リアクション
第12章 そして、闇が全てを呑みこむ
「……くっ!?」
「雛子ちゃん……大丈夫……?」
虹七に頷く雛子の表情は苦しげだった。
地震が起こってから、その苦しみは急速に増したように見える。
「白花も、大丈夫?」
光の柱が2本崩れ、不安定さを増した空間。
闇の壁が破壊されたのは幸いだっただろうがそれでも、白花の負担は大きいだろう。
沙幸は美海や月夜と共に白花を支えるが、その重み……空間を支える負担はやはり時と共に徐々に白花を圧迫していくようだった。
「私は大丈夫ですが……雛子さんは限界かもしれません」
「私はまだ……」
大丈夫、と言いかけた声が途切れた。
胸元を抑える手に力が入る。
閉じられた瞳もまた、キツく。
震える身体、唇から初めて弱音が出た。
「怖……い、です。本当は……怖くて怖くて……私……このまま……」
「そんな事、ないよ!」
沙幸は反射的に雛子を抱きしめていた。
「理沙もアリアも雛子の為に穴に飛び込んだんだよ。雛子が助かるように……だから」
「……きっと……帰ってくるから……それまで……」
気休め、かもしれない。
その不安を完全には拭い去る事は出来ないだろう……それでも。
この温もりが少しでも慰めになってくれれば、いいと。
「陸斗殿、お早くっ!」
「ちょっ、待っ……?!」
「さすがや、陸斗はん。よもやここで靴ひもが切れるとは……」
丁度同じ頃、封印の祠から戻ってきた陸斗は雛子の元へと急いでいた。
だがしかし、唐突に靴ひもが……それも両方ともが一度に切れた陸斗に、フィルラントがそっと目頭を押さえた。
「陸斗はん、こんな時まで不憫やで」
「!?」
そして、白花が弾かれたように、顔を上げた。
視線を正確に、陸斗や政敏達が戻ってきた方向に向けると。
雛子を見つめ。
「封印の宝珠が戻ったようです……雛子さん」
その胸元に手をかざした。
「雛子さんの中に仕掛けられているのは、妄執です。恐怖や怒り、影使いが集めた負のエネルギー……雛子さんから影龍へと送る為の、影龍を満たし復活させる為の」
それを今、解放します、と白花は告げた。
「それって、どうなるの?」
「おそらく影龍が復活します……けれど、それはチャンスでもあるのです。影龍を浄化する好機……闇に心が、光が負けなければ。闇を光で満たせれば」
その顔には逡巡が見えるのは、不安があるからだろう。
だから、月夜はその手を握りしめた。
「信じて。刀真を……自分のパートナーを……」
白花は一度月夜の手を握り返してから。
雛子の胸元から、漆黒の宝珠を引きぬいた。
それをようやく辿りついた陸斗と黎は見た。
雛子から噴き出した闇が、瞬く間に全てを呑みこんでいく。
「ヒナ……!」
必死の声も、伸ばした手も、届かぬまま。
ただ闇に飲み込まれ。
闇が、全てを呑みこんだ。
それは異空間もまた、無関係ではなかった。
空間が歪み沈んでいく。
闇が、影が……影龍の心を引きずりこんで行く。
全てが、闇に飲み込まれていく。
「……刀真さん」
その中で、刀真は白花の声を聞いた。
白花の香りを、気配を感じた。
急速に闇に意識が感覚が全てが奪われていく中。
「白花、俺は君に『俺が契約者で良かった』といつでも幸せな笑顔と共に言わせてみせます」
あの時と同じ気持ち、真摯な眼差しで誓う。
「君が抱えているものを共に持たせてくれませんか?」
受け止め、白花は一度目を閉じた。
救ってくれた人。
共に在りたいと願う人。
だからこそ、迷っていた。
この人達を自分の運命に巻き込んでしまう事を。
それでも、刀真が何度も何度も手を伸ばしてくれるから。
月夜がいつもいつでも心ともに居てくれるから。
「……願いが、あるのです」
もう、心は偽れなかった。
例えそれが、弱さだとしても。
かつて告げた、夜魅を救いたいという願い。
それは本当の願いに、やらなければならない事に通じるものだった。
「影龍を救います」
だから顔を上げて、白花は口にした。
影龍、大いなる災い。
そう名付けられた時、『それ』は闇龍とは異なるモノとなった。
それでもそれは、この世界と異なるモノには成りえなかった。
影龍はあくまで世界の一部……この世界から生み出されたモノだった。
だから、だからこそ。
「力を貸して下さい。影龍を浄化……いえ、世界に還す為に」
それは決して一人二人では出来ない事。
だけれども。
闇の中、封印の巫女……否、神子は手を差し出した。
自分のパートナー達……そして、かけがえのない仲間達へと。
大変お待たせいたしました、藤崎です。
全ては闇に呑まれ、それでも……という所で続いております。
次回最終回、お会いできる事を願っています。
また、今回神子である白花(封印の巫女が樹月刀真さんの正式なパートナーと成りました。
神子についてはグランドシナリオの展開も合わせてご覧下さい。
また、白花のデータは6月11日までに作成して樹月様にLCとしてお渡しさせて頂きます。