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【ろくりんピック】小型飛空艇レース

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【ろくりんピック】小型飛空艇レース

リアクション


■空京4

■地下通路
『さあ、各機は次々と地下通路へと突入していきます! この地下通路、ほとんど迷路化している上に、旧式の防衛システムが起動しています。――ここからは情報力、適応力などが更に重要になっていく! 最初にここを抜けるのは一体誰なのでしょうかっ!』

◇ 
 四方八方から現れる防衛システムのレーザー銃口の先から逃れるように、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)の操縦する飛空艇は空中を滑っていた。
「まず、迷路構造ってのが好かないんだよなぁ」 
 典韋 お來が後部席に立って、ヒュンッと切っ先を構える。
「その割には声が踊っているな」
 グロリアーナの言葉に典韋が、はんっと笑気を吐き捨てる。
「バーカ♪ ようやく、出番が来たから気合が入ってるだけだ」
 言って、彼女は構えを取り、迫った天井から案の定生え出してきたレーザー装置へと轟雷閃を走らせた。
「ま、あたしが剣を振るうんだ。おまえは気兼ねなくすっ飛ばしな、お姫さん」
 爆発を背中に感じながら、グロリアーナは凛とした表情を崩さずに飛空艇を傾ける。
「調子に乗っていると振り落とすぞ」


 運転をヘラ・オリュンポス(へら・おりゅんぽす)へと交代したアルノー・ハイドリヒ(あるのー・はいどりひ)たちは、幾つかの通路を抜けて――ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)クラウン ファストナハト(くらうん・ふぁすとなはと)を発見していた。
 ナガンらは既にロープを断ち切って分離し、それぞれレーザーを避けながら進んでいる。
「っし」
 アルノーの構えた銃が、ナガン――ではなく、前方の天井を狙う。
「当たりたくなきゃ下がれ下がれ!」
 銃撃が天井の防衛装置ごと壁を破壊し、瓦礫の崩落を招く。
 ナガンが瓦礫に機体を掠めつつ、直撃を避けながら、軽くアルノーの方を見やり、嘆息混じりに笑む。
「悪いねェ、相手してあげらんなくて。あー、残念」
「じゃじゃじゃーん」
 クラウンが減速してアルノーたちの道を塞ぐように飛ぶ。その間に、ナガンは他の通路へと潜り込んで行った。
 やがて、クラウンがレーザーを掠めてリタイアする頃、アルノーたちはナガンを見失っていた。


 こちらの進行に合わせて、カチカチと壁の奥から姿を現していく防衛装置たち。
 しかし、ジィーン・ギルワルド(じぃーん・ぎるわるど)は躊躇無く直線に軌道を取ったままスピードを上げた。
「さあ、頼むぜクライス!」
「はい!」
 後部席のクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)が盾を掲げ、意気を吐く。飛空艇を守るのはクライスの役目だった。
 次から次へと迫りくるレーザーを盾で受け止めていく。
「――っく! この!!」
「キツイんだったら代わってやってもいいぜッ?」
 レーザーを避けるための蛇行などはせず、手加減無しで飛空艇を馳せながら言ってやる。
「お気遣い無く! 絶対に護りきってみせるよ!」
 勢い良く返ってくるクライスの声に、ジィーンは口元を強く笑ませた。とはいえ、これ以上厳しくなるようであれば、ブースト加速で一気に抜けた方が良いだろう。
(見極めが肝心だな)
 と――後方で、
「ついでに俺も守ってくれるとありがたいのだがな」
 四条 輪廻(しじょう・りんね)がボヤくのが聞こえた。クライスが必死にレーザーを抑えながらも、少しばかり力が抜けたように溜息をこぼし、
「……善処します」
「助かるぞ。大いに善処したまえ、少年」
 輪廻は結局、ずっとこの機体の後ろにくっついて来ていた。
 レーザーに関しては前を行くジィーン機が弾除けになっている面もあり、狙われる数は少ないものの、やはり後方からの攻撃は仕方が無く、彼の機体はレーザーに掠められたりしているようだった。
 それでも、こちらの後方から抜ける気は無いらしい。むしろ、今、直線を直線で進んでいる状況はスリップストリームの恩恵も受けやすく、好都合と踏んでさえいるようだった。
「しかし、こちらの通路で道は合っているのか?」
 輪廻の問いかけに、ジィーンは前方を見据えたまま、
「ここの地図ならレース前に必死こいて暗記した。安心していいぜ」
「頼もしいな。宜しく頼む」
 返って来た言葉に、ジィーンはくっくっくと笑った。
「まるで、俺はおまえの従者か何かだな」
「付き従っているのは俺の方だ。どちらかというと水先案内人、兼、ボディガードといった方が状況に合致する」
「微妙に緊張感が足りないような気がするんですが気のせいですかッ?」
 クライスの方は、突っ込みとレーザーを盾で受け止めるのと大忙しの様子だった。
 と。
「確かに緊張感の足らないご一行様のようですね」
 声が、ふいに増えていた。
 ヒュッと風を切った小石が前方の防衛装置にあたって、銃口の先を逸らす。そして、併走したのは、赤羽 美央(あかばね・みお)が操縦する飛空艇だった。
 後部席の四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)がスリングで小石を放ち、もう一基の防衛装置をそらしてから、ジィーンたちへ笑顔を向ける。
「こんにちわー!」
「ああっと……」
 なんとなく返す反応に困って、ジィーンが言葉を探していると、唯乃が続けた。
「付いてっても良いかしら?」
「悪いとは言えないが」
「良かった! 私たち道に迷ってて……」
「迷った?」
 美央が無表情のまま溜息を吐く。
「頼りにしていたものが役に立たず、やむを得ずの迷子だったのです」
「頼りにしてたものってのは?」
「第六感です」
「なるかっ!」
「むー」
 美央が無表情のまま妙な声を出す。唯乃が「まあまあ」と美央の頭を軽く撫でてから、また、ヒュッとスリングでレーザーの射出口をそらし、
「ともかく、そんなわけでよろしくね!」
 改めて、笑顔をジィーンたちの方へ向けた。

