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【ろくりんピック】小型飛空艇レース

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【ろくりんピック】小型飛空艇レース

リアクション


■空京3

■荒地〜谷間
 砂埃が大地の表面を撫でていた。
 時折り見かけるのは荒れ果てた地に昇る小さな竜巻。
 青空に包まれ、ギラギラと照りつける太陽に焼かれた地面の上空を駆け抜けていく。
「もっと安定させろ!」
 国頭 武尊(くにがみ・たける)のがなり声に、猫井 又吉(ねこい・またきち)は大きく舌を打った。
「っるせぇ。子犬みてぇにキャンキャン吠えてる間に、さっさとヤッちまえ。テメーの仕事はパーティーが終わった後の残飯処理じゃねぇだろ?」
「チッ、使えねぇハイヤーだぜ」
 二人の乗った機体は琳 鳳明(りん・ほうめい)藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)を乗せた機体の左後方に付いていた。又吉の後部の武尊が構えているのはマシンピストル。狙いを定められたその銃先から、
「狙い撃つぜ!」
 スタタタンッと乾いた音を捨て、弾丸が空中に弧を描いていく。

(「……琳、右へ。機体を上昇させながら」)
「なんで私ばっかり狙われるかなーっ!」
 鳳明が涙をちょちょぎらせながら、天樹の精神感応を通した指示通りに飛空艇の鼻先を巡らせていく。先行した弾丸がすぐそばを掠めて、ヒゥン、ヒゥン、と物騒な風切り音を落としていく。
 幾つかの弾丸が艇底を掠め、その内にダンッと一つ大きな衝撃を受ける。
「あ、あたっちゃった!?」
(「……落ち着いて、まだ掠り傷だから。……このまま捕らえられないよう蛇行を。……なるべくランダムに」)
「りょ、了解!」
 鳳明の返答を聞きながら、天樹はカーマインの銃口を左後方へと向けた。武尊の頭の光るモヒカンが太陽光を反射して、天樹はわずかに目を細めた。
(「……琳の邪魔、……ダメ!」)
 天樹の放つカーマインの銃撃が又吉たちを牽制していく。
 そして、その二機はお互いに撃ち合い絡み合いながら谷間へと向かって行った。
 荒れ果てた大地に、時々、銃痕の土煙が立ち昇る。


 前方、幾つもの土煙を上げながら谷間へ向かう機体らを眺めながら、アレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)は嘆息した。
「あれでも、正攻法だけで行くつもりかよ」
 併走する六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)の方へと言ってやる。アレクセイは、そう言い張る彼女のことが、契約者として、心配だったため、とりあえず地下通路を抜けるまでのサポートとしてこの場に居た。
 決意を込めた眼差しを前方に向けていた優希が言う。
「このレースの様子は……後で放送に使ってもらう予定です」
 二人の飛空艇はそれぞれ個人の物をレース仕様にしたもので、優希の飛空艇にはデジタルカメラが備え付けられていた。
「もしかしたら、このリポート映像を通し、沢山の人に『六本木通信社』のことを知って貰えるかもしれません」
「……おまえの両親にも、か」
 少しだけ間を置いてから、アレクセイは言った。
 優希がうなずく。
「その時に恥ずかしくないよう、私は操縦技術だけで勝負しなくては」
「そうだな……――ッ、ユーキ!」
 アレクセイは機体を体ごと沈め込むようにしながら、優希の下方へと潜り込んだ。それで、艇底に衝撃を受ける。
「くっ……のヤロォ!!」
「ア、アレクさん!?」
「いいから、俺に任せておまえは回避に専念しろ!!」
 アレクセイが片手に生んだ火球を、こちらへ攻撃を仕掛けてきていた方へと放つ。
 その先に居たのは、立川 ミケ(たちかわ・みけ)

