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冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/全3回)

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冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/全3回)

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第1章 その男、天上天下天地無双につき・その3



「紫音さん……、誠治さん……」
 倒れて行く仲間を前に、九条 風天(くじょう・ふうてん)は顔を固く強張らせる。
 しかし、そこに怒りはない、ハヌマーンが倒れた二人にそれ以上のことはしなかったからである。
「殺すためではなく勝つための戦い……と言うわけですか。ならば、ボクもその意志に応えましょう」
「次はてめぇが相手か?」
「ええ。その昔、中国の有名な策士諸葛孔明が南蛮攻略の際、南蛮の王にしたことに習わせて頂きます。身が不死身、とならば心を攻めるまで……、敗北を認めるまでとりあえず7回ほど徹底的に全力で打ちのめさせてもらいます」
「……なんで7回なんだよ?」
「武人、戦士としての誇りを持っていれば、7度も負ければ恥と思うでしょう?」
 そう言うと抜刀の構えを取り、金剛力で引き絞った矢の如く筋力を高める。
 地面を確かめるような慎重な足運びで、ジリジリと必殺の間合いに詰めよる。
 そして……刹那、抜刀術から轟雷閃とライトブリンガーによる雷気と光気を帯びた刃が一閃。
 ハヌマーンの回避よりも、風天の剣速のほうがわずかに早かった。
 高速で振り抜かれた一撃は、胴を横一文字に両断。
「ぐわああああああああっ……て、あれ、なんだこりゃ、全然電撃がこねぇぞ?」
「な、なに……!?」
 見間違いでなければハヌマーンに触れる瞬間、刃に乗った電撃のみが弾かれ霧散したように見える。
 驚愕も束の間、カウンター気味に放たれた神速の突きが風天の胸を突き刺す。
「……くっ!」
「まぁ、なんだか知らねぇが運がなかったな、侍小僧!」
 息するヒマも与えぬ連撃に次ぐ連撃、必殺の壊人拳が左右から襲いかかる。
 腰元に携えたプリンス・オブ・セイヴァーを抜き、風天は二刀の構えで嵐のような乱舞を防ぐ。
「やはり世界は広いですね……、地の底によもやここまでの使い手がいるとは思いもしませんでしたよ……」
「今さら思い知ったところで、見逃してやらねぇぜ!」
「別に命乞いをするつもりはありません。ただ、自分自身も傷付く覚悟を決めたまでです」
 風天はおもむろに武器をハヌマーンに投げつけた。
 この場において武器を捨てるなど自殺行為だ。ふた振りの剣と刀はハヌマーンの両腕に突き刺さったが、無論のこと不死身の彼にダメージはなく、せいぜい腕に突き刺さる瞬間、その両腕を塞いだだけと言う小さな戦果である。
 だが、必要なのはわずかな隙でいい。
 風天は飛び掛かりあっという間にハヌマーンを羽交い締めにした。
「な、何しやがる! 放しやがれ!」
「……我慢比べといきましょう」
 その様子を風天のパートナー、坂崎 今宵(さかざき・こよい)が熱い眼差しで見守っている。
 これは主君たる風天の決闘、家臣たる自分が出る幕はない。
「坂崎今宵、せめて応援を送らせて頂きます……、フレー! フレー! 殿ぉーっ!」
 そんな彼女を他所にもう一人のパートナー、白絹 セレナ(しらきぬ・せれな)が前に出る。
「さて……、結局この状況に持ち込んだか。私の稲妻は生身で受けるにはちと応えるぞ、双方とも覚悟はいいか?」
「ええ、白姉。お願いします」
「ちょ、ちょっと待て。一体何をしやがる気だ、てめぇら……?」
 セレナは転経杖を回転させ、頭上にサンダーブラストの雷気は呼び寄せた。
 まるで生き物のように空を蠢く稲光、そこに更に天のいかづちを落とし、荒ぶる稲妻を肥大化させる。
「あなた好みのシンプルな勝負ですよ。ボクが倒れるのが先か、あなたが倒れるのが先か……、それだけの勝負です」
「ま、待て……」
 抵抗虚しく巨大な柱の如き電撃が降ってくる。
 だがしかし、またしても直撃の瞬間、稲妻は飛散して方々に弾けてしまった。
 この怪現象を間近で二度も目撃した風天は、それが如何なる現象によって引き起こされたものなのか悟った。
「まさか対電フィールド……!?」
「正解です」
 耳元で甘い声がした。
 それと同時だった、衝撃を伴って胸に熱が走る。
 背後からの奇襲、風天はハヌマーンともども槍のひと突きによって串刺しにされた。
「え……?」
 気付いた時には、風天は濡れた地面に仰向けに倒れていた。
 その目に映るのは曇天の空と、忘却の槍を構える藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)の姿。
 そう、先ほどまで置き石除去隊として、一緒に戦っていたはずの彼女の姿である。


