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嘆きの邂逅~離宮編~(第3回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第3回/全6回)

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 離宮中央、宮殿。
 人影が見えた場所へと、まず隊長である樹月 刀真(きづき・とうま)が近づく。
 護衛として、クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)。調査の為に、クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)も同行する。
 刀真の指示により、影野 陽太(かげの・ようた)は柱の影に隠れて、銃を構えておく。
 刀真のパートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は、刀真の剣を預かり、陽太の側で待つ。
 少し距離をあけて、比島 真紀(ひしま・まき)サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)が刀真達の後に続く。
 人影の近くまでたどり着き、殺気看破で警戒をしながら刀真は両手を上げた。
「初めまして」
 そう声を上げると、宮廷の中に見える人影の動きがぴたりと止まった。
 こちらに顔を向け、ゆっくりと歩み寄ってくる――若い男、だ。
「俺の名は樹月刀真」
 慎重に、刀真は男に語りかけていく。
「この埋まった離宮を再び地上に出す為に、ヴァイシャリー家――この離宮の主の子孫から派遣された部隊の者です」
 男はただ、うつろな目で刀真を見ている。
「……貴方の名を教えてもらえますか?」
 そう尋ねると、男は口をゆっくりと開いていく。
「ケン……」
「ケンさんですか?」
 問いに、男はただにやっと笑みを浮かべる。
 武器は持っていないようだ。
 殺気も全く感じられない。
 刀真は手を下ろして、また少し近づいた。
 クリスティーは刀真の護衛として従い、クリストファーは宮殿を見上げて見回し、造りの把握に努める。
(時計塔……は中央北側の屋上か。西側の宝物庫はあの辺り。こっちの東側は確か、王家の者達の私室があった場所だな)
 ここはやや、東寄りだ。
 時計塔は位置からして、正面の扉の先の階段から向うことが出来ると思われる。
 地下への階段がどこかは……入ってみなければ判らないだろう。
 後方から、月夜は真剣な目で見守っており、陽太はとりあえず攻撃を受けなかったことにほっとし、銃を下ろして指示を待つ。
「僕も行きますね」
 白百合団員の幻時 想(げんじ・そう)は、光学迷彩と殺気看破を使って注意を払いながら、そっと近づいていく。
 また別方向から、補佐班の班長ティリア・イリアーノの指揮下にある四条 輪廻(しじょう・りんね)が会話が聞こえる位置に、近づいてくる。輪廻のパートナー大神 白矢(おおかみ・びゃくや)も、超感覚で周囲の警戒をしつつ、輪廻を護衛し一緒にこちらに向かってくる。
「中に、入ってもよろしいでしょうか?」
 真紀が努めて友好的にそう問いかける。
 隣でサイモンは宮殿の大まかな絵、周囲の地形、造りなどをメモしていく。石造りの立派な宮殿だ。戦いの形跡は感じられるが、大きく崩れている場所などはない。
「もし地上に出たいと思うなら協力してもらえませんか?」
 刀真も穏やかな口調でゆっくりと話す。
 だが、男はうつろな目でにやにや笑みを浮かべているだけで、何も答えない。
「目覚めたばかりで、意識がはっきりしてないのかな?」
 サイモンがそう言葉を漏らし、真紀は頷いて男が知っているであろう人物の名前を出してみる。
「ジュリオ・ルリマーレン殿の居場所を把握してはいませんか?」
「ジ、ジュ、リ、オ……!」
 真紀の言葉に男が反応を示す。男の顔に浮かんだのは恐怖のような感情だった。
「ジュ、リオ……!」
 もう一つ、声が響く。男の後ろからもう1人、男が現れる。
 更に、他の部屋からも、ちらちらと『男』達が顔を出す。
 武器防具を纏ってはいない。
 簡素な服装の、同年齢の男達。
 使用人、だった人物だろうか。各部屋に? 離宮に置き去りにされた?
