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 第7章 

 オープンカフェの厨房で料理の盛り付けを施しながら、レン・オズワルド(れん・おずわるど)はショートケーキに生クリームを絞っているフリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)を見守りながら彼女に言った。
「すまないなフリューネ。こんなことまで手伝ってもらって」
「……そうね。見ず知らずの子ってわけでもないし、祝うのは全然良いんだけど」
 応えるフリューネは、真剣そのものという表情でケーキと向き合っている。普通よりも大きめのケーキを前に、絞り袋を持つ手は若干震えている。
「どうして今、こんな格闘戦をすることになっているのかはちょっと疑問に思うところはあるわね」
 数日前、メティスからの電話に応対したのは主にノアだが、スピーカーから流れる話を聞いてレンもそれに頷いていた。友人の子供の誕生日会であり、彼が断る理由は無い。だが、実をいえば8月11日には既に予定があった。フリューネと仕事の相談をしたくて、彼女を事務所に呼んでいたのだ。悪いとは思いつつ『パーティーに付き合ってくれないか、何なら誰か友人を呼んでもいい』と言うと、彼女は了承して「それなら」とリネン・エルフト(りねん・えるふと)に連絡を取った上で事務所に残ることになった。とはいえ、パーティーの開始時間にはまだ間がある。それで、食材の買い出しや料理を手伝ってもらうことにしたのだが――
「集まる人数を考えるとそれなりに量も多くなる。飾りつけだけでも手伝ってもらえると非常に助かるんだ」
 フリューネは、料理を苦手としている。それは誰もが知っている事実であり、だからこそ彼女には簡単な手伝いをしてもらうことにした。出来上がった生地をオーブンから取り出したり、苺を半分にカットしたりクリームを絞ったりという作業である。塗るのは流石に、難易度が高い。
「それに、荷物持ちはつまらないが料理は楽しいものだからな」
 実際、慣れない手つきながら奮闘するフリューネを見ているだけで、レンは楽しい気持ちになれる。
「確かに、こういう飾りつけはつまらなくはないけど……」
 最後の一絞りを終えて一息を吐き、割と満足した様子でケーキを見下ろして彼女は言う。
「荷物持ちもそれなりに楽しかったわよ」
 そして、今度はどう並べようかと考えながら苺を手に取る。
「でもまあ、今度買い物にでも付き合ってもらおうかしら。荷物持ちとして」
「……ああ、勿論だ」
「レンさん、こっちのオードブル完成したよ。ホールの方へ運んでおこうか」
 何なら、全部奢りでもいいぞ――
 レンがそう言った時、料理の手伝いをしていた朝斗が話しかけてくる。エプロンをつけた彼の前には、綺麗に盛り付けられたオードブルの大皿が並んでいる。
「ああ、そうだな。皆もそろそろ来る頃だろうし、運んでおいてくれると助かる」
「分かった。じゃあ、他の料理も急いで作らないとね」
 時計を見上げたレンに続き、朝斗も時刻を確認すると大皿を持ってホールへ出る。そこでは、ノアがカフェに飾りつけを施していた。金銀を始めとした、色紙で作った輪を繋げたものを取り付け、色とりどりのモールも合わせてシンプルだった壁を華やかなものに変えていく。カフェは割と広かったが、飾りの数々はその全ての壁に行き渡り、くっつけられようとしていた。朝斗と一緒に来たアイビスとちびあさにゃんもその仕上げを手伝っている。ちなみに、ルシェンは未だ仕事が片付かないらしく来ていない。
「すごいね。これ全部1人で作ったんだ?」
 テーブルに大皿を置いてノアに言うと、脚立に乗って「ん〜!」と腕を伸ばして飾りをつけていた彼女は嬉しそうに振り返る。
「はい! メティスさんから電話があった日から、時間を見つけては作っていたんです」
 そして、んしょ、と脚立から降りて残りの飾りを手に移動していく。
「昔のことを思い出して、楽しいんですよねー」
 彼女が地球で暮らしていた教会の孤児院では、お誕生日会といえば皆で手作りの飾りを用意してお祝いをするものだった。沢山の折り紙を使ってわいわいと準備をしていた事を思い出す。
「だから、ついつい張り切っちゃいますっ!」
 そうして、ノアも最後の仕上げに入った。ファーシー達がカフェに着いたのは、料理と飾りつけ、おもてなしの支度が整って皆でお茶をしていた時だった。