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君を待ってる~剣を掲げて~(第2回/全3回)

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君を待ってる~剣を掲げて~(第2回/全3回)

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 それは闇の中、まどろんでいた。
 深い深い闇の中、繰り返し繰り返し声を聞きながら。
 懐かしく厭わしい声。
 その願いを聞きながら、それは思う。
 壊す方が、奪う方が、簡単なのに……と。

第1章 断ち切られるもの
 影龍を浄化するべく行動を起こした封印の巫女達。
 しかし、正にその時。
亡き影使いの遺した影龍復活の策が発動した。
 宝珠は穢され、封印剣達は足止めを食い。
 蒼空学園は闇の壁に閉ざされ、影龍復活の時は刻一刻と迫るのであった。


「何だ、ありゃ?」
 高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)はその日、暇潰しに珍しくツァンダまで足伸ばしていた。
 そこで見たのは、突如蒼空学園から上がった光の柱。
 そして、蒼空学園をグルリと囲むように出現した闇の壁だった。
「詳しい事は分からんが、めんどくせーことになっちまったもんだ」
 遥か昔、闇龍から切り離された一部……影龍と名付けられた負の塊。
 蒼空学園に封印されていたそれが、今まさに復活しようとしている事など、悠司には分からない。
ただ何か尋常でない事が起こっている事だけは、察せられた。
「よく分からねぇが、ほっといたらさすがに他人ごとじゃすまねーか」
 直感と言うより確信を抱き、悠司は向かうのだった。
 外界と寸断された、その囚われの学園へと。

「な、な、なんだか外がとんでもない事になってる!!!」
 異変は、蒼空学園にいた者達をこそ、直撃した。
「ケータイも繋がらないし、せっかく封印の書が沢山の事を教えてくれたのに……どうやってみんなに伝えればいいだろう?」
「携帯電話が繋がらないのであれば……わたくし達が走っていくだけですわね。多少疲れますが、この際仕方ありませんわ」
「うん、悩んでても仕方なよね、ケータイが繋がらないなら走ればいいんだもん。確か刀真は花壇に行っているはずだから……」
 唇を噛みしめた久世 沙幸(くぜ・さゆき)藍玉 美海(あいだま・みうみ)にパッと顔を輝かせた。
「ねーさまっ、花壇までダッシュだよっ!」
「普段なら、廊下は走ってはいけませんよ、とたしなめている所ですけれども……」
「うん、だってこんなときだもん、先生だって大目に見てくれるはずだよっ」
 こんな時でも笑顔を失わない沙幸。
「……ですわね」
 美海はそんなパートナーを頼もしく誇らしく愛おしく思いながら、廊下を駆けだすのであった。


「夜魅が頑張っているんだから、親である私達も頑張らなくちゃ!」
 コトノハ・リナファ(ことのは・りなふぁ)は愛する夫であるルオシン・アルカナロード(るおしん・あるかなろーど)と視線を交わすと、どちらからともなく頷き。
「待っててね、夜魅……必ず帰ってくるから」
 夜魅に言い残し、闇の壁を目指した。
「夜魅っ、ちょっと大丈夫なの?、夜魅っ!?」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)、そして神楽 授受(かぐら・じゅじゅ)のパートナーであるエマ・ルビィ(えま・るびぃ)が残された夜魅と出会ったのは、その直後だった。
「あ……美羽……?、エマも……」
「あぁもう、そんな顔色で無理して喋らないの! 学園がおかしいってのは、私達も分かってる……夜魅のそれも、関係してるんでしょ?」
 コクン、小さな首肯を受け、美羽は心を決める。
「とりあえず、学校の周りの壁をぶち壊して、風通しをよくしてくるわ。ベアトリーチェは……」
「はい。ここで夜魅さんに付いています」
「私もジュジュに頼まれていますから」
「うん、夜魅は任せたわ。頑張ってね、夜魅! 私も頑張るから!!」
「美羽、気を付けて……」
「分かってる。……私ね、夜魅にいろいろ見せたいものがあるんだ。だから、この戦いが終わったら……いっぱい一緒に遊ぼう!」
 精一杯の笑顔を浮かべた美羽に、夜魅は少しだけ頬を緩め。
「……はい」
 そう笑顔で頷き。
「ベアトリーチェ、エマ……お願い、あたしを外に連れて行って……多分その方が、支えやすいから」
 美羽の後を追うように、外へと向かうのだった。


