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リアクション
第六章 そして最後に
日暮れ前、シングルズの面々が集結していた広場に、瀬山 裕輝(せやま・ひろき)の声が響き渡った。
「クリスマスというこの時期。『何故アイツばかり』『何故、自分は違う』『何故、平等ではない』……諸君等の中にこう思った者は決して、少なくはないだろう。否、この時期に限らず、常にそのような思いを抱いているかもしれない」
ここに集まっている集団は、数時間前の騒ぎで警備員に捕まらず園内でおろおろとしていたシングルズの面々である。
「しかし、それは正常だ。全くもって当たり前の事である! さあ、恨め、妬め、嫉妬しろ!
だが、我々は愚かで、しかしモテたいと真摯に思っている! モテる奴等、幸せそうな者達を妬ましく思っている!」
シングルズの面々が、お互いの顔色を窺い合う。
「では、立ち上がれ(アップ)、立ち上がれ(アップ)、立ち上がれ(スタンダップ)、だ!
今こそ。そう、今こそ立ち上がる時だ! 明るい現在(いま)と未来に向かおうとする連中の襟首を掴み、こちらに引きずり込んで来い!」
その異様な状況を察知してか、近くにカップルの姿はない。ーー否、この広場の近くをもしカップルが通ったなら、その瞬間に何人分の妬みがカップルを襲っただろうか。
「妬み隊、代表、瀬山裕輝は宣言しよう! ここに妬みのことごとくを開始すると!
我々はいかなる力にも、意思にも屈しないと! 崩れる同志(とも)がいれば、殴ってでも奮い立たせろ!!」
うおおおおおっと歓声が上がる。懲りない集団である。
「それでは行こう。諸君! 今なすべきは何か―――それがわかったならば言うがいい!」
裕輝の声が響き渡った瞬間、幸か不幸か、その場を通ったカップルがいたのである。
永井 託(ながい・たく)と南條 琴乃(なんじょう・ことの)は、広場の周囲に漂う異様な空気を感じ取った上で、あえてこの道を通っていた。
二人はデートを楽しみながらも、周囲のカップルが被害を被りそうな時には、装備していたフラワシや痺れ粉で止めていた。
どうせなら嫌がらせをする人たちにイチャイチャするところを見せつければ、テロリストにダメージも与えられて一度で二度美味しいだろう。
そう思い、今回もしっかりと防衛対策をした上でこの道を歩いてきたのだった。
「この後どうする?」
「二人きりになれるところに行きたいな」
そんな会話をしながら二人が手を繋いで歩いていく元に、さっそく引っかかった一人のカモが、ヤケになって突進するように割り込んできた。
「あ、すみません〜」
そう言いながら託は琴乃を胸元にぎゅっと抱き寄せ、フラワシを男との間に割り込ませる。蟻一匹通さないかのように密着した託と琴乃を見て、男はこめかみをひくつかせ、何事か小声で呟きながら後退りをして逃げて行った。
「一緒に写真が撮りたいな」
琴乃はそう言って、カメラを取り出した。その様子を遠巻きに見ていたシングルズのメンバーが、すかさずさり気ないふりをして二人の周りを囲み出す。
「それじゃ撮るね。もっと近付いて?」
琴乃と託は頬をくっつけて、カメラに自分たちを映して撮った。背景など全く映らないほどのアップで撮ったため、
二人の背後で変なポーズを決めていたメンバーは一人も写っていない。……のだが、本人たちはカップルの写真に映って邪魔してやった、と誇らしげに、嬉しそうに散らばって去っていく。
「言ってる割に、大したことをしてこないなぁ」
「そうだね、しかも本人たち満足そうだよ」
琴乃の髪を撫でながら、託は残りのシングルズメンバーにちらりと視線を送る。
「嫌がらせしている人たち、連帯感はありそうなんだよねぇ。いっそのこと、そこでくっつけばいいと思うんだけれどなぁ」
「一組二組程度じゃなく、もっとたくさんのカップルができそうだよね」
そんな話をする二人の元に、もう一組のカップルが通りかかった。
フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)とベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は、この道にシングルズメンバーが集まっているとは知らずに、通りかかったカップルだった。
夜の冷風に身をすくめるベルク。そんなベルクに寄り添うようにするフレイ。
金色の耳と尻尾をぱたぱたと揺らし、心底幸せそうに、だがどこかぽやっとした雰囲気である。
「よし、今度こそ邪魔はいねぇな?」
対するベルクは、昼から散々シングルズの面々に繋いだ手を離されたり写真を撮る邪魔をされたりと地味な妨害に合い(地味すぎて、フレイはシングルズの存在に気付いていないほどである)、落ち着かない心持ちである。
今度こそフレイとしっかりデートをしたいと思っていた矢先、大声で騒いで雰囲気を興醒めさせようと妨害を始めるシングルズメンバーがいた。
「俺たちがデートしてるから、こうして邪魔が入るんだぞ」
ベルクはそう諭すように言った。だが、フレイは突然騒ぎ始めたメンバーの行動を、頭上に疑問符を浮かべたまま首を傾げて見ている。
「あいつらにはな、俺たちが恋人同士だっていうことが妬ましいんだ。一緒にデートする相手がいないから、俺たち恋人が羨ましくて邪魔をする」
「恋人……デート……」
プレイは頬を少し赤らめて、ベルクをちらと見上げる。「デート」や「恋人同士」のキーワードをフレイに使うと、プレイは恥ずかしがる。
「特にクリスマスは、恋人同士で過ごすカップルが多いから、特にこういう奴らが出てくるんだぞ」
わざと意識させるために使うベルク。クリスマスと恋人の繋がりが分かったような分からないようなぽやっとした表情のまま、フレイはまだどこか恥ずかしそうにベルクを見つめる。
ゆるゆると尻尾を振るフレイを、ベルクは愛おしそうに見つめた。
「さて、恋人同士限定のスペシャルケーキセットを食べに行こうか」
ケーキ、という単語が出た途端に目を輝かせたフレイを連れて、ベルクはカフェへと向かったのだった。
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