「なな ななーん なー!」
 こっそりひっそり優希たちの下方へ回りこんでいたミケは、遠当てをアンダースローでおば二人の方へ放ち、その後、アレクセイの火術から逃れるために、ひゅるんっと機体を巧みに操っていた。ちなみに、ミケは基本子猫なので「なーなー」としか鳴けない。一応、人間の言葉の方は理解できているが。
 放たれていた火術が横を掠めて、砂塵の焦げた匂いに、少しばかり鼻の頭をしかめる。
「ななーん!」
「何言ってるかわかんねぇーし!」
 アレクセイが文句と一緒に、牽制の火術を更に放ってくる。ミケは、それを避けながら、もう一発遠当てを叩き込めるチャンスを伺っていた。
「クソッ、このっ、ちょこまかとしやがって!! いい加減諦めて離れやがれ!!」
「ア、アレクさんっ」
 優希の声が飛び、
「なんだ!?」
「あ……あの……絵的に、動物虐待してるみたいな感じになってて……いたたまれないです」
 言われて、アレクセイは心底から力の抜けた顔で肩をこかしていた。
「どうしろってんだよ……」
「なーん!」
 隙ありー、と言ったようなニュアンスの鳴き声をあげて、ミケは遠当てを放った。
「――ンなろッ!」
 アレクセイが寸でのところで遠当てを逃れる。
「なー」
 規定のスキルを撃ち尽くしたので、ミケは、ちょいちょいっと片手でバイバイ的な動きを見せてから、その場を離れるように機体を傾けた。

「くぉらッ! 待てこのッッ!」
「ア、アレクさん、落ち着いてくださいっ」
「チッ。今度会ったら、尻尾にリボン巻いてやる」
「あの……やっぱり、虐待に見えると思います」
 優希の言葉に、アレクセイは、むぐっと、とても複雑な表情を浮かべながら、離れていくミケの機体を見送った。


「まだ付いて来てるのっ!?」
 琳 鳳明(りん・ほうめい)藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)を乗せた飛空艇は谷間の最初の直線をブーストでカッ飛んでいた。その後ろをピッタリと追っていくのは、猫井 又吉(ねこい・またきち)国頭 武尊(くにがみ・たける)を乗せた機体。後方からの銃撃は未だ収まっていない。
「しつこいよ、もうっ!」
(「……変、かも」)
 天樹が後方の又吉機へとカーマインを撃ち返しながら、鳳明へと精神感応で伝えてくる。
「え?」
(「……あっちからの銃撃が牽制だけになった」)
「……どういうこと?」
(「……分からない。何か……狙いが?」)
 精神感応を通じて、天樹の不安な感覚も少し伝わってきているような気がした。
 この先の急カーブはもうすぐ、そこに迫ってきていた。

「そうだ、いいぜ。良い子にしてやがれ」
 又吉は猫な口元をニィっと不敵に笑ませながら、鳳明の機体を見据えていた。
「今、熱いランデブー、キメてやっからよ」
 ブーストで一気に加速する。

(「……!?」)
 それは、異常な行為に見えた。
 二機の前方に迫っているのは急カーブだ。こちらはそれをギリギリ曲がりきれるスピードで飛んでいる。にも関わらず、又吉の機体はこちらへグンッと突っ込むような加速を行った。加えて云えば、こちらはライト仕様であちらはヘビー仕様だ。
(「……まさか、曲がりきれるはずが……――あ」)
 天樹が相手の思惑に気づいた時には、多分、遅かった。
(「……琳! 上昇して、減速――ッ!?)
「っきゃああああ!?」

『おおっと!! 又吉機、思いっきり鳳明機に突っ込んだーーー!! 又吉機はその反動でカーブを曲がり切る! 鳳明機はそのまま岩壁へと追突かー!? カメラの死角になっていて、こちらからは確認できません!! うーん……今のは、どうなんでしょう? 空京内でヘビー機の取り回しにてこずってましたからねぇ、一概に故意だったとは考えられませんが……』

「大したもんだ」
 武尊はマシンピストルの銃身を肩にかけながら言った。
 又吉が前方を見据えたまま、細く息を垂れる。
「カーブで事故る奴は……不運と踊っちまったんだよ」
「よく言うぜ――と? 連中、ダンスは苦手だったらしいな」
 武尊が見やった後方――鳳明機が追い上げて来ていた。
 片眉をかしげながら、武尊は飛空艇に積んでおいた”アレ”に手を掛けた。

