|
|
リアクション
第六章:クリスタル!
「お疲れ様。待っていたぜ」
ここは、魔王の城からさらに深き闇のそこへともぐった次元の狭間に近き場所。
魔王との戦いが終わった勇者たちを待っていたのは、辻永 翔(つじなが・しょう)と、その一行でした。
「もう全ての手はずは整っているわ。後は秘宝をささげ、クリスタルを呼び出すだけよ」
{SFM0046994#イーリャ・アカーシ}が導いてくれます。
「秘宝はその台座に置くの。光が伸びていき狭間の空間への道が開かれるわ」
秘宝は手違いで四つあったりしますが、まあまとめて使えばいいでしょう。そんなに厳密なゲームじゃないです、これ。
「……」
勇者たちが秘宝を捧げると、膨大な魔力が溢れ出し空間に穴が開き始めます。
天空から光が降り注ぐ中、姿を現したのはこのゲームの鍵を握るクリスタルです。
ですが、それがぱっくり割れて黒い霧が噴出し始めます。
クリスタルの核が暴走しているようです。何とか止めないといけません。
「……時空の狭間へようこそ。我こそはコアなり」
おどろおどろしい声で告げてくるのは、クリスタルの核の七瀬 雫(ななせ・しずく)です。
「なにをしようとしているのかは知らんが、我は世界の全てを飲み込むだけ。それでは始めようか、滅亡を……」
ラスボス口調で話している通り、彼女は本当にラスボスです。
これまでのグダグダに騙されてはいけません。ブラックホールのように膨張しながら全てを取り込み消滅させようと蠢き始めます。
「上等よ。みんな準備はいいわね」
ジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)が前に出ます。
では、最後の戦闘といきましょうか!
それはもう、凄まじい戦いが繰り広げられます。全員参加の総力戦です。
攻撃は全て、コアの防御システムである試作型改造機晶姫 ルレーブ(しさくがたかいぞうきしょうき・るれーぶ)がはじき返してしまいます。コアにダメージを与えられません。
「……」
彼は言葉すらなく、淡々と作業を繰り返すように勇者たちの接近を阻み続けます。
それだけではなく、コアは周囲を巻き込み光景ごと世界を取り込み始めてしまいます。
闇も光もそして空気さえも。
同時に、これまでこの世界に存在した全てのものを吐き出し、それらが勇者たちを襲ってくるのです。
その圧倒的存在に、心が折れそうです。
「安心せよ。絶望すら、飲み込む……」
コアの勝ち誇った声。
「……仕方、ないか。私しか、いないよね」
不意に、それまでずっと黙っていたルカルカ・ルー(るかるか・るー)が顔を上げます。
「まあ、なんだかなな冒険だったけど、勇者たちといれてちょっとは面白かったし世界を消滅させるわけにはいかないから」
「?」
一行は怪訝な顔でルカルカを見ます。
「やるだけやってみる、あいつと。私の命、ここでくれてやるわ」
ルカルカは全てを開放し、身体のいや精神すらも耐えうる許容範囲を遥かに超える負荷の魔力をその大剣に纏わりつかせます。
コアの重圧すらも撥ね退けるほどの膨大な魔力がビリビリと周囲を震わせ、真っ白な魔法の炎にその身が包まれ始めます。
「な、何をするつもりなんですか?」
「皆が無事にもとの世界に戻れるように、光あふれる世界で笑顔でいられるように。あの……コアだけは……破壊する……!」
「ルカ……」
{SFL0010081#カルキノス・シュトロエンデ}は静かに目を閉じるだけです。
「おい、やめろ! そんな無茶な!」
勇者たちがようやく事態に気づいて止めに入ろうとしますが。
「皆……後は頼んだわ……。 」
その言葉の後は、聞き取れない声を上げてルカルカは光芒放つ魔力の弾になります。
思い出しました。
サイショの村で出会った村娘の言葉。紅護 理依(こうご・りい)は告げていましたっけ。
コアそのものは弱い。防御すステムを破れば破壊は簡単……。
それを、やるのです。
「みんな、力を貸して! 彼女の想いにみんなの勇気と絆と希望と、そして大切な物を貸してあげて!」
透乃が叫び声を上げます。
その言葉に勇者とその仲間たちは全ての力を集め、貸し与えます。
ド……ンッ!
鼓膜が破れるほどの轟音と立っていられないほどの揺れ。
力を結集したルカルカの最期の攻撃は、防御壁を破りコアにまで届きます。
「……!」
コアは初めて驚愕を覚えます。
ルカルカはクリスタルのコアの奥へと消え去ってしまいました。
「まだよ! もう一撃! みんなのもう一撃を!」
ジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)は力を結集させます。
ドドドドドドドドドド……!
と、全員がなりふりかまわぬ攻撃を放ちます。
「オ……ォォォォォォォォォォォォォ!」
コアが震え崩壊を始めたようです。
「やった……の?」
耳障りな衝動音を撒き散らしながら、コアはクリスタル本体に戻っていきます。
「……」
しばしの沈黙。
コアは自我を昇天させただの黒い点になってクリスタルの中へと消えていきました。バグのコアの雫もそのまま消滅します。
ひんやりとした静寂が辺りを包み込みます。
「……終わった、ようだな」
辻永 翔(つじなが・しょう)がポツリと告げます。
「勇者たちよ、聞こえますか?」
そんな彼らに優しげな声が響いてきました。
「私は、天空のクリスタルの精霊。幾多の困難を越えてここに集いし勇者たちよ、よくぞ辿り着きましたね」
荘厳なBGMは、物語が終焉を迎えようとしていることを告げています。
辺りがまばゆい光に包まれ、女性の身体が実体化していきます。
クリスタルの雪住 六花(ゆきすみ・ろっか)です。
その光を帯びたまま、彼女はゆらゆらと宙に浮かんでいます。
「あなた方の旅路は、すべてクリスタルを通して見ていました」
彼女は小さく微笑みます。
「さあ、やることはわかっていますね。私を破壊するのです」
「……」
もう、他に何も言葉はいりません。
全員が顔を見合わせ頷きあい、力をあわせクリスタルを破壊します。
パリ……ンッ。
美しく軽やかな音を立ててクリスタルは砕け散ります。
「さようなら、ごきげんよう……」
途端に世界が渦巻き始めます。
この世界を支えるクリスタルがなくなり時空ごとゆがみ始めたのです。
数字しかない電子の空間が、目の前に広がります。
それがだんだんと迫ってきて……。