 ◇◇◇


「と、殿ーっ!!」
 今宵は慌てて駆けつけ、風天を抱き起こす。
 傷はかなり深いが……、かろうじて急所を外れている。ヒールで応急処置を施せば死ぬことはないだろう。
 一方、ハヌマーンは当然のことながらピンピンしていた、串刺しの傷ももう消えている。
「初めまして、ハヌマーンさん。余計なお世話かもしれませんが、私にもお手伝いさせてくださいな」
「さっきの対電フィールドはてめぇの仕業か?」
 値踏みするように優梨子を見る。
「ええ、電撃がお嫌いとのことでしたので」
「……余計なお世話には違いねぇが、俺様は器のデカイ男だ、来るものは拒まねぇ。いいぜ、好きにしな」
 風天は朦朧とする中、よろよろと身体を起こす。
「ふ、藤原さん……、どう言うつもりですか……、何故こんな真似を……?」
「逆にお尋ねしましょう、九条さん。どうして死者を生き返らせることに、皆さんこれほど躍起になるのでしょう。命はひとつだからこそ美しい、命はかけがえのないものだからこそ、それを奪う喜びも格別ですのに……」
「ば、馬鹿なことを……」
「なんとでもお言いなさい。殺しの価値を揺るがすような真似を、私は決して許すことは出来ませんの」
 そう言いつつ、ヒプノシスを放つ。
「さあ、お眠りなさい。夢を見る間にこちらの住人にしておいて差し上げましょう」
「そうはさせんぞ」
 すかさずアルスの放った清浄化でヒプノシスは掻き消された。
 そして、倒れていた渋井誠治御剣紫音がよろよろと立ち上がる。
「行けるかい……、紫音さん?」
「行けなくても立ち上がるしかねぇだろ、こんな状況じゃよぉ……」
「血気盛んな殿方は嫌いではありませんけど……、でも、そんな傷付いた身体で私を止められますかしら?」
 優梨子は狂気の表情で襲いかかった。
 放たれたライトニングランスをからくも防御するも、誠治の傷付いた身体では耐えきれず体勢を崩す。
 その隙に紫音が斬り掛かるが、その動きに先ほどのキレはなく、攻撃はかわされてしまった。
「く、くそ……!」
「うふふ……、一緒に殺し合いを楽しみましょうとは申しませんが、ごめんなさい、当方は楽しく存じます♪」
 そんな殺伐とした斬り合いを、セレナは加勢に加わるでもなく、ジッと見つめている。
 何かがおかしい、と思った。
 先ほどまで優梨子はこちら側にいた、ハヌマーンに対電フィールドを施すような素振りはしてなかったはず。
「……となれば伏兵か」
 呟きと共に神の目を放つ。
 すると、光学迷彩と迷彩塗装で隠れていた優梨子の相棒、宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)が白日の下に晒された。
 ハヌマーンの周囲に形成されたフィールドは、どうやら蕪之進の仕業のようである。
「み、見つかった。やめろ、俺を殺したら、隠したおいしいバナナの所在が分からなくなるかも知れねぇぞ!」
「構わん」
 呆れたように言い、ファイアストームで蕪之進を吹き飛ばす。
 ついでにその余波で、ハヌマーンの周辺に展開されていた対電フィールドも吹き飛んだ。
「あら、フィールドが……、また生成しませんと……」
「おっとそうはさせねぇぜ」
 満身創痍なれど男には譲れなものがたくさんある。
 誠治と紫音はハヌマーンの元へは行かせないと、優梨子の前に立ちはだかった。