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リアクション
第1章 その男、天上天下天地無双につき・その2
突っ込んで行ったモンキーズが突破され、後ろに控えていた残りのモンキーズに動揺が走る。
もっとも見た感じ、彼らは数に勝るもののてんでバラバラ、集団戦の利を活かしきれていないように思えた。
しょうがねぇな……、とハヌマーンは呟き、向かってくる置き石撤去隊を迎え討つ。
「また会ったな、ハヌマーン!」
その前に立ちはだかるは、渋井 誠治(しぶい・せいじ)。
二度目の邂逅となる彼は、前回名乗っていなかったことを思いだし、警告スキルで名乗りを上げる。
「挨拶がまだだったな。毎日毎晩拉麺三昧、塩分過多で将来心配。俺がラーメンだ……、渋井誠治見参っ!」
「……ちょっと韻踏んでんじゃねぇよ。上等だ、かかってきやがれっ!」
「勿論そのつもりだ! でもハヌマーン、あんたにはガッカリしたぜ!」
「ああ?」
誠治はビシィと指を突きつける。
「もうちょっと男らしい奴かと思ったが買いかぶり過ぎだったな。何が天上天下天地無双だよ。結局子分を従えてなきゃ何も出来ないとんだ腰抜けじゃないか。そうさ、あんたはコシのねぇ麺だ、ダメダメのびのびラーメンだぁ!」
「な、な、な、なんだとぉ! てめぇらなんか俺様ひとりで充分だ、コラァ!」
まんまと挑発に乗ってきた。
決闘とは言っても、真っ向勝負のタイマンで勝てると思うほど、戦闘能力に自信があるわけではない。
だが、スーパーモンキーズに手出しをさせず、一対多数の状況に持ち込めれば、きっと勝機が生まれるハズ。
ところが……。
「何言ってるウキか、ハヌマーン様! 俺達ゃあんたの家来だ、大将に任せてのん気にしてられないウキよ!」
「そうだウキ! 俺たちゃ死ぬときは一緒なんだウキ!」
「て、てめぇら……」
ハヌマーンは涙ぐみ、くるりと誠治に向き直る。
「前言撤回だ。潜移暗化にして光芒一閃、物事は常に変化する。俺様はやっぱりこいつらと共に闘うぜ!」
「げっ……! 意外と部下に愛されてる!」
こちらに向かってくるハヌマーン達に、誠治は星輝銃を構えて応戦。
誠治の相棒ヒルデガルト・シュナーベル(ひるでがると・しゅなーべる)もため息を吐き、弾幕を張って援護を行う。
「当てが外れたわね。まあでも、奈落人もそうあくどい奴ばかりじゃないってわかって良かったんじゃない?」
「そう言う事実はもうすこし早めに知りたかったよ」
そこに御剣 紫音(みつるぎ・しおん)とそのパートナー達が加勢にやってくる。
「おいおい、おまえら、そんなダラダラ話してるヒマなんてねぇぞ!」
そして、精神感応で綾小路 風花(あやのこうじ・ふうか)に指示、ライトニングブラストで迫る敵を薙ぎ払わさせる。
防御のため死人戦士はそこに足止めさせれたが、ハヌマーンは容易く回避しどんどん距離を詰めてくる。
「紫音、ボズザルにはかわされてしまったどすぇ。こっちに向かってきますわ」
「それでいい、まずは分断が先決だ。こちらのヒルデ姉さんと協力して、死人戦士をこっちに近づけさせるな」
「了解どす。ヒルデはん、万事よろしく頼みますわぁ」
「こちらこそ。それじゃボスザルの相手は男共に任せて、私たちは出来る限り他の連中を止めるわよ」
「わらわが支援するからな、存分に力を振るうがいい」
そう言ったのは、アルス・ノトリア(あるす・のとりあ)だ。
命のうねりとパワーブレスを味方にかけ、戦闘のサポートにその力を使う所存である。
後方は彼らに任せておけば問題ないだろう。
龍騎士のコピスを抜き払い、紫音は声高に叫んだ。
「アストレイア!」
「仰せのままに……、我、魔鎧となりて我が主を護らん……!」
アストレイア・ロストチャイルド(あすとれいあ・ろすとちゃいるど)は白銀のロングコートとなって、紫音の身を包み込む。
「行くぜぇっ!!」
ハヌマーンを正面から迎え討つため、全速力で駆け出した紫音。
早速、護国の聖域を使い魔法防御を高めた……が、ハヌマーンは格闘戦主体、特に意味をなさなかった。
「それがどうした!」
拳を握りしめ真っ向正拳突き、その速度はまさに弾丸、直撃を受けた紫音は全身がバラバラに砕け散る。
……と思いきや、砕けたのは明らかに木片だった。
これぞマホロバに伝わる空蝉の術、インパクトの刹那、彼の身体は丸太と入れ替わっていたのだ。
「ナニ……ッ!?」
「友が願いを叶えるにはこんな所で立ち止まっているわけにはいかないのでな! 排除させてもらうぞ!」
轟雷閃を纏った剣がハヌマーンを断つ。
しかし、ハヌマーンは上半身を力任せに捻り、ほとばしる稲妻の洗礼を紙一重でかわした。
「馬鹿が……、くたばりやがれ、ハヌマーン流奥義『壊人拳』!」
大岩をも粉砕する鉄拳が、攻撃後の無防備な胸にドスンと叩き込まれる。
「がはっ!」
バキボキと肋骨が砕ける音が周囲にもハッキリと聞こえた。
紫音は血反吐を撒き散らし吹き飛ばされる。
「紫音さん!」
誠治は悲鳴のような声を上げた。
そして、ハヌマーンの背後から光線を浴びせる。頭に、首に、心臓に……、噴き上がる血飛沫ともくもくと沸き立つ黒煙が、その一発一発が急所を捉えたことを知らせたが、不死身の白猿大将はまったく怯むことを知らない。
「気は済んだか?」
一瞥と共に跳躍し、誠治に飛び掛かる。
「それなら……!」
次の瞬間、星輝銃に稲妻が走った。
あえて轟雷閃を封印していたのはこのための布石、充分に引きつけた今ならば、当たるはず……!
だが、銃口から雷撃が飛び出すのと同時に、ハヌマーンは視界から消えた。
「な……!?」
驚愕の表情を浮かべる誠治の顔は、すぐに苦痛の表情に変わった。
大地を滑るように懐に潜り込んだハヌマーンの拳が、その胸に深く突き刺さっていた。
「がふっ! げほっ!」
彼もまた吐血し倒れる。
「工夫が足りねぇなぁ……、そんな技出したところで、俺様が正面から食らう間抜けだと思ったか?」
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