 皆の頭にいくつもの考えが浮かぶ。
「ジュリオ、倒す――カルロ、倒す、マリザ、倒す、マリル、倒す」
「倒す、倒す、倒す」
「ジュリオ、カルロ、マリザ、マリル――」
 男達は合唱のように言葉を発っしていく。
「注意してくださいっ!」
 光学迷彩、殺気看破を使いながら接近していた想が声を上げる。殺気が膨れ上がっている。
 同じく殺気看破を使っていた刀真もそれに気付いており「落ち着いてください」と、一応声をかけてみるも、男達は狂気のような感情に覆われていき、止めることが出来ない。
「敵、なのでしょうか……っ」
 陽太がスナイパーライフルを構えて宮殿に向ける。まだ、撃ちはせず、隊長の命令を待つ。
 武具を持っていない……そう見えていた男達だが。
 次々に体内から武器を取り出していく。
「ケン……剣の花嫁と同種、ですか」
 刀真の瞳が鋭く光る。
「……っ、こちらは前線に立てる人数が少ない。この一部だけではなく、戦闘が激化してしまう恐れがあるだろう。応援を要請するか、一度撤退をして体制を立て直すべきだが」
 輪廻が敵の動きに注意を払いながら言う。
「退きましょう」
 次の瞬間、刀真は決断する。同時に、男達が攻撃をしかける。
 武器は様々だった。1人の男の見たこともない形状の武器からは、光の弾を発射され攻略隊のメンバーに浴びせられた。
「撤退の援護でよいでござるか」
 急ぎ、白狼姿の白矢は輪廻を背に乗せて、走り出す。
「……っ」
 想は光の中に飛び出て、攻撃を身に受けながら妖刀村雨丸で、斬り込んでいく。
「こっちだ」
 白矢の背に乗った輪廻が皆を誘導する。補佐班のメンバーで退路の確保をしてある。
「く……っ。操られているというよりは、知能が欠如しているように見えます」
「剣の花嫁と同じく、有機質で作られた人造人間っぽいよね。普通に歩き回っていることから、罠とかは少なそう?」
 そう分析しながら、真紀とサイモンは下がっていく。
 男達から放たれる光は、退いていく契約者達の体を次々に傷つけていく。
「キミ達の相手は、こっちだよ! ボクがカルロかもしれないね」
 6騎士の名前を出し、クリスティーが男達の注意を引く。
「お招きいただくことは、出来ないようだね」
 クリストファーも本来の役割である、壁役となるべく、足を止めてクリスティーと共に男達の注意を引いていく。
 女王の加護である程度危険は察知出来るものの、仲間達への攻撃を防ぐためには身を挺するより他なく、2人に容赦ない攻撃が浴びせられていく。
 彼らが盾になってくれている間に、刀真は月夜が潜む場所へ駆け込む。
「刀真、早く」
 月夜はハンドガンで男達を撃ちながら、刀真を迎える。
 刀真は月夜の手からバスタードソードを受け取った。直ぐに月夜はパワーブレスを刀真にかける。
「怪我をした人は、補佐班の方へ」
 続いて、月夜は仲間達を補佐班の方へと誘導していく。迅速に治療が施せるよう、あらかじめ指示してあった。
「退いて作戦を立て直します」
 言って、刀真はスウェーで防御しつつ、前に出る。
「援護します」
 陽太がスナイパーライフルで、光条兵器らしき武器で襲い掛かってくる敵の足を撃っていく。
 刀真はクリストファー、クリスティーに襲いかかろうとした男の側面に回り、ソニックブレードで首を狙い――刎ねる。
「う……っ」
 血を流す様子が、生身の人間そのもので、めまいを感じてしまう陽太だったが、ぐっと歯を食いしばり、宮殿の中の武器を持った男達を狙って銃を撃っていく。
 刀真は返り血を浴びても動じない。
 ただ、深入りはせず、宮殿から飛び出した者だけを的確に、仕留めていく。
「言葉は通じているようだが」
「正常に理解する能力はないみたいだねっ!」
 クリストファー、クリスティーも迫り来る男達を倒し、行動不能に陥らせながら、退いていく。
 別方向から飛び出してきた男が、補佐班の白百合団員の元に大剣を持ち走りこんでくる。
「皆、避難よ!」
 救護要員として補佐班に同行していた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が弾幕援護を用いて防御する。
「こっちだ!」
 ヒールで自分に回復を施していた想が前に出る。
 想はアルティマ・トゥーレを使い男の足を狙って転倒させる。
 男は転びながらも剣を下方から振り上る。男の大剣が想の右足を切り裂いた。
「仕方ありません」
 真紀が飛び込み、ヘキサハンマーを男に叩き込む。
「話の通じる相手じゃ……ないんだね」
 サイモンは想に肩を貸して、補佐班の方へと急ぐ。
「残念でござるが、拙者は難しいことはわからんでござる……四条殿の指示に従うでござるよ」
 輪廻を乗せた白矢が、走り回り敵の目を引いていく。
「急いで退こう。無闇に追ってくるほど知能は低くないことを願う」
 輪廻はそう言いつつ、トミーガンで男達を牽制していく。痛覚はあるらしく、攻撃を避けようとする動きは見られた。
「回復よりも撤退を優先してくれ」
 怪我をした者達にそう言い、輪廻は白矢と共に庇いながら応戦していく。
「難しい状況ね……っ」
 補佐班の班長であるティリアが苦しげな声をあげる。
「撤退はやむをえないとは思うけれど、敵をここで引き付けるという任務が果たせない」
「最優先は自分の命であることを忘れるな……」
 ティリア、そして彼女の言葉に戸惑う想や白百合団員に輪廻はそう言う。
 それを優先し、別邸の方に敵が押し寄せてきても、応戦する方法はない。
 息を潜めてやり過ごしても、本陣が攻められたのならやはり持ちこたえることが出来るかどうか――。
 刀真は通信機で本陣に連絡を入れる。
 本陣からは『地下道を進んでいる魔法隊は順調であり、やむをえないのなら退いても構わない』と返答がある。
「魔法隊の作戦が成功すれば、そちらから人員がこちらに回るはずです。それまでは、慎重に行きましょう」
 刀真がそう決断し、指揮下にあるティリアにそう言うと、彼女は「従います」と頷き白百合団員達に撤退を命じていく。
「一気に駆け抜けて。皆のところには行かせない!」
 美羽はブライトマシンガンで宮殿を攻撃していく。
 外へと出ていない男達は、激しい攻撃に宮殿の中に身を潜ませていく。
 その隙に、攻略隊は別邸へと退却をしていく。
 弾が切れると同時に、美羽と陽太、援護に当たっていた者達も別邸へと駆けて行く。
 走りながら、美羽は通信機でパートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)に連絡を入れる。
 僅か数分の距離だが、怪我人には大変な負担である。
「早くこちらに」
「……ありがとう」
 飛空艇に乗って現れたベアトリーチェが、一番負傷している人物――隊長を庇ったクリスティーを乗せて、別邸へと運んでいく。