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君を待ってる~剣を掲げて~(第2回/全3回)

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君を待ってる~剣を掲げて~(第2回/全3回)

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第6章 操る糸は(VS邪剣)
「もう! せっかく朔ッチがいい具合に勝利してたのに突然出てきて何よ、あいつ。許さないよ!」
鬼崎 朔(きざき・さく)はパートナーであるブラッドクロス・カリン(ぶらっどくろす・かりん)から
スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)尼崎 里也(あまがさき・りや)へと目を向けた。
「スカサハ、あの方大嫌いであります! 皆様を傷つけたり、大事なものを奪うなんて……許せないのであります!
「ふむ……魔剣、妖刀の類は色々勉強してきたが……実物はあれほどまでに禍禍しいものとはな……」
スカサハも里也もケガなどしていないようだ。
「あれはもう人の身に余るものですな。早々に破壊するのがいいかもしれないですな」
 里也に頷いてから。
「……奴は、自分の大切な者達を傷つけた。……許せない」
 邪剣を手にした少年へと移された朔の瞳に、剣呑な光が宿る。
「……それに邪剣が本体でも、操る人間は塵殺寺院の者と聞く。……ならば、自分に躊躇する理由が無い……容赦なくツブさせてもらう」
 その光の名は、憎しみ。
 鏖殺寺院の者ならば、朔が容赦する道理はなかった。
「ちょっとあんた、いきなり何なのよ! 大会ブチ壊してくれちゃって!」
 神楽坂授受は邪剣に啖呵を切ってから、傍らの観世院義彦を見やった。
「一時休戦して、一緒に邪剣と戦ってくれないかな?」
正直、義彦は気に入らない。
だが、大会どころじゃないのは分かってるし、その強さも認めていたから。
「女の子の素直なお願いなら聞いてくれるよね?」
「……あっ、ああ」
 ジュジュの可愛らしい「お願い」に、義彦はどこか心ここに在らずで、それでも首肯した。
「すまなかった」
 そんな義彦に頭を下げた者がいた。
 蓮見 朱里(はすみ・しゅり)のパートナーであるアイン・ブラウ(あいん・ぶらう)である。
「え……いや、何だ?」
「いい加減だと決めつけていた、すまない」
 アインは義彦を、直ぐに女性を口説くいい加減な男だと思っていた。
 だが、見ているうちに義彦は考えていたよりずっと真面目なのだと気付いたから。
「いや、いいんだ。もしかしたら俺は本当に、そういう奴なのかもしれないし……」
「それに……」
「?」
 必死で強さを求めている義彦に、アインはかつての自分を重ねた。
(「かつては自分も同じような考えを持っていた。自分にもっと力があれば、多くの命を失わずに済んだかもしれないのに、と」)
 だが力を得、敵を倒す度に、心は逆に孤独になってゆくことを、相手は本当に喜ぶだろうか?
(「人は決して完璧にはなれない、限りある存在だ。なればこそ、人は互いを支えあうことが出来るのだと気づかせてくれたのは、彼女だったのだから……」)
 視線を向けると、気づいた朱里がニコリと微笑んでくれる。
 こんな時でも、こんな時だからこそ。
 その笑顔がその存在が、自分に力を与えてくれる。
「義彦にとっての雛子は、どうなのだろう?」
「!?」
 アインの何気ない言葉に息を呑む義彦。
「アインっ!?」
 瞬間飛んだ、朱里の警告。
 アインは即座に獲物を振るい、邪剣の攻撃から義彦を庇った。
「すまん、ありがとう」
「ぼんやりしてると死にますよ」
「分かってる……分かっては、いるんだ」
 その表情に滲む苦悩に、橘 恭司(たちばな・きょうじ)は軽く眉を上げた。
「雛子の事ですか?」
 指摘すると弾かれたように顔を上げた……図星だ。
 ちなみに、今の迂闊な義彦はともかく、恭司の方はお悩み相談しつつも邪剣の動きはちゃんと警戒している。
「その、本当だろうか。この気持が、こいつの……スノゥティアの影響だというのは」
「まぁ、それは全部解決した後で、実際に雛子と向き合って確かめればいいんじゃないですか?」
「……今はそれしかない、か」
「そういう事! 来るわよっ!」
 精彩を欠く義彦をインと共にサポートしつつ、
「ものは相談だけど、その少年はやめて、あたしのとこ来ない? あたしのこと好きなんでしょ?」
 ジュジュは、イチかバチか持ちかけてみた。
 大分疲弊しているだろうし、勝算はあった。
「それは心ひかれるお誘いだよね」
 果たして邪剣は答え。
 だが直ぐに、その顔に笑みを浮かべ頭を振った。
「でもボクは今、とても……いい気分なんだ。キミの身体を奪うより、こうして戦っている方が……いい」
 とても嬉しそうな笑顔は、こんな時でなければジュジュの心を弾ませるだろうけれど。
「それは残念だわ」
「とにかく動きを止めます」
 恭司の放つ【奈落の鉄鎖】は、邪剣により断ち切られる。
「こっちも忘れて貰っては困りますよ!」
「出来ればそう、傷つけたくはないんだがな」
 だが、後方から遙遠がカガチの剣戟が襲いかかる。
 避ける事を許さぬ、鋭く激しい攻撃。
「ッ!?」
 それを邪剣は辛うじて凌いだ……左腕を今度こそ完全に犠牲にして。
「外したか……利き腕やりゃあ、手放すと踏んだんだがな」
 それでも、距離を取り瞬時に左腕を盾にした邪剣に、カガチは舌打ちをする。
 そして。
「……ハッ、強いね、キミ達。うん、とてもとてもステキだよ」
 左腕からとめどなく血を滴らせながら、邪剣は嬉しそうに笑んだ。


