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リアクション
天御柱学院の制御ルーム。
警戒音が鳴り響きプログラムを制御していたメインフレームが震え始めます。
(クリスタルの破壊に成功したか!?)
校長のコリマ・ユカギール(こりま・ゆかぎーる)がテレパシーを送ってきます。
しかしオペレーターは悲鳴を上げます。
「駄目です、強制終了開始しています。収束が早すぎて、回収し切れません! このままでは……!」
「大丈夫ですよ。こちらはそのためにすでにスタンバってましたから」
救出班の佐野 和輝(さの・かずき)は、電子の海の中へダイヴしていきます。
この世界が閉じてしまう前に、キャラクターとして入り込んでいた契約者たちを全て回収するのです。
「救出って……、なんかちょっとニュアンス違うんじゃないですか?」
そういうものの、彼は渦に巻き込まれつつある中からキャラクターたちを探し始めます。
「宙に浮いている連中は全員捕まえておくから」
飛空挺を持っているキャラクターがいました。
空賊の佐倉 紅音(さくら・あかね)です。
「なんか、世界を空で旅する話はなかったけど、こんなところで狩りだされるとはね」
空賊のメンバー重装機晶姫 ブルド(じゅうそうきしょうき・ぶるど)は複雑な表情です。
皆と空の旅をしてみたかった。帰りだけ利用するなんてちょっとアレなんじゃないのか? そう言いたげです。
「家に帰るまでが冒険よ。これだって立派なパーティの仕事のひとつなんだから」
紅音はむしろ楽しそうに、ふわふわと宙に浮くキャラクターを救出していきます。
「……あっちに見えるのが、現世への出口ね。責任もって送り届けるわ」
「ありがとう。こっちも、最善は尽くしますよ」
と和輝。
「はい、あなた起きようね。あったかいコーヒー入れてあるからそれ飲んだら帰りましょ」
冒険の世界が忘れられずとどまろうとするキャラクターたちに、メイドのスノー・クライム(すのー・くらいむ)は優しく連れ戻します。
彼女の丁重なおもてなしに引かれて、「現実に帰りたくない! 俺はゲームの中で一生暮らすんだ」とダダをこねていたニート予備軍までが出口に向かい始めます。
「はい、和輝。コーヒーよ」
「俺はいい」
「こら。アニス、ルナ、食べ物で遊ばない」
呼ばれて、アニス・パラス(あにす・ぱらす)とルナ・クリスタリア(るな・くりすたりあ)も、空間の奥から戻ってきます。
「アニス。こういう体制で風を受けると、飛ばされるですよぉ〜〜〜〜〜♪」
「和輝、和輝! ケーキが浮いてるよ凄く大きいよ!!」
「お前ら、遊んでないで早く脱出しろ。閉じ込められるぞ!」
そんな和輝に手伝っていた空賊の紅音は微笑みながら言います。
「こっちは回収終了したよ。もう出るから……」
「ああ、ありがとう。では後ほど現世で」
「ええ、後ほど現世で……」
あの……、勇者たちが冒険していた世界は、数字が渦巻き電子情報が飛び交うだけの無機質な空間へと変貌していきます。
「……さらばだ」
和輝は、閉じていく空間を泳ぎきって現世へと戻ってきます。
そのすぐ後ろで……、ピシャリと世界が消滅するのがわかりました。
「ただいま、そしてお帰り」
コントロールルームには、世界を救ったそして自分たちの身も救ったかつての勇者たちが、累々と横たわっているのでした。
こうして、バグ事件は収束し、取り込まれた契約者たちは、全員戻ってくることができたのです。