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 4−探し物はなんですか?

 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は、ティセラから突然渡された小箱を、不思議そうに見つめていた。「キャンディを作ってみたからお一つ如何?」とだけ言われたので、なおの事疑問を持つ。
「何故私に、いきなり渡すのかしら。彼女が正気に戻ってから殆ど会ってなかった筈なんだけど」
 小首をかしげ、兎に角家路についている彼女。考えながら歩いていれば、いつしか家の前に到着していた。ドアノブを捻り、玄関へと入る。と、突然に横から何かが掠って行った。手にしていた小箱はもうない。
「あら?」
「お邪魔するわねリカイン」
 ドアを開け、靴もまだ脱いでいない彼女の前には、パートナーであるシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)が立ちはだかっていた。彼女の手には、今までリカインが持っていた小箱が握られている。
「あら、フィス姉さん。来てたの?」
「いいえ、今来たの。リカインが扉を開けたから、そのまま入っちゃった」
「で、何で私が貰った物を、私じゃなくてフィス姉さんが持ってるのよ」
「簡単よ?通り過ぎざまに何やら良い匂いがするものを持っていたから、ちょっと私も見せて貰おうと思って。でもこれ、きっとあれね」
 シルフィスティの言う「きっとあれ」に、リカインは首を傾げる。どうやらシルフィスティは、その箱の中身が何であるかを知っている様だった。
「ねぇ、あれって何?」
「今結構話題になってるわよ?呪いの飴。商的を絞って、食べたらキャンディになる飴をティセラが配ってるって、ね」
 リカインは少し胸を撫で下ろす。自分が食べずに良かった、と。が、しかし、ならば何故、目の前にいるシルフィスティは楽しそうな表情でその箱を持っているのか。
「リカインが考える事、大体わかるわよ。何で私がこれをニヤニヤしながら持ってるのか。内容を知っていて、何故愉快そうな顔をしているのか。でしょ」
「…」
「こんな面白そうな事、ないじゃない。危ないからって捨てるのは、些か勿体無いわよ」
 言いながら、シルフィスティは一層悪戯っぽく笑う。
「だったら私が有効に使ってあげるのが筋ってものだと思ってね。何ならリカインも一緒に来る?面白いものが見れるわよ」
 言いながらも、リカインの返事を待つ事はせずに、彼女の家から出て行くシルフィスティ。リカインは嫌な予感を胸に、彼女の後を追った。
「ねぇ、待ってよフィス姉さん。一体何を」
「くれば判るわ。それまでは、内緒」
 二人の追いかけっこは続く。リカインがシルフィスティに追いつきそうになると、シルフィスティは距離を伸ばし、またリカインが追いつきそうになると、加速して距離を離す。
 繰り返されるいたちごっこは暫く続いた。が、流石にこれは、リカインからの逃避ではない。目的があるのだ。そして目的が近付けば、移動する必要がなくなる。
 懸命にシルフィスティの後を追っていたリカインの視界で、ようやっとシルフィスティが停止していた。何やらそこは、数名が一緒にいるところ。彼女自身、見知った顔が並ぶ場所。そこにシルフィスティが混ざっていった。
「ねぇ、姉さん。待ってったら…何を考えて――」
 言葉が止まる。シルフィスティの前には、セイニィが立っていた。彼女の周囲にいる人影も、不思議そうにリカインと知るフィスティを見つめていた。
「トド娘…じゃなかった、セイニィ。これあなたにあげようと思って飛んで来たのよ」
 シルフィスティは嬉しそうな顔でセイニィへと言う。
「…何これ?」
「プレゼント。あなたに、よ。何よりこれ、胸が大きくなれる魔法の飴なの。食べてみない?」
「魔法の飴?胸が大きくなる?…そんな飴があるなら、初めっから買ってる筈だけどね」
「な、ならこれはどう!?なんと、ティセラお手製の飴なの!それならあなたでも」
 途端、セイニィの、そして周囲の目の色が変わった。それはまさしく、彼女たちが犯人を捜している事件の、根源の飴。
「ごめん、それなら要らない。知ってる?その飴、食べると食べた人がキャンディになるのよ?」
「そんな――なんであなたが」
セイニィは特に何と言った様子もなく、淡々とシルフィスティの言葉へ返事した。
「パッフェルがそれを食べてキャンディになったのよ。今はその犯人を探し中ってわけ。だからその飴がなんなのか、大体見当ならついてるわ」
 詰まらなかったのか、目論見が失敗したからか、シルフィスティは膝から崩れた。どうやら相当ショックが大きかったらしい。リカインが苦笑しながら、シルフィスティの近くに寄り、彼女の肩に両手を置いた。