「あの校庭で暴れてる奴が持ってるのが邪剣か……」
 トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)は隠れ身で身を隠しながら、ハヤセと邪剣の戦いぶりを観察していた。
 戦況は徐々に悪くなりつつある、それをトライブは敏感に感じていた。
「鮮血隊以外の寺院メンバーなんざ知ったこっちゃねぇが、どうやらあの邪剣ってのに操られてるみたいだしなぁ。何だか事情もありそうだし、ほっとくわけにもいかねぇか」
 鏖殺寺院はジビアな実力主義である。
 力無きものは利用され打ち捨てられる……あの、ハヤセという少年のように。
 精霊との契約者、というだけでは珍重されないのだ。
「絆や思いを斬る邪剣ってのにも、興味があるしな。仕方がねぇ、鮮血隊副隊長、出るぜ!」
 かくして鏖殺寺院の鮮血隊副隊長(自称)は、仮面をつけると戦いの只中に飛び込んだ。
「!? 誰ですっ!」
 周囲を警戒していた道明寺 玲(どうみょうじ・れい)が見たのは、仮面をつけた怪しい人物だった。
「通りすがりの鏖殺寺院だ。悪いが、邪魔させて貰うぞ」
「トライブの奴、またあんな状況を引っ掻き回すようなマネをして。馬鹿、本当に馬鹿なんだから!」
 その様子を屋上から見つめ、ジョウ・パプリチェンコ(じょう・ぱぷりちぇんこ)は小さく毒づいた。
 出来れば鏖殺寺院に協力するのは止めて欲しい。
 そうすればもう少し心穏やかでいられるのだが。
「どうなったって知らないからね。勝手に野たれ死ねばいいんだよ、ベーッだ!」
 可愛く唇を尖らせ、それでも、自分が完全にはトライブを見捨てられない事をジョウは知っていた。
「これでも顔には自信があるんだ。仮面でお見せ出来ないのが残念だぜ」
 邪剣との戦いの場に突如現れた、鏖殺寺院の者。
 それはただでさえ緊迫していた空気を、更に高めた。
「鏖殺寺院……!」
 そんなトライブの口上に殊更、反応した者がいた。
 ラズを繭螺達に託したアシャンテは再びの偏頭痛に顔をしかめ、それでも、銃を構えた。
「この頭痛は……鏖殺寺院か」
 そして、もう一人。
 クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)もまた気付いた。
 トライブの存在と、対峙しようとするアシャンテに。
「奴か……例え少年だろうと……仮面だろうと……鏖殺寺院は全て殺す」
 邪剣の使い手も鮮血隊副隊長(自称)も、クルードにとってはすべからく排除すべき敵である。
「……俺は二度と……仲間に斬り掛かる様な事はしない。……その可能性があるなら……消すのみだ」
 自分だけならまだしも、妹まで利用される可能性があり、更に再びアシャンテ達を襲うかもしれない可能性がある以上、消すしかなかった。
 そして、アシャンテに負担を掛けない為にも。
「……人を殺す感触など……俺だけが知っていればいい。……あいつにはあんな感触は……味わって欲しくない。……鏖殺寺院を全て殺すのは……俺だけの独断だ」
 月閃華と陽閃華、二刀を手にクルードは駆けた。
 頭痛が激しさを増す中、トライブへと踊りかかった。
「目に見えない物を斬るとは、面白いじゃねぇか邪剣。あんたの目的はなんだい?」
「ボクの目的は影龍を復活させる事だよ」
 旗色は悪いのに臆した風もない邪剣に、トライブは口の端を釣り上げ。
「なら、ここは一旦引きな……さすがに相手が多すぎるぜ」
「……逃がすか!?」
「ほらな、こんな物騒なのが混じってるしよ」
 クルードの鋭い斬り込みから距離を取る。
「イヤだよ。ボクの存在意義は戦う事、破壊する事……そっから逃げたら、何の為にここにいるのか分かんないじゃないか」
「人間様に偉そうな口を叩くじゃねぇか邪剣。気に入ったぜ」
 とはいえ、2対いっぱいが無謀な事は、トライブとて分かっている。
「……うん、確かにボクも……もう少し……こうしていたい」
そして、邪剣は目を閉じた。
「いけないっ! 止めて下さいっ!」