「し、しし死ぬかと思ったっ」
 多少ボロついた小型飛空艇を駆りながら、鳳明は、はひーっと涙を虚空にぱらつかせていた。
「ほんと、ありがとね。天樹」
(「……ううん」)
 衝突しそうになった一瞬、天樹がサイコキネシスで接触する打点を少しだけ、ずらしたのだ。おかげで打ち弾かれはしたものの、側方の岩壁へ直接飛ばされず、上方斜め方向へと飛ばされることとなり、なんとか機体を御する隙を得ることが出来た。
 だいぶダメージを受けてしまったが、レースはまだ続けられる。
 と、思ったのもつかの間。
 前方を行く機体の後部で武尊の口元が、「じゃあな」と動いたのが見えた。
 次いで、その場にバラ撒かれたのは大量の自称小麦粉。
 ぶぁっと舞ったそれらに視界が白く奪われる。
「うわわわっ!? 次から次にーっ!」
(「……琳。……冷静に!」)
 しかし、ばふっと機体が白靄の世界に突っ込んだ刹那――二人の横を誰かの機体が掠めた。
「頼むぜ、ヘラ」
 聞こえた声。そして、前方へゴゥっと火術が走った。
 自称小麦粉が火術の熱と風圧で焼け吹き飛んで、わずかに視界が開ける。
「っし、イケるな。続けてくれ」
「……ああ」
 声の方へ視線をやると、そこを走っていたのはアルノー・ハイドリヒ(あるのー・はいどりひ)の機体だった。
 後部のヘラ・オリュンポス(へら・おりゅんぽす)が更に火術を前方の靄へ叩き込んでいく。
 アルノーが鳳明たちの方を見やり、
「大丈夫か?」
「あ、ありがとう。助かったよっ」
「気にすんな。同じチームだし、同じ教導団じゃねぇか」
 アルノーがどこか無邪気さを感じさせる笑みで返し、「一緒に頑張ろうな!」と続ける。
「うん!」
 鳳明は、笑み返しうなずいた。
 二機が揃って加速する。


 格好いいバイクのハーリーはストイックに走る。

 というわけで、ハーリー・デビットソン(はーりー・でびっとそん)がアメリカンバイクちっくな小型飛空艇でストイックに谷間を走り抜けていく後方――
 戦国ちっくな旗印の描かれた織田 信長(おだ・のぶなが)の飛空艇が、世紀末風の機体を駆る南 鮪(みなみ・まぐろ)の横を抜けて、ハーリーの後ろに付く。
「後ろに居るのは西軍が二機。東はおらぬ……好機だ」
「ヒァッハァ〜! 任せとけェ〜。とっておきの”ヤツ”をお見舞いしてやるぜェ〜!」
 鮪が、ガチャリと手に持った”ソレ”を見せながら、ゲラゲラと笑う。

 谷間は予想以上に細く険しかった。
 六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)アレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)は、ライト仕様の小回りを活かしながらも、要所要所で速度を抑えつつ進んでいた。
 そして……
「ん?」
 最初に気づいたのはアレクセイの方だった。
 鮪の機体が前方に現れ、
「ヒャッハァ〜! なあ、てめぇら」
「え……あ、はい?」
 優希が小首をかしげる。
「バーベギューは好きかァ〜?」
 がちょん、と鮪がこちらへ向けたのは――火炎放射器。
「ッ、そうきやがんのか!」
 逃げ場は無い。アレクセイが優希を庇うように前へ出て、二人揃ってめいっぱい減速する。加えて――
「アレクさん……!」
 優希がアレクへファイアプロテクトを施した。同時に――
「ヒャァッハァーー!!」
 鮪の火炎放射器から炎が膨れ上がって谷間の空気を焼き焦がした。
「ンなろッ!!」
 アレクが減速を続けながら火術を組み上げて、迫る炎の頭へ火術を叩き込んで、勢いを抑えこもうとする。
 やがて、炎が散って、消える。
 彼らを減速させるという役目を終えた鮪の姿は、もう遠くにあった。


