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リアクション
第2章 集落 4
ぱくっ。集落の広場に置かれたベンチ。そこに座りながら、シャノン・エルクストン(しゃのん・えるくすとん)がハンバーガーを頬張った。実に見事なジャンクフードである。黄金都市から一変して獣人の集落にやって来たが、シャノンは、荷物の中に常備用ハンバーガーを入れておいて良かったとつくづく思った。
「シャノン殿……そのように落ち着いていてよろしいのですか?」
辺りを警戒するように、隣で直立するグレゴワール・ド・ギー(ぐれごわーる・どぎー)が訊いた。シャノンは小首を傾げながら、
「別に。慌てたってどうこうなるわけじゃないし……。それより、グレゴ。どうしたら元の世界に戻れるのかを考えるほうが先決じゃない?」
言ってのけて、荷物入れから『タブレット型端末KANNA』を取り出した。ネットには繋げられないが、バッテリーはまだ残っている。電源を入れたシャノンは、そこに入れてある資料を見ながら思案げに眉を寄せた。
「おや、あれは……」
すると、そこでグレゴが遠くからやってくる人影に気づいた。シャノンも顔をあげる。手を振ってこちらまで駆け寄ってきたのは、ゼノビア・バト・ザッバイ(ぜのびあ・ばとざっばい)と真柄 直隆(まがら・なおたか)の二人だった。
「ごめんなさい、遅れてしまって」
ゼノビアが両手を合わせて申し訳なさそうに言うと、
「ゼノビア、遅いではないか。何をモタモタしておったのだ」
グレゴが非難がましく言った。ぎろり、とゼノビアがそれを睨みつけ、
「別にモタモタしてたわけじゃないですよ。単に情報集めに忙しかっただけです。ねえ、直隆」
「うむ。森には面妖な魔物達もおったのでな。何かと手間がかかったのだ」
直隆が厳めしい顔つきでうなずく。
「……ってこと。まったく、護衛しかできないバケツは黙っててください」
騎士の正式な銀甲冑姿をバケツと言い出した。だが、先の非は自分にあるため言い返せず、グレゴはぐっと唸るだけだった。、
「ところで、その情報って?」
「あ、よくぞ訊いてくれました。実は――」
ゼノビアは、今現在の集落の状況をシャノン達に伝えた。
曰く、戦士団がガオルヴ討伐に向かったこと。曰く、ある囚われの身だった謎の集団が脱走を図ったこと。曰く、ガオルヴがいる場所は古代遺跡だということ。
そこまで聞いたところで、シャノンがはっとなった。
「古代遺跡……ってことは、もしかしたら黄金都市と何か関係あるかもしれないわね」
「そうでしょうか……ちょっと、その辺のことまで詳しくは……」
「あーっ、シャノンさん達、ここにいたー!」
ふいに、甲高い女の子の声が飛び込んできた。振り向くと、息を切らした仁科 姫月(にしな・ひめき)が、成田 樹彦(なりた・たつひこ)の首根っこを掴んで、ようやく見つけたとばかりにこちらを見ている。引っ張られているにも拘わらず、樹彦の顔は茫々としていた。
「あ、姫月……」
シャノンがぽつりと呟くや、
「もーっ! なんでこんなところにいるのよーっ! あっちの宿で待ち合わせってことだったじゃないっ!」
樹彦をずるずると引っ張って、姫月がずかずかと迫ってきた。
「あー……ごめん。すっかり忘れてた」
「わ、忘れてたって……もう……」
樹彦と同じように茫洋としたシャノンに、姫月ががっくりと肩を落とす。だが、もっぱらこういう事態には慣れているのか。
「……まあいいわ。とにかく、こっちも情報を集めたから。それをご報告よ」
気持ちを切り替えて、シャノン達に集めてきた情報を語り出した。
それは、主に古代遺跡に関する情報だった。村の人の話によると、それほど過去に見つかった遺跡というわけではないらしい。ガオルヴが出現するようになってから、その存在を知った者もいるということだ。だが、何よりもシャノンが驚いたのは、
「壁画……!?」
「ええ。なんだか不思議な祭壇だか壁画だか、そんなものがあるみたい。もしかしたら昔の神殿の跡なんじゃないかって――」
姫月がそこまで言ったとき、シャノンが突然立ち上がった。
「な、なになにっ……」
「ゼノビア、行こう。姫月も」
荷物を肩に担いで、シャノンはすぐに森へと向かう。
「ちょ、ちょっとぉっ! 少しは説明していきなさいよぉっ!」
それを姫月が追おうとするや、
「…………姫月。それよりも、いつになった離してくれるんだ」
引っ張られたままの樹彦が、顔を見上げながらぼそっと言った。だが、姫月はじとっとそれを見下ろし、
「あんたが勝手にどこかに行かないならね。逃げるのは許さないんだから」
言いながら、シャノンの背中を追っていった。
「…………はぁ」
樹彦は諦めて、深い溜息を吐くのだった。
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