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Welcome.new life town 2―Soul side―

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 最終章 

「ミンツちゃんっていうんだね! 喋れる小型飛空艇さんってスゴイね!」
「そ、そうか? 何せ、フィーの腕が良いからな!」
 打楽器でおもちゃにも使えるタンバリンをイディアにプレゼントし、ノーンはカフェに用意された料理やケーキを頬張りながらファーシー達と話していた。フィアレフト達とは初対面だったが、ニコニコと気さくに話しかける。
「オレには、小型飛空艇全部の機能も組み込まれてるんだぜ! スーパー飛空艇なんだ!」
 カフェでは犬型となっているミンツは、彼女の言葉に一通り照れてから自慢げに話し始めた。表情までは形作れないが、口調からそれが分かる。これがもし人型だったら、鼻高々に胸を張っていただろう。病院で半分程解体されたミンツであったが、きちんと組み立て直された事で不具合の類は出ていないようだった。
「ちょ、ちょっとミンツくん……」
 恥ずかしいよお、とフィアレフトは顔を赤くしてミンツを止める。その彼女にも、ノーンは声を掛ける。
「フィアちゃんもツァンダに住んでるの?」
「私ですか? ええと……」
 フィアレフトはケーキを一口食べてからフォークを咥えたまま少し困ったように考えた。
「ツァンダに『住んでいた』というのが正しいでしょうか。これからも出来れば住みたいですが……」
 それから、若干姿勢を正してラスの方に向き直る。
「あの……突然で本当に申し訳ないと思うんですけど……私をしばらくお家に置いてもらえないでしょうか」
「は!? 何言って……」
「お願いします! 私、まだこっちに来たばっかりで……お家が決まってないんです!」
 目を丸くするラスに、フィアレフトは彼が断る隙もなく畳み掛けて勢い良く頭を下げる。そしてまた勢い良く頭を上げると、彼女は顎に手を当てて言い難そうに続ける。
「せ……じゃなくてアクアさんやモーナさんの所でもいいんですが、ツァンダから遠いので……」
「それなら、ファーシーん家にでも良いだろ。何もうちでなくても……あ、いや……」
「?」と、今にも「うちでもいいわよ? 広いし」と言いそうなファーシーの顔を見てラスは口を噤む。家は広いかもしれないが、ファーシーは現状、とても子供1人を追加で養う余裕は無いだろう。押し付けたら自覚の無いままに過労故障でもしかねないところだ。
「何でそんなにツァンダにこだわるの? 何か大切な用事があるとか?」
「それは……」
 ピノに訊かれて、フィアレフトは言葉に窮した。当然の疑問であり質問だ。大切な用事は、ある。けれど、それを彼女に言う事は出来なかった。彼女に言うのは……残酷過ぎるし色々と問題がありすぎる。
「まだ……言えません。とにかく、ファーシーさんの家だけは駄目なんです! 絶対駄目です! ていうか、ピノさん……ラスさんの家が一番都合が良いんです! だから……お願いします!」
「都合が良いって、それこそそんな都合の良い話……って、ピノ?」
 フィアレフトの言葉に混じったピノの名前が引っかかり、ラスはふと眉を顰めた。もしかして、彼女はピノに用があるのだろうか。以前からファーシーの友人だというのは、元々どこか腑に落ちてはいなかった。だが、病院に来たファーシーは確かにフィアレフトを知っていて、納得せざるを得なかったのだが。
 しかし、誰とでも1秒で仲良くなるファーシーのこと。彼女も、この少女には出会ったばかりだったのかもしれない。だとしたら――
 この1日、自分達は彼女の何も知らないまま……ほぼ全員が勘違いをして過ごしてきた事になる。
「あれ? まだ話してなかったの? フィーちゃん、ラスとピノちゃんの家の前に居たのよ? 会いにきたんだけど、居ないって……」
「うちに……? やっぱり、お前……」
 ピノに用があるのか、というのと何者だ、という思いが同時に湧き上がる。それを言葉にする前に、フィアレフトはラスの手首をぱしっと握った。“人”ではない、薄い皮で覆っただけの硬い手で。
「え、えと……ちょっとこっち来てください! 後……そうだ、望さんと……ピノさんは来ちゃだめです!」
「えっ、ええっ!? またあたし蚊帳の外なの!?」
 心外そうに抗議するピノには振り向かず、彼女はきょろきょろとパーティー会場を見回す。その最中で、アクアとルイがカフェに戻ってきた。2人とすれ違う際、呼ばれたは小声でフィアレフトに問い掛ける。
「どうしました? ××様」
「…………。話し、たいことがあるんです。せ……アクア、さんも来てください!」
「!? わ、私ですか? というか、一体……!」

