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すいーと☆ぱっしょん

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すいーと☆ぱっしょん

リアクション

「あれ?二人は?」
 緋ノ神 紅凛(ひのかみ・こうりん)は、リビングで懸命に何かをやってるイヴ・クリスタルハート(いぶ・くりすたるはーと)に尋ねた。
「知らない!買い物じゃないのかなっ!?」
 紅凛には見向きもせず、イヴはそう返事を返えす。紅凛は、「そっか」とだけ言うと、冷蔵庫から飲み物を取り出した。
「ところであんた、さっきから真剣に何してんのさ」
「武器のお手入れっス!」
 そこでようやく紅凛の方を向くと、今まで手入れしていた銃器の口を、紅凛へと向ける。
紅凛はおどけた様に両手を小さく挙げ、「降参」とでも言う様な動作をしてから、飲み物を口に運ぶ。そこへ、先ほど紅凛が「二人」と呼んだ二人が帰ってきた。
「ただいま戻りました」
「ただいま」
 帰ってきたのは姫神 天音(ひめかみ・あまね)ブリジット・イェーガー(ぶりじっと・いぇーがー)である。二人はどっさりと買い物袋を床に置くと、不思議そうな顔でイヴと紅凛を見つめる。
「何、してるんですか?」
 天音の問に対して、イヴが笑顔で答えた。
「お姉さまと一緒に強盗ごっこをしてたんだよ!」
「…また変な遊びをして。誤解を生むから止めなさい」
 すかさずブリジットが苦笑を浮かべて言う。
「さて、二人も戻ってきたし、もう一頑張りするかね。あたしゃ」
 飲み終わったグラスをシンクに置くと、紅凛は自分の部屋へと戻って行く。
「あ、ちょっと、紅凛さん!ちゃんと使った食器は自分で――」
「あー、天音。よろしくね、うんじゃ」
 制止する天音に、冗談ぽく謝ると、紅凛は返事を聞かずに自室に入り、扉を閉めた。
「はぁ…」
「私も手伝いますから、お気を落とさずに」
 思わず溜息をついた天音に、ブリジットが苦笑しながらそう言った。
「と、そうそう。帰りに貰ってきたキャンディ、洗い物する前に舐めませんか?」
 気を取り直して、とばかりに、天音が提案する。ブリジットも彼女の意見に賛同し、椅子を引いて腰を下ろした。
 持って帰ってきた買い物袋の中から、何とも可愛らしい小箱を取り出した天音も、ブリジットの横に腰を据えた。
「ねぇねぇ!何それ何それ!」
 興味津々に尋ねるイヴに、天音が笑顔で答えた。
「さっき帰り道、貰ったんですよ」
「ねね!ワタシも食べていいのかな?かなかな?」
「働かざるもの食うべからず。とは良く言ったものです」
 ブリジットが胸を張って言うと、イヴが頬を膨らませた。
「冗談ですよ。イヴも一緒に食べましょう」
「わぁい!やった、やったっスよ!何だかしんないけど、いいものゲットだい!」
 中身を聞いていたのか、いないのか。兎に角中身は何かと聞いていたイヴにすれば、それは食べ物だ。と言う認識で定着していたらしい。
「それにしても、可愛らしいラッピングですね」
「確かに。手作り、でしょうか」
「どうでも良いから早く食べようよぉ!」
 天音、ブリジット、イヴが順々にそんな事を言いながら、箱からキャンディを取り出す。まずは、と天音、ブリジットが飴を口に入れ、その甘さを実感する。
「美味しいですね、このキャンディ」
「これならきっと、紅凛さんも喜んで食べてくれそうですけど」
 ブリジットに対し、天音も賛同と思える返事を返し、笑顔を溢した――途端の出来事。
 二人の体がキャンディに成り始める。イヴはその光景を呆然と見つめるだけだ。
「う、嘘っ!?」
「これは、一体…?」
 互いにそう言い残すと、二人はキャンディすっかり頭までキャンディとなってしった。
「うわっうわっ!二人が飴になっちゃったよね、これね!ビックリだぁ…そうだ、お姉さまに報告してみようかなっ!」
 イヴが椅子から立ち上がり、まじまじと二人の姿を見ていると、何やら首を傾げて紅凛が自分の部屋から出てきていた。
「何さ、これ」
「飴ですよぅ!」
「そんなん見りゃわかる。違うよ、なんだって天音とブリジットの形した飴が此処にあるんだって話」
 イヴが今起きた状況を説明しようと人差し指を立て、口を開こうとした時、紅凛がぽん、と手を叩いた。
「そうか、バレンタインのお返しって事なのかな?そうかそうか、なかなか粋な事するもんだね」
 関心しながら、キャンディ(になってしまった二人)をまじまじ見つめた。
「随分と美味しそうな匂いだね。たまんないよ」
「お姉さま、なんか良くない事を考えてるんですか?そうなんですよねぇ!」
「そうだよ、当たり前じゃないか。何せ二人とも了承の上なんだから、良くない事じゃないんだけどね。本当は」
 ニヤニヤと天音とブリジットににじり寄る紅凛は、自らの手が届くところまでくると歩みを止めた。キャンディになってしまった二人を見つめて嬉しそうな紅凛は、手を伸ばして二人の体を撫で始めた。と、甘い匂いが鼻に届き、少しずつではあるが、自分が何かに誘導されている様な感覚を覚えた彼女は、少し悔しそうな表情を浮かべて、背後に控えるイヴへと言葉を放つ。
「ふん…イヴ、二人を大きな冷蔵庫があったらいれときな。これは結構まずい事がありそうだよ」
「ほっ?わっかりやっしたーぁ!」
 敬礼をしながら返事を返すイヴ。紅凛と違い、なんとも能天気そうな表情で返事をしている為、おそらく紅凛の思う状況を把握はしていないのだろう。すぐさまイヴはどこから持ち出した台車にキャンディと化した二人を乗せ、その場を後にした。
「あたしが自分の意思でってんじゃあなきゃ意味がないんだよ。なんだかわかんないものに流されてなんて、あたしの流儀に反するんでね」
 一人そんな事をゴチる彼女の掌は、自らの鮮血に染まっていた。どうやら彼女、キャンディの放つ匂いに意識を刈り取られない様、自分の掌を強く握り、自我を保っていたらしい。シニカルな笑顔が、イヴの、天音の、ブリジットの方を向いていた。


