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すいーと☆ぱっしょん

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 唯斗はぐんぐんとビルの外壁を登っていた。それはそれは、凡そ人間離れした速度で昇ると、屋上に飛び乗り、辺りを見回す。
「実際、この探し方が一番性にあってますよ。俺にはね。ただみんな、ビルの外壁を登るのはきついですもんねぇ…」
 思わず苦笑しながら、周囲を見渡す唯斗。すると、彼は何かを見つけた。
「うん?あれって…どうなんですかね。ま、駄目で元々、行ってみましょうか」
 呟いて、唯斗は再びその場から姿を消した。


 朔、スカサハ、唯斗が離れたセイニィたちの一行は、何かいい案がないかを話し合いながら歩いている。
「もう少し、現実的な案がいいんじゃないでしょうか…」
 セイニィの出した、『貰った人に聞いて回る案』を聞いたシャーロットが、苦笑を浮かべながらに言う。と、紅鵡が何かをひらめいたのか、二人の間に割って入った。
「だったらさ、セイニィが囮になればいいんじゃない?パッフェルや美緒が狙われてるって事は、セイニィだって狙われると思うけど」
 二人は紅鵡の提案を受け、セイニィを見る。が、セイニィは即座に首を横に振った。何度も何度も。
「絶対、絶対、ぜーったいにイヤ!ヤダ!」
 どうやら本当に嫌ならしく、ラナとシャーロットが何を言っても、何を聞いても嫌だの一点張りだった。困り果てた一同だったが、ラナが申し訳なさそうに発言する。
「あの、もし、でしたら…囮、私がやりましょうか?」
「え!?ラナがやるの!?やめときなよ!危ないよ!」
「大丈夫だよセイニィ、ボクが後ろからバックアップするから、そしたらみんなでやっつければいいじゃん」
「そ、そうだけど…」
 やりとりをしている二人を見て、ラナが言う。今度は何か、決意を胸にしながらに。
「私、やりたいんです。みなさんが頑張ってるんだから、私も頑張らなくっちゃって思うんです。それに私、魔鎧ですし、大丈夫ですから」
 ラナの決意に、三人は瞬間固まった。が、その熱意は全員に伝わったのだろう。セイニィも渋々頷き、こうして彼女たちの行動は決定した。


 本来ならば、不意打ちと言うものは相手に気付かれる前に完遂される物である。そして唯斗がたった今行ったものは、真っ向からその行為であった。あったのだが――。
「なんだってんだよ!って…」
 唯斗の不意打ちは、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)によって阻害された。
「うん?あぁ、シリウス。お久しぶりですね」
「お久しぶりですね。じゃねぇよ!ウチのリーブラ殺す気か!俺が止めてなきゃ死んでたぞ今の!」
 挨拶をする唯斗を振り払い、リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)の前に立ちはだかるシリウス。リーブラはサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)に抱きかかえられて、一歩前に飛び込んでいる為、結果としては唯斗から一番遠い場所にいる。
「いやはや、ちょっと間違えちゃったんですよ。何せ遠くから見つけたものですからね」
「間違えた、じゃあ済まないだろうけどねぇ」
 シリウスの後ろからサビクがおどけた様に言う。言ってはいるが、とても平常心とは言い難い顔つきだ。
「本当に間違えたんですよ。ホント」
 唯斗は苦笑しながら懸命に謝罪している。と、どうやらシリウスも何かを感じ取ったのだろう。更に一歩踏み出すと、唯斗に尋ねる。
「ティセラ関係、か?」
 唯斗の表情が、瞬間的に変化する。
「まだ正確にはわかんないですがね。おそらくはそうだろうと。わかりませんよ、俺も人伝ですから」
 「お手上げ」とばかりに両手を挙げるが、特に困った様子もない唯斗に事情の説明を要求するシリウス。唯斗も自分が聞いた話を説明し――
「ってなわけです。が、さっきも言いましたがこれは人伝。真実でも詳細でもない。出来れば当事者さん方から聞いた方が早いと思いますよ。なんならご案内しましょうか」
 と、続ける。シリウスは暫く考えると頷いた。
「手口とすりゃあ、どうせあいつだろ。犯人は割れてるんだ、とっとと捕まえてやろうぜ」