「フィス姉さん。話題になってるものを秘密で渡すのは、ちょっと無理があるんだよね、多分。まぁ…企みが失敗したのは残念だろうけど、諦めてね」
「うぅぅぅっ…」
 涙を流しながら、シルフィスティはリカインの袖を掴んで、更に泣く。
 こうして、彼女たち(厳密にはシルフィスティのみではあるが)の企みは失敗に終わった。


 リカイン、シルフィスティと別れてからのセイニィ達一行は、未だに確かな目撃情報もないままに歩いていた。セイニィの部屋を出発前との違いと言えば、テクノコンピュータで検索をしていた策とスカサハが、セイニィ達に合流したくらいだろう。
「それにしても、なかなか現れませんね」
 シャーロットが痺れを切らして、そんな事をぼやく。一同も同じ事を思っていたのか、苦笑を浮かべていた。
「そう言えば、朔さん、スカサハさんはコンピュータの前から離れてしまっていますが、大丈夫なのですか?」
 ラナは素朴な質問を投げかける。と、スカサハが何やら自慢げにその答えを述べる。
「自動制御機能と言うものがあるのであります。皆様から集めた情報による処理が済み次第、協力者へ一斉に対象が何処にいるのかをメールする設定にしているので、平気なのであります。また、相手方が此方の情報収集に気付かない様、簡単な妨害工作も行っているであります」
「あらぁ…詳しくはわかりませんが、兎に角凄いですわね」
 ラナが何とも言えない表情でそう言うと、スカサハは「えっへん」と言った具合に胸を張る。と、そこに一人、セイニィたちの見知った顔が一同の前を横切った。
「あ、紅鵡!」
「うん?やぁ、セイニィ。そんなに沢山の友達と、何処に行くのさ?」
 セイニィの言葉に反応し、足を止めたのは笹奈 紅鵡(ささな・こうむ)である。
「んと、今さ、結構立て込んだ事情で、みんなに協力してもらって犯人を捜してるんだよね」
「へぇ、立て込んだ事情、ねぇ」
 セイニィは簡単に今までの経緯を紅鵡に話した。黙って聞いていた紅鵡は、セイニィが説明を終わらせると「そっか」と呟いてから
「だったらボクも協力させてもらおうかな」
「ほんとに?助かるよ」
「任せて。それで、今は漠然と犯人を捜してる最中なのかな?」
「ええ、今情報を集めているところですが、それもすぐには集まらないので、情報と演算による予測が出るまでは、こうやって歩いて捜索する事にしているんですよ」
 隣から朔が説明を入れた。
「そっかそっか、ならわかった。ちょっと歩いて探してみるの、続けようか」
 一同が足を進めようとした時、後ろから誰かが声をかけて来た為、全員足を止める。
「何なら俺も、手助けさせてもらいますけど、人員まだいります?」
 声の主は紫月 唯斗(しづき・ゆいと)。どうやら今、セイニィたちが紅鵡に事情を説明していた時、彼も話を耳にしたらしい。
「協力してくれるなら何人でもいいですよ。ねぇ、セイニィ」
「うん、助かる。人数増えればそれだけこっちも捜索範囲増えるしね」
「なら、俺もいれてもらいますよ」
 こうして、唯斗も一同の中に加わった。
「では、お二人が増えたという事で、この通信機をお渡ししておきます。生憎私はお二人の連絡先を存じ上げませんので」
 朔は懐から通信機を出すと、二人に渡した。
「もしこれから私たちと別の動きをする場合、何処に犯人がいるか、判り次第この通信機に情報が送られてくるので、使ってみてください」
「うん、わかったよ」
 紅鵡はそれをポケットにしまう。
「ええ、連絡を戴いたら、そこに急行すればいいんですね」
 唯斗は懐へと通信機をしまった。
「さて――と。それならば同じ箇所を全員で探す必要はないですね。我々は違う場所を探してみるとしますよ」
 新たに入った二人に通信機を渡した朔は、セイニィにそう提案した。
「うん、確かにそうだ。結構人数いるし、此処からは少しバラバラに動いて探してみよう。もし犯人に会っても、無理はしないって事で、みんないいわよね?」
 セイニィの言葉で、一同が力強く頷いた。
「では、スカサハは朔様と同行するであります」
 スカサハはそう言うと、朔の後ろに回った。
「私は勿論、セイニィと一緒です」
 シャーロットはセイニィの側に回り込む。
「朔とスカサハ、そっちは頼んだわよ」
 セイニィが言うと二人は頷き、その場を後にした。続いて唯斗が口を開く。
「俺も別に動かさせてもらいますよ。探索ならばこっちにも方法がありますが、みなさんだと出来ない事もあると思いますし、俺なりのやり方で探ってみますんで、見つけたら連絡いれます」
「そっか、なら任せたわ」
「お互い頑張りましょうね」
 セイニィとシャーロットが唯斗へ声をかけると、次の瞬間唯斗は姿を消してしまった。
「私たちも負けていられませんね」
 朔、スカサハ、唯斗を見送ったラナが、気合を入れてそう言った。
「だよね、ボクたちも頑張って探すとしよう」
 紅鵡もラナに続き、セイニィ、シャーロット、ラナ、紅鵡は再び歩き始める。