「っと! ……あれ?」
 レーザーを弾いていたクライスはふと気づいて、つい、二度見した。
 そして、それから、またレーザーを弾いて、再度ちゃんと確認してから、
「あの……なんか顔が赤いですよ?」
 輪廻の方へと問いかける。
 クライスの言葉通り、彼の顔は赤くそまっていた。心なしか表情に緊張が走っているようにも見えなくはない。
「気にしないことだ。ひょうねん」
「噛んだし」
「貴様も薬の材料にしてやろうかっ!!」
「きゅ、急に脅されても……」
 とかなんとかやりながら、一行は通路を突き進んでいった。

◇ 
「さっきから何してんだ?」
 国頭 武尊(くにがみ・たける)は何やら銃型HCを弄りつつ運転している猫井 又吉(ねこい・またきち)の手元をのぞき込みながら首を傾げた。おかげで、機体はかなり減速した状態で進んでいた。
 又吉がひょっこらレーザーをかわしながら、返してくる。
「データ拾ってんだよ」
「データ?」
「破棄されてるっても、ガキが遊びで掘ったんじゃねぇんだ。どっかしらに施工データが残されてるはずだろ。そいつがありゃあ――」
「……ありゃあ何なんだ?」
 唐突に黙った又吉の頭を、ぎゅっと抑えながら武尊は又吉が覗き込んでいる銃型HCの画面を見やった。
 何か多重構造の設計図らしきものが幾つも展開されている。又吉が鼻を鳴らし、
「地図にも無い道ってのが、分かるかもしれないってな。ビンゴだ。多少、骨が折れるかもしれねぇが最短ルートでいくぜ」
 そうして、又吉が再び機体を加速させていく。

 又吉が見つけた通路は、工事の際に使われた搬入路だか秘密の避難経路だかいまいち判らなかった。
 ともかく、狭く、そして、やたらと警備システムが生き生きとしている場所だった。
 ザゥン、と武尊の足の裏の跡がついた扉が押し開かれたと同時に、チャキチャキチャキとレーザーの銃口が顔を出してくる。
 又吉は、ライトニングブラストと放電実験とでそれらを一斉に破壊し、一気に加速した。
 そこら中でレーザーが壊れて噴き出した煙を突き抜けて、「ハンッ」と短く息を捨てる。
「舐めんじゃねーぞ」
 

(「次はF~13通路へ」)
 天貴 彩羽(あまむち・あやは)は魔導銃で、こちらが回避不能なレーザー装置を狙撃しながら、天貴 彩華(あまむち・あやか)へと精神感応で指示を与えた。
(「おまかせですぅ~」)
 彩華が指示された通りの通路へと機体を滑り込ませていく。
 ユビキタスで呼び出したルートMAPを元に選択した道だ。なるべく直線を多く取れる通路を選び出し、繋げた、ライト仕様の機敏さとブーストによる加速を最大限に活かすための道――これまで彩華へ温存を指示してきた彩羽にとって、ここが勝負所だった。
 ふと、レーザーの飛び交う通路の先に、先行していた者たちの背が見える。それは、織田 信長(おだ・のぶなが)率いる南 鮪(みなみ・まぐろ)と――

 乗り物界のカリスマ、ハーリー・デビットソン(はーりー・でびっとそん)はストイックに走る。

 というわけで、後方から彩華たちが迫っていることに勘付いた信長は、鮪へと視線を向けた。
「分かっておろうな」
「俺ァ物忘れが激しいんだ。優ぁしく頼むぜぇ~」
 信長は、フン、と鼻を鳴らしてから、言った。
「案ずるな。”猿”でも覚えられるようにしてやる」