 唯斗は通信機で事情をセイニィたちに伝え、合流する事にした。当然、先ほど彼が勘違いしたシリウス、リーブラ、サビクも一緒に、である。
「セイニィ、一応連れては着ましたよ。三人の新しい協力者さん方です」
「新しい協力者、じゃなくて、被害者なんだけどねぇ、ま、細かい事葉どうでもいいかね」
 後ろからサビクが悪戯っぽく笑う。
「?…ま、いいわ。兎に角協力ありがとう」
 セイニィは再び三人に話を始めた。概要は唯斗が説明済みと言う事なので、詳細を話す。
「それで、今からラナが囮になってくれうるって言うから、囮作戦でいこうと思ってさ」
 セイニィがそう話を締めくくると、シリウスは丁度良いや、などと言いたげに口元を吊り上げる。
「こっちも丁度、リーブラを囮で使えないか考えてたんだよ。ホント、ナイスタイミングってやつだな」
 シリウスはそう言うと、何処からか取り出した赤いリボンをリーブラの腕に手際よく巻きつける。
「へ?あ、あの…?なんですか?急に」
「今の話のままだよ。リーブラ。囮作戦、よろしく頼んだぜ、相棒!」
「はぁ…でしたら頑張りますが」
 困惑するリーブラも、ようやく話の流れが見えてきたのだろう。胸の前で一度だけ、軽く拳を握り締める。
「それじゃあそろそろ、行動開始と行きますか」
 セイニィの一言に一同が頷き、ラナとリーブラを残し、近くの物陰へと全員で隠れた。
 ラナとリーブラは、今まで通り少し歩きながら、近くにある店を見たり、立ち止まって話したり、と、極力犯人を捜していると言う様子を持たないで待っている。セイニィたちはそれを真剣に見つめていると、シャーロットが何かに気付く。それこそが、これこそが全員が捜し求めていたものである。
「セイニィ、あれ」
「…本当に、ティセラだったの?」
 未だに信じられない様な様子で、犯人を見つめる。一同が見守る中、ティセラはラナの姿を見つけ、近付いてくる。
「ご機嫌よう、ラナ。丁度いいですわ、あなたにもこれをお渡ししますの」
 ラナは若干引きつった笑顔を浮かべ、リーブラはゆっくりとティセラを向いた。そこで、ティセラの表情が硬直した。自分に似た顔。ティセラが二人。そして本人は、その意味を重々に理解している。リーブラは似ているのだ。それは本人が一番良く知っている。が、今二人の前にいるティセラは、そうではない。偽者であるとばれずに行動をしなくてはならなかったのに、このティセラはリーブラを見て、本物のティセラに会ったと、錯覚を起こす。リーブラを見たティセラは、持っている物を全て投げ捨て、何処からともなく大振りの大剣を手に、リーブラへと切りかかった。
「ばれてしまっては、仕方がないですわね!」
 語尾と共に、ティセラは剣を叩きつける。リーブラとラナは何とかそれを回避し、数歩後ろに飛びのいて、ティセラを険しく見つめる。辺りにいた一般人は、当然何がなんだかわからず、ただ慌てふためき、逃げ出して。
「ラナさん?わたくし一つ気付いたのですが、今目の前にいるティセラお姉様、剣の色がおかしいです」
「剣の色、ですか」
「ええ、剣の花嫁が出せる光条兵器が変わる訳はないですわよね、と言う事はあれは、恐らくお姉様と同じ形をした何か、ではないでしょうか」
 そう言って、ラナの前に出ながら、リーブラも対抗し、自らの光条兵器を取り出した。
「何処の誰さんとは存知ませんが、お姉様を侮辱し、多くの方に迷惑をかけた事、許しませんわ。どうか、どうかお覚悟なさいませ」
 静かに、本当に静かに言いながら、リーブラは自らの大剣を握り、半身のままに構えを取った。切っ先は敵に向け、しかし寸分の隙もなく、腰を落として構えを取った。
 恐らくはそれが、彼らの中での合図だったのだろう。後ろに隠れていたセイニィたちも全員姿をあらわし、手に各々武器を握っていた。ただ一人、唯斗を除いては――。