 チェックポイント付近――
 トップで現れたのは、ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)クラウン ファストナハト(くらうん・ふぁすとなはと)だった
 荒地で遠慮無くクラウンのブーストを使って飛ばしたナガンは、谷間では一転してブーストを控え、慎重に進んできた。
 しかし、荒地で稼いだ分の差が誰かに埋められることはなく、ナガンは悠々とチェックポイントをトップ通過した。


 ナガンのトップ通過に会場が湧く。
「それでは皆さんご一緒に♪」
 サフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)がボンボンを持った片手を付き出して、その先をぐぅっと会場の方へと巡らせる。そして、
「いいぞっ、いいぞっ、ナ ガ ン♪ レッツゴーレッツゴー、ク ラ ウ ン♪ わー!!」
 彼女がボンボンをぽさぽさと振りつつ、跳ねる踊るの快活な動きと声に合わせて、周囲の観客たちの声も一体となってエールを贈っていた。大勢の声と熱気が波となってそこいらを揺るがせている。
「よーし、かっとばせー! ナーガーンー! ……だと野球? ま、いっか」

『やはりクラウン機と連結したナガン機は強い! しかも、ナガン機はこれまでにまだ自身のブーストは一切使っていません。後半の足が十分残っている! このまま優勝を得ることになるのかー!?』
 
「……でも」
 ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)はスクリーンに映し出されたナガン機をじっと見据えながら、ぽつりともらした。
「ナガンの機体は無傷じゃないわ。今の位置にいるにしては良く残している方、という程度じゃないかしら……付け入る隙は十分ありそう。誰がかつかはまだ分からないでしょうね」
 分析するように独り言めく。
 と……まったく別のことを考え、
「そういえば、そろそろ準備しておいた方が良いかしら」
 一人呟くと、彼女は人混みの中へと姿を消していった。


『今、トップがチェックポイントを通過したぜ。ナガンだ』
「……そうですか」
 エルフリーデ・ロンメル(えるふりーで・ろんめる)は、空京のリーリヤ・サヴォスチヤノフ(りーりや・さう゛ぉすちやのふ)から連絡を受けていた。
「全体の状況は?」
『どっちかっていうと西が不利だな。順位的にもそうだけど、翻弄され気味だし――東の連中の方は、まだまだ遊び足りないって感じ』
「……了解しました。定期連絡を終わります」
 エルフリーデは携帯の通話を切った。
 前方を見据え、一気にブーストによる加速を開始する。
 
▼現在順位

1位:【東】ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)(ライト)
2位:【東】クラウン ファストナハト(くらうん・ふぁすとなはと)(ヘビー)
3位:【西】グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)典韋 お來(ライト)
4位:【東】四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)赤羽 美央(あかばね・みお)(ヘビー)
5位:【西】琳 鳳明(りん・ほうめい)藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)(ライト)
6位:【西】アルノー・ハイドリヒ(あるのー・はいどりひ)ヘラ・オリュンポス(へら・おりゅんぽす)(ライト)
7位:【東】国頭 武尊(くにがみ・たける)猫井 又吉(ねこい・またきち)(ヘビー)
8位:【東】ハーリー・デビットソン(はーりー・でびっとそん)(ノーマル)
9位:【東】織田 信長(おだ・のぶなが)(ヘビー)
10位:【東】南 鮪(みなみ・まぐろ)(ヘビー)
11位:【東】クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)ジィーン・ギルワルド(じぃーん・ぎるわるど)(ヘビー)
12位:【東】四条 輪廻(しじょう・りんね)(ライト)
13位:【西】六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)(ライト)
14位:【西】アレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)(ライト)
15位:【西】エルフリーデ・ロンメル(えるふりーで・ろんめる)(ノーマル)
16位:【東】立川 ミケ(たちかわ・みけ)(ライト)
17位:【西】天貴 彩羽(あまむち・あやは)天貴 彩華(あまむち・あやか)(ライト)
18位:【東】樂紗坂 眞綾(らくしゃさか・まあや)(ライト)