男の太い張りのある声がメインストリートに響き渡る。フリフリのメイド服を着たメイドガイ姿の鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)だ。そこへ、朝野未沙が駆けつける。 「なんでメイド姿なんだもん!」 駆けつけた朝野未沙が鷹村真一郎を問いただした。 「いや、だって、メイド喫茶だからこれを着ろとパートナーに渡されて……」 ちょっと困惑気味に、鷹村真一郎が答える。 「あはっ、あはははは」 実は、普段あまりメイドらしい修行をしていない月島未羽としては、その光景にはちょっと笑うしかない。本人が好きで頑張ってくれるなら、男でもメイドってことで、まあいっかあという感じだ。放っておいても、朝野未沙がなんとかしてくれるだろう。 「違うのか? あいつだって、メカメイドだぞ」 鷹村真一郎がさす方には、通りの中央でフル装備のパワードスーツに無理矢理メイド服を着せたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が、ポーズをとって呼び込みをしている姿があった。 「今日はメイドのパラミティール・ネクサー!! さあ、よい子のみんな、合同花嫁メイド喫茶に来て俺と握手だ!」 さすがに、その姿を見た通行人たちが、遠巻きに避けて歩きだす。 「客を逃がしてどうするんだもん!」 すぱーんっと、朝野未沙が至れり尽くせりにハリセンでエヴァルト・マルトリッツをひっぱたいた。 「ここはメイド喫茶であって、メイドガイ喫茶じゃないんだもん。男は、隅っこで執事を……」 「なんだなんだ、何かあったのか?」 騒ぎを聞きつけて、セオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)が芋けんぴを載せたお盆を持ったまま駆けつけて来た。こちらも、ヨーロピアンスタイルのシックな正統メイド服を着たりっぱなメイドガイだ。 「揉め事ならこの自分が……」 「あなたもなんだもん」 朝野未沙がプンプンと怒る。 「いや、その、頑張ろうぜ、真ちゃんや。あと、ナイスメイドガイ」 サムズアップをして鷹村真一郎を褒め称えると、セオボルト・フィッツジェラルドはあわててその場を逃げだしていった。 ボディガードもかねるつもりですっ飛んできたのだが、メイドガイを注意されたのでは困る。 なんと言っても、彼には隠された目的があった。 喫茶の客たちに、頼まれてもいない突き出しとして芋けんぴを配膳しようというのである。それによって、【秘密結社】ケンピメイツとしては、その普及を推進させようという陰謀なのだ。 もちろん、秘密結社であるから、ここでそんな活動をしていることは秘密である。今日は、パートナーたちの手伝いという大義名分で潜入しているのだった。 ★ ★ ★ 「御飯はオムライスショコラソース。デザートはチョコバー、チョコパフェ、チョコクッキー、チョコバナナクレープ。飲み物は冬のモーツアルトとスコッチショコラね」 「そんなに食べ……って、チョコばっか!?」 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の注文に、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)がちょっと目を丸くした。 表のドタバタとはうってかわって、喫茶の中は意外と平和である。 「飲み物二つは俺がもらう。ルカにはホットチョコを。俺には他にクラブハウスサンドを」 きっちりと修正を入れる。 いつものことだと、安心しているルカルカ・ルーは異を唱えなかった。 「あと、文治さんにもよろしく伝えておいてよね。これ、セオさんへの差し入れ」 そう言って、ルカルカ・ルーが、チョコケンピの入った小袋を瀬尾 水月(せのお・みずき)に手渡した。 「分かりました。どうぞ、ゆっくりしていってください、御主人様」 花嫁同盟として正式に参加している瀬尾水月が、ちょっとぶっきらぼうな感じで注文を受ける。厨房へむかおうとして、クルリと振り返った瀬尾水月のミニスカートがふわりとゆれた。フレンチメイドスタイルのメイド服はちょっと扇情的だ。本人もそれを意識しているのか、少し恥ずかしそうであった。だが、それがいいという意見もある。 「ダリル、今どこ見ていたの……」 「別に」 ダリル・ガイザックの視線を見咎めて、ルカルカ・ルーがつついた。 「入り口にいたメイドみたいな物よりはましだなあってな」 「朝霧さんはさすがに慣れている感じだったじゃない」 あえて、メイドガイたちにはふれないようにしてルカルカ・ルーが言った。 「あっ、月島さんのステージが始まるよ」 奧の簡易ステージにスポットライトがあたるのを見て、ルカルカ・ルーが色紙や花束をごそごそと用意し始めた。 「お、おかえりなさいませ、ご、御主人様たち……」 ステージに立った月島 悠(つきしま・ゆう)が、ごにょごにょとマイクにむかって挨拶をする。 普通にメイドとしてのお手伝いだと聞いていたのだが、まさかステージで歌う予定だったとは……。知らなかったのは本人だけである。 「頑張ってねー」 「あ、ありがとうございます。お嬢様」 ルカルカ・ルーの声援に、思わずぺこりとお辞儀をしなおす。アイドル的なミニスカートのメイド服姿は、完全な女の子モードだ。そこへ、曲のイントロが流れ始めた。 「あっ、これって……」 耳になじんだその曲に、月島悠の顔がみるみるうちに引き締まっていく。そこに現れたのは、紛れもない歌い手の顔だ。 「オムライスと……」 テントの中に響き渡る月島悠の歌声をバックにして、瀬尾水月が館山 文治(たてやま・ぶんじ)にルカルカ・ルーたちの注文を告げていった。 「おう、承ったぜ」 カウンターの中にいた館山文治が、注文の書かれたメモを厨房へと持っていく。 「注文とり頑張っていますな。関心、関心」 「ちょっと、セオボルト!」 様子を見に来たセオボルト・フィッツジェラルドに、瀬尾水月が涙目で突っかかっていった。 「なんで、あたしだけこんな姿なのだ」 「いや、ほら、みんな結構似たようなミニスカートじゃないですか。自分たちは、ほら、すね毛を出してもみっともないですからな」 セオボルト・フィッツジェラルドがとぼける。 「ううっ、私にもそのロングスカートをよこすのだ」 「こ、こら、引っぱるのは反則ですよ」 メイド服を奪おうとする瀬尾水月に、セオボルト・フィッツジェラルドはあわてて逃げだした。 「はいよ、オムレツ他、チョコづくし……。あれ? いない……」 できあがった料理を運んできた館山文治が、誰もいなくなっていて困り果てる。 「ルカさん所のかい。マリーアがいるはずなのに……。いいや、オレが運んでいってやろう。まあ、なるようになるさ。行くぜ」(V) マリーア・プフィルズィヒのメイドっぷりを見に来ていた橘 カオル(たちばな・かおる)が、しょうがないという感じで手伝いを申し出た。 「お待ちどう」 「あれ? なんで、カオルが手伝ってるの?」 料理を運んできた橘カオルを見て、ルカルカ・ルーが不思議そうに言った。 「まあ、成り行きでね。オムライスでいい……あっ」 「もちろん」 頭をなでられて条件反射的に飛び出た橘カオルの耳をもふもふしながらルカルカ・ルーが言った。 |
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