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 第四試合、ハードコアルールタッグマッチ。
 現在リングに上がっているのは典韋 オ來(てんい・おらい)レイラ・ソフィヤ・ノジッツァ(れいらそふぃや・のじっつぁ)の【典ノジ】タッグ。
 対するのはペンギンをモチーフとしたマスクをかぶっているマスク・ド・ペンギンこと鬼龍 黒羽(きりゅう・こくう)
 試合開始から早数分が経過。その間、行われていたのは典ノジタッグによる一方的な展開であった。
「あうっ!」
 ハンマースルーでコーナーに貼り付けにされた黒羽の口から苦悶の声が漏れる。
「おぅ行くぞノジ!」
 典韋がまず、コーナーの黒羽に串刺しラリアット。続いてレイラがジャンピングエルボーを放つと黒羽をリングに転がし、アピールと共にコーナーに上がりダイビングエルボー。そのままフォールへと移行する。
「返せ返せ!」
 カウントが進む中、リングの下から百合園の制服とレスラーマスクを纏ったユリアン・タカミこと鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)が檄を飛ばす。
 カウントギリギリ、何とか黒羽がフォールを返すと、レイラはさっと典韋にタッチし引き上げてしまう。
 このような具合で、典ノジタッグは巧みなタッチワークと連携を使い分け、黒羽を攻め立てていた。黒羽は唯一人、必死に耐えるだけ。
「くっそ……こいつが無ければ……」
 その様子を見て、パートナーである貴仁が悔しそうに呟くと視線を自分の手元に移す。
 そこは、コーナーを軸として手錠で繋がれた自身の腕があった。

 話は少し前に遡る。
 試合が始まり、先方は貴仁と典韋。一通りのムーブを見せた後、貴仁が黒羽にタッチ。
 レフェリー経験はあるが試合は今回が初、というデビューを迎える黒羽が若干緊張の色を見せつつも観客にアピールしつつリングインした時、それは起きた。
『止めろ止めろ! 試合を止めろ!』
 会場にマイクの音声が響き渡る。そこに現れたのは、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)を従えたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)であった。
 会場がローザマリアの姿を見てざわめき立つ。彼女は、グロリアーナが押す車椅子に乗り、松葉杖を抱えた痛々しい格好であった。
『……私が何故このような格好をしているのか、説明させてもらおうか!』
 そしてマイクを握りローザマリアが語りだす。曰く、前回、興行で勝手に試合形式を捻じ曲げたという事でバックステージで制裁を受けた結果である、と。
『……翼。そんな事する娘に育てた覚えは私は無いよ?』
『してない! してないから! あといっちゃんに育てられた覚えもないから!』
 ジト目で見てくる泉空に翼がマイクが入っている事も忘れて全力で否定する。
『そこでだ! 私が納得してないことがある!』
 そう言って貴仁を指さす。
『奴は前回、観客席から乱入しておいて何の罰も受けていない! このような暴挙が許されていいのか!?』
「……えー、俺確か地獄突き食らったはずなんだけどなぁ」
 ローザマリアの言う通り、貴仁はつい興が乗り観客でありながら試合に乱入したが、その時レフェリーをしていた黒羽から黒い魔術師ばりの地獄突きをぶちかまされた挙句、参加選手からペディグリーまで食らっている。
『そこで、私は謝罪を要求する!』
 ローザマリアの言葉に、渋々と言った様子で貴仁が下りる。
「謝罪って言われてもなぁ――あぐぁッ!?」
 ローザマリアの前に立った瞬間、松葉杖で貴仁は襲われた。
 制裁を受けた事等全て、ローザマリアのギミックである。ギミックである為、怪我など一切していないローザマリアは立ち上がると松葉杖で貴仁を殴打。ダメ押しとばかりにグロリアーナが車椅子で追撃する。
 突然の攻撃に蹲る貴仁をグロリアーナが捕らえると、ローザマリアは所持していた手錠を観客に見せつける。そして、無理矢理コーナーに腕を挟ませると手錠をかけてしまった。
 その手錠の鍵を、貴仁のコスチュームにねじ込むと、マイクを構えて叫ぶ。
『制裁は済んだ! さぁ試合を始めろ!』
 そして、グロリアーナがゴングを鳴らした。

