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リアクション
天御柱学院の辻永 翔(つじなが・しょう)は同じ学校の桐生 理知(きりゅう・りち)と北月 智緒(きげつ・ちお)から勧誘を受けていた。
冬季ろくりんピック自体に、それほど興味のなかった翔だが、理知や智緒が熱っぽく話すのを聞いて、次第に興味が湧いてくる。
「できれば優勝したいけど、ゴールは必ずしたいです!」
「まぁ、そうだな」
「智緒は交代ポイントで、修理やペットフォローをするよ。ソリは理知と翔君に任せるよ」
「もう決定なのか?」
翔は悩ましい顔を見せると、理知と智緒が「「ダメ?」」と、翔の顔を覗きこんだ。
「…………わかった。だが出るからには優勝を目指すぞ」
理知は翔の両手を取ると、目を合わせてうなずく。
「うん、やるからには目指せ優勝だよね!」
3人の意見が一致したところで、レースの打ち合わせになった。
「とりあえず賢狼を用意してあるんだけど……」
「よし俺も賢狼を集めるぜ。智緒は交代ポイントで、疲れたのや怪我したのを入れ替えてくれ」
「はーい!」
「問題は妨害行為か。やるからにはガンガン行きたいところだが……」
しかし理知は首を振る。
「攻撃より防御が大事よ。こっちからは攻撃はしたくないし、されてもスウェーでかわそうかなって」
「理知がそう言うならそれで良いさ。俺もフォースフィールドでガードするぜ」
ヒラニプラ雪嶺を望むシャンバラ教導団の校舎。
その一室で、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は羅 英照(ろー・いんざお)を口説いていた。傍らにはパートナーの夏侯 淵(かこう・えん)が立っている。
もちろん週末の空京デート…………ではなく、冬季ろくりんピックソリレースの出場である。
「西チームの勝利のみならず、教導団の名誉のためにも、共に出場しましょう!」
英照は冬季ろくりんピックに出ることは考えてはいなかったが、“教導団の名誉”と言われて心が動く。
「勝つことが、シャンバラ教導団の名誉になるのか?」
「何が何でも勝てば良いのではないです。正々堂々と、そして楽しく勝ってこそ」
繰り返される熱弁に、英照は目を閉じて考え込む。椅子から立ち上がった時には、ようやく考えが決まったかと思われたが、窓の外に見えるヒラニプラ雪嶺を見て更に思い悩んだ。
ルカルカと夏侯淵はじっと待ち続けた。
大きく深呼吸をすると、羅英照は「わかった」と答えた。
「戦友として同志として、よろしく頼む」
深々と頭を下げる英照に、ルカルカと夏侯淵も礼で応じた。
着々と仲間集めが進んでいくのは、東の陣営も同じだった。
「どうせ暇なのだろう? オレ達に加わらんか?」
暇呼ばわりされたジークリンデ・ウェルザング(じーくりんで・うぇるざんぐ)は不快な表情を露わにした。
「清掃のバイトがあるんだけど……」
ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)は意に介さず話し続ける。
「前シャンバラ女王であり、現女王のアイシャともか関わりのあるおまえさんが乗っていれば、攻撃する輩も減るだろう」
ジャジラッドは良い作戦だろうと笑みを浮かべる。
「つまりは楯代わりと」
「あら、あなたにだって損はないはずよ。ミルザムが国政に打って出るのなら、地球にも中継されるだろうろくりんピックで顔を売っておけば、何かとプラスになるのではなくって?」
サルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)の言うことにも一理あるとジークリンデは考える。
「しかしそれも勝っての話ですよね。負けたら良い恥さらしですわ」
ジャジラッドとサルガタナス、そしてゲシュタール・ドワルスキー(げしゅたーる・どわるすきー)は声を上げて笑った。
「心配するな。もう1チーム、ブルタ達に露払いで先導させる予定だ。それで必勝と思うほど油断はしないが、かなり有利であることには間違いない」
「どうだ?」とジャジラッドは、ジークリンデの前に酒で満たしたグラスを進めた。
出場には応じたが、「結構」とグラスは断った。
「ただし……」
ジークリンデの念押しに、喜ぶジャジラッド達の手が止まる。
「私が出るからには、正々堂々と勝負したい」
「ああ、わかった、わかった」
ジャジラッドは鷹揚に手を振った。
ジャジラッド・ボゴルに露払いと言われたブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)とステンノーラ・グライアイ(すてんのーら・ぐらいあい)も千種みすみ(ちだね・みすみ)を引き入れようと、やっきになっていた。
しかし肝心のみすみが、なかなか乗り気にならない。
「見るのなら楽しそうだけど、出るのはちょっと……」
「そんなこと言わないで欲しいの。さぁ、お茶のお替わりはいかがかしら?」
ステンノーラは特製の薬草茶を新たに入れる。香しい湯気がカップに入れられたお茶の表面から立ち上がる。
みすみが一口すすると、一段と身も心も温かくなった。長い荒野暮らしで染み付いた垢までもが落ちるような気がした。
「でも……これまでこう言うことで、あんまり良い思いをしたことがないんです。皆さんに迷惑かけるんじゃないかと……」
ブルタとステンノーラは顔を見合わせてうなずいた。
「実はね。それを見込んで誘ってるの」
「……?」
ステンノーラはジャジラッド・ボゴル達と共闘することを説明した。そして自分達が先導を務めることも。
「もちろん勝つチャンスがあれば狙って行きますわ。でもあくまでもわたくし達は先導役。危険は承知の上ですの」
みすみは「それで私が役に立てるのなら」と参加を納得した。
チームへの勧誘は、概ね順調に進んだものの、全てが上手く行ったわけではない。
酒杜 陽一(さかもり・よういち)と酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)は高根沢 理子(たかねざわ・りこ)の元に赴いたが、色よい返事は貰えなかった。
「いずれあたしの出番もあるかもしれないけど、今回は応援に徹しさせてもらうわ」
「そうですか」
「でもあなた達、波羅蜜多よね。なのに西で出るの?」
「はい、あえて西で出ると面白いかなって」
陽一の返事に、理子はクスクスと笑う。
「ホント、面白そうね。心から応援させてもらうわ」
一緒の出場こそ叶わなかったが、応援の約束を取りつけて、陽一と美由子は満足だった。
「ところでジークリンデ様はどうされてるんでしょうか?」
「んー、よく分からないけど、波羅蜜多だったか薔薇学だったかから、誘われたんですって」
「受けたんですか?」
「そうらしいわ」
陽一はがっくりと肩を落とす。
「敵同士になっちゃうけど……。どうする、やっぱり東チームに戻る?」
背筋をのばした陽一は、大きく首を振った。
「理子様が西側で出ます。こうなればなんとしても勝って見せますよ」
「その意気よ、頑張って」
陽一と美由子は、高根沢理子の元を後にした。
「残念だったわね」
「仕方ないさ。いろいろやることがあるし」
「そうね何から始める?」
「ダイエット……かな」
陽一はお腹をさすった。
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