イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

ハードコアバケーション

リアクション公開中!

ハードコアバケーション

リアクション

『続いて第二試合ですね。次の試合は……えーっと、異種格闘技戦?』
『異種格闘技? ……U系とか?』
『何も書いてないんだけど……どういう事だろ?』
『まぁ、お楽しみという事で見ていればわかる、多分』
『と、謎を残しつつ第二試合、選手入場です!』

 第二試合。入場ゲートから姿を現したのはアレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)
「しっかりやってきなさい兄貴! 骨は拾ったげる!」
「まぁ……無茶はしないようにね」
 その後ろで矢鱈張り切る様子を見せるサンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)と、そんな様子にやれやれ、と溜息を吐くリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が続く。
「所で、何そのビデオカメラ?」
「ああ、どうせ今回も負けるだろうから、次回の参考になるようにと試合を録画しようと思ってね」
「もう負ける事確定なのね……」
 続いて入場ゲートが開き姿を現したのは、腕を組み不敵な笑みを浮かべる葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)。そのままリングサイドまで歩み寄る。
「あれが対戦相手? 異種格闘技って何かしら……」
「私は選手でないであります。セコンドでありますよ」
 リカインのつぶやきが聞こえたのか、不敵な笑みのまま、吹雪が言う。
「選手は既に、リングにいるであります!」
 吹雪が指さした先。そこはリングのコーナー最上段。そこにいたのは、
「我、参上!」
触手をうにうにと動かすイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)であった。

『……うん、確かに異種格闘技』
『そっちの異種ですか!? 確かに間違えていませんけど!』
『……あのタコさん、関節技効かなそう』
『関節とかあるんですかね……というよりタコ、に分類していいんですかねあの方?』

「タコ! 無様な試合をしたらたこ焼きにするでありますよ!」
「おっと、そいつは御免こうむりたい!」

『タコなんだ』
『……パートナーお墨付き、タコだけに』
『というわけでこちらでもイングラハム選手はタコ、という事で扱わせていただきましょう!』
『……いや、そこ突っ込んでもらわないと私恥ずかしい……でもそれはそれで……ハァハァ……』
『人対タコ、異種格闘技戦間もなくゴングです……あれ、いっちゃん息荒いけどどうしたの?』

 そんなこんなで始まった第二試合。通常ルールシングルマッチ。
「い、行くッス! てぇいッ!」
 ゴング直後、アレックスは全力でダッシュしたかと思えば飛び上がりドロップキック。
「ぬおっ!?」
 奇襲にイングラハムが驚き、よろける。だがその後が続かない。
「んごッ!」
 受け身の事など考えていなかったアレックスが、ぐしゃりと落下する。
「痛ったぁー! 超痛いッスよぉー!」
 そしてのた打ち回る。多分どっか捻った。

『アレックス選手、見事に受け身なしで落下しましたね』
『ドロップキックは下手にやると放った方が怪我をする。良い子は真似しちゃいけない』
『きちんと受け身の練習とかしてるんですよー、と……イングラハム選手がアレックス選手を捕らえる!』

「我は容赦せん!」
 のた打ち回るアレックスの背後から纏わりつく様にイングラハムが触手――のような腕を喉に巻きつける。
 完全に喉仏を絞めるタイプのチョークスリーパー。アレックスが顔を真っ赤にしてもがいた。
 手を伸ばせばロープはすぐ近くにある。だが、アレックスの頭にロープブレイクという発想が無い。
「……えーと」
 流石にこのままでは試合が終わってしまう。総合ならともかく、これで終わっては何の盛り上がりも無い。プロレス的に考えて。
 チョークを解き、イングラハムが無理矢理引き起こすがすぐさまぐしゃりとアレックスは膝から崩れ落ちる。
「立てー! 立つんだ馬鹿兄貴ー!」
「む、無茶言うなッス……」
 セコンドから撮影のカメラ片手にサンドラが叫ぶが、アレックスは既に虫の息であった。
 人型対軟体生物の異種格闘技戦。開始早々、観客含め会場内の人間はその認識を改める必要がある事に気付かされる。

――この試合は、素人対軟体生物の異種格闘技戦であった。

 ロープに投げれば正面から突っ込んで転落。向かっていっても技を知らないため、何をすればいいか手が止まる。
 プロレスのプの字が半濁点という事くらいしか、アレックスはわかっていなかった。
 それでも逃げ回らず、相手の攻撃を避けずに受ける辺りは多少成長はしているようではあるが。
 しかしこの状況に最も戸惑っていたのは、同じリングに上がっているイングラハムであろう。むしろイングラハムの方がプロレスを理解していた。
 グダグダでカオスなこの状況、どう収拾を着ければいいのか。
 イングラハムがちらりと吹雪を見る。すると無言で吹雪は首を掻っ切るポーズを見せた。その眼は『やっちまえ、であります』と語っていた。
「というわけで許可は出た! とっとと終わらせる!」
 イングラハムがアレックスの背後に回り、バックドロップ。
「んがッ!」
 ろくに受け身も取れないアレックスは後頭部を強打。これで試合は終わりの様な物であったが、
「まだだ! まだ終わらぬ!」
無理矢理アレックスを引き起こし、そのまま触手――のような腕や足を複雑に絡ませる。
 そして出来上がったのが卍固め。別名オクトパスホールドである。
 ただでさえ複雑な技を、アレックスが返せるわけがない。極められた状態で崩れ落ち、その様子を見たレフェリーが試合を止めた。
「予想通りか。逃げ回らず向かっていっただけ前回より成長はしたかな」
「課題はいっぱいありそうねぇ……」
 リング上でぐったりと動かないアレックスを見て、サンドラとリカインが呟いた。

「やったぞ! 我はやったぞぶぁッ!」
 リングを下り、触手――ああもう触手でいいや、を掲げ喜ぶイングラハムの頭部を吹雪がぶん殴った。パイプ椅子で。
「な、何故……我は勝利したぞ……」
「いや、用意したのに使わないのは勿体ないであります故」
 いざという時は反則覚悟で用意していた凶器を片手に吹雪が言う。
「まぁよくやったであります。たこ焼きの具材は勘弁してやるであります」
「納得がいかな……がふっ」
 超イイ笑顔で語る吹雪の前で、イングラハムが崩れ落ちた。流石に座る部分が抜ける勢いで殴られりゃそうなる。

 素人対軟体生物の異種格闘技戦は、何故か両者担架で運ばれて幕を閉じる結末となった。