「へー、2人はその箒に乗ってきたのね」
「公共機関だと間に合いそうになかったですし。シーニュなら4人乗りですし、明日は陽太達も乗せて帰れますわ」
 イディアにぬいぐるみ、魔法少女マスコットをプレゼントしたエリシアは、イディアがタンバリンを叩いたりぬいぐるみの長い耳を引っ張るのを見ながらファーシー達と歓談していた。ノーンと一緒に出先から空京に来たエリシアは、今日はツァンダに帰らずに陽太と環菜の使うホテルに泊まる予定だ。
「といっても、別の部屋ですけれど。夫婦2人の夜を邪魔するほど野暮でもありませんし」
「そんな、エリシア……」
「同じ部屋でも良かったのよ? 毎日一緒に居るんだし、一晩くらいは」
 照れ照れの陽太の横で、環菜も言葉とは裏腹ににこにこと嬉しそうに彼女に言う。否、発言自体も嘘ではないのだろうが今日も2人で過ごせるのが嬉しいのか、毎日一緒に居られるのが嬉しいのか、結婚前ならまず見られなかった笑顔を溢れさせている。
「そうか。あの蒼空学園を作り上げた天才が、今は結婚しているのか。いつの間に校長が変わってどうしたのかと思ってたが……。在学中は息子がお世話になりました」
「いえ、こちらこそ。同じような顔に言われると何か背中が痒くなってくるけれど……」
 サトリとの大人の遣り取りの後、環菜はついという感じで本音を洩らす。それを聞いて、サトリは苦笑した。
「まあ、ラスは環菜さんの世話は一切していなかったと思いますが。それにしても、優しそうな旦那様ですね。結婚するまでライバルも多かったのではありませんか?」
「今でこそリア充な感じですけれど、昔の陽太は全くもってモテませんでしたわ。よりによってクリスマスイブに寂しく教導団のマラソン特訓に参加したこともあったみたいですわよ。あ、合コンの罰ゲームだったらしいですけれど」
「合コン?」
 エリシアの話に、ぴくり、と環菜の眉が動く。当時は、環菜と陽太は付き合ってさえいなかったのだが、聞き逃すことはできなかったようだ。
「い、いえ、あの時は環菜とクリスマスを過ごしたかったので……」
 今まで一度たりとてケンカをした事のないおしどり夫婦である2人であったが、これには陽太も少し焦った。ただの合コンではなく勝負つきの合コンであり、その日の商品が『教導団からの甘い聖夜のプロデュース』だったのだと説明した。
「あの頃から、俺は環菜ひとすじでしたから……」
「まあ、陽太ったら……」
 環菜は再び、新妻(結婚2年以上だが)らしい笑顔を浮かべる。その中で、ノーンは夫婦を眩しそうに、そしてどこか羨ましそうに見ているサトリに話しかけた。
「サトリさんは、沖縄に住んでるんだね! どんなところなの?」
「ああ、沖縄にも空京みたいな都会もあるんだけどな。俺が住んでいるのはサトウキビ畑が広がっている所なんだ。田舎だが、良い場所だぞ」
「サトウキビって、あのサトウキビ?」
 ノーンは緑色の、太い茎みたいな植物を思い出す。テレビの観光番組で、レポーターが紹介していた記憶があった。
「サトウキビの皮をむいて齧るの、1度やってみたいな!」
「そうか。じゃあ収穫の時期になったらパラミタまで届けてあげよう。どこに住んでいるんだい?」
「えーっとね、ツァンダの……」
 ノーンはサトリに、陽太宅のすぐ近くにある自宅の場所を教える。一方、その頃――