『ペンギン選手、防戦一方のまま活路を見いだせるか!?』
 そこからの展開は黒羽の防戦一方である。タッグマッチ、というが最早二対一のハンディキャップマッチ。
 ただでさえ不利な状況な上、片やタッグ経験を積んだチーム、片や今回が初試合。圧倒的な経験の差があった。
 現在試合権利があるのは、黒羽とレイラ。だが典韋もリングに入り、黒羽を捕らえている。
「ああぁッ!」
 だからと言って黒羽もただ黙ってやられているだけではない。捕らえられた状況で振り払い、エルボーで反撃を試みる。
 二人に二発、三発、と与えるが、
「効かんわ!」
「あうっ!!」
あっさりと典韋に反撃され、モンゴリアンチョップでダウンしてしまう。
「さぁてそろそろ行くか! ノジ! テーブルじゃ!」
 典韋が叫ぶと、レイラがするりとリングを降りてテーブルをエプロン下から引っ張り出す。リングに入れると、さっとテーブルを設置する。
「よし! ノジ!」
 黒羽を無理矢理引き起こすと、典韋が羽交い絞めにする。それを確認すると、レイラがロープへと走り、反動を利用すると同時に【バーストダッシュ】を発動。そして腕を振りかぶる。

「今だ! 屈め!」

 その声が届いたのか、重なったダメージで立つのも辛くなったのか、黒羽が体を屈ませる。すると典韋の拘束からするりと抜けた。
「んなぁッ!?」
 レイラの必殺、【奈落ラリアット】が典韋に決まる。一回転し、仰向けに典韋が沈む。
「せぇッ!」
 それと同時に、コーナーから拘束されていた筈の貴仁がムーンサルトで振ってくる。そのまま両足で典韋の鳩尾をフットスタンプ。
「がはぁッ!?」
 流石にたまらず典韋は悶え苦しむと、転がりながらエスケープする。

『おっとここで拘束されていたタカミ選手がまさかの復活! ムーンサルトフットスタンプで典韋選手に襲い掛かる!』
 実況席。空席になっていた翼の隣を泉空が腰掛ける。
「……ふぅ、疲れた」
 そして一仕事終え、爽やかな笑顔で溜息を吐いた。
「あ、いっちゃんおかえり……あれ、いっちゃんの仕業?」
 マイクを切り、ひそひそと翼が問いかけると、
「……忍び寄るのは得意」
泉空はドヤ顔で、手錠の鍵を見せつけた。

「さぁてお返しだ!」
 今まで拘束されていた鬱憤を晴らすかのように、貴仁がレイラを攻め立てる。二対一の図式は相変わらずだが、メンツが変わっていた。
 連続してのエルボーからラリアットで貴仁はレイラをダウンさせると、無理矢理引き起こして地獄突きを放つ。
「あぐッ!」
 喉を突かれ、レイラが動きを止める。
「よし、今だ!」
「うん!」
 貴仁の呼びかけに、黒羽がレイラの喉を掴む。貴仁のアシストを得ながら、抱え上げるとそのまま設置してあるテーブルへ落とした。
 チョークスラムの衝撃に耐え切れず、テーブルが真っ二つに折れる。その残骸に埋もれたレイラを、黒羽が抑え込み、更に貴仁も上から抑える。
 二人を流石に跳ね返すことはできず、レイラはゴングが鳴る音を聞く事となった。

『何と言う番狂わせ! 逆転勝利! 勝利を手にしたのはタカミ、ペンギンタッグです!』
「おい待て! 何だ今の試合は!」
 ゴングが鳴ると、実況席にローザマリアが詰め寄る。
「解説が手を貸すとは何事だ! こんな暴挙が許されるわけがない! You’re Fired(お前はクビだ)!」
 そう言って泉空に人差し指を突き立てるローザマリア。
「暴挙はそっちだろ」
 その言葉にローザマリアが振り返る。直後、貴仁に両手で首を捕らえられ、高々と掲げられる。
「黒羽、準備は!?」
「えへへ、【用意は整っております】!」
 そう言って黒羽が示す先にあるのは、【スペイン語実況席】とかかれた実況席。何処から用意したそんなもん。
「いよっしゃぁッ!」
 そこへ、貴仁がローザマリアを背中から叩き落とした。ネックハンギングボムの衝撃で壊れた【スペイン語実況席】に埋もれ、ローザマリアが大の字になる。
 その姿に溜飲を下げ、貴仁と黒羽はアピールしつつ退場していった。

『えー、今回も結局破壊されましたね、実況席』
『【スペイン語実況席】は破壊される運命……仕方ない事』
『まぁ我々の席が無事なので良しとしましょう。それでは次の試合まで少々お待ちください!』