 玲は咄嗟に、声を上げた。
 危機感……嫌な予感が背筋を振るわせる。
「ダメです! それ以上ムリしたら、その子の身体が!」
出血の止まらぬ身体を案じたのは、玲のパートナーであるレオポルディナ・フラウィウス(れおぽるでぃな・ふらうぃうす)だ。
 だが勿論、邪剣は止めない、止まらない。
「確かに……どうにもいやな予感がしますな」
「……同感だ」
 黒い刀身が放つ、黒い光。
 目にした里也が朔が、クルードが走る。
「邪剣……昔のボクと……同じ……闇に堕ちた……剣」
 見つめるカリンの瞳は僅かに、揺れた。
「でも、ボクはキミに同情こそはすれど、容赦はしない。朔ッチの邪魔するなら徹底的にツブさせてもらうよ!」
 それでも僅かな同情・憐憫を振り払い、カリンは合図を、した。
「スカサハ頑張るのであります!」
 スカサハの炎術が放たれる。
 邪剣は無防備に見え、トライブはクルードが釘付けにしてくれている。
 その、千載一遇の好機。
 だが、そこに……邪剣の前に立ちはだかりスカサハの炎術を斬った者がいた。
「何で邪魔するの?!」
「いっいや、邪魔をするつもりは……?」
 観世院義彦は慌てたように首を振る。
 だがしかし、その手の魔剣はスカサハとタイミングを合わせて邪剣に距離を詰めていた里也へと、襲いかかる。
「む……ッ!?」
「御守りするのであります!」
 それは間一髪、加速ブースターで滑り込んだスカサハにより空を斬ったが。
「ちょっ……スノゥ!?」
「すみ……ませ……マス……」
 魔剣の声が途切れ。
「頼む、避けてくれ!」
 義彦はアインやジュジュへと魔剣を振り下ろしながら、悲痛な声を上げた。
 それは義彦だけではない。
「きゃうっ!? お願い、避けて!」
「こんな時に、同志討ちしている場合じゃないですよ!」
「葉月に近づいたらワタシ、許さないよ!」
「ミーナ、これはボケてる場合じゃありませんよ」
 菅野 葉月(すがの・はづき)ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)をたしなめてから、目の前の魔剣使いの女の子を見た。
「ごっ、ごめんなさい……ハガネ丸、急にどうしたのよ?!」
 剣を振り回しているというより、剣に振り回されている体の少女。
 それは日々、研鑚を積む葉月には避けるのは容易いもので。
 だが、逆にその無軌道な動きは取り押さえるには一苦労、といった風だ。
「操られているのですか? あの邪剣とかいう輩に?」
 半信半疑で周囲を見まわす。
 だが、義彦然り、少女然り、他にも環菜がスカウトしてきて剣の大会に出ていた魔剣の使い手達が皆、そのコントロールを失っていた。
 魔剣……プリンス・オブ・セイバーの持っていたそれはかつて、大層な力を持っていたという。
 他の魔剣と魔剣使いに慕われ尊敬を集めていたという、プリンス・オブ・セイバー。
 その魔剣の一部である邪剣は、他の意志ある剣に干渉できる、という事だろうか?
 或いは、これこそが邪剣の邪悪なる由来なのか。
「少なくとも、悠長に考えている暇はないようですね」
「お願い、あたしを止めて……」
「……少し、我慢していて下さい」
 少女の懇願。
 葉月は一度目を閉じると、スッと一歩踏み込んだ。
 メチャクチャに振り回される剣の軌跡を避け、背後に回り込み。
 葉月は剣の柄でもって、その首元を打ちつけた。
「ごめ、なさ……ありが……」
 意識を失うと共にその手から離れた魔剣を確認してから葉月は少女を抱き上げた。
「治療スペースはこっちよ」
 ミーナは唇を尖らせつつも、葉月を先導し歩き出した。

その瞬間。
地面が大きく、揺れた。

「アイン!」
 一度とはいえ、立ってられないくらいのそれ。
 その最中、朱里は何かを感じ取り、アインの名を呼んだ。
 やはり気付いたアインが振り仰いだ時には、遅かった。
「……うん、やっぱり健康で頑丈な身体っていいな♪」
 その手にスノゥティアでなく黒き邪剣を握り、『義彦』は無邪気に笑んでいた。