 場所は変わって、セイニィ宅。一同は彼女の家でこの出来事の収拾を図る為、話し合いが始まるところだった。
「それにしても、なんだってあたしの家なのよ!もっと別のところでも良かったんじゃないの?」
 セイニィは随分と不機嫌そうにそう呟くと、自分の部屋に集まってる一同を見渡した。
 現状彼女の部屋には、セイニィ、刀真。シャーロットの三人、彼女らがセイニィの家に向かう途中、偶然に出会ったラナ、正悟がいる。どうやら五人では少し手狭な感があるらしく、故にセイニィが不機嫌なのである。と、そこに、先ほど北都からテレパシーで連絡を貰っていた鬼崎 朔(きざき・さく)スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)がセイニィの部屋を訪れる。
「お邪魔します、セイニィ」
「朔様と共に、スカサハも到着したのであります」
 二人は律儀にお辞儀をすると、部屋に入ってきた。セイニィは余計に不機嫌そうな顔をしたが、如何せん自分が呼び集めてしまっているメンバーが大半を占める為、怒れずにいた。
「セイニィ、どうしました?随分と期限が悪そうですが」
「な、なんでもないわよ。とりあえず、今回もよろしく頼むわ!」
「スカサハもやはり、セイニィ様の機嫌が悪いと思うのであります」
「この際あたしの機嫌なんかどうでもいいから、ちゃっちゃと解決しちゃいましょうよ」
 どうやらセイニィ、自分の座るところを朔とスカサハに取られたらしく、窓辺で肘を突きながら外を眺め、そう言った。
「そうそう、朝斗とルシェンも合流出来次第協力してくださるそうです、みなさん」
 朔はそう言いながら、辺りを見回す。
「今回は人数集まるといいですね、その方が早く犯人を探し出せるでしょうし」
 刀真が返事を返す形で朔の言葉に反応した。
「んで、この集まりはあれなのかな?みんな美緒さんと一緒なのかねぇ…」
 正悟は驚きながら、隣にいたラナに尋ねる。が、彼に返事をしたのはラナではなく、正悟のもう片方の隣に座っていたシャーロット。
「此処にいる方たちはパッフェルさんを戻す為に集まっているんです。他にも被害は出ているそうですが」
 シャーロットが言い終わると同時に、今やって来た朔とスカサハは、持ってきていたコンピューターをセイニィの部屋に設置すると、何やら作業をやり始めた。
「ただいまより、テクノコンピュータによる情報収集、索敵作業に入るであります」
「さて、そしたらあたし等は作戦を練るか」
スカサハの言葉に反応して、セイニィも言葉を放つ。続いて刀真が話を始めた。
「具体的に、今回の作戦についてですけど…どうすれば良いんですか?バラバラに探すのも悪くはないと思いますが」
「単なる探し物、ではないですからね」
 刀真の言葉にシャーロットは頷いた。
「とりあえず――」
 と、正悟がラナが何かを言おうとした瞬間、再びこの部屋に訪問者が現れた。
「あら?何だか凄い人口密度ですね。これなら安心です」
 雨宮 七日(あめみや・なのか)は別段驚いた様子もなく、玄関前で部屋の中の光景をそう呟いた。
「どうでもいいけど、後が詰まってるから先にいってくれないかな、七日ちゃん」
 後ろに突っかかっているのは月代 由唯(つきしろ・ゆい)だ。
「そんなに押すなよ、雨宮が可哀想だろ」
 由唯が七日を押すのを懸命に止めながら、その後ろから樫黒 雲母(かしぐろ・うんも)が困った表情を浮かべている。
「うるさいなぁ、お前」
 むすっとした顔で由唯がそう言うと、僅かに空いているスペース(七日の横)へと退避し、今まで由唯がいたスペースに雲母が立つ事となった。
「んー、もう入れそうにないですね、これは」
 刀真は冷静にそう呟きながら、三人の様子を見ている。
「とりあえずは作戦会議を始めましょう。新たに増員として来た戴いた方々は別個指示、簡単な状況説明を加える程度で充分でしょうし」
 一切顔を動かさない朔がそう言いながら、キーボードを叩く。
「犯人は何となく見当がつきますからね、兎に角朔さんとスカサハさんの調べた情報で追い詰める、と言う形でいいと思います」
 シャーロットの言葉に、全員が頷いた。
「でも他に、何かないかな?手段」
 正悟が言うと、刀真が何かに気付いた。
「あるんじゃないかな、わざとキャンディ貰って、犯人を捕まえるとかってのはどうでしょうね」
「囮作戦、みたいなものかな。どっちにせよ外に行って探した方が良いかもな」
 正悟はそう言うと立ちあがった。