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リアクション
何体のゴーストイコンが撃墜されただろう。地上から侵入を試みた吸血鬼も、フィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)やあい じゃわ(あい・じゃわ)の活躍もあり、撃退されつつある。
そんな中、一体のイコンが、じわじわと薔薇の学舎の生徒を脅かしていた。
「どくで、あります」
エミリー・グラフトン(えみりー・ぐらふとん)が、不気味に呟く。
彼女のイコン、エミリーのチョコレート工場は、アニメイテッドイコンの一種だが、間接部からはどろどろと溶けたチョコレート状のものが溢れていた。
彼女の契約者である湯島 茜(ゆしま・あかね)は、エミリーを止めようとした。しかし、エミリーはそれを無視し、単身、このイコンで乗り込んできたのである。
すべては、ウゲンに、彼女を認めさせるため。
七曜に選ばれなかったことが、彼女をひたすらに、戦闘へと駆り立てていた。
「シパーヒーは渡さない。そして、おまえたちの好きにはさせない」
冴弥 永夜(さえわたり・とおや)は、そう呟き、エミリーと睨み合う。
シパーヒー『スフェノイデ』は、スナイパーライフルを構え、ためらいなく引き金を引いた。
ウゲンには、これ以上好き勝手をさせるわけにはいかない。そのためにも、ここで退くわけにはいかない。
轟音とともに、弾丸が光の尾を引き、エミリーのイコンに命中する。白い煙をがあげ、エミリーのチョコレート工場が悶え、その身をよじらせた。
「邪魔者は排除させて頂きます」
サブパイロットの凪百鬼 白影(なぎなきり・あきかず)が、そのまま距離を詰めた。レイピアでもって、一気にトドメを刺そうというのだ。
だが。
「まて!」
鬼院 尋人(きいん・ひろと)と呀 雷號(が・らいごう)が駆るイコン、『ビーシュラ』が、その手でスフェノイデを引き留めた。
「なんだ?」
永夜が、不審げに尋人を見やる。すると、彼の前で、徐々に煙りが晴れるにつれ、その不気味な姿が露わになる。
……煙の向こうで、エミリーのイコンは、先ほどと少しも変わらぬ様子であった。回復力と、さらにそれを上回るほどの防御力。それこそエミリーの能力だった。
「なんて堅さですか……」
ごくり、と白影が息をのんだ。
「一体じゃ無理だ。連携をとろう」
尋人の提案に、永夜は頷いた。
通常のイコンであれば、やはり間接部分はねらい目の一つだ。しかし、ゲル状の物体で繋がれたエミリーのチョコレート工場相手には、それも効かない。
「あんたは、弾丸のある限りライフルで狙ってくれ。オレは、レイピアで戦う」
「大丈夫か?」
「ああ。とにかく動くよ。……雷號、頼む」
「……わかった」
動作に関してはサブパイロットの雷號が担当している。尋人が自由に攻撃ができるよう、しかし傷を負うことはないよう、それを念頭におき、雷號は頷いた。
永夜のライフルが火を噴き、尋人は身軽な動きでエミリーを翻弄する。しかし、エミリーは動じることはなかった。攻撃をすべて受け止め、その上で、容赦ない反撃を繰り出す。
「溶けたチョコレートは熱かろう、であります」
呟いた彼女は、愉しげに微笑んでいた。
ダメージは、完全にゼロというわけではない。しかし、傷つくことは、恐れることではない。なにより恐ろしいのは、彼女がウゲンに『用無し』と思われることだからだ。
狂気にも近い、その想い。それがなによりも、彼女を強くしていた。
尋人のレイピアと、エミリーの蛇腹の剣が、絡みつくようにして激しくぶつかり合う。
エミリーとの剣戟の中、尋人はその背後にいるウゲンに、ふと思いを馳せた。
尋人には、黒薔薇の森の奥で無防備に寝ていた彼を抱き上げた時の感覚や、一緒に乗馬を楽しんだ時の無邪気な様子が忘れられないままだった。その正体が、世界の破壊を望む者だとしても。本当にそうなのか、なにか、その奥にもっと、違う願いがあるのではないか。そう、思わずにいられないのだ。
そこへ、ルドルフと、黒崎 天音(くろさき・あまね)のシパーヒーが割ってはいる。
「大丈夫かい?」
エミリー相手に、苦戦していると見てとったのだろう。ルドルフの声に、尋人ははっと顔をあげ、……そして、絶句する。
「……!?」
天音とブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)のイコン、イスナーンは、突如その刃をルドルフに向けたのだ。
ルドルフも虚を突かれ、機体が軋んだ音をたてて揺れた。
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