 同じ頃。
「このままでは……」
 大会責任者藤枝 輝樹(ふじえだ・てるき)は焦りの中、素早く状況把握に努めていた。
 高く……ここからでも分かるくらい高い闇の壁に囲まれた、蒼空学園。
 そして、現れた邪剣
 大会参加者と、見物者達。
交錯する混乱と恐怖と。
「ちょーっと! いい所だったのに、なに乱入してるのよ! この貧乏人!」
その最中、黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)のパートナーであるリリィ・エルモア(りりぃ・えるもあ)の怒声が響いた。
「顔だって義彦様の方が断然上じゃない! 邪魔すんなー! どっか行けー!」
見物席からブーイングと共に、邪剣へと手当たり次第に物を投げつけリリィ。
「わぁぁぁぁぁっ、何ケンカ売ってるんですか?!」
 慌てる輝樹の背後、更に火に油を注ぐ声が上がった。
「お前! 人の見せ場奪った罪は重いからな、覚悟しとけよ! ようし、やっちまえ皆!」
 ビシッ、と指を付きつけたのは、大野木 市井(おおのぎ・いちい)
「……って、市井さん」
パートナーのマリオン・クーラーズ(まりおん・くーらーず)のやや困ったような突っ込みをかき消すように。
「みんなみんな、壊れちゃえ!」
哄笑と共に振るわれた破動。
暗き軌跡が、人々の間を切り裂いていく。
「危ないっ!」
 邪剣から放たれたエネルギー波を、葛葉 翔(くずのは・しょう)は咄嗟に庇護者で防いだ。
 盾代わりにしたグレードソードはそのまま、背後に庇った高根沢 理子達へと声を上げる。
「高根沢、お前達は非難していろ。あの邪剣とか言うのは俺達で破壊する」
「う……ん、分かったわ」
 僅かな逡巡の後で頷く理子。
 ホッと安堵しつつ、翔の心は微かにざわめく。
 距離感。
 自分と高根沢理子はどんな関係だっただろうか?
 自分は高根沢理子をどう思っていた?、どう呼んでいた?
 思い出せないそれが、もどかしい。
「確かにこのままじゃ皆、戦いにくいだろうな……よし、非戦闘員は俺が避難させる」
「分かりました」
 市井に応え、輝樹は声を張り上げた。
「大会は一時中断とさせていただきます! 避難する人は彼の後に続いて下さい!」
「任せとけ! よし、じゃあ一緒に……その、マリオン、さん……?」
 力いっぱい頷き、傍らのパートナーを振り返った市井は思わず口ごもった。
 それはマリオンも同じ。
「えっええ、分かりました、ご一緒します」
 双方ともに感じる違和感。
 自分達はパートナーである。
 パートナーだったはずだ。
 パートナー……なのだろう。
 だが……パートナーとは何だろう?
 どういう関係で、どういう感情を抱いていたのだろう?
 知らず、断ち切られた関係に困惑し。
「お願いします、市井さん」
「……あぁ。ここは任せた。さぁ俺達の後に付いてきてくれ!」
 それでも市井は後を輝樹や翔達に託し、理子達を避難させるべく先導を始めた。
「……どうか、気を付けて」
「ああ……そっちも……」
 振り返る理子、交わす言葉はやはり、どうしようもなくもどかしい。
「……いいさ、直ぐに取り戻してやる。学園も守り、影龍も復活させない」
「途中退場なんて、つまんないよ」
「そう焦るなよ、相手は俺が十分にしてやるから」
 再びの衝撃から、避難する理子達を守り。
 翔は邪剣を、邪剣を手にした少年を見つめ、告げた。
「その為に……悪いがその剣は破壊させてもらうぜ」
 光輝属性を付与したグレートソードを、振り下ろした。
「それは困るよ。まだ約束を果たしてないもの」
「おらぁぁ!」
 避けられ、だがその軌跡を追うようにそのままの勢いでグレーソードを横になぎ払う。
「……ッ!?」
 切っ先が、刀身に僅かに触れる。
 【破邪の刃】と化した、その切っ先が。
「へぇ、中々考えてるんだ」
 距離を取る邪剣の息が初めて、乱れた。
「悪いが、誰にも負けないって宣言したばかりなんでな、負けるわけには行かないんだよ!」
 言葉を叩きつけながら、翔もまた息を整える。
 闇の気配が、濃くなっていく。
【護国の聖域】【エンデュア】【闇の輝石】……闇黒耐性はつけているが、正直どれほど持つかわからない。
まして、翔達は剣の大会で疲弊している。
(「俺達に長期戦は不利だ、短期決戦で決めるしかない」)
 それは周囲の者達も同じ気持ちだろう。
 目を見交わしながら、翔は再び剣を構えた。

「携帯電話は通じない、内線電話も……電波状況が悪いとかではないですね、これは。空間の歪みか」
 避難する生徒らを送り出しながら、輝樹は矢継ぎ早に周囲に指示を出す。
「救護所に物資を集めて、ケガ人はそちらに……」
 今は出来る事をするしかなかった。
「電波障害だか空間断絶だか何だか知らないけど……」
 一方リリィは必死の面持ちで携帯電話を操作した。
「あたし達はパートナー、そんなものに負けるわけないわよね!」
 例え闇の壁が立ちはだかったとしても。
「にゃん丸、こっちにラスボス出たー! 早く戻ってよー!」
 リリィは自分達の絆を信じ、声を張り上げた。

 繋がりや絆は断ち切られ分断され……しかし、それでも